著者
佐々木 喜善
出版者
日本人類学会
雑誌
人類學雜誌 (ISSN:00035505)
巻号頁・発行日
vol.39, no.4-6, pp.164-184, 1924-06-25 (Released:2010-06-28)
被引用文献数
1
著者
佐藤 陽彦
出版者
The Anthropological Society of Nippon
雑誌
人類學雜誌 (ISSN:00035505)
巻号頁・発行日
vol.94, no.1, pp.1-18, 1986 (Released:2008-02-26)
参考文献数
117

ヒトの骨格筋の筋繊維組成の大枠は遺伝により決定されているが,動物実験の結果やヒトにおける筋繊維型の転換を示唆する知見から,ヒトにおいても筋繊維型の転換が生じていると考えられる。持久性訓練或いは日常活動によってII B 型→II A 型→I型の方向に繊維型が変化する。II C 型II A 型から I 型に変化する過程での過渡的な型である。この変化は可逆的で,訓練の中止や不活動によって逆方向の変化が生じる。この逆方向の変化を別にすれば,I型繊維からII型繊維への転換はより困難であると考えられる。運動選手における筋繊維組成や筋繊維組成の年齢的変化は,このように考えると説明できる。喫煙や栄養状態や甲状腺ホルモンも筋繊維組成に影響を与える。
著者
椿 宏治 大貫 裕康 藤井 明 村田 一彰
出版者
The Anthropological Society of Nippon
雑誌
人類學雜誌 (ISSN:00035505)
巻号頁・発行日
vol.76, no.4, pp.147-168, 1968-09-10 (Released:2008-02-26)

1.13の山村の住民,総人口5万6千程を調べて,その老人の性比を検討した。2.山村を2群に分けた。I群は典型的な山村。II群は山村といっても山中の盆地的な,割に平地の多い所か,又は地勢は嶮しくてもそこでは女が農労働に殆ど関係しない-しなかったといった方がよいかも知れぬ一所。3.I群の村々を地勢条件により更に A,B,C,D の4群に分けた。 A は最も条件の悪い所,山腹の斜面が急で,水田も月の田毎よりもひどいような棚田,隣にゆくにも段々で何十段といったような所。 D 群は平地が多く,商工業非農家の多い所。 B は A よりも斜面が緩かで, C は D に近いが,それよりも少し条件がきつい所。4.II群の村々では平地の農村並か小都会地並の老人の性比を示したし,90以上の女もかなりいた-予想された通りである。5.I群の山村では60才以上になると男に比べて女の割合が少くなるし,80才以上では男より少数になる。6.1群の山村では男が最高令者であるムラがそうでないムラより多いし,ムラの最高年令者の平均年令は男の方が多い。II群ではそれは全く逆で,女の長生きの所が多く,平均も女が高令である。7.I群の村々の A,B,C,D 4群の最高年令者に就いての統計は Table 8の下の方に示したが,A,B 群については男の方が約2年,C,D群では逆に女が1.0~0.6年程長生きであった。8.A,B,C,D 群だけで見ると生活条件の厳酷な山の中程男女共短命なようにも見えるが,これだけの資料ではいい切ろうとはまだ思わない。
著者
Takahiro KUNISADA Ken-ichi SHINODA
出版者
The Anthropological Society of Nippon
雑誌
Journal of the Anthropological Society of Nippon (ISSN:00035505)
巻号頁・発行日
vol.98, no.4, pp.471-482, 1990 (Released:2008-02-26)
参考文献数
17
被引用文献数
1 1

縄文時代人骨3体から DNA を抽出し, PCR 法を用いてミトコンドリア DNAを増幅して解析を行い,その方法論的な問題点を考察した。今回用いた方法では,試料の保存状態•部位にかかわらず,ほぼ安定して DNA の分離と増幅が可能であり,その有効性が確かめられた。分離された DNA は,そのほとんどがヒト由来のものではなかったが, PCR 法によりヒトミトコンドリア由来の DNA の増幅を確認することができた。ミトコンドリア DNAのV 領域および D ループ領域に対する制限酵素を用いた解析では多型は検出できなかった。しかし増幅した V 領域の塩基配列を決定したところ,1個体では1箇所の変異が見出された。
著者
柳沢 澄子 須貝 容子 芦沢 玖美
出版者
The Anthropological Society of Nippon
雑誌
人類學雜誌 (ISSN:00035505)
巻号頁・発行日
vol.72, no.4, pp.163-173, 1965-03-30 (Released:2008-02-26)
参考文献数
15
被引用文献数
1 1

