著者
遠藤 徹
出版者
山口大学哲学研究会
雑誌
山口大学哲学研究 (ISSN:0919357X)
巻号頁・発行日
no.4, pp.1-21, 1995-09

「汝及び他のあらゆる人格における人間性を、単に手段としてのみ扱うことなく、常に同時に目的としても扱うように、行為せよ。」 カントは定言命法のこの定式(―第二定式と呼ぶことにする)をどこから、どう導き出したのか。―本稿が全体として掲げる主題はこれである。この問題に迫る一つの手だてとして、今回の稿で、我々はこの定式に含まれている、しかしカントによって表だって顕わにされていない「目的」に敢えて注目する。顕わにされている目的は言うまでもなく「目的としても扱うように」と命じられている、その目的であり、あらゆる人格の人間性がそれに当たる。これを「目的(1)」とすれば、この定式にはもう一つの目的―「目的(2)」―が伏在している。我々の見るところでは、「目的(2)」は通常の目的概念であるのに対して、「目的(1)」はそうではなく、カントが目的(2)を表立たせながら論述を行わなかったことは、その主張の理解にさまざまな困難を引き起こしている。 全体のこういう視点から、「目的」であり得るものは何か、「客観的目的」及び「自体的目的」とはそれぞれ何か、二つの異同・関係はどうか、等々を見、定式の基礎づけについて一通りの解釈を得る。我々の考察の基底に貫かれる一つの洞観は「人格」はそもそも「目的」たり得ないということである。また解釈が辿り着く重要な結論は、第二定式は基本定式を越え出ているということである。 我々の疑問・批判と関わるところの深いロスの解釈をも参考に取り上げ、カント、我々双方の主張に光を当てることを期する。
著者
遠藤 徹
出版者
山口大学哲学研究会
雑誌
山口大学哲学研究 (ISSN:0919357X)
巻号頁・発行日
no.7, pp.1-42, 1998

出生前検査で遺伝子に障害の素質をもつことが明らかになった胎児を親の意志によって中絶することが合法的に、或いは法の規制外で、既に行われ始めている。重大なこのことの是非を問う。 問題はこの行為が殺―人に当たらないかであるが、胎児や重度障害者の身分を「人」との関係でどうとらえるかが議論の分かれ目となる。障害胎児中絶の是非は一方で高等動物の、他方で嬰児や幼児の、殺害の是非の問題とも連関せざるを得ず、それら広範囲に及んで展開されている議論に目を通しながら、我々としての見解を確立することが求められる。障害胎児が「人」と連続性をもつ存在であることが否定し得ない以上、その中絶を殺「人」でないと主張することは不合理である―これが我々の見解である。 結局、是認論は、それが殺人ではあっても、許される殺人であるとの立場からのみ可能であろう。ではいかなる意味で許されるのか。その検討は是認がどこにどう立つことであるかを明らかにする。しかし問題を真に哲学的=倫理学的に十分に論じるためには、そもそも殺人禁止はいかなる根拠に基づく、どこから与えられる命令であるのか(―それは「生きる権利」がいかなる根拠で、誰(何)から与えられるのか、ということと不可分な問題であるが)、是認・否認の立場はそれにどのようにかかわるのか、が明らかにされなければならない。命令の与え主が少なくとも「自然」、さらに遡れば自然の創造者(神)であることが見届けられるとき、自然環境破壊とは別の、もう一つの"自然破壊"が現代人の根底で進行していることが浮かび上がると共に、いったい我々はもはやどこに立って自己の正しさを主張し得るのか、―最根源的問いへ突き返される。
著者
遠藤 徹 中野 雄介 板谷 天馬 筏 紀晶 矢持 進
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集B2(海岸工学) (ISSN:18842399)
巻号頁・発行日
vol.70, no.2, pp.I_1196-I_1200, 2014 (Released:2014-11-12)
参考文献数
10

