著者
米地 文夫
出版者
公益社団法人 東京地学協会
雑誌
地学雑誌 (ISSN:0022135X)
巻号頁・発行日
vol.97, no.4, pp.317-325, 1988-08-25 (Released:2011-02-17)
参考文献数
37
被引用文献数
2 2 7
著者
米地 文夫
出版者
The Tohoku Geographical Association
雑誌
季刊地理学 (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.267-284, 1995-12-15 (Released:2010-04-30)
参考文献数
38
被引用文献数
4

明確な地名としての「東北」の初出を, 岩本 (1989など) は慶応4年7月の木戸孝允の建議書をその初現であるとし, 難波 (1993) は同年閏4月から太政官日記にみられるとしたが, 筆者は同年正月の久保田 (秋田) 藩主への内勅や, 2月の仙台藩主からの建白書に, 「東北」の語があることを見いだした。岩本は「東北」を「東夷北秋」を約めたもので, 勝者が敗者に押し付けた地名とした。しかし「東夷北秋」の略は「夷秋」で, 当時は欧米を意味していた。また朝廷側が味方の秋田藩を「東北の雄鎮」と呼んだり, 奥羽側でも自らをも含めて「東北列藩」と呼んだりしており,「東北」に蔑視的な意味は無かった。この「東北」は, 東海, 東山, 北陸の三道全体, すなわち東日本の意味で, 現東北6~7県地域を指すものではなかった。明治初年のこの広義の「東北」は当時の歴史教科書にはみられるが, 地理教科書にはほとんど登場しなかった。
著者
米地 文夫 リヒタ ウヴェ
出版者
岩手県立大学
雑誌
総合政策 (ISSN:13446347)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.13-31, 2009-12

宮沢賢治の作品のなかでも最も有名なものの一つである「銀河鉄道の夜」の物語のなかに「ケンタウル祭」という不思議な名前の祭りが登場する。物語の中心が星座をめぐる夢の旅であるため、この名はケンタウルス星座に因むものと考えられてきた。しかしこの名は賢治の若き日の短歌が初出であり、その内容や時期から星座には関係なく、ギリシャ神話の半人半馬の怪物ケンタウロスのドイツ語ケンタウルスをそのまま祭の名に用いたものであることがわかった。この時期、賢治は盛岡高等農林学校で馬の飼育管理とドイツ語を学んでおり、ちゃぐちゃぐ馬ッこをはじめとする馬産地岩手の人と馬との祭から発想したのである。また、キメラに関心があった賢治は人間の上半身と馬体の下半身をもつケンタウルを、理性と本能的欲望との葛藤に悩む自分になぞらえた。岩手と同じく、馬を祝福することで春の農耕の始まりに豊饒を祈るドイツにもある民俗を賢治はおそらく学び、若い男性としての高揚感をケンタウル祭と表したのである。のちに少年のための物語「銀河鉄道の夜」にこの名の祭を組み込むが、静謐な物語にはなじまず、結局は、削除されたり「銀河の祭」や「星祭」という名が加えられて、ケンタウル祭のイメージは希薄になってゆくのであった。
著者
米地 文夫
雑誌
総合政策 = Journal of policy studies (ISSN:13446347)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.103-118, 2012-05-01

宮沢賢治は土壌や地質の調査に地図を用い、測量も行ったので、その体験が作品に反映している。彼の代表作「銀河鉄道の夜」の天の野原に立つ無数の「三角標」の描写もその例である。この「三角標」は「測標(一時的に設けた三角測量用の木製の櫓で、当時は三角覘標と呼ばれた)」から賢治が考えた語とする解釈が一般的である。しかし1887年に参謀本部陸地測量部が刊行した文書には、地図記号の中に「三角標」の名の記号があり、現在の三角点を公的に三角標と呼んでいた時期が数年間あった。その後、公的には使われなくなったが、登山家の間では三角覘標(現在では測標と呼ばれる)を三角標と呼ぶことが多く、賢治もこの俗用の三角標の語を用い、ほかにも1911年の短歌など数作品に同様の例がある。また、銀河鉄道の沿線に立つ三角標の発想には、里程標もモデルにしたとみられる。恒星までの距離を太陽を回る軌道上の地球から、年周視差を使って半年おきに二点から恒星を観測し距離を三角測量法によって測定されていることを賢治は知っていた筈である。つまり輝く星は、地上から観測する測標(賢治の三角標)に当たり、回照器の鏡を動かし陽光にきらめかせて位置を観測者に知らせる測標に見立てたのである。「銀河鉄道の夜」のなかで列車がまず目指した白鳥座の三角標には白鳥の測量旗があると書かれているが、白鳥座61番星はこの方法で地球からの距離を測った最初の星であった。「銀河鉄道の夜」で賢治は、星座早見盤を地図に見立て、星を三角測量の測標に見立てたのであり、賢治が地図や測量に強い関心を持ち、これを発想の重要な柱としていたことが良くわかる作品なのである。
著者
米地 文夫 Fumio Yonechi ハーナムキヤ景観研究所
出版者
岩手県立大学総合政策学会
雑誌
総合政策 = Journal of policy studies (ISSN:13446347)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.103-118, 2012-05-01