Of the Japanese girls of ages ranging from 4 to 17, stature, span, upperlimb length, lowerlimb length, acromion height, waist height, foot length, and total head height, and their proportions with stature were measured and calculated, and statistics were taken of each age group. The results obtained by examining the growth sequnece are summalized below.1) Stature, span, upperlimb lenhth and lowerlimb length, and waist height increase till 14 years old showing significant difference between each age, and acromion height till 11 years samely, but after these years the growth rate becomes little. The time when the stature increases most speedily is 10-11 years of age. The total head height increases slowly through the years of age from 4 to 17. (Tables 3. 1, 3. 2, Fig. 1)2) Foot length, lowerlimb length, stature, total head height and upperlimb length reach their adult values at 12, and 17 years of age respectively. (Fig.2)3) Values of indices of span, upperlimb length lowerlimb length, waist height, to stature gradually increase with ages, and reach their greatest values at 11 years of ages, and after that diminish a little till adult. Indices of foot length and total head height, to stature diminish with age. (Tables 4.1, 4.2)4) The characteristics of body proportions of the materials of 4, 7, 10, 13, and 16 years compared with those of adult are shown in Fig. 3.
著者
安部 国雄
出版者
The Anthropological Society of Nippon
雑誌
人類學雜誌 (ISSN:00035505)
巻号頁・発行日
vol.87, no.4, pp.393-422, 1979 (Released:2008-02-26)
参考文献数
25

1972年から1977年に10回にわたって琉球12地域,南九州4地域の住民を調査して1795名(男920,女875)の形質人類学的資料を得た。その資料から主な観察項目を南の波照間から北の椎葉に至るまで,ほゞ地理的配列に従って整理して表(図)示すると共に,著者らによって得られた韓国人やアイヌの結果と比較して,琉球人の観察的形質の特徴の把握に便ならしめた。またこれら地域住民の先人の業績をまとめて参考に供した。なお計測項目については他にまとめて(安部ら,1979)発表した。本篇で特記すべきは琉球人の上眼瞼のヒダの性状である。即ちこのヒダが内眼角に附着しないもの(ヒダの認められないものも含めるがその頻度は稀)が,他地域の日本人のそれよりも,琉球人においてはかなり高い頻度で認められ,しかもこの頻度は北から南にゆくに従って次第に高くなってゆく(cline)。琉球人のこのヒダの特徴は,台湾の原住民に連続し(未発表),そしてそのルーツは南東アジアの原住民の「マレー目」に帰着するものと推測している。

2 0 0 0 蝸牛考

著者
柳田 國男
出版者
The Anthropological Society of Nippon
雑誌
人類學雜誌 (ISSN:00035505)
巻号頁・発行日
vol.42, no.4, pp.125-135, 1927
著者
喜々津 恭胤
出版者
The Anthropological Society of Nippon
雑誌
人類學雜誌 (ISSN:00035505)
巻号頁・発行日
vol.45, no.Appendix4, pp.379-510, 1930-07-31 (Released:2011-03-03)
参考文献数
31
被引用文献数
1
著者
加藤 清忠 矢島 忠明 河内 まき子 保志 宏
出版者
The Anthropological Society of Nippon
雑誌
人類學雜誌 (ISSN:00035505)
巻号頁・発行日
vol.97, no.1, pp.81-93, 1989 (Released:2008-02-26)
参考文献数
19
被引用文献数
2

