- 著者
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野村 恭也
- 出版者
- 医学書院
- 巻号頁・発行日
- pp.370-371, 2004-05-20
Ondine's curseという演題がはじめて医学会で発表されたのは,1962年1月26日のこと,学会はWestern Society for Clinical Research(Carmel, California),発表者はSeveringhausとMichellであろう。彼らは覚醒時に長時間にわたって無呼吸となるが,意識すると呼吸ができる3例を報告し,これは延髄のCO2化学受容体の障害によるものであろうとした。演者は,この症状をはじめて記載したのはドイツの伝説で,水の精オンディーヌが夫から呼吸の自律機能を奪い,意識しないと呼吸ができないようにしたと述べている。睡眠時無呼吸症候群の中枢型である。
そのオンディーヌの呪いとはそもそも如何なるものであったのか。拙著「聴脳力」を書くときに調べた資料では次のようなストーリーであった。すなわち,オンディーヌは湖水の近くで見かけた美男の若い騎士ローレンス卿と結婚するが,ローレンス卿は結婚に際して自ら,「目覚めているあいだ,息をするたびにあなたへの愛と忠節を誓いましょう」とオンディーヌに言った。しかし年が経ち,オンディーヌとの間に子供ができ,彼女の美貌が衰えてきた頃ローレンス卿は彼女を裏切ったのである。オンディーヌは夫に向かって「あなたは目覚めているあいだ,息をするたびに私への忠節を誓うと約束しました。しかしその誓いを破りましたから目覚めているあいだは息ができるが,一度でも眠ったら息は止まり死ぬでしょう」と呪いの言葉を浴びせたのである。彼女にはまだこれを実行するだけの魔力が残っていたのである。もとはといえば卿が自分で誓った言葉であり,オンディーヌはそれを忠実に実行したということになる。