宮沢賢治は土壌や地質の調査に地図を用い、測量も行ったので、その体験が作品に反映している。彼の代表作「銀河鉄道の夜」の天の野原に立つ無数の「三角標」の描写もその例である。この「三角標」は「測標(一時的に設けた三角測量用の木製の櫓で、当時は三角覘標と呼ばれた)」から賢治が考えた語とする解釈が一般的である。しかし1887年に参謀本部陸地測量部が刊行した文書には、地図記号の中に「三角標」の名の記号があり、現在の三角点を公的に三角標と呼んでいた時期が数年間あった。その後、公的には使われなくなったが、登山家の間では三角覘標(現在では測標と呼ばれる)を三角標と呼ぶことが多く、賢治もこの俗用の三角標の語を用い、ほかにも1911年の短歌など数作品に同様の例がある。また、銀河鉄道の沿線に立つ三角標の発想には、里程標もモデルにしたとみられる。恒星までの距離を太陽を回る軌道上の地球から、年周視差を使って半年おきに二点から恒星を観測し距離を三角測量法によって測定されていることを賢治は知っていた筈である。つまり輝く星は、地上から観測する測標(賢治の三角標)に当たり、回照器の鏡を動かし陽光にきらめかせて位置を観測者に知らせる測標に見立てたのである。「銀河鉄道の夜」のなかで列車がまず目指した白鳥座の三角標には白鳥の測量旗があると書かれているが、白鳥座61番星はこの方法で地球からの距離を測った最初の星であった。「銀河鉄道の夜」で賢治は、星座早見盤を地図に見立て、星を三角測量の測標に見立てたのであり、賢治が地図や測量に強い関心を持ち、これを発想の重要な柱としていたことが良くわかる作品なのである。Kenji Miyazawa had used maps for soil and geological research and to conduct land surveys, and these experiences were later reflected in his work. One example of this is his depiction of a myriad of sankaku-hyo (triangulation markers) placed in the field of the sky along the railroad in the novella Night on the Milky Way Railroad, one of his most prominent works. The sankaku-hyo is generally considered a term he invented based on soku-hyo, which was referred to as sankaku-tenbyo at that time and which meant a temporarily-installed wooden scaffold for triangular surveying. However, a map symbol referred to as sankaku-hyo was actually used in a document issued by the Survey Department of the General Staff Office in 1887, and the current sankaku-ten (triangulation point) was officially known as sankaku-hyo for several years. Following this, the term sankaku-hyo no longer appeared in official use, but climbers still often refer to a sankaku-tenbyo as a sankaku-hyo. Miyazawa used this popular term, sankaku-hyo, in his novella, as well as in several other works, including tanka poems he wrote in 1911. This idea of sankaku-hyo placed along the Milky Way Railroad is also considered to have been modeled after milepost. Miyazawa must have known that the distance to a fixed star is measured from two points on the Earth, as it orbits the Sun, using heliocentric parallax every six months based on the triangular surveying method. Specifically, luminous stars correspond to soku-hyo (sankaku-hyo in his work) observed from the Earth, and he likened these stars to soku-hyo that inform observers of their location when they twinkle as the mirror of the heliotrope moves. In Night on the Milky Way Railroad, Miyazawa wrote there is a swan on each of the land survey flags placed at the sankaku-hyo for the Swan. Indeed the 61st star of the Swan is the first star for which distance from the Earth was measured using this method. In Night on the Milky Way Railroad, Miyazawa likens a star plate to a map and stars to soku-hyo for triangular surveying. This work clearly suggests that the writer had a strong interest in maps and surveying and that they were the essential elements underlying his ideas.
著者
米地 文夫
雑誌
総合政策 = Journal of policy studies (ISSN:13446347)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.95-113, 2011-07-01

