著者
野元 美佐
出版者
日本文化人類学会
雑誌
文化人類学 (ISSN:13490648)
巻号頁・発行日
vol.69, no.3, pp.353-372, 2004-12-31

本研究は、カメルーンの商売民として有名な「バミレケ」が活発に行っている金融システム「トンチン(頼母子講、講、無尽)」を、貨幣に着目して考察し、ひとびとがなぜトンチンを行うのかを明らかにしたものである。バミレケは、露天商から大企業家まで、銀行がたちならぶ都市においてもトンチンを積極的に行っており、トンチンは彼らの経済的成功の要因のひとつとされている。しかしトンチンには、資金創出以外にも大きな役割がある。バミレケは都市で同郷会を組織しているが、そこではトンチン参加が義務付けられている。トンチン参加を強いることは、トンチンに支払うためにカネを稼ぐことを強いることである。つまりカネを稼ぐという「個人的行為」を、トンチンにリンクすることにより「集団的行為」へと変化させている。ではなぜトンチンが集団的行為であり、相互扶助だと考えられるのであろうか。それは、トンチンが贈与交換だからである。みなのカネをまとめて、一人の人に与えるトンチンは、贈与であるからこそ、「助け合い」であり「善きもの」と言われるのである。そして重要なのは、そこに持ち寄られ、「贈与」される貨幣も善となることである。個人的で利己的な貨幣は、集団的資源としての貨幣へと意味を変える。平等化の圧力が強く、資本蓄積が難しいとされるカメルーンにおいて、バミレケはトンチンを介すことでカネを稼ぐことを正当化し、資本蓄積の場を獲得する。これが、人びとがトンチンを好む理由であると考える。またこれまで貨幣は、ひとびとの連帯を破壊するものと考えられる傾向にあったが、バミレケの事例で、トンチンによって貨幣が人と人をつなぐ道具として用いられていることを明らかにできた。
著者
太田 至 島田 周平 池野 旬 松田 素二 重田 眞義 栗本 英世 高橋 基樹 峯 陽一 遠藤 貢 荒木 美奈子 野元美佐 山越 言 西崎 伸子 大山 修一 阿部 利洋 佐川 徹 伊藤 義将 海野 るみ 武内 進一 武内 進一 海野 るみ
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2011-04-01

現代のアフリカ諸社会は、紛争によって疲弊した社会秩序をいかに再生させるのかという課題に直面している。本研究では、アフリカ社会には人々が紛争の予防や解決のために自ら創造・蓄積し運用してきた知識・制度・実践・価値観(=アフリカ潜在力)が存在すること、それは西欧やイスラーム世界などの外部社会との折衝・交渉のなかで不断に更新されていることを、現地調査をとおして実証的に明らかにした。本研究ではまた、「紛争解決や共生の実現のためには民主主義や人権思想の浸透がもっとも重要である」といった西欧中心的な考え方を脱却し、アフリカ潜在力は、人々の和解や社会修復の実現のために広く活用できることを解明した。
著者
佐々木 重洋 和田 正平 井関 和代 慶田 勝彦 武内 進一 野元 美佐 和崎 春日
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2005

本研究は、今日のアフリカ諸社会にける青少年に注目し、彼らがそれぞれどのように文化を継承、再創造、あるいは破壊しているのか、その実態を明らかにした。また、それぞれの地域社会において継承されてきた伝統的な成育システムや相互扶助組織、各種の結社等の調査研究を通じて得られた成果をもとに、今後グローバル化の一層の進展が予想されるアフリカにおいて、将来的に青少年の人権を保護し、彼らの生活上の安全を保障するとともに、彼らが文化の担い手としての役割を十全に発揮できるような環境づくりに寄与し得るような指針のいくつかを提供することができた。グローバル経済の急激な浸透に直面する今日のアフリカの青少年にとって、人間の安全保障や人間的発展などが提唱する「能力強化」は、法的権利の行使や政治的発言力の獲得、女性の地位向上と彼女たちによる自らの主体性への覚醒、グローバル経済にアクセスして相応の利益を獲得するうえで確かに重要であり、そのために読み書きや計算などの基礎教育を充実させることには一定の意義がある。ただし、それぞれの地域社会で継承されてきた伝統的な成育システムがもつ今日的意義は決して過小評価されるべきでない。基礎教育の普及は、しばしばこれら伝統的成育システムの否定に結びつきがちであるが、それぞれの地域社会の文脈において、こうした伝統的成育システムがもつ多面的意義を正確に理解し、それらへ基礎教育を巧みに接合させる方途を探求することが有効である。本研究におけるこれらの成果は、人類学やアフリカ地域研究のみならず、コミュニティ・べースの開発論があらためて脚光を浴びている開発・経済学の分野にも一定の貢献をなし得るものと考える。