身体の大きさやプロポーショソの性差は.(1)絶対値を比較する,(2)身長にたいする比例値を比較する,などの方法で解析されてきた.この場合,最も問題となるのは,全体的な大きさが男女で著しく異なるという点である.すなわち,世界中どこでも,常に男子は身長で10cm 強,体重で10kg 強,女子を上回っているのである.そのため,全体的な大きさと相関のあるようなプロポーションは,真の性差に,大きさの差に起因する差が混入する結果となる.例えば,胴と脚の比率では,身長の大きい者ほど脚が長い,という関係があることは,よく知られている通りであり,従って,身長の大きい男子は,当然,その分だけ脚が長くて当然である.身長に対する下肢長の比,すなわち比下肢長は世界中どこでも男子の方が大きな値を示しているが,これが果して性差であるのかどうかは,直ちには判定できない.男子の方が身長が大きいために,比下肢長が大きく出ているに過ぎないかもしれないからである.このような身体の大きさの差の影響を取り除いて,真の性差を知るための最も直接的な方法は,同じ背の高さの男女を比較してみることである.本論文は,この方法によるひとつの試みである.資料は,男子は,保志•河内によって計測された茨城県警察学校新入生の資料(保志ほか1978)の中から身長170-179cm の者を,女子は,加藤•矢島によって計測された高身長女子運動選手(主としてバレボール•バスケットボウルの学生選手)の資料 (加藤ほか1984)の中から身長170-179cm の者を用いた.後者の大部分の者のトレーニソグ•キャリアーは3年より短く,従って,運動選手であるがための体型変化は,さほど大きくはないと思われるが,筋の発達や皮下脂肪の減少などが影響しそうな測度については,特に注意して比較した.解析は,28項目の生体計測値 (頭部を除く) および23項目の指数値について,(1)平均値の比較,(2)主成分分析による検討,の二つの角度から行った.その結果,次のようなことが明らかになった.1.体重の平均値に差がなかった.皮下脂肪厚は著明に女子で大であったので,女子が多少とも小さいであろうという予想に反した結果であった.あるいはスポーツ選手であるので,一般女子より筋や骨の発達がよいかもしれない.但し,体重値の身長値に対する散布図(Fig.10)では,一般女子より重くなっている様子は見てとれない.2.下肢の長さの代表値として腸骨棘高は女子で大きい.その身長に対する比例値も女子で大きく,女子の方が「あしなが」体型であることを示している.このことは既に幾人かの研究者によって間接的に指摘されてきたことである.本研究の女子の資料はスポーツ選手から得られているので,特に脚の長い者ぼかり選ぼれている恐れがある.そこで,一般女子の資料(保志ほか1980)とともに,身長に対する散布図を作製して調べた(Fig.9)が,特に長いということはないことがわかった.3.胴部の測度は,長さ•周径とも男子で大きく,骨盤と下肢の測度は,長さ•周径とも女子で大きい.上肢では長さには性差はないが,周径は男子で大きい.結局,体重•上肢長•下腿最小囲の3項目だけ,性差がみられなかった.主成分分析の後,因子負荷量を算出すると,胴部の項目は第2主成分の負の領域に,骨盤と下肢の項目は正の領域に分かれて現われる(Fig.7).因子得点を計算して第1•第2主成分の散布図を作ると(Fig.8),すべての女子は正の領域に分布し,男子は唯一人を除いて負の領域に分布する.3.今回計測解析された生体計測項目は,大きさの影響を取り除いた後の性差の特徴によって,次のような3群に分類することができる.A群:男子が女子より大きい項目.一胴長(比胴長Fig. 2),手幅,足長,肩峰幅(Fig. 3,11),胸幅,胸矢状径,頸囲(Fig. 5),胴囲,上腕囲,前腕最大囲,前腕最小囲,胸郭周.B群:性差がない項目.一体重(Fig. 10),上肢長,下腿最小囲.C群:女子が男子より大きい項目.一腸骨棘高(Fig. 9,比腸骨棘高 Fig. 1),膝関節高,腸骨稜幅(Fig. 4),最大腰幅,腰囲(Fig. 6),大腿囲,下腿最小囲,皮下脂肪厚.

2 0 0 0 OA 詛言に就て

著者
南方 熊楠
出版者
日本人類学会
雑誌
人類學雜誌 (ISSN:00035505)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.137-144, 1915-04-25 (Released:2010-06-28)
著者
足立 和隆 大槻 文夫 服部 昌男
出版者
The Anthropological Society of Nippon
雑誌
人類學雜誌 (ISSN:00035505)
巻号頁・発行日
vol.97, no.3, pp.393-405, 1989
被引用文献数
1 2