宮沢賢治の有名な物語「銀河鉄道の夜」は、銀河鉄道の旅の部分が幻想的であるが、中で異質で写実的な部分が「プリオシン海岸挿話」で、白鳥の停車場での停車時間中に主人公のジョバンニとカムパネルラが化石の発掘現場を見てくる話である。旅中で唯一の途中下車で、モデルとなった出来事や場所が特定でき、この挿話を含む章には「北の十字架」と「プリオシン海岸」という二つの異なるテーマが収められ、章題も不自然に長くなっており、少年たちの言動が他の部分に比し大人びている、など多くの点で異質である。それらのことから、この挿話は元来は夢の旅の原稿とは別に書かれた独立の短編がのちに「銀河鉄道の夜」の中に挿入された部分であることがわかった。
著者
米地 文夫 Fumio Yonechi ハーナムキヤ景観研究所
出版者
岩手県立大学総合政策学会
雑誌
総合政策 = Journal of policy studies (ISSN:13446347)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.15-34, 2008-12-01

宮沢賢治の未完の長編「銀河鉄道の夜」の数多い登場人物のなかで、最も印象的で、かつ最も論議の的であった「鳥捕り」を取り上げ、その出現する場が「狐座」(雁を咥えた子狐座)であり、民話的な背景としては「後藤野の親分狐」の化身であり、自らを孤独な狐のように思った賢治自身も投影されている、という重層的な背景から「鳥捕り」は狐が転生した、もしくは狐が化けたもの、すなわち元来は狐であるという説を提唱する。「鳥捕り」は風貌や行動が狐に似るのみならず、類似の他の賢治作品「氷河鼠の毛皮」の狐の間謀と共通点が多いことなどの諸点からも、その正体は狐であると判断された。この「鳥捕り」実は狐の挿話は、賢治の菓子好きや義人を志向した賢治自身が味わった孤独感や挫折感とも関わり、また、野生動物を取り巻く環境の危機を懸念し、狐の側に立つ賢治の見方を示唆するものでもあるなど、賢治の多様な心情を映すものであった。「銀河鉄道の夜」は未完かつ難解な原稿のまま遺されたが、「鳥捕り」は狐という仮説を立ててみると、賢治が伝えようとしたメッセージが見えてくると考えられるのである。Among the many characters in Kenji Miyazawa's unfinished novella "Night of the Galactic Train," "the bird catcher" is the most impressive and controversial one. The bird catcher appears in the constellation of the Fox (Vulpecula). The folksy implication of this character is that "the boss of foxes lived in Gotono." This bird catcher is also a shadow of Kenji's youth when he thought of himself as akin to a lonely fox. From these multiplex implications, the author proposes a new idea: "the bird catcher is a reincarnated fox." There are other data to support this idea. For example, the features and the actions of the bird catcher are like the fox, and he resembles the fox as a spy in Kenji's other novella "Fur of the Glacial-rat." Kenji's various feelings are reflected in the backgrounds of the episode of the bird catcher (fox) , namely, his taste for cakes, his solitude and failure despite effort to be a "gijin" (a righteous man)" , and his sense of crisis of the environment for the wild animals standing with the fox. Unfortunately, Kenji Miyazawa left unfinished the manuscript of his enigmatical novella "Night of the Galactic Train" after his death in 1933. However, with the new idea that "the bird catcher is a reincarnated fox" we can read the messages from Kenji.
著者
米地 文夫
出版者
岩手県立大学総合政策学会
雑誌
総合政策 (ISSN:13446347)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.17-34, 2007-12

宮沢賢治の短編「猫の事務所」は,事務所の末席の書記かま猫に対する「いじめ」の問題を取り上げた作品として近年注目されているが,結末では訪れた獅子によって解散を命じられ,廃止となる。本論文はこの作品が実は政治的世界・民俗的世界・賢治の内面世界の三者が重層的に組み込まれたものであることを明らかにするものである。組み込まれた政治的テーマは郡役所廃止問題で,「猫の事務所」の位置や役割,事務室の人員構成などの描写から稗貫郡役所がモデルであり, 1926(大正15)年6月30日に閉鎖になる。「猫の事務所」はこの年の3月に発表されている。郡役所の廃止は既定のことではあったが遅延していたのを,浜口雄幸蔵相の緊縮財政のもと廃止が確定し,浜口が内相の時,廃止される。獅子はライオンとあだ名された浜口なのである。この物語の民俗的な背景は,竈の煤で黒く汚れた猫をかま猫と呼ぶことと,獅子舞が火伏せの竈祓いに訪れることなどである。獅子はかま猫の守護神のような存在なのである。さらに,同僚に対する態度を自省する賢治自身の心境も反映したものである。すなわち「猫の事務所」の獅子による解散は郡役所廃止と浜口雄幸の決断とをカリカチュア化したものであり,主人公かま猫と巡回してきた獅子というキャラクターは,竈をめぐる民俗から生み出され,職場の同僚による「いじめ」は賢治自身の職場体験によるものであった。
著者
米地 文夫
出版者
The Tohoku Geographical Association
雑誌
季刊地理学 (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.188-191, 1996-08-30 (Released:2010-04-30)
参考文献数
13
著者
米地 文夫
出版者
東北地理学会
雑誌
季刊地理学 (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.167-170, 2001-09-01 (Released:2010-04-30)
参考文献数
19
被引用文献数
1
著者
米地 文夫
雑誌
総合政策 = Journal of policy studies (ISSN:13446347)
巻号頁・発行日
vol.1, no.4, pp.477-488, 1999-12-31

