著者
鄭 惠先
出版者
社会言語科学会
雑誌
社会言語科学
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.58-67, 2001-09

本研究の目的は,複数を表す接尾辞「たち」と「ら」の選択の条件を明らかにすることにある.方法としては,映画シナリオを資料とし,その中から「人称代名詞+たち」と「人称代名詞+ら」の形式を取りだして,使用実讐を考察した.選択条件としては,話し手の属性による観点から「地域差」と「性差」,発話内容による観点から「聞き手包含・非包含」という項目を立てた.すなわち,地域が関東か関西か,話し手が男性か女性か,また,自称複数に聞き手を含むか含まないかを調べ,「たち」と「ら」の使用率を比較した,分析の結果,「たち」と「ら」の使用上の選択条件として,以下のことが検証された.(1)関西では関東に比べ,「ら」の使用率が高い.(2)関東では,男性が女性に比べ,「ら」の使用率が高い.(3)関東では,自称複数に聞き手を含まない文が聞き手を含む文に比べ,「ら」の使用率が高い.
著者
鄭 惠先
出版者
北海道大学国際本部留学生センター = Hokkaido University, Office of International Affairs, International Student Center
雑誌
北海道大学国際教育研究センター紀要 = Journal of Center for International Education and Research, Hokkaido University
巻号頁・発行日
no.21, pp.1-13, 2017-12

本研究では、メディア言語研究という立場から日韓対照の視点を取り入れて両言語による映像メディアの談話を考察した。とりわけスポーツ情報番組の実例をもとに、ジャンルによる語用論的特徴について考察した結果、日本のテレビ番組の談話では番組独自のジャンル特性が言語表現に強く影響していることが示された。たとえば、実況中継のアナウンサーの発話では、常体と敬体の混用が目立つ日本に対して、韓国では常に敬体のみが用いられる。また、報道性より娯楽性が重視されるワイドショーというジャンルは日本に特徴的に見られる映像メディアで、その中の談話はジャンル独自の語用論的特徴を持っている。このように、同じスポーツ情報番組であっても日韓の映像メディアには言語表現の違いが顕著に表れることが明らかになった。今後は、メディア言語研究のさらなる充実を図るために、映像メディアのジャンルと日韓の言語固有性という2つの要素に加えて、日韓・韓日のメディア翻訳をも有機的に関連づけて考察を続ける必要がある。This paper compares and contrasts the Japanese and Korean languages in sports information programs on the TV and indicates that the genre of each program strongly affects pragmatic features of linguistic expression in each language. An example of the genre influence is the utterance of reporters in live report programs. Japanese reporters mixed the polite style with the ordinary style while Korean reporters used only the polite style. Furthermore, in "Wide Show" which is a genre peculiar to Japan, the function as entertainment is emphasized more than the function as a report, and it has its own practical features. Thus, even in the same sports information program, there is a difference in language expression between Japanese and Korean. Taking into account the conclusion of this paper, the author will continue to conduct research on video media language, focusing on the relation among three elements: genre of media, linguistic differences of the two languages, and translation.
著者
鄭 惠先
出版者
社会言語科学会
雑誌
社会言語科学
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.82-92, 2005-09

本研究の目的は,日本語と韓国語の「役割語」を対照することによって,よりリアルな日韓・韓日翻訳に役立てることである.本稿では,漫画を分析対象とし,一つ目に,意識調査で見られる日本語母語話者と韓国語母語話者の意識の差について,二つ目に,対訳作品で見られる両言語の役割語の相違点について考察した.その結果,つぎの7点が明らかになった,1)韓国語に比べ日本語のほうに役割語としての文末形式が発達している.2)日本語母語話者の場合,訳本では日本語の役割語の知識が十分生かせない.3)韓国語母語話者の場合,役割語への刷り込みが弱く,翻訳による影響を強く受けない.4)対訳作品から受けるイメージは,両言語の間で必ず一致するものではない.5)日本語役割語では性別的な特徴,韓国語役割語では年齢的な特徴が表れやすい.6)日本語でも韓国語でも,方言は人物像を連想する重要な指標となる.7)時代を連想する言語形式は訳本の中で現代風に訳される傾向が多い.
著者
鄭 惠先 小池 真理 舩橋 瑞貴
出版者
北海道大学留学生センター
雑誌
北海道大学留学生センター紀要
巻号頁・発行日
vol.13, pp.4-21, 2009-12