著者らは,頭蓋の投影輪郭をフーリエ解析することによって,日本人頭蓋形態の時代差を検討してきた。頭蓋の対象となる投影輪郭は,正面観(<i>Norma frontalis</i>),後面観(<i>Norma occipitalis</i>),側面観(<i>Norma lateralis</i>),上面観(<i>Norms verticalis</i>),底面観(<i>Norma basilaris</i>)の5通りである。これらの輪郭を得るためには,古典的な方法として Dioptro-graph を利用することが考えられるが,この方法は手間と時間が非常にかかる。一方,高山は,35mm カメラで焦点距離800mm以上の超望遠レンズを用いれば,写真計測によっても高い精度で頭骨の輪郭が得られることを示した (高山,1980)。著者らも基本的にはこの方法にしたがって頭骨の撮影を行なったが,当初,頭骨を上記の5通りの位置に正確に固定するためにかなりの労力と時間を要した。そこで,本報告に紹介するような,回転式頭骨固定台(Rota-craniophor I)を製作し,利用したところ,ひとつの頭骨において上記5通りの撮影を行なうのに要する時間をかなり短縮することがでぎた。この固定台は回転可能な円盤の上に左右の耳孔を支えるための支柱[aural supPorting unit]が各1本,そして頭骨が水平の場合に眼窩下縁を支えるための支柱[<i>Orbitale</i> pointing unit (1)]が1本,さらに頭骨が垂直の場合に眼窩下縁を支える部品[<i>Orbitale</i> pointing unit (II)]が立った構造をしている。これらの支柱はレールの上を垂直な状態でスライドさせ,任意の位置で固定できるようになっている。耳孔にさしこむ支持棒(aural supPorting rod)および眼窩指示棒(<i>Orbitale</i> pointer)の高さも任意にかえられるが,一般的な頭骨を固定する場合,耳眼水平面が円盤の上,約17cmの位置にくるようにこられを固定するとよい。写真撮影にあたっては,頭骨固定台の円盤の回転軸と左右の耳孔にさしこむ支持棒(aural supporting rod)の中心軸との交点を撮影レンズの光軸が通るように両機材を設置する。頭骨の固定の際にはまず頭骨をカメラのほうに向け,耳孔を支える支柱を左右にスライドさせてナジオンが両画面中央にくるようにする。ここでは,正中矢状面をナジオンを通り,左右の耳孔にさしこむ支持棒の中心軸に垂直な平面と定義する。<i>Orbitale</i> pointing unit (I)で頭骨を水平に固定したら,円盤を回転させることによって,正面観,側面観,後面観の撮影を行な5。円盤は久リックによって90°。ごとに正確に固定される。次に <i>Orbitale</i> pointing unit (1)をはずし,頭骨を前に回転させて眼窩下縁を <i>Orbitale</i> pointing unit (II)で支える。この状態で上面観,そして円盤を180°回転させて底面観の撮影を行なう。撮影された頭骨は,ポリエチレンコートされた寸法精度の高い印面紙に正確に原寸大に焼き付けられ,これらの画像中から頭蓋の輪郭の座標を,ディジタイザーを利用してオソライソでパーソナルコソピュータに入力した。
著者
片山 一道 豊 増翼 松本 秀雄
出版者
The Anthropological Society of Nippon
雑誌
人類學雜誌 (ISSN:00035505)
巻号頁・発行日
vol.86, no.2, pp.83-94, 1978-04-15 (Released:2008-02-26)
参考文献数
19

三重県鳥羽市の離島地域の隔離集団の1つのモデルとして,神島集団の人口構造と婚姻構造,すなわち集団構造を明らかにするとともに,その集団遺伝学的な解析を試みた。その結果,神島集団の遺伝的構成はrandom genetic driftの強い影響を受けていることが推測された。そして,このことは,第一報で報告された血清学的多型性形質から得られ た,神島集団の遺伝的特性によく反映していることがわかった。
著者
赤堀 英三 須田 昭義
出版者
日本人類学会
雑誌
人類學雜誌 (ISSN:00035505)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.37-41, 1937-02-15 (Released:2008-02-26)
参考文献数
5
著者
鈴木 隆雄
出版者
The Anthropological Society of Nippon
雑誌
人類學雜誌 (ISSN:00035505)
巻号頁・発行日
vol.89, no.1, pp.107-114, 1981 (Released:2008-02-26)
参考文献数
20
被引用文献数
5 6

