著者
辰巳 圭太
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.56, no.6, pp.554-555, 2020 (Released:2020-06-01)
参考文献数
4

ニュベクオ錠は、極性基を有するピラゾール環など、従来とは異なる特徴的な化学構造を有する非ステロイド性抗アンドロゲン剤である。また、非臨床薬物動態試験ではマウスにおいて脳内への移行性が低いことが示されている。本剤は、ハイリスクの非転移性去勢抵抗性前立腺癌患者を対象とした第Ⅲ相臨床試験において有効性と安全性が示された。我が国では、2020年1月に「遠隔転移を有しない去勢抵抗性前立腺癌」の効能・効果にて承認を取得し、2020年4月に薬価収載された。
著者
髙羽 里佳
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.58, no.10, pp.979, 2022 (Released:2022-10-01)
参考文献数
5

最近の報告から,マジックマッシュルームに含まれる幻覚成分であるシロシビンを治療抵抗性うつ病患者に投与したところ,2回の投与で,投与1週間後に患者の抑うつ症状が減少し,この作用は6か月間持続したことから,シロシビンが即効かつ持続的な抗うつ作用を有することが明らかとなった.その結果は,その後の臨床研究からも支持され,アメリカ食品医薬品局は,シロシビンがうつ病の画期的治療薬に成り得ると報告した.シロシビンをはじめとしたセロトニン作動性の幻覚薬が,うつ病のみならずアルコール依存症,不安障害,心的外傷後ストレス障害などに治療効果を示すとして,徐々に注目されはじめている.しかしながら,これらの薬物は,大脳皮質のセロトニン5-HT2A受容体(5-HT2AR)を刺激することにより,幻覚作用も誘発してしまうことがわかっている ため,治療薬としての応用には課題がある.本稿では,Gタンパク質共役型受容体の結晶構造を活用したリガンド探索により,マウスにおいて幻覚作用を示さずに,抗うつ様作用を示すリガンドの合成に成功したことを報告したCaoらの論文を紹介する.なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.1) Carhart-Harris R. L. et al., Lancet Psychiatry, 3, 619-627(2016).2) U. S. FOOD & DRUG. Breakthrough therapy, 2019年1月4日.3) Michaiel A. M. et al., Cell Rep., 26, 3475-3483(2019).4) Cao D. et al., Science, 375, 403-411(2022).5) Thomas E. A. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A., 94, 14115-14119(1997).
著者
中村 庸輝
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.55, no.11, pp.1077, 2019 (Released:2019-11-01)
参考文献数
5

シグマ-1 受容体(Sig-1R)は,一回膜貫通型受容体であり,主に小胞体膜に発現しているタンパク質である.その細胞内での役割は,他のタンパク質の構造を安定化させるタンパク質(シャペロンタンパク質),またはイノシトール三リン酸(IP3)受容体などのタンパク質と物理的に会合し機能を調節する因子として働く.Sig-1Rは,慢性疼痛,筋萎縮性側索硬化症(ALS),精神疾患,認知機能障害など様々な末梢および中枢神経疾患の病態に深く関わっている可能性が報告されている一方で,その詳細には不明な点が多く残っている.内因性リガンドとしては,神経ステロイドであるプレグネノロン,プロゲステロンや,トリプトファンの代謝産物であるN, N-ジメチルトリプタミンが既に報告されているが,最近,Brailoiuらのグループによって新たなSig-1Rの内因性リガンドとしてコリンが同定されたので,本稿で紹介する.なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.1) Schmidt H. R. et al., Nature, 532, 527-530(2016).2) Hayashi T., Su T. P., Cell, 131, 596-610(2007).3) Su T. P. et al., Science, 240, 219-221(1988).4) Fontanilla D. et al., Science, 323, 934-937(2009).5) Brailoiu E. et al., Cell Reports, 26, 330-337(2019).
著者
鴨志田 剛
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.57, no.11, pp.1052, 2021 (Released:2021-11-01)
参考文献数
4

生命とは何か? 生命の起源はどこか? 地球外に生命は存在するのか? これらの疑問は我々人類が長年持ち続け,未だ答えにたどり着けていない最大級の謎である.生命の起源に関しては,大きく分けて①神様が作ったという考え,②地球上で長い年月をかけて単純な物質が複雑に変化し誕生したという考え,③地球外からやってきたという考えの3つがある.①の考え方も素敵だが,科学的には②や③の説について深く議論されてきた.本稿では人類が生命の起源を探る際に考慮すべき点について最新の知見を基に述べたい.なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.1) Kawaguchi Y. et al., Front. Microbiol., 11, 2050(2020).2) Cortesão M. et al., Front. Microbiol., 12, 601713(2021).3) Sielaff A. C. et al., Microbiome, 7, 50(2019).4) Bijlani S. et al., Front. Microbiol., 12, 639396(2021).
著者
高須 清誠 有地 法人
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.57, no.8, pp.731-735, 2021 (Released:2021-08-01)
参考文献数
24