本稿では、類義表現の「~てならない」「~てたまらない」「~てしかたない」「~てしようがない」に関して、前接語彙とジャンルという2つの観点からその使い分けを分析した。本稿で使用した『現代日本語書き言葉均衡コーパス』は、大規模かつ複合性を持つ多ジャンルコーパスであるため、近似的ではあるが現実の日本語使用を多く反映している。よって、つぎに示す本稿での分析結果は、実際の使用場面に直結する有益な情報として、日本語学習者に提供できるものと考える。1)「ならない」は動詞、中でも自発、心状を表す動詞との共起関係が強く、「たまらない」はイ形容詞、中でも希望、感情を表すイ形容詞との共起関係が強い。2)「気がしてならない」「~たくてたまらない」「気になってしかたない」など、いくつかの定型的な共起パターンが存在する。3)文字言語的要素の強いジャンルでは「しかたない」、音声言語的要素の強いジャンルでは「しようがない」の使用が目立つ。4)国会議事録のような、フォーマルさを持ち、客観性が求められる話題の場では、「ならない」の多用、「たまらない」の非用という特徴的な傾向が見られる。
著者
鄭 惠先
出版者
[大阪大学大学院文学研究科]
雑誌
役割語・キャラクター言語研究国際ワークショップ2015報告論集
巻号頁・発行日
pp.70-83, 2016

科学研究費「役割語の総合的研究」(研究代表者:金水敏 課題番号:23320087)研究成果報告書
著者
鄭 惠先
出版者
国立国語研究所
雑誌
日本語科学
巻号頁・発行日
vol.23, pp.37-58, 2008

本稿では、方言を役割語の一種として定義した上で、日韓両国での方言意識調査を通して、役割語としての両言語方言の共通点と相違点を具現化した。最終的には、日韓・韓日翻訳の上で、両言語方言を役割語として有効活用することが本研究の目的である。考察の結果、以下の4点が明らかになった。1)両言語母語話者の方言正答率から、韓国の方言に比べて日本の方言のほうで役割語度が高いことが予想される。2)「共通語」対「方言」の対比的な役割語スタイルは、両言語母語話者の方言意識の間で共通している。3)「近畿方言」と「慶尚方言」の間には共通する役割語スタイルが見られる一方で、一部のステレオタイプの過剰一般化が役割語度アップを促進していると推測される。4)「東北方言」と「咸鏡・平安方言」の間には共通する役割語スタイルが見られる一方で、「東北方言」に比べて「咸鏡・平安方言」の役割語度がきわめて低い可能性がうかがえる。以上の結果をもとに、両言語方言の役割語としての類似性を巧く生かすことで、より上質の日韓・韓日翻訳が実現できると考える。
著者
金水 敏 定延 利之 渋谷 勝己 山口 治彦 鄭 惠先 松井 智子 山口 治彦 定延 利之 鄭 惠先 勅使河原 三保子 渋谷 勝己 松井 智子 吉村 和真 岡崎 智子 菅 さやか
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

役割語とは、一定のキャラクタと対応関係を持つ話し方(語彙、語法、音声的特徴等)のヴァリエーションのことである。本研究では、1)役割語の理論的基盤、2)幼児の役割語獲得のプロセス、3)個別の役割語についての記述的研究と歴史的起源の探求、4)日本語と外国語との対照研究、5)教育への応用、という5つの問題について、検討してきた。その結果、社会的属性が役割語の中核となること、役割語の知識が5歳までに獲得されること等を明らかにした。
著者
鄭 惠先
出版者
社会言語科学会
雑誌
社会言語科学 (ISSN:13443909)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.82-92, 2005-09-30 (Released:2017-04-29)
被引用文献数
1