骨に対して,著しい形態学的あるいは病理学的な変化を及ぼす腫瘍,なかでも悪性腫瘍は,古人骨においてその発見例は非常に少なく,研究もあまり進んではいない。日本においても,古人骨の古病理学的研究の報告は数例があるが,現在までのところ悪性腫瘍に関する報告はまだ一例もなされていない。今回筆者は,江戸時代人頭蓋の古病理学的検索の中で骨髄に原発する悪性腫瘍の一つである多発性骨髄腫(multiple myeloma)と診断される興味ある一例に遭遇したので報告する。この著明な病理学的所見を示す頭蓋は,1955年東京慈恵会医科大学第一解剖学教室の川越逸行博士により,東京都文京区湯島の無縁坂の工事現場から発見され収集された約300個の頭蓋の一つで,"Muen-40"のラベルのあるものである。頭蓋全体に瀕慢性に拡がる約20個の直径約3-8mmの小孔が認められ,辺縁は鋭く,治癒傾向はない。頭蓋x線像では無数の小円透亮像,いわゆる"打ち抜き像punched out lesion"が認められ,辺縁の硬化像等はない。このような肉眼的,X線学的な特徴は,多発性骨髄腫の像によく一致している。鑑別診断としては,骨梅毒症,二次性悪性腫瘍転移等が考えられるが,なかでも悪性腫瘍転移との鑑別は困難な場合が多い。しかし悪性腫瘍転移の場合は病変がより大きく,また限局した病巣をもつことなどが知られている。従って本例の場合は,古病理学的に,熟年男性の多発性骨髄腫であると診断された。
著者
埴原 和郎
出版者
The Anthropological Society of Nippon
雑誌
人類學雜誌 (ISSN:00035505)
巻号頁・発行日
vol.78, no.1, pp.3-17, 1970 (Released:2008-02-26)
参考文献数
33
被引用文献数
6 13

私はさきに,モーコ系人種の乳歯に共通して,他の人種よりとくに多く現われる形質を分析し,これらをまとめて乳歯の類モーコ形質群とよんだ(埴原,1966).同様な形質群は当然,永久歯にも存在すると予想されるが,現在のところ永久歯では,上顎切歯のシャベル型,下顎第1大臼歯の第6咬頭,第7咬頭ならびにprotostylid がこのような形質群の構成要素として考えられる.同時に,上顎第1大臼歯の CARABELLI 結節は乳歯と同様に Caucasoid に多く出現するので,これはコーカソイド形質群とよばれるべきものと考えられる.この論文では,このような形質群を基礎としてアイヌの歯冠形質の特徴を分析した.とくにシャベル型に関しては従来の肉眼的分類の代りに,切歯の舌側面窩の深さを直接計測する方法を試みた.今回対象としたアイヌの歯は少数ではあるが,家系調査の結果,ほとんど純血と考えてよい集団である.一般にアイヌでは,乳歯,永久歯ともに類モーコ形質群の頻度が高く,とくに日本人(和人)に近い特徴を示す.シャベル型の程度はやや弱いが,白人に比較するとかなり強いといえる.一方,白人に多い CARABELLI結節はアイヌには少なく,この点でもアイヌはモーコ系人種に近い.アイヌの歯に関してはさらに資料を追加しているので,今后は和人との混血集団に重点をおき,また資料数を増加して集団遺伝学的分析を行なう予定である.
著者
山口 敏
出版者
The Anthropological Society of Nippon
雑誌
人類學雜誌 (ISSN:00035505)
巻号頁・発行日
vol.92, no.2, pp.105-108, 1984-04-15 (Released:2008-02-26)
参考文献数
11