It is thought that a salt marsh located at coastal urban area absorbs and emits large amounts of carbon dioxide (CO2). In this study, a field investigation on CO2 budget was conducted at Osaka-Nanko bird sanctuary, and CO2 fluxes were measured at tidal flat, sea surface and reed field by using chamber methods in order to estimate CO2 budgets of the salt marsh. The results of this study were as follows: (1) CO2 fluxes of tidal flat and reed field were one order larger than that of sea surface. (2) It was estimated that CO2 flux emitted from tidal flat was 3.26 g/m2/day and CO2 flux absorbed by reed grass field was 1.53 g/m2/day in October 2013. (3) It was suggested from the result of seasonal change of fluxes that the absorbed amount of CO2 becomes larger on summer than on autumn.
著者
飯倉 茂弘 河島 克久 遠藤 徹 藤井 俊茂
出版者
日本雪氷学会
雑誌
雪氷 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.367-374, 2000-07-15
被引用文献数
4 1 1

鉄道を雪崩災害から守るためには, さまざまな雪崩予防工や防護工を設置するハード対策とともに, 場所によっては雪崩の発生を的確に検知し, 列車の運転を確実に抑止するソフト対策も必要である.そこで本研究では, 雪崩発生時の適切な列車の運転抑止と迅速な点検・除雪作業を支援する雪崩発生検知システムを開発した.このシステムの雪崩検知方法は, 雪崩危険斜面を有する線路の脇に検知ポール (小型振動センサ内蔵) を設置し, 雪崩発生時に雪がポールに当たることによって生じる振動をとらえて雪崩を検知するものである.この方法の特徴は, 検知原理が単純であり, その結果, 簡単かつ安価にシステムを構成できることである.本システムは, 雪崩の発生を検知する機能に加えて, 発生した雪崩の規模に応じた4段階のレベルの警報を出力する機能を有しているので, 列車の運転抑止に有用であるのみならず, 警報レベルを保線区等の監視局に伝送することによって, 現地の線路除雪作業や点検作業の必要性の有無およびそれらの作業規模等を早期に判断することができる.本システムを黒部峡谷の雪崩多発地に設置し, 一冬季間を通して稼動試験を行った結果, 発生した全ての雪崩を正常に検知でき, 実用性の高さが確認された.
著者
遠藤 徹
出版者
社団法人 東洋音楽学会
雑誌
東洋音楽研究 (ISSN:00393851)
巻号頁・発行日
vol.2004, no.69, pp.1-17,L1, 2004

This paper clarifies the basic structure of the modes of <i>togaku</i>, based on analysis of <i>Sango Yoroku</i>, an extensive collection of notation for the <i>biwa</i> (four-stringed short-necked lute) compiled by Fujiwara no Moronaga (1138-1192). It is said that the modes of <i>togaku</i> derive from modal usage in China of the Tang dynasty (618-917). Detailed analysis of the full range of individual pieces in notated in <i>Sango Yoroku</i>, however, indicates that various transformations occurred as the modes were transmitted in Japan, which resulted in a multi-levelled japanization of modal usage. In this paper three main levels of japanization have been identified: 1. changes in mode-key (Ch. <i>jun</i>, Jp. <i>kin</i>); 2. incorporation into certain modes of pieces originally in other modes; and 3. changes of scale structure in certain modes.<br>Next, in an effort to determine the basic structure common to all modes, statistical analysis was made of the modal usage in the melodies of pieces in <i>Sango Yoroku</i> with reference to the four basic Tang modal species, namely <i>gong</i> (Jp. <i>kyu</i>, church lydian), <i>shang</i> (Jp. <i>sho</i>, church mixolydian), <i>yu</i> (Jp. <i>u</i>, church dorian) and <i>jue</i> (Jp. <i>kaku</i>, church aeolian). Factors considered include the relative frequencies of appearance of the degrees of the modal scale, tendencies in melodic progression, and the position of mordent-like melodic ornamentation. A basic structure was identified: the character of each mode is determined by the relationship between two factors, namely the existence of two melodic centers, which might be called keynote and sub-keynote (the relative position of which differs according to mode), and the appearance of mordent-like ornamentation at specific positions in the basic heptatonic series. This structure is based on the concept of mode-key, which was not fully understood or transmitted in Japan, and it therefore seems reasonable to surmise that it derives from Tang-dynasty modal usage.
著者
遠藤 徹
出版者
山口大学
雑誌
山口大学哲学研究 (ISSN:0919357X)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.1-52, 1994