日清戦争開戦直後に発行された『日本風景論』の著者志賀重昂は啓蒙的地理学者で,この有名な著書によって明治期の国粋主義と登山の鼓吹者としてよく知られている。この書は日本の風景,特に火山の卓絶した美しさを強調し,当時,そのナショナリズムと美文によりベストセラーとなった。志賀は札幌農学校で農学と関連科学を学んだが,伝説では,彼は学業を怠り北海道全道の冒険的旅行や登山をしたと言う。この学歴と伝説のため,『日本風景論』の北日本の火山に関する記述は,彼の実体験に基づくと考えられていた。しかしながら,彼の日記によれば,北海道では志賀はそれほど旅行も登山もしていない。私は『日本風景論』の北日本の火山についての記載を他の論文などと比較し,J. Milne (1886),神保(1891),およびE. M. Satow ・ A. G. S. Hawes (1884)などからの剽窃が多いことを見いだした。志賀がそれを行った理由は,日本は多くの美しい火山景観に満ちていることを示し,火山の少ない清に対する国粋主義的優越感を国民に持たせようとしたためで,その結果,『日本風景論』はナショナリズムと清国への敵愾心を煽るという政治的な役割を見事に果たしたのである。
著者
米地 文夫
出版者
岩手県立大学総合政策学会
雑誌
総合政策 (ISSN:13446347)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.95-113, 2011-07

宮沢賢治の有名な物語「銀河鉄道の夜」は、銀河鉄道の旅の部分が幻想的であるが、中で異質で写実的な部分が「プリオシン海岸挿話」で、白鳥の停車場での停車時間中に主人公のジョバンニとカムパネルラが化石の発掘現場を見てくる話である。旅中で唯一の途中下車で、モデルとなった出来事や場所が特定でき、この挿話を含む章には「北の十字架」と「プリオシン海岸」という二つの異なるテーマが収められ、章題も不自然に長くなっており、少年たちの言動が他の部分に比し大人びている、など多くの点で異質である。それらのことから、この挿話は元来は夢の旅の原稿とは別に書かれた独立の短編がのちに「銀河鉄道の夜」の中に挿入された部分であることがわかった。
著者
米地 文夫
出版者
岩手県立大学総合政策学会
雑誌
総合政策 = Journal of policy studies (ISSN:13446347)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.177-196, 2016-03

宮沢賢治の短編「シグナルとシグナレス」は、従来、幻想的童話とみられていたが、実は地域の話題を寓話化した大人向けの物語であった。その話題の一つは、私鉄の岩手軽便鉄道(ほぼ現JR 釜石線)を国有化させ、国鉄(現JR)東北本線に繋ぎたいという運動をモデルにし、愛しているが離れて立つシグナレス(岩手軽便鉄道)と本線シグナルとの恋を描いた。第二の寓意は有島武郎と河野信子との恋愛で、有島武郎は新渡戸稲造の姪の信子を愛するが、鉄道の国有化に大きな影響力を持つ父有島武は、産婆の娘信子を身分違いとして結婚に反対し、新渡戸家の郷里花巻の人々の憤激を買ったことを物語化している。第三の寓意はピタゴラス派の諧音の示す天空の妙なる調和である。地上の葛藤や矛盾の多い世界と異なり、天上には美しい和の調べがあり、それが天球の音楽として、恋人たちを感動させるのである。すなわち、天:天球の音楽が示す美しい調和、地:地域社会の軽便鉄道国有化運動、人:有島武郎と河野信子の実らぬ恋、の三つの寓意がこめられた作品である。