著者
杉山 武志 元野 雄一 長尾 謙吉
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.88, no.2, pp.159-176, 2015-03-01 (Released:2019-10-05)
参考文献数
29

本稿は,電気街として知られる大阪の日本橋地区の「趣味」の場所性を考察した.近年の電気街には,ゲームやアニメなど新たな「趣味」に関わる消費者や供給者の集積が顕著であり,こうした集積を日本橋地区の店舗の分布ならびに人が集まる場所の特性から分析した.日本橋では近年,「オタロード」と呼ばれる地区への店舗集積が顕著となっており,地域の活力の拠点も「オタロード」へ移行しているようにみえる.しかし,実際には「日本橋筋商店街」から生じた新たな業種が「オタロード」へ広がる傾向がみられた.その上で,サブカルチャーを趣味にもつ消費者や供給者が集積する要因として,1)日本橋ストリートフェスタにみられるような開放的な場所性がサブカルチャーという趣味的活動の支えになっている,2)サブカルチャーに対する経営者の意識変化,すなわち,集団的学習の経験による「寛容性」の醸成が開放的な場所の生成につながっている,ことを指摘した.
著者
長尾 謙吉
出版者
経済地理学会
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.44-56, 2013-03-30 (Released:2017-05-19)
被引用文献数
3

本稿では,大都市圏の経済活動と経済格差について,6つの論点から研究課題と政策課題を整理し研究動向を踏まえつつ批判的検討を加えた.第1は,格差,不平等,貧困という概念の整理と研究意義についてであり,貧困のみを重視せず格差研究との両輪が必要であることを主張した.第2は,社会的格差と空間的視角についてであり,反映論的な都市・地域研究の問題点を指摘し,弁証法的な観点を取り込む重要性を述べた.第3は,大都市圏の社会的分極化をめぐり,日本の大都市圏についても分極化の観点だけでなく専門職化など多面的な接近が必要なことを論じた.第4は,就業,所得,消費の大都市圏内における格差についてであり,包括的指標として所得の重要性は認めつつも,就業,所得,再分配,消費という経済循環の諸側面をより意識する必要性を述べた.また,アメリカ合衆国のように社会的かつ地理的な分極化あるいは分断化が進むのか展望した.第5に,所得格差と資産格差との関わりを取り上げた.日本において分極化が明瞭でないのはなぜか,資産の側面から問題を提起した.第6は,経済格差との関わりからみた大都市圏経済の再編の方向性について展望した.
著者
長尾 謙吉 中本 悟 明石 芳彦 松村 博行
出版者
大阪市立大学経済研究会
雑誌
季刊経済研究 = The quarterly journal of economic studies (ISSN:03871789)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.33-46, 2006-09

(1)ヨコハマ・アエロ・スペース・アメリカ : 訪問日 8月28日(月)午後 : 同社は民間航空機のラバトリー・モジュールやウォーター・タンクを製造・修理する横浜ゴムの子会社である. ラバトリー・モジュールは, 通路が一本のみとなる単通路型のボーイング737型機や757型機用に供給している. こうした機種はシアトル南郊にあるボーイング社のレントン工場で生産されており, ヨコハマ・アエロ・スペース・アメリカはレントン工場に近いケントに立地している. ……
著者
長尾 謙吉
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2020年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.289, 2020 (Released:2020-03-30)

