著者
金 明秀 稲月 正 豊島 慎一郎 太郎丸 博 田中 重人 堤 要
出版者
京都光華女子大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

本研究の中で実施された調査と、1995年に実施された「在日韓国人の社会成層と社会意識全国調査」および「社会階層と社会移動に関する全国調査」との比較分析に基づき、以下の諸点が明らかになった。(1)[文化資本に関する分析]日本人男性に比べて在日韓国人男性の文化資本は低いこと。父、母の学歴が高いほど出身家庭の文化資本は高まる傾向があること。出身家庭の文化資本が高いほど本人の学歴は高くなる傾向があること。(2)[在日韓国人女性の職業に関する分析]初職の企業規模は、9人以下の小規模の企業がほぼ半分を占めており、周辺セクターの労働市場に追いやられている。現職についても、9人以下の小規模な企業に従事する者が7割近く、さらに小規模企業への集中が強まっている。(3)[社会保障に関する分析]医療保険については、医療保険未加入者は加入者と比較して健康状態がよくない傾向が見られた。年金保険については、在日韓国人高齢者に分析を限定したところ、年金保険未加入者は、加入者より所得が低い傾向も見られた。(4)[母国とのネットワークに関する分析]民族への愛着や伝統への嗜好は、母国に親戚のいる人のほうが強い傾向にあることがわかった。また、母国語の使用や民族団体への参加においても、彼らはより積極的であることがわかった。しかし、母国に親戚をもつ人は日本人との付き合いが弱くなるのかと思われたが、むしろ彼らの間のほうが日本人との付き合いをもつ人が多くみられた。(5)[民族認識に関する分析]在日韓国人は民族を構成する要件として、(1)自分自身を韓国(朝鮮)人だと思う、意識的側面を強く重視しているが、(2)韓国生まれであることや人生の大部分を韓国で暮らしているという、場的側面はあまり重要視しておらず、(3)それら以外の要件は中程度に重要視している。どの要件を重要視するかは、世代のみである。
著者
金 明秀
出版者
関西社会学会
雑誌
フォーラム現代社会学 (ISSN:13474057)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.36-53, 2015-06-25 (Released:2017-09-22)
被引用文献数
1

近年、日本でもマイノリティへのヘイトスピーチなどを特徴とする極右運動が問題視されるようになったが、それを下支えする社会的態度だと考えられている排外主義について、計量的なアプローチを用いて規定要因を探索的に特定することが本稿の目的である。データは2012年に「外国人集住都市会議」に加盟する自治体の有権者を対象に郵送法によって実施された調査である。分析モデルを構築するにあたっては、多数の態度概念を媒介させることで、社会構造上の位置をあらわす変数と従属変数の共変関係の「意味」を精緻に特定する社会意識論のフレームを用いた。分析の結果、次の3点が明らかになった。すなわち、(1)排外主義の形成に直接作用する社会構造変数はみられず、社会意識が媒介するかたちで排外主義が変動する、(2)排外主義を直接的に押し上げる最大の要因は同化主義である。同化主義は年齢が高いほど強い、(3)排外主義を直接的に抑制する要因は一般的信頼である。一般的信頼は社会的ネットワークの幅が広いほど高く、社会的ネットワークの幅は教育達成が高いほど広い。以上の発見に基づいて、社会全体の統合や秩序を毀損する排外主義を抑制するためには、「多文化関係資源」とでも呼びうる希少資源が重要であること、また、「多文化関係資源」の価値を再評価し、資源を再生産するシステマティックな取り組みが必要であることを論じた。
著者
金 明秀
出版者
大阪大学人間科学部社会学・人間学・人類学研究室
雑誌
年報人間科学 (ISSN:02865149)
巻号頁・発行日
no.16, pp.39-56, 1995

本研究は、在日朝鮮人を対象にしたものとしては、初の全国規模のサンプリング調査である「一九九三年在日韓国人青年意識調査」から、本人および父親の教育と職業をとりあげ、その基礎的な分布を紹介する。また、同種の日本人データと簡単な比較をおこない、エスニック・ストラティフィケーションの存在を検討する。結果によると、(1) 在日韓国人の教育達成は、単純集計レベルでは日本人との差異が見られない : (2) しかし上層出身と下層出身とで非一貫的な圧力が示唆される : (3) 親世代の職業構成は圧倒的な比率で自営業に追いやられているのにたいして : (4) 回答者本人の職業構成からは、明確な労働市場の障壁は確認されない。本調査が社会階層の究明を目的としたものではなかったこと、また、純粋に比較可能なデータが存在しなかったことなどのため、以上は今のところ原始的な発見にとどまっている。しかしながら、在日朝鮮人を対象とした実証研究に、はじめて社会階層という概念を導入したことにより、今後の研究の展望を示すとともに、より詳細な調査の必要性を提起できている。
著者
垣内 優芳 森 明子 松本 恵実 金 明秀
出版者
一般社団法人 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
雑誌
日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 (ISSN:18817319)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3, pp.318-322, 2018-11-05 (Released:2018-11-30)
参考文献数
25

【目的】頭頸部複合屈曲位の状態で誤嚥の回避や気道内分泌物の喀出(喀痰)のために咳嗽が生じた場合,頸部屈曲位と比較して咳嗽が効果的に行えるのか不明である.本研究の目的は,頭頸部複合屈曲位と頸部屈曲位において随意的咳嗽力を比較検討することである.【対象と方法】対象は健常成人男性21名であった.測定肢位は,リクライニング座位45°とした.測定条件は,頭頸部複合屈曲位と頸部屈曲位の2条件とし,それぞれにおいて咳嗽時最大呼気流量,胸郭拡張差,最大吸気圧,最大呼気圧の測定を行った.【結果】咳嗽時最大呼気流量,胸郭拡張差,最大呼気圧は,頸部屈曲位よりも複合屈曲位において有意に低い値を示した.また,複合屈曲位において咳嗽時最大呼気流量は最大吸気圧,最大呼気圧と関連を認めた.【結論】リクライニング座位時における頭頸部複合屈曲位は,頸部屈曲位と比較して随意的な咳嗽力において不利に働くことが示唆された.
著者
金 明秀
出版者
社会学研究会
雑誌
ソシオロジ (ISSN:05841380)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.97-113,170, 1995-05-31 (Released:2017-02-15)

An attempt is made to elucidate the structure and formation process of ethnicity that is defined by the attitude and behavior associated with an ethnic affiliation. Data are drawn from "The 1993 Research of Consciousness among Korean Youth in Japan," which is the first nationally representative sample of Korean residents to be conducted in this field. Result shows that (1) ethnicity can be divided into two dimensions of ethnic orientation; (2) one of the two orientations is based on emotional ties with the brotherly ethnic group (relation orientation) , (3) the other is based on instrumental behavior related to ethnic issues (instrumental orientation) ; (4) the relation orientation is mainly formed through contact with ethnic tradition in the family by inheritance; (5) the instrumental orientation is, for the most part, formed acquisitively by the education and the participation in the ethnic organization; and (6) there is no substantive effect of discrimination and inequality on the formation of ethnicity.