- 著者
-
新井 誠
市川 智恵
宮下 光弘
糸川 昌成
- 出版者
- 日本生物学的精神医学会
- 雑誌
- 日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
- 巻号頁・発行日
- vol.22, no.4, pp.269-275, 2011 (Released:2017-02-16)
- 参考文献数
- 12
統合失調症多発家系の発端者から,反応性カルボニル化合物を解毒する律速酵素であるグリオキサラーゼI(GLO1)の遺伝子にフレームシフト変異を同定したことをきっかけに,およそ2割の統合失調症の病態が「カルボニルストレス性」である可能性を見出した。カルボニルストレス性統合失調症では,ペントシジンやビタミンB6といった生化学的所見,GLO1の遺伝子型によって早期診断が行える可能性が期待される。カルボニルスキャベンジャーとして機能するピリドキサミンが,カルボニルストレス性統合失調症の病態に根ざした治療,発症の予防薬となり,従来の抗精神病薬では難治性だった症例に対する新たな治療戦略となる可能性がある。本稿では,統合失調症におけるカルボニルストレス同定の経緯を紹介し,ペントシジンやビタミンB6が生物学的指標として個別病態を階層化するうえで有用性があること,また,統合失調症の将来的な治療法についてその展望を述べた。