1.研究の背景と目的日本の地域間人口移動は,高度経済成長期には3大都市圏へ職業を問わず幅広い階層の人々が移動したが,1980年代のバブル経済期には高学歴層が移動の中心となり,さらに1990年代後半には高学歴女性の東京圏への移動が顕在化した(中川2005).地域間で移動するのは,高学歴層に偏り,彼ら彼女らは東京圏へ選択的に移動している.こうした人口移動の傾向を「選択的」人口移動と称すことができよう.豊田哲也を代表者とする科学研究費助成研究「地理的多様性と地域格差問題の再定義に関する研究」「所得格差の要因と影響に関する地理学的研究」「所得の地域格差とその要因に関する地理学的研究」の共同研究メンバーであった中川(2005; 2015; 2017)は,こうした人口移動の傾向について許育歴・コーホート別にみた推計を行い,経済格差の再生産は個人間や世帯間だけでなく,東京圏とそれ以外での地域の間でも進行していることを指摘してきた.さらに,発表者ら共同研究メンバーとは,関西の大学卒業生たちの動向をみても就職時だけでなく就職後の転勤などの移動をみても「選択的」人口移動の傾向が一方ではみられ,他方で東京圏以外の地域におけるさらなる活力低下は就業機会の面から再び「選択的」ではなく幅広い人々の移動の誘因となる可能性をあることを意見交換してきた.まことに残念ながら中川は2019年10月に急逝した.中川が持ち続けてきた問題意識をふまえて,「選択的」人口移動と就業機会の地理との関連について考察するのが本発表の目的である.人口移動と地域格差との関係について,どちらが要因でどちらが結果なのかというのは「鶏が先か,卵か先か」系統の古くからの研究課題である.就業機会の地域格差は仕事を求める人々が仕事の多い地域に移動することによって調整メカニズムが働き,地域格差が縮小すると新古典派経済学によるアプローチでは想定されている.日本における経験的事実に目を向ければ,県間移動者は20歳前後から30歳代が多くを占めている(大江2017).さらに,「女性の労働市場,とりわけ有配偶女性については,人口移動によって地域間の労働市場の不均衡が調整されるというメカニズムは働きにくいことが想定される」(坂西2018: 118).それゆえに,人口と就業機会の地域格差について世代差や男女差にも留意した研究が求められよう.2.分析枠組みと論点人口移動の要因と年齢や職業をはじめとする移動者の属性を絡めて考察できるのがベストではあるが,分析の要求を満たすデータを得ることは簡単ではない.本発表では,国勢調査のデータを用いて人口分布を世代別・男女別・職種別に東京圏(東京都,埼玉県,千葉県,神奈川県)とその他の地域というある種「大雑把な」区分を基にして地理的状況を検討し知見を得たい.世代別については,大江(2017)や中川(2015; 2017)で用いられている出生コーホート別に人口分布をみるコーホート・シェアが有用である。高度成長期には若年期において東京圏のシェアがかなり上昇し,1960年代コーホート以降は、東京圏生まれが増加するとともに,20代前半にかけてシェアが増加している(大江2017).本シンポジウムにおける豊田報告や中澤(2019)でも焦点となっている1970年代生まれに着目すると,それまでの世代に比べて25歳以降においても東京圏のシェアが低下しないことが注目される.男女別にみると,東京圏シェアは女性の方が若干低い.仕事の東京圏シェアは,職種別にみると専門的・技術的職業や事務職では高いが,従業上の地位でみると派遣社員の比率が高い.「さまざまな仕事」の偏在(橘木・浦川2012; 長尾印刷中)や仕事の「質」の差異(高見2018)と「選択的」人口移動との関連性は高いと考えられるが,「選択的」人口移動との結びつきだけでは東京圏の労働市場は説明できないであろう.人口集積と就業をうみだす産業活動との関係を論じた加藤(2019)は,「人が住むから働く場所がある」傾向への「風向きの変化」を提起している.豊田(2015)が指摘してきた「水準の地域格差」についてある程度は収斂するなかでの「規模の地域格差」の拡大とともに,就業機会の地理の行方を見定める論点となろう.
著者
長尾 謙吉
出版者
経済地理学会
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.262-281, 1992-12-31

