著者
久保 允人
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.51, no.6, pp.526-530, 2015 (Released:2018-08-26)
参考文献数
18

気管支喘息や花粉症などのⅠ型アレルギーは,B細胞から産生される免疫グロブリンE(immunoglobulin E:IgE)によって引き起こされ,IgEは肥満細胞(マスト細胞)や好塩基球が持つ受容体に結合することで,アレルゲン特異的にアレルギー反応を誘導することが知られている.このIgEの産生は,T細胞から産生される2型サイトカインを必要とすることから,アレルギーはT細胞を必要とする免疫反応と考えられてきた.近年は,T細胞やIgEを介したマスト細胞の反応系が存在しなくてもアレルギーが起こり得ることが知られるようになって,好塩基球や自然リンパ球による免疫反応系の存在が明らかになり,これら自然免疫系の細胞に注目が集まっている(図1).そこで本稿では,好酸球性食道炎と喘息などのアレルギー性炎症を制御する自然免疫系の細胞について紹介する.
著者
荒木 康弘
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.57, no.9, pp.842-846, 2021 (Released:2021-09-01)
参考文献数
10

我が国において承認された新型コロナウイルスワクチン、「コミナティ筋注」(製造販売業者はファイザー)、「COVID-19ワクチンモデルナ筋注」(武田薬品工業)及び「バキスゼブリア筋注」(アストラゼネカ)の使用方法、有効性・安全性について整理し、各剤の理解増進に資する。
著者
伊藤 肇
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.51, no.12, pp.1128-1132, 2015 (Released:2018-08-26)
参考文献数
8

光学活性化合物の合成は,医薬分野で特に重要である.光学活性化合物の分子構造には不斉(キラリティー)があり,鏡面に映ったもの同士のように,一対の鏡像異性体(エナンチオマー)が存在する.キラリティを持つ化合物の2つのエナンチオマーが等量混合したものがラセミ体,片方のみからなるものが純粋な光学活性化合物である.2つのエナンチオマー同士は,その性質の多くが同一である.融点,沸点に加えて,通常のカラムクロマトグラフィーによる分離特性も同じである.また,分子の熱力学的な生成エネルギーが同一であるため,通常の手法で合成した場合には,2つのエナンチオマーの完全な等量混合物,すなわちラセミ体が得られるのが普通である.ラセミ体に含まれる2つのエナンチオマーは,通常の分離条件(蒸留や普通の再結晶,カラムクロマトグラフィーなど)で分離できないため,片方のエナンチオマーのみを入手することは簡単ではない.しかし一方でキラルな構造を持つ化合物が,生体物質(タンパク質や核酸など)に出会った時,2つのエナンチオマーは異なる挙動を示す.これは生体がキラルな構造体から構成されているからであるが,このことはしばしば深刻な問題を引き起こす.例えば有名なサリドマイドのケースでは,サリドマイドのR体は催眠鎮静作用を持つが,そのエナンチオマーであるS体は強力な催奇性を持つ.キラリティを持つ医薬品の場合,どちらか片方のエナンチオマーをうまく合成することがしばしば必要であることは広く認識されている.創薬の現場では,特にコストの問題から,最終的な構造にできるだけキラリティが組み込まれないように工夫するというが,いつも避けられるとは限らない.したがって光学活性化合物を効率よく合成することは,常に必要とされている重要なテーマである.近年では,極めて多くの種類の不斉合成反応について研究が積み重ねられている.本稿では,私達が数年前に出会った,非常に珍しい不斉合成反応「直接エナンチオ収束反応」について述べたい.
著者
尾崎 葵
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.55, no.7, pp.700, 2019 (Released:2019-07-01)
参考文献数
4

ウメ(Prunus mume)の果実は昔から体に良い食材としてアジア諸国で利用されており,有益な生理活性が数多く知られている.例えば,ジャムや梅肉エキスなどに含まれるムメフラールは,梅を加熱した際に糖とクエン酸が反応して生じる物質であり,血小板凝集抑制作用により血流を改善することから,脳梗塞や心筋梗塞など心血管疾患への予防効果が期待されている.また,梅エキスに含まれるオレアノール酸などのトリテルぺノイドが抗酸化作用や抗炎症作用を持つことも報告されている.本稿では,喫煙によるDNA損傷の修復が期待される梅エキスの新規有用物質の単離とその作用機序解析を行ったAndrewらの研究成果について紹介する.なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.1) 忠田吉弘ほか,ヘモレオロジー研究会誌,1, 65-68(1998).2) Kawahara K. et al., Int. J. Mol. Med., 23, 615-620(2009).3) Andrew J. et al., Sci. Rep., 8, 11504(2018).4) Hwang J. et al., Korean J. Food Sci. Technol., 36, 329-332(2004).
著者
田中 敏郎
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.51, no.5, pp.408-413, 2015 (Released:2018-08-26)
参考文献数
23
被引用文献数
1

