- 著者
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香原 志勢
- 出版者
- The Anthropological Society of Nippon
- 雑誌
- 人類學雜誌 (ISSN:00035505)
- 巻号頁・発行日
- vol.76, no.3, pp.105-113, 1968
- 被引用文献数
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須田昭義教授の主宰する日米混血児の人類学的調査に,皮下脂肪分布の測定が加入したのは,1961年であるが,それ以後1966年までの6年間の資料をとりまとあて,ここに中間報告をおこなう。本調査は縦断的方法を用いることを旨としているがそれには期間が短かく,また,横断的方法を用いるには,被検者数が少数なので,その両者を併用した中間的方法をもちいて,とりまとめた。調査は年2回,3月末と9月末とにおこなった。被検者数は83名。それぞれ被検者1名につき,延3~11回測定をおこなった。女子についても調査を行っているが,その数が男子より少ないので,他日を期して発表したい。<br>本報告では,12部位についてのみの測定結果をまとめた。測定器具として Harpenden 皮膚皺襞測定器<br>(10grm./mm.2の一定圧力,6×9mm.の接触面をもつスプリング式測定器)を用いた。正規分布に近づけるため,えられた値は,つぎのように対数変換を行った。<br>100×{測定値(0.1mm)単位)-18}<br>結果はつぎのとおりである。<br>(1)8~16才の皮下脂肪組織の年令変化をみると,体幹上の計測点(右大胸筋下縁,右側胸中央,右側腹中央,臍右側,項,右肩甲骨下)においては加令的増加をしめすが,顔面ならびに四肢上の計測点(右頬,オトガイ下,右上腕三頭筋中央,右前腕前面中央,右大腿前面中央,右下腿内側面中央)においては加令的減少をしめす。このことは,加令にともなう皮下脂肪の集中現象をものがたるものである。<br>(2)ともに母親に日本人をもち,父親としてそれぞれ米白人,米黒人をもつ2集団(J-W と J-N)であるが,両者の間には,下腿,大腿の2点について有意の人種差がみられる。概して,顔面部や下腿の計測点では,白人との混血児の方が,黒人とのそれよりも皮下脂肪があつい。しかし,体幹部や上腕では人種差がみられない。生活様式,栄養を同じくする2集団の間で差がみられるものがあることは,これまで指摘されてきた黒白両人種間の皮下脂肪量の人種差をしめすものである。<br>(3)皮下脂肪組織の厚さに季節差がみられるものがある。顔面部ならびに四肢では,3月末が9月末よりも皮下脂肪があつい傾向にあり,とくに頬では,それがきわめて典型的な増減をくりかえしている。しかし,体幹では,反対の傾向がみられるものがあり,あるいは差がまったくみられないものもある。