著者
中村 太士 中村 隆俊 渡辺 修 山田 浩之 仲川 泰則 金子 正美 吉村 暢彦 渡辺 綱男
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.129-143, 2003
参考文献数
33
被引用文献数
6

釧路湿原の多様な生態系は, 様々な人為的影響を受けて, 劣化ならびに消失しつつある. 大きな変化である湿原の樹林化は, 流域上地利用に伴う汚濁負荷の累積的影響によって起こっていると推測される. 汚濁負荷のうち特に懸濁態の微細粒子成分(ウォッシュロード)は, 浮遊砂量全体の約95%にのぼる. 既存研究より, 直線化された河道である明渠排水路末端(湿原流入部)で河床が上昇し濁水が自然堤防を乗り越えて氾濫していることが明らかになっている. Cs-137による解析から, 細粒砂堆積スピードは自然蛇行河川の約3〜8倍にのぼり, 湿原内地下水位の相対的低下と土壌の富栄養化を招いている. その結果, 湿原の周辺部から樹林化が進行しており,木本群落の急激な拡大が問題になっている. また, 東部3湖沼の中でも達吉武沼流域では, 土壌侵食ならびに栄養足負荷の流入による達吉武沼の土砂堆積, 水質悪化が確認されており, 水生生物の種数低下が既存研究によって指摘されている.ここではNPO法人トラストサルン釧路と協働で, 自然環境漬報の集約にもとづく保全地域,再生地域の抽出を実施している. また, 伐採予定だったカラマツ人工林を買い取り, 皆伐による汚濁負荷の流出を防止し自然林再生に向けて検討をすすめている. 湿原南部には1960年代に農地開発されたあと, 放棄された地区も点在しており,広里地域もその一つである. この地域は国立公園の最も規制の緩い普通地域に位置しており, 湿原再生のために用地取得された. ここではタンチョウの1つがいが営巣・繁殖しており, 監視による最大限の注意を払いながら, 事前調査結果にもとづく地盤据り下げならびに播種実験が開始されている. 釧路湿原の保全対策として筆者らが考えていることは,受動的自然復元の原則であり, 生態系の回復を妨げている人為的要因を取り除き, 自然がみずから蘇るのを得つ方法を優先することである. さらに, 現在残っている貴重な自然の抽出とその保護を優先し可能な限り隣接地において劣化した生態系を復元し広い面積の健全で自律した生態系が残るようにしたい. そのために必要な自然環境情報図も環境省によって現在構築されつつあり, 地域を指定すれば空間的串刺し検索が可能なGISデータベースがインターネットによって公開される予定である.
著者
古賀 彩音 本間 由香里 伊吾田 宏正 吉田 剛司 赤坂 猛 金子 正美 松浦 友紀子
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement
巻号頁・発行日
vol.29, 2013

&nbsp;北海道西部でも個体数が増加しているエゾシカ(<i>Cervus nippon yesoensis</i>)は,近年札幌都市部にも出没し,自動車事故や列車との衝突事故などその被害は年々拡大している.しかし,都市部に出没したエゾシカは銃器を用いた対策などが難しく,未だ管理の有効な手立ては見つかっていない.更に,都市部に生息するエゾシカの生態に関する先行研究も極めて少なく,対策を講じるための基礎情報が不足しているのが現状である.<br>&nbsp;本研究では,都市部に出没するエゾシカの季節移動パターンと生息地利用を把握する為,札幌市に隣接する北広島市及び江別市においてテレメトリー調査とライトセンサス調査を行った.テレメトリー調査は,2012年 1月~ 2013年 3月にかけて北広島市の国有林内で生体捕獲を実施し 4頭(雄 2頭,雌 2頭)を捕獲した.捕獲した雄には VHF発信機を,雌 1頭には VHF発信機及び GPS首輪を,もう 1頭の雌には VHF発信機及び GPS首輪と膣挿入型電波発信機を装着した.放獣後,VHF発信機は三角法を用いて週 2回の頻度で位置を特定した.GPS首輪は 3~ 6時間毎に測位するよう設定し,月1回の頻度で位置データの遠隔回収を行った.ライトセンサス調査は,2008年 5月~ 2012年 12月の期間で北広島市(23.4km)と江別市(26.5km)において実施した.<br>&nbsp;結果,テレメトリー調査では 4頭全てに季節移動がみられ,そのうちの 3頭が JR千歳線と国道 274号線を横断した.また 1頭の雌は昨年利用した越冬地には戻らず,夏に利用した道立野幌自然公園内で越冬し,その後約 7km離れた札幌市厚別区に一時的に移動した.また,ライトセンサス調査では,目撃個体数は両市で増加傾向が見られ特に農地での観察割合が最も高くなった.<br>&nbsp;以上から,捕獲個体が江別市や札幌市に移動している事と,両市でエゾシカの増加傾向が示唆された事から,今後も都市部でのエゾシカによる様々な軋轢の多発が懸念される為,市の垣根を越えた「広域管理」が必要とされる.
著者
横畑 泰志 金子 正美 横田 昌嗣 星野 仏方
出版者
富山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

航空写真(1978年)および高解像度人工衛星イコノス(2000年)、Quickbird(2004、2006年)およびALOS(2007年)の衛星画像を分析した。1978、2000、2006年の画像を用いて3次元立体化画像の観察と裸地面積の推定を行い、裸地の増加や崖崩れの発生などの状況を具体的に把握した。ALOS画像による植生指数値(NDVI)の分布の分析により、裸地化に至っていない森林にもヤギの影響が及んでいることが示され、場所ごとの違いが把握された。これらの結果とヤギによる変化のなかった時期に作成されていた植生図(新納・新城、1980)との比較照合によって、ヤギの影響を特に強く受けている植生区分が特定された。以上の研究成果は第55、56回日本生態学会、第31回日本土壌動物学会、第14回日本野生生物保護学会で発表され、論文などで公表されたほか、今後さらに学術論文として順次公表してゆく予定である。本研究の成果は、新聞、テレビなどのマスメディアでも繰り返し取り上げられ、関心を呼んだ。本研究の成果発表にともない、2008年3月に石垣市議会が政府に野生化ヤギの対策を要請している。