ヒト化抗interleukin-6(IL-6)受容体抗体トシリズマブ(商品名:アクテムラ)は,我が国初の抗体医薬として,2005年にキャッスルマン病の治療薬として認可され,2008年には関節リウマチ,全身型および多関節型の若年性特発性関節炎に対しても保険収載された.これらの疾患に対するトシリズマブの効果は劇的であり,新たな治療の時代を迎えたと言われる.IL-6は多彩な作用を有し,様々な疾患の発症や進展に関与するサイトカインである.そのためトシリズマブは,上記以外の疾患に対しても画期的な治療薬となる可能性があり,世界中で適応拡大に向けた臨床試験が進められている.また,新たなIL-6阻害剤も開発中にある.本稿では,その可能性について紹介したい.
著者
淨住 大慈 伊川 正人
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.18-23, 2022 (Released:2022-01-01)
参考文献数
20

「受精」という言葉は今日においても私たちに生命の神秘やロマンを感じさせてくれる.しかしそれは,不妊のような私たちの人生に直結する問題も,科学的にはまだ十分な解明に至っていないということの裏返しかもしれない.本稿では,哺乳類の精子がどのようにして受精の能力を獲得し,何が原因となって不妊となるのか,ゲノム編集技術によって近年各段に進展しつつある個体レベルでの研究をベースに,筆者らによる最新の知見も交えながら解説したい.
著者
藤井 拓人
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.355, 2018 (Released:2018-04-01)
参考文献数
4

ヒトは,甘味,苦味,酸味,塩味,うま味の5種類の味を,舌の味蕾に存在する味覚受容体で感じとる.甘味,うま味および苦味の受容体は,Gタンパク質共役型受容体である.興味深いことに,甘味やうま味の受容体(TAS1Rs)はそれぞれ1種類しか同定されていないが,苦味受容体(TAS2Rs)は,少なくとも25種類が見つかっている.これは,ヒトが様々な有害物質に即座に対応するために,苦味を単なる味ではなく,「危険」シグナルとして検知するためと考えられる.近年,味覚受容体が口腔以外の様々な組織において発現し,味覚受容以外の機能を担っていることが報告されている.苦味受容体も,気道,胃,大腸,心臓などで発現が確認されている.胃においては1940年代に,コーヒーや紅茶に含まれる苦味物質であるカフェインを胃内投与することで,胃酸分泌が促進することが報告された.また,苦味物質が胃の内分泌細胞のグレリン産生を促進することも報告されている.しかし,苦味物質による酸分泌調節の詳細な分子メカニズムは不明であった.本稿では,カフェインによる胃酸分泌調節機序を詳細に検討した論文を紹介する.なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.1) Avau B., Depoortere I., Acta Physiol., 216, 407-420(2016).2) Roth J. A., Ivy A. C., Am. J. Physiol., 141, 454-461(1944).3) Janssen S. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 108, 2094-2099(2011).4) Liszt K. I. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 114, E6260-E6269(2017).
著者
前澤 佳代子
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.59, no.7, pp.676_1, 2023 (Released:2023-07-01)

日本では依存性が危惧される成分配合のOTC医薬品が多く販売されており、製造販売承認基準の再検討の必要性等も議論されている。OTC医薬品の乱用問題は以前からずっと続いている。2019年の調査研究でもOTC医薬品の薬物依存は他の依存性物資より高いと報告されており、OTC医薬品の知識に中毒学の観点も踏まえ、薬剤師が地域のなかでより専門的な役割を果たしていくことが望まれる。
著者
中國 正祥
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.142-146, 2022 (Released:2022-02-01)
参考文献数
6

遺伝子治療は難治性疾患の治療法として世界各国で臨床開発が進んでおり,我が国でも脊髄性筋萎縮症に対する遺伝子治療用製品や血液腫瘍に対するキメラ抗原受容体T細胞(CAR-T細胞)療法などが臨床応用されている.遺伝子治療の臨床開発が進む一方で,遺伝子治療特有の安全性評価,法規制の遵守や製品管理など,従来の薬物療法とは異なる対応が医療側に求められており,治療実施には円滑な多職種連携の体制構築が必要となる.本稿では遺伝子治療の概要を示し,当センターの事例をもとに治療実施に向けた医療側の対応について概説する.
著者
寺田 浩人
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.57, no.8, pp.777, 2021 (Released:2021-08-01)
参考文献数
2