本稿では, 地域問題regional problemを相対的な地域間問題とし, 地域政策regional policyをこうした地域問題の解消を目指す政策としてとらえた. そして, 経験的な議論の素材として, 第二次世界大戦後のカナダの経験を取り上げ, 地域政策の地位や性格に着目し考察を行なった. 第二次世界大戦後におけるカナダの地域政策は, 1950年代後半に地域問題が認識されはじめ準備期に入り, 1960年代初頭に数種のプログラムが導入された. その後, ピアソンならびにトルドーという自由党政権のもと, 地域政策は着実に強化され, 1970年前後にピークを迎えた. しかし, 1974年には地域政策に改変が加えられ, 分権的な政策が導入される. 改変後も地域政策はそれなりの地位を有してきたが, 1980年代に入り景気後退の影響を受け, 自由党政権下でありながらも地域政策は大きく後退した. 1984年には, 新保守主義のイデオロギーを掲げる進歩保守党のマルルー二政権が誕生し, 地域政策は低い地位に甘んじている. また, 本稿では, DREE(地域経済開発省)を中心として地域政策が展開された1969年から1981年までの時期(DREE期)を特に取り上げた. このDREE期は, 他の時期に比べ地域政策の地位が高かった. これを支えたのは, 良好な経済動向, 自由党政権, 国家統合を重視するトルドー思想などである. また, DREE期と一口に言っても, 1974年を境とした前期と後期では政策の持つ内容に大きな違いがあったことは注目に値する. 前期には, 地域格差の縮小が図られたのに対して, 後期は連邦制度を反映した連邦一州の共同の措置が導入され, 州開発の色彩が強くなった. 結局, カナダの地域政策の消長は, 経済動向の状況に大きく左右されている. また, 政権政党をはじめとする政治的側面やケベック分離主義などの社会的・文化的側面も, 地域政策の地位や内容に少なからぬ影響を与えている. さらに, 地域攻策が政策体系の中で縁辺的なものでしかなく, かつ長期的な取り組みに欠けてきたことを考慮すれば, 地域格差の縮小を図るものとして, カナダの地域政策は十分な制度的枠組みを有してこなかったと言える.
著者
植田 浩史 本多 哲夫 中瀬 哲史 田口 直樹 長尾 謙吉 大田 康博 桑原 武志 粂野 博行 義永 忠一
出版者
大阪市立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

平成17年度は、おもに三つの課題に取り組んだ。第1は、今回の研究課題の具体的な成果の取りまとめに向けた準備であり、第2は、課題の国際比較研究のための海外調査の実施、第3に、製造業実態調査の再集計(岸和田市)である。第1の課題については、クラスターにとって重要な意味を持つと考えられる公設試験研究機関を対象に研究成果を取りまとめることを課題として、これまでの研究機関で行なわれてきた調査結果の取りまとめ、補充調査などに取り組んだ。特に、全国の公設試験研究機関の実態を把握するために、郵送アンケート調査を実施し、現状についてのデータの収集に努めた。公設試験研究機関に関する研究はすでに報告書案を策定し、執筆分担を確定し、執筆に取り掛かっている。平成18年度中には刊行されることになっている。この報告書(仮題『公設試験研究機関と中小企業』)では、企業、大学・研究機関、自治体のネットワークの中心として、地域産業クラスターの要の役割を果たすことが期待されている公設試験研究機関が置かれている現状と課題を実態調査を元に明らかにするとともに、高まる期待にこたえていく上でさまざまな課題が存在していることが示されることになる。第2の課題については、クラスターとしてこれまでも重視されてきたイタリアのプラート地域、現在新たなクラスターを形成しつつある中国蘇州地域を対象に海外調査が実施された。プラート地域については、1980年代に議論されてきた産業地区のイメージから大きく変化しつつあること、蘇州地域についてはローカル企業と日本をはじめとする海外企業の進出による新たな分業構造がクラスターの性格に大きく影響していることが調査によって明らかにされた。第3の課題については、岸和田市と協力して岸和田市の地場産業である繊維産業について製造業実態調査(全数調査)の再集計が行なわれた。