- 著者
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村上 成之
中村 紀夫
谷 諭
- 出版者
- 日本救急医学会
- 雑誌
- 日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
- 巻号頁・発行日
- vol.3, no.6, pp.461-470, 1992-12-15 (Released:2009-03-27)
- 参考文献数
- 21
- 被引用文献数
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1
二輪車交通事故における頭部外傷のメカニズムを検討する目的で,臨床情報をふまえて事故後回収したヘルメット120例について分析を加えた。臨床データから頭部外傷の程度によって負傷者を軽症,重症,死亡に分類した。また,障害の内容も細分しそれぞれの延べ数を求めた。ヘルメットは外表の観察にとどめず,切断して衝撃吸収ライナーとして使用されている発泡スチロールの状態も検査した。この方法によりヘルメットの損傷部位と程度を評価した。ヘルメットが事故に際し脱落したもの(脱落例)では脱落しなかったもの(非脱落例)に比べ障害が重症となる傾向を示した。局所性脳損傷は脱落例で多いのに対し,びまん性脳損傷は脱落例,非脱落例で明らかな差はみられなかった。ヘルメットの分析結果から衝撃の強さと方向を推定し頭部外傷の傷害内容と比較したところ,急性硬膜下血腫ではヘルメットの辺縁部に前後方向から衝撃を受けた場合に生じやすく,びまん性軸索損傷は円蓋部に横方向から衝撃を受けた場合に生じやすかった。脳組織の損傷メカニズムとして,実験的に回転外力でびまん性脳損傷が生じやすいことが証明されている。ヘルメットの円蓋部を打ったときにびまん性軸索損傷が多かったのは,ヘルメットの円蓋部への衝撃では頭部の重心より上部に外力が加わり,辺縁部への衝撃に比べ回転外力が生じやすいためと考えられた。急性硬膜下血腫,脳挫創,びまん性軸索損傷などの重症の脳外傷はヘルメットの損傷の強い場合が多かった。ヘルメットにそのような損傷を来す外力がヘルメットを着用せず直接頭部に加わっていたならば,さらに重篤な脳損傷を来して死亡していた可能性が強いと推定された。したがって,重症度の軽減の面からはヘルメットは十分に脳保護作用を発揮していると考えられる。