著者
森本 岩太郎
出版者
The Anthropological Society of Nippon
雑誌
人類學雜誌 (ISSN:00035505)
巻号頁・発行日
vol.79, no.4, pp.367-374, 1971 (Released:2008-02-26)
参考文献数
20
被引用文献数
2 2

愛媛県上黒岩岩陰遺跡出土の,縄文早期中葉に属する12~14歳の若年者1体の脛骨は,扁平度が強く,VALLOIS 法による脛指数は54.7を示した.これに対し,日本各地で得られた縄文後•晩期の同年齢者6体の脛指数の平均は77.7であり,扁平脛骨は1例もみられない.一般に扁平脛骨は思春期以後に発現する形質とされているので,上黒岩岩陰の若年者の扁平脛骨は,縄文早期人が後•晩期人よりやや早熟の傾向をもつことを物語るものとして注目される.この上黒岩の若年者の扁平脛骨では,骨幹の周径に対する横断面積の比率が,縄文後•晩期若年者の脛骨に比べて小さく,骨質の不足がうかがわれる.若年者の場合だけでなく,上黒岩岩陰の縄文早期に属する成人7体の脛骨も,各地で得られた縄文後•晩期の成人113体に比べると,骨幹が細い.脛骨骨幹横断形の変異が,下肢運動に対する脛骨の栄養学的•構築学的反応の表われであるとするならば,上黒岩岩陰の若年者の扁平脛骨は,縄文早期の生活条件が後•晩期に比べていっそうきびしかったことを反映するもののように思われ,興味深い.
著者
横山 真太郎
出版者
The Anthropological Society of Nippon
雑誌
人類學雜誌 (ISSN:00035505)
巻号頁・発行日
vol.86, no.4, pp.347-355, 1978 (Released:2008-02-26)
参考文献数
56

北海道に生育した群(HK群)とそれ以外の群(非HK群)から成る被験者について,至適環境から寒冷環境移行に伴なう shivering による局所筋産熱と循環機能の心拍数変化を検討した。心拍数評価では,諸家の報告の検討を経て,それが冷刺激による副交感神経性の抑制と産熱の酸素消費増大に伴なう運動時と同様な交感神経性と思われる促進との拮抗関係の上に成り立ち,下降は個体全身にとって軽度の,上昇は重度の寒冷環境条件に対応していると考えるに至った。その観点に立って両群の寒冷適応の異同の説明を試みた。筋電図による局所筋産熱の評価では今回の設定条件においてHK群は体幹部のみを中心に増大していること,及び非HK群ではHK群と同様なグループと体幹部並びに下肢部の筋に増大がみられるグループに分かれ,両群には差異が存在することが明らかとなった。併せて,軽度と重度との間の心拍数の変動に関して,至適時に比して余り変化のない場合と増加状態へ転ずる場合の違いは,shivering が体幹部のみならず四肢部特に下肢部の巨大な筋にまで波及しているか否かによると考えられ,寒冷環境下の心拍数変化の意味付けが深まった。
著者
鈴木 尚
出版者
一般社団法人 日本人類学会
雑誌
人類學雜誌 (ISSN:00035505)
巻号頁・発行日
vol.65, no.5, pp.238-267, 1957-03-30 (Released:2008-02-26)
参考文献数
18
被引用文献数
2 3
著者
鈴木 隆雄
出版者
The Anthropological Society of Nippon
雑誌
人類學雜誌 (ISSN:00035505)
巻号頁・発行日
vol.86, no.4, pp.321-336, 1978 (Released:2008-02-26)
参考文献数
34
被引用文献数
9 11

筆者は,縄文時代から江戸時代に至る日本人の脊柱188例について,古病理学的研究をおこなった。変形性脊椎症,腰仙移行椎,潜在性脊椎披裂症,シユモール軟骨結節については,時代別,年令別,性別及び椎柱の部位別の出現頻度などを観察し,疫学的な解釈を試みた。さらに結核性脊椎炎(脊椎カリエス),強直性脊椎関節炎,骨折,奇形などの興味ある病理学的変化を認め,これらについて記載を行なった。とくに結核性脊椎炎の発見例については,これまでに知られていた例と同様古墳時代のものであり,本症が弥生から古墳時代にかけて大陸文化の移入にともなって,本邦にもたらされたものと推論した。強直性脊椎関節炎の例は江戸時代のもので,日本における最初の古病理学的発見例である。
著者
鈴木 正男
出版者
日本人類学会
雑誌
人類學雜誌 (ISSN:00035505)
巻号頁・発行日
vol.77, no.5, pp.213-223, 1969
被引用文献数
2