本研究の目的は,日本語と韓国語の「役割語」を対照することによって,よりリアルな日韓・韓日翻訳に役立てることである.本稿では,漫画を分析対象とし,一つ目に,意識調査で見られる日本語母語話者と韓国語母語話者の意識の差について,二つ目に,対訳作品で見られる両言語の役割語の相違点について考察した.その結果,つぎの7点が明らかになった.1)韓国語に比べ日本語のほうに役割語としての文末形式が発達している.2)日本語母語話者の場合,訳本では日本語の役割語の知識が十分生かせない.3)韓国語母語話者の場合,役割語への刷り込みが弱く,翻訳による影響を強く受けない.4)対訳作品から受けるイメージは,両言語の間で必ず一致するものではない.5)日本語役割語では性別的な特徴,韓国語役割語では年齢的な特徴が表れやすい.6)日本語でも韓国語でも,方言は人物像を連想する重要な指標となる.7)時代を連想する言語形式は訳本の中で現代風に訳される傾向が多い.
著者
鄭 惠先
出版者
国立国語研究所
雑誌
日本語科学
巻号頁・発行日
vol.23, pp.37-58, 2008-04

本稿では、方言を役割語の一種として定義した上で、日韓両国での方言意識調査を通して、役割語としての両言語方言の共通点と相違点を具現化した。最終的には、日韓・韓日翻訳の上で、両言語方言を役割語として有効活用することが本研究の目的である。考察の結果、以下の4点が明らかになった。1)両言語母語話者の方言正答率から、韓国の方言に比べて日本の方言のほうで役割語度が高いことが予想される。2)「共通語」対「方言」の対比的な役割語スタイルは、両言語母語話者の方言意識の間で共通している。3)「近畿方言」と「慶尚方言」の間には共通する役割語スタイルが見られる一方で、一部のステレオタイプの過剰一般化が役割語度アップを促進していると推測される。4)「東北方言」と「咸鏡・平安方言」の間には共通する役割語スタイルが見られる一方で、「東北方言」に比べて「咸鏡・平安方言」の役割語度がきわめて低い可能性がうかがえる。以上の結果をもとに、両言語方言の役割語としての類似性を巧く生かすことで、より上質の日韓・韓日翻訳が実現できると考える。
著者
髙橋 彩 青木 麻衣子 鄭 惠先
出版者
北海道大学国際本部留学生センター = Hokkaido University, Office of International Affairs, International Student Center
雑誌
北海道大学留学生センター紀要
巻号頁・発行日
no.15, pp.80-89, 2011-12

「ホリデーイン日高」は毎年留学生センターと国立日高青少年自然の家が共催で行う国際交流行事である。2011年は「ホリデーイン日高」のプログラムを、留学生への支援サービス的なものから多文化交流に比重を置いた、より教育的なプログラムに改訂した。日高の夏祭りである「樹魂まつり」への参加が主な内容となるプログラムのため、限られた時間と従来からの活動の中に、どのような交流のための「しかけ」を盛り込めるかが課題であった。参加者同士の積極的なかかわりをつくるため、バーベキューやワークショップ等の活動を入れたほか、グループでの活動を通した様々な交流場面を作ることで、異文化コミュニケーションを促した。終了時のアンケートではグループの仲間と交流ができたと回答した参加者が9割を超え、多文化交流の目的は概ね達成された。しかし、関係教職員の振り返りやアンケートから、いくつかの課題も浮かび上がった。この稿では、今年度の改訂の意図から、その過程、実施状況と今後の課題・展望について報告する。Holiday in Hidaka is a cultural-exchange program, co-organized by International Student Center, Office of International Affairs, Hokkaido University and National Hidaka Youth Outdoor Learning Center. The program has been a support program for international students, designed to offer them the opportunity to enjoy a trip and learn about Japanese culture. International students have been considered to have difficulties with going on trips for financial reasons and language barriers. However, there has been a change in the situations of international students: English sings for international travelers are now seen around Sapporo, and there are various exchange events for international students offered by other organizations. This year, therefore, the organizer decided to change the character of the program from the event to support international student life to a program for cross-cultural understanding, focusing more on interaction between participants. This is a work in progress report of our effort to develop an international exchange program for multi-cultural education.