縄文時代の土偶や土器の人面把手に,上唇裂を表現したと思われるもののあることは,すでによく知られた事実である(野口,1964;大塚,1975)が,縄文時代の人骨に上顎裂の直接の証拠が発見されたのは,ここに報告する例が最初であろうと考えられる。この人骨は,1963年に北海道釧路市緑ケ岡遺跡の縄文晩期の第29号墓壙で,土器片,石斧,石槍等を伴い,大量のべんがらにおおわれた状態で発見された,熟年女性と推定される骨格である。骨の保存状態は良好ではなく,頭骨では左右上顎骨の歯槽部と下顎体しか保存されていない。左上顎骨は前顎骨に相当する部分を欠いているが,歯槽突起の外側面と内側面とが,犬歯歯槽の近心縁から内上後方に走る稜線で直接にあい接しており、この部に上顎裂があったことは疑いない(第1図)。これは,生前においては,上唇裂を伴っていたものと考えられる。口蓋突起が破損しているため,口蓋裂が伴ったかどうかは明らかでない。なお,右上顎骨の歯槽突起には異常は認められない。小臼歯と大臼歯の磨耗は,左右とも著しく進行しており,しかも咬合面が,通常の場合とは反対に,頬側上方から舌側下方に傾斜している。これは上下の歯列の大きさの関係に異常があったために生じたものと推測される。
著者
埴原 和郎 増田 哲男 田中 武史
出版者
The Anthropological Society of Nippon
雑誌
人類學雜誌 (ISSN:00035505)
巻号頁・発行日
vol.83, no.1, pp.107-112, 1975 (Released:2008-02-26)
参考文献数
14
被引用文献数
6 7

切歯のシャベル型についてはHRDLICKA(1920)が最初に記載していらい,とくにモンゴロイドに高い頻度で現われ,人種特徴を示す形質として注目されてきた。この形質に関する遺伝学的研究も多く,強い遺伝子支配をうけていることは多くの研究者が一致する点である。しかしその遺伝様式については,常染色体性単純優性遺伝説,劣性遺伝説,複対立遺伝子説,polygene説などがあり,研究者の意見はまちまちである。従来,多くの研究者はHRDLICKAの分類にしたがって,シャベル型を発達の程度に応じていくつかのカテゴリーにわけ,これを非連続形質であるかのようにとりあつかってきた。しかし実際には,シャベル型の程度は連続的に変化するものであり,量的形質を非連続形質として分析しようとしたところに無理があったものと思われる。私ども(HANIHARA et al.,1970)は,さきにDAHLBERG and MIKKELSEN (1947)が試みたように,切歯舌側面窩の深さを計測したところ,この形質はほとんど完全に正規分布曲線に一致して連続的に変化することを知った。また同時に,肉眼によるシャベル型の分類がこの計測値の大小ときわめてよく一致することから,舌側面窩の深さをもってシャベル型の発達の程度を代表させることが可能であることがたしかめられー。てのような点から,従来非連続形質としてシャベル型を分類し,その資料から遺伝様式を分析しようとした試みは,理論的に無理であったといえる。今回の研究はこのような観点から,上顎中切歯の舌側面窩の深さを資料として遺伝学的分析を試みたものである。したがって研究の中心はシャベル型の遺伝様式よりも,家族内における遺伝率(heritability)の推定におかれた。まず日本人の一般集団におけるこの計測の平均値は,男性•女性ともに約1mmであり(男女合計の平均値は1.00mm),この値はPima Indian の 1.2mmよりは浅いが,米白人の0.42mmならびに米黒人の0.49mmよりははるかに深く,モンゴロイドの特徴をよく現わしている。また日本人双生児での値もほぼ同様である(Table1)。注目すべきことは,一卵性双生児間の相関係数がきわめて高く,二卵性双生児間ではやや低くなるが,なお高度に有意である点である。このことは,従来いわれていたように,シャベル型に対する遺伝子支配がきわめて強いことを示している。家族内の比較のための資料は日本人41家族よりえられたが,親と子との相関は,母•娘の組合せを除いてきわあて高く,遺伝性の強いことを示している。父•息子,母•息子および父•娘の組合せでは,遺伝率はいずれも0.8をこえる。田中克己(1960)によると,日本人集団では智能の遺伝率は約0.5,身長のそれは0.52-0.67であるというが,これらの形質に比較して,シャベル型の遺伝率はきわめて高いといえる。また試みに,両親間の相関係数を計算すると0に近いので,今回推定した遺伝率の信頼性は高いと考えられる。母•娘間の遺伝率が低い理由はよくわからないが,兄弟間に比して異性同胞間ならびに姉妹間の相関係数がやや低いことと関係しているかもしれない。しかしこの形質が性染色体上の遺伝子に連関をもっているかどうかという問題については,さらに資料を加え,詳細に分析する必要がある。