人の手指を, 0℃の水で冷却すると, その皮膚温は急速に水温付近まで下がり, 数分後自然に著しく上昇し, 一定度に達すると, 再び下降して, その後は不規則波動変動を繰り返す。LEWIs (1930) によつて発見されたこの現象は, ヒトの寒気に対する適応能の測度となる。<BR>局所の寒冷に対する適応能の差が, いかなる原因に由来するのかについて, YOSHIMURA & IIDA (1950, 1952) は主として生活環境の気温に対する適応の程度にあるとし, 一方, MEEHAN (1955) は, 遺伝的なものとした。筆者は, 奄美大島高校生 (60名) 東京都高校生 (99名) 静岡県下田高校生 (20名) 同海女 (34名) アイヌ成人 (37名) 双生児 (38名) について手指皮膚温反応を測定し, 環境, 遺伝両側面から比較検討した。その結果は次のとおりである。<BR>1.女子は男子よりもいくぶん強い反応を示す<BR>2.年平均気温が, 寒冷に対する手指皮膚温反応の適応能に差をもたらす重要な因子であることが確認された。<BR>3.アイヌは, 日本人と比較して, ほとんど差がない。<BR>4.海女は, 非常に昂進した反応を示し, 環境因子の強いことが知られた。<BR>5.統計的に有意ではないが, 一卵性双生児は二卵性双生児に比較して, 各組内で類似した反応を示す。<BR>6.皮厚から推定された体脂肪量と寒冷に対する手指皮膚温反応の間には, あまり相関関係がない。
著者
安部 国雄
出版者
日本人類学会
雑誌
人類學雜誌 (ISSN:00035505)
巻号頁・発行日
vol.90, no.1, pp.37-52, 1982

インド中央州バスタール地方の原住民ムリア,アブジュマリア,バイソン&bull;ホーン&bull;マリアの3部族(ゴンド語族)と,アンドラ州ハイデラバードとビサカパトナム2地域住民(テルグ語族)の生体計測的形質を比較検討して次の結果を得た。<br>(i)バスタール3部族相互の間の諸形質は互によく類似している。(ii)2地域のテルグ語族相互の諸形質の間に地域差は認められない。(iii)これらゴンド語族の測度の大部分はテルグよりも小さく,より長い頭型とより広い顔型に傾むくが,前者の鼻幅が大きく,従って鼻示数の著しく大きいことが両者の形質の間で最大の差異である。<br>しかし両語族の形質のこれらの差異は,両語族の人種的差異を示すほどのものではなくて,中央インドのドラビダ系言語族或いは同一人種系統での変囲内に止まるものであると考える。
著者
河内 まき子 小泉 清隆
出版者
The Anthropological Society of Nippon
雑誌
人類學雜誌 (ISSN:00035505)
巻号頁・発行日
vol.100, no.4, pp.405-416, 1992 (Released:2008-02-26)
参考文献数
18
被引用文献数
4 4

現代日本人頭骨計測値の地域性に影響を与える要因として,計測誤差,標本のサンプリングによる偏り,時代変化がある.計測誤差およびサンプリングにより生じる差をコントロールとして集団間差の大きさを評価し,現代日本人頭骨にみられる地域差と時代差の関連を検討することを目的として,現代日本人頭骨研究班による近世アイヌをふくむ日本人15集団間の差を分析した.計測誤差とサンプリングによる差のためのコントロールとして東京都出土の江戸時代後期の男性頭骨延べ13集団を用いた.また,江戸時代以後における頭骨計測値の時代変化を調べるために,江戸時代および現代日本人頭骨を比較した.計測誤差が小さい項目を用いた多変量解析の結果,現代日本人頭骨の集団間差は計測誤差よりはるかに大きく,全体としてみればサンプリングによる差に比べても大きい.資料の収集年度を検討すると,クラスター分析の結果に基づくアイヌを除く現代日本人14集団のグループ分けは時代変化の影響をかなり強く受けていると考えられる.判別分析の結果によれば,このグループ分けに最も大きな影響をもつ項目は頭骨最大幅である.統計的に有意な集団問差を示す項目の多くは時代変化をも示すたあ,明治から昭和時代にかけて集められた頭骨資料に基づいて,時代変化の影響をとり除いた地域差を分析することは難しいであろう.