著者
石原 和夫 佐藤 彩乃 曽根 英行
出版者
新潟県立大学
雑誌
県立新潟女子短期大学研究紀要 (ISSN:02883686)
巻号頁・発行日
vol.45, pp.9-18, 2008
被引用文献数
1

わが国の伝統的な発酵調味料である味噌は、製法や産地によりその風味は異なり、また、種類は多く地域性の高い調味料である。さらに、原料の大豆や発酵・熟成に由来する多くの機能性を持つ優れた食品でもある。味噌は主として、味噌汁として食され、その味噌汁の調理にあたっては、味噌を溶かし短時間沸騰させる。そのことにより、香味が最大限引き出され、おいしさが感じられる。しかし、過度の加熱では、多くの香気成分が揮発、あるいは逆に増加することで風味が損なわれ、おいしさは減少することが知られている。本研究では、味噌汁中の香気成分が味噌の種類や加熱時間の長短によりどのように変化するか香気成分捕集方法として動的ヘッドスペース法を用いて検討した。実験には、越後味噌、信州味噌、八丁味噌、西京味噌の4種類の味噌を用いて、未加熱、加熱時間10〜60分での香気成分の変化をガスクロマトグラフィー(以下、GC)により分析し、比較検討を行った。GC分析の結果検出された総ピーク数は、越後味噌111、信州味噌106、八丁味噌113、西京味噌65であり、越後味噌、信州味噌、八丁味噌の香気成分は西京味噌に比べ、多種類の成分より構成されていた。また、GCパターンを比較すると、越後味噌、信州味噌は類似し、八丁味噌、西京味噌はそれぞれ特有のGCパターンを示した。GCの総ピーク面積は、越後味噌が一番大きく、次いで西京味噌、八丁味噌で、信州味噌は一番少なく、他の味噌の約41〜50%に相当した。標準化合物および文献をもとに、各味噌汁中の香気成分を解析したところ、味噌汁の香気成分として、アルコール13、アルデヒド7、有機酸4、エステル12、合硫化合物2、炭化水素5、ケトン類1の総計44種類の化合物を同定または推定した。これら化合物のうち、94〜99%占めたのがアルコール類で、このうちethanolが一番多く、越後味噌で65.14%、信州味噌で67.05%、八丁味噌で82.82%、西京味噌で93.19%であった。八丁味噌と西京味噌はその発酵・熟成には酵母の関与が比較的少ないにもかかわらず、ethanol量の多いのは上述の「酒精」の添加によるものと考えられる。そして、ethanolのほか、2-methylbutanol、3-methylbutanol 、methanol、2-methyl-1-propanol、n-butanol、n-propanolなどが主なアルコール類として検出された。越後味噌、八丁味噌、西京味噌中の多くのアルコール類は加熱により減少する傾向を示したが、信州味噌では増加またはほとんど変化しないという特徴が認められた。各味噌汁中のアルデヒド類としてethanal、hexanal、benzaldehydeなどが検出され、これらは一般に加熱により増加する傾向にあり、他の香気成分との違いが認められた。アルデヒド類の加熱による増加は一般的にも知られ、その原因は味噌中の遊離アミノ酸からストレッカー分解により生成されるためと考えられる。有機酸のacetic acidは越後味噌、butyric acidは八丁味噌、2-methylbutyric acidと3-methylbutyric acidは信州味噌中で最も多いことが認められた。そして、加熱によりacetic acidは減少、butyric acid は増加、2-methylbutyric acidと3-methylbutyric acidは変化がないという、それぞれの特徴を示した。各味噌汁中で検出された主なエステル類はethyl acetate、ethyl heptanoate、ethyl lactateおよび2-methylbutyl acetate と3-methylbuty lacetateなどであり、量的にはethyl acetateは八丁味噌、ethyl heptanoate は越後味噌、ethyl lactateは信州味噌に多いことが認められた。これらのうち量的に多かったethyl acetateも加熱により増加する傾向にあったが、八丁味噌では加熱10分で一旦急激に減少することが認められた。そして、エステル類はその種類や味噌の違いにより加熱による傾向が異なったが、信州味噌ではethyl dodecanoateのみ減少傾向を示し、その他多くのエステル類は増加する傾向があった。食欲化合物のdimethyl disulfideは加熱により減少し、3-methylthiopropanal(methional)は増加した。また、炭化水素類ではハ丁味噌においてtridecane、hexadecaneに増加がみられた。これらの結果から、味噌汁の香気成分の中には加熱により減少するもの、逆に、増加するもの、また、味噌の種類による違いなど解析することができた。また、前報では香気成分捕集法として静的ヘッドスペース法を用い、味噌汁の香気成分として15化合物を同定または推定したが、本研究での動的ヘッドスペース法では44化合物が同定または推定されたことから、後者の分析法の優位性が認められた。
著者
本間 伸夫 塩崎 啓子 渋谷 歌子 石原 和夫
出版者
The Japan Society of Home Economics
雑誌
家政学雑誌 (ISSN:04499069)
巻号頁・発行日
vol.25, no.5, pp.355-361, 1974-08-20 (Released:2010-03-10)
参考文献数
14