「真の幸福を得ようとするならば、Xせよ。」(α) カントはαは道徳的命法ではあり得ないと主張したと思われるが、拙稿「仮言命法は法則であり得ないか」(以下「仮言命法論文」と略記)が取り上げようとした問題は、第一次的には、αは果たして本当に道徳的命法たり得ないか、であった。 カントが「実然的」(assertorisch)仮言命法と呼んだものがαだと思われるが、彼は仮言命法は法則たり得ず、又道徳法則たり得ない、ただ定言命法則だけがそうであり得る、と主張した。上記拙稿は仮言命法は法則たり得るはずであること、又αも、それに対して義務から従うことは可能である限りで、従ってその限りでカント自身のものさしに照らして、道徳的命法であり得るはずであることを示すことに努めた。そればかりでなく、そもそも具体的な道徳的命法はカント自身においても仮言形式とならざるを得ないのではないかと述べて、道徳的命法が定言命法だとの彼の主張に根本的疑問を向けると共に、もしこうして定言命法のみが道徳的命法であるとのカントの主張が崩れるとしたしたら、彼の倫理学の体系はどのような修正を迫られるはずであるかを大づかみに予測した。―以上が上記論文のあらましである。 この我々の疑問を深化することは二つの方向を取り得るであろう。一つは、仮言命法が道徳法則であり得る可能性を一層具体的に追究することであり、もう一つは、定言命法が道徳法則であり得る可能性を吟味することである。本稿はこの二つの道のいずれにおいても一歩推し進めることに努めたい。前者の道では、上記論文への疑問・再考点にも考慮を払いながら、道徳的命法としてのαの可能性を追究する。後者の道では、約束に関する義務の根拠の検討を通して、定言命法の基本定式が果たして真に道徳法則であり得るか、根本的疑問を提示することに努めるつもりである。
著者
遠藤 徹 井原 正昭
出版者
日本育種学会
雑誌
育種學雜誌 (ISSN:05363683)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.340-345, 1985-09-01

ゲルを用いるアイソザイム検出に際し,緑葉に対して用いる抽出剤の組成としての緩衝液(0.5M トリスー酢酸 PH7.5),中性洗剤(10% トリトン X-100),塩(0.5M 食塩),酸化防止剤(0.2M アスコルビン酸)およびフェノール吸収剤(ポリビニールポリピロリドン)について,その単独および複合効果を調査した.用いた材料はシダ植物(イノモトソウ)裸子植物(ソテツ,イチョウ,クロマツ,コウヤマキ,ヒノキ,イヌマキ,カヤ),双子葉植物(ツクバネガシ,ヤブニッケイ,ヒメカンアオイ,ツバキ,オオシマザクラ,フジ,マサキ,アオキ,キョウチクトウ)および単子葉植物(ミヤマエンレイソウ, ニホソイネ, ケンチャヤシ)の生葉100mgで,ザイモグラムとして検出した酵素種はパーオキシターゼとリンゴ酸脱水率酵素である. パーオキシターゼの場合,6種の抽出剤に対して少なくとも4群に分類できる.第1群はコウヤマキなどどの抽出剤でも同じようたザイモグラムが得られるもの,第2群は抽出剤成分の種類の増加につれてアイソザイムバンド数が増加するもの,第3群は逆にバンド数が減少するもの,第4群はアオキで6種の抽出剤のいずれを用いても抽出が極めて困難なものなどである.リンゴ酸脱水素酵素の場合は6群に分類できる.第1群はカヤとイネの2種である.第2群はイチョウ1種だが緩衝液を含む抽出剤を用いれば同じようなザイモグラムが得られる.第3群はクロマツなどで中性洗剤を含む緩衝液の抽出剤では同じようたザイモグラムが得られる.第4群は中性洗剤と酸化防止剤を含む緩衝液の抽出剤で同じようなザイモグラムが得られる.第5群は抽出剤の成分数の増加に応じて一般にバンドが増加するもの,第6群はパーオキシターゼの場合と同じくアオキで,用いた抽出剤の組成ではほとんど抽出困難な場合である. 以上の結果から,生体内におけるアイソザイムの存在様式ないし保持機構は植物種ごとに多かれ少なかれ異なり,例えば水でほとんど全部を抽出し得る場合から上記のすべての薬剤を投入しても抽出困難な場合まである.すなわち,アイソザイムにおける分化と同様,その保持機構もまた分化していると推論できる.