2000年に合意された医薬品規制調和国際会議のICH-E11ガイドラインでは,「小児への使用が想定される医薬品については,小児集団における使用経験の情報の集積を図ることが急務であり,成人適応の開発と並行して小児適応の開発を行うことが重要である.」と記述されている.しかしながら,現在流通している医薬品のうち小児に対する用法・用量および安全性が確立されている医薬品は限られている.このことは,小児製剤開発が臨床試験だけではなく,小児に対する添加剤の安全性にも特段の配慮を必要とすることが一因であり,これらを考慮した製剤設計を行うことが課題である.ミニタブレットは,小児製剤で重要な用量調整を錠数で管理でき,用量調整に天秤等が必要な顆粒剤と比較して利便性が高いと考えられる.また,その小ささから通常の錠剤と比較して服用性の面でも有用である.本稿では,Freerksらの安全性に配慮した小児用ミニタブレットの製剤設計に関する研究報告を紹介する.なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.1) 「小児集団における医薬品の臨床試験に関するガイダンスについて」,PMDAホームページ.2) Freerks L. et al., Eur. J. Pharm. Biopharm., 156, 11-19(2020).
著者
藤原 亮一
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.144-145, 2023 (Released:2023-02-01)
参考文献数
2

日本の薬学教育は、特に6年制になってからはアメリカのそれと似たものであると認識していた。しかし、2019年に異動しアメリカの薬学教育に直接携わるようになってからと言うもの、筆者は日米間での薬学教育の違いを目の当たりにする日々が続いている。そこで本コラムでは、アメリカ薬学部にて教鞭をとる立場から、アメリカの薬学教育、日本での薬学教育との違い、またそれぞれの特色について筆者が感じ取ったことをシリーズで伝える。今回はアメリカの薬学教育におけるDiversity, Equity, and Inclusion (DEI) への取り組みについて紹介する。
著者
池田 幸弘
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.256-257, 2017 (Released:2017-03-01)

名鉄名古屋駅から犬山線,犬山駅からは広見線に乗り継いで新可児まで行き,そこからさらに御嵩行ワンマン列車に乗り込み,のどかな田園風景に見とれていると間もなく明智駅に到着した.無人駅のため運転手さんに切符を手渡して下車し,ちょうど駅前に停車しているバスに乗り込んだ.バスはこの先の名鉄八百津線が2001年に廃線となったため,代替として運行されている.ここまで来るとすっかり小旅行の気分になってしまっているが,弾む気持ちをおさえながら元役場前にて下車した.
著者
波多江 崇
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.58, no.8, pp.782-786, 2022 (Released:2022-08-01)

筆者を含め、薬学部や大学院の学生時代に基礎的な実験研究は経験しているものの、ヒトを対象とした研究を経験したことがない者にとって、疫学研究で最も苦労するのが統計であろう。「統計について相談したい」と言えば、「検定方法の選択」を意味することが一般的である。そこで本稿では、筆者が疫学研究に関する投稿論文を査読する際に見かける統計学的仮説検定法の誤用について紹介する。
著者
髙橋 未来
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.53, no.12, pp.1213, 2017 (Released:2017-12-01)
参考文献数
3

実験器具・装置は「お金のかかるもの」である.特に,質量分析装置,核磁気共鳴装置,液体クロマトグラフなど,どれも数百万から数億円と高額となってしまい,維持費も莫大である.つまり,理化学機器を使用する実験とは「お金のかかるもの」と一般的に思われている.そのようななか,お金をかけない装置の開発が注目されてきている.理化学機器のなかで,遠心分離装置は実験室になくてはならないものであり,臨床検査の分野でも多く利用されている.ヘマトクリット値を求めるため全血から血漿を分離すること,病原体や寄生虫がどのくらい含まれているのか診断することのファーストステップとして利用されている.しかし,遠心分離機は値段が高く,電力を必要とする.そのため,電力の安定供給ができない環境(野外,災害時など)では,利用できない.そこで,「電力に頼らず,人力で遠心分離ができないのか?」という課題にたどり着く.最近では,紙で作った遠心分離装置が報告されたことから,遠心分離システムを安価で,簡単かつ電力のいらない技術開発のアプローチ,そしてその応用性を紹介したい.なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.1) Bhalma M. et al., Nature Biomed. Eng., 1, 0009(2017).2) Brown J. et al., Am. J. Trop. Med. Hyg., 85, 327-332(2011).3) Wong A. et al., Lab. Chip, 8, 2032-2037(2008).