環内にトランス二重結合や三重結合を含む中員環化合物は、大きな分子ひずみをもち特徴的な反応性を示す。特にある種の官能基をもつ化合物と特異的かつ効率的に反応をするため、生体分子の化学修飾や機能性分子創製におけるクリック反応として利用される。本稿では、分子ひずみを利用した中員環化合物の反応性および、その合成法について、最新の知見を含めて紹介する。
著者
西田 晴行
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.52, no.6, pp.539-543, 2016 (Released:2016-06-01)
参考文献数
25

酸関連疾患に対する治療薬の歴史と振り返ると、より強く、より長く胃内のpHを制御できる薬剤を求めて研究開発が行われてきた。我々は「最強の酸分泌抑制薬」と言われるプロトンポンプ阻害薬(proton pump inhibitor: PPI)の課題を克服する「究極の酸分泌抑制薬」を目指して創薬研究を続け、強い胃酸分泌抑制効果と長い作用持続を有するボノプラザンを見出した。ボノプラザンは、酸に安定で水溶性に優れ、また、PPI(ランソプラゾール)の課題とされた作用発現の遅さ、効果の個人差および食事の影響などの改善が期待できる作用特性を示した。日本発の次世代医薬品として大きな貢献が期待される。
著者
深澤 俊貴 田中 佐智子 川上 浩司
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.58, no.8, pp.777-781, 2022 (Released:2022-08-01)
参考文献数
13

医療データベース(DB)を用いた観察研究の発展には、目を見張るものがある。情報技術革新に支えられた大規模DBの構築と柔軟かつ高度な疫学手法の掛け合わせは、リアルワールドにおける医薬品の使用実態調査、および有効性や安全性の評価をタイムリーに実現させている。本稿では、診療報酬請求情報(レセプト)DB、Diagnosis Procedure Combination(DPC)DB、電子カルテDBを中心に解説するとともに、それらを用いた観察研究を紹介する。
著者
坂崎 文俊
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.259, 2020 (Released:2020-03-01)
参考文献数
3

健康食品市場は拡大の一途である.日本の公的な健康食品制度に機能性表示食品が加わり,機能性表示食品は特定保健用食品に比べて届出のハードルが低いため,実にたくさんの届出が行われている.昭和46年(1971年)厚生省薬務局長通知(通称「ヨンロク通知」)により毒性の強いアルカロイドを健康食品の関与成分にできないこともあり,機能性表示食品の関与成分にはポリフェノール類が多い.ポリフェノール類は,酸化ストレスに対して防御機能を有すると考えられる.酸化ストレスは体の様々な部分で悪影響を及ぼすため,抗酸化物質の利用は多様な健康効果があると期待される.最近,心血管障害および高血圧に対するポリフェノール類の作用について,ヒトを対象とした疫学研究のシステマティック・レビューが報告された.食物摂取頻度調査票とアメリカ合衆国農務省の作成する栄養成分データベースから食品成分の摂取量を計算した前向きコホート研究6報を総合した結果,ポリフェノール類の分類の中でもアントシアニン類の効果が統計的に有意のようである.ここで紹介する論文は,2型糖尿病モデルマウスに,アントシアニンを豊富に含有するタルトチェリーの抽出物を投与した結果,炎症性アディポサイトカインの産生を抑制したとの報告である.なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.1) Del Bo’ C. et al., Nutrients, 11,1355(2019).2) Godos J. et al., Antioxidants, 8,152(2019).3) Nemes A. et al., Nutrients, 11,1966(2019).
著者
牧野 健一
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.54, no.12, pp.1166, 2018 (Released:2018-12-01)
参考文献数
5
被引用文献数
1

「ひらめき」は,突然かつ瞬間的になされる学習であり,心理学においては洞察学習と呼ばれる学習機構である.らに,洞察学習の特徴として,学習の成立に伴った快と驚きの情動反応,すなわち「アハ体験」(Aha! moment)が生じることが知られている.近年では,洞察学習時における脳活動に関して,主にヒトfMRIを用いた研究が行われている.現在までに,洞察学習に付随した前帯状皮質や海馬などの脳領域の活動上昇が報告されている.しかしながら,洞察学習時における脳活動は,特に皮質下領域の活動性に関しては,未だ十分に明らかとなってはいない.本稿では,7Teslaの超高磁場fMRI(7 T fMRI)を用いることで,アハ体験と相関したドパミン神経系の活動を捉えることに成功した知見を紹介する.なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.1) Köhler W., “The mentality of apes”, Routledge & Kegan Paul, London(1925).2) Topolinski S., Reber R., Curr. Dir. Psychol. Sci., 19, 402-405(2010).3) Luo J., Niki K., Hippocampus, 13, 316-323(2003).4) Aziz-Zadeh L. et al., Hum. Brain Mapp., 30, 908-916(2009).5) Tik M. et al., Hum. Brain Mapp., in press.