The relationship between the flavor and the heating time of niboshi-soup (extract of dried small sardine) was examined by sensory evaluation. During the heating of niboshi-soup, it was observed from panel scores that the flavor turned to be more preferable.Volatile, neutral and basic components in the head space vapor of niboshi-soup were investigated by gas chromatography and thin layer chromatography. The volatile neutral components of unheated and heated niboshi-soup were identified as follows; paraffins (C4-C8), n-aldehydes (C2-C6), iso-butyraldehyde, n-alcohols (C1, C3, C4) and iso-alcohols (C3, C4). The volatile basic components were ammonia, dimethylamine and trimethylamine. The amounts of most of these volatile components decreased during the heating.It appears that the decrease of the low-boiling volatile components contributes to the increased flavor acceptability of the heated niboshi-soup.
著者
松本 伊左尾 中沢 信吉 岩渕 坦 石原 和夫 今井 誠一 本間 伸夫
出版者
公益財団法人 日本醸造協会
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.84, no.8, pp.549-554, 1989-08-15 (Released:2011-09-20)
参考文献数
19
被引用文献数
1

A.sojaeNo.9株とA.oryzaeS-03株の種麹(いずれも(株)樋口松之助商店製)を使用して, 9工場による醤油の比較試験を行ったところ,A.sojaeNo.9を使用した場合はA.oryzaeS-03使用に比べ, 次の特徴が認められた。1. 麹は水分が多く, pHが高く, また酵素活性はプロテアーゼ(pH5.7), 飴アミラーゼ,酸性カルボキシペプチダーゼが低く, グルタミナーゼ, エンド・ポリガラクチュロナーゼが高かった。2.熟成60日の諸味液汁は色が淡く, pHが低く, アルコールが少なかった。3.熟成180日の諸味液汁(生醤油)は色が淡く, 全窒素,ホルモール窒素が少なく, 蛋白分解率(FN/TN×100)が低く,還元糖が多く,火入逅が少なかった。有機酸は乳酸,酢酸が多く, コハク酸, ピログルタミン酸が少なかった。遊離アミノ酸はグルタミン酸のみ多く, その他はいずれも少ない傾向であった。4。官能的には約90%のパネルが両者を識別でき, そのうち約60%のパネルがA.sojaeNo.9の生醤油及び火入醤油を好んだ。終りにのぞみ,A.sojaeNo.9株とA.oryzaeS-03株の種麹をご提供いただいた(株)樋口松之助商店に深謝致します。なお, 本報告の要旨は(社)日本食品工業学会第35回大会(1988年3月, 東京)にて発表した。
著者
石原 和夫 本間 伸夫 渋谷 歌子 佐藤 恵美子 Ishihara Kazuo Honma Nobuo Shibuya Utako Sato Emiko
出版者
県立新潟女子短期大学
雑誌
県立新潟女子短期大学研究紀要 (ISSN:02883686)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.147-153, 1981-03

牛肉各部位(肥育乳牛の,うちもも,ロインロース,かた,すね)を用い,加熱抽出時間0分(加熱直後),5分,20分,60分,120分,180分の牛肉加熱抽出液を調製し,緩衝能と味の濃さについて検討した。1)牛肉加熱抽出液の緩衝能の強さは,滴定曲線よりpH4.0~9.6における緩衝能(β)を算出することによって比較した。その結果,いずれの部位においても,加熱抽出時間が長くなれば緩衝能の強さは増加した。緩衝能の増加は加熱抽出時間20分までは急速であったが,20分以降は徐々に増え,180分加熱抽出したものが一番強かった。また加熱直後を除いていずれの加熱抽出時間においても,緩衝能はもも,かた,ロース,すねの順に強かった。また滴定曲線から,加熱直後を除いていずれの部位においてもpH10,pH7,pH4付近に強い緩衝能のあることが認めらた。2)牛肉加熱抽出液の緩衝物質である乳酸,リン酸,アミノ態窒素の溶出量も緩衝能と同じように,加熱抽出時間20分までに急速に増え,20分以降は徐々に増えた。ただ,乳酸とリン酸の溶出量はアミノ態窒素と異なり,ほとんど180分までに平衡に達した。このことから,乳酸とリン酸はアミノ酸類よりも溶出しやすいのではないかと推定した。また,すねは他の部位に比べアミノ酸類も溶出しやすいと推定した。3)牛肉加熱抽出液の味の濃さとおいしさについて,部位ごとに,順位法による官能検査を行った結果,いずれの部位も加熱抽出時間が長くなれば,味の濃さやおいしさが強くなる傾向にあった。味の濃さやおいしさは加熱抽出時間20分から感じはじめ,それ以降は徐々に増加し,とくに120分~180分間加熱抽出したものが味の濃さもおいしさも強かった。120分~180分のものの順位付けでパネルの間に不一致が認められることから,180分以上加熱抽出しても味の濃さやおいしさの増加はあまり期待できないと推定した。なお,加熱抽出時間120分~180分は実際のビーフストック調製に採用されている時間でもある。加熱抽出時間に伴う味の濃さの増加の傾向と緩衝能の増加の傾向とが一致することから,前報^<7)>と同様,牛肉加熱抽出液の味の濃さと緩衝能の強さとの間に関連性があると考察した。