著者
樽野 博幸 河村 善也 石田 克 奧村 潔
雑誌
大阪市立自然史博物館研究報告 (ISSN:00786675)
巻号頁・発行日
vol.71, pp.17-142, 2017-03-31

中部日本に位置する熊石洞は,数多くの後期更新世の哺乳類化石を産出している.その中には,ヤベオオツノジカ(Sinomegaceros yabei)とヘラジカ(Alces alces)の2種の大型シカ化石が多量に含まれている.本稿では,体骨の詳細な記載と計測を行い,ヤベオオツノジカとヘラジカの体骨の識別点を初めて明確に示した.またヤベオオツノジカの肢骨を中国産のSinomegaceros 属の種,ならびにアイルランド産のMegaloceros giganteusの骨と比較した.その結果,ヤベオオツノジカは中国産のSinomegacerosよりもはるかに大きく,M. giganteus と同程度の大きさであることを明らかにした.
著者
山ノ内 崇志
出版者
大阪市立自然史博物館
雑誌
大阪市立自然史博物館研究報告 = Bulletin of the Osaka Museum of Natural History (ISSN:00786675)
巻号頁・発行日
vol.76, pp.23-30, 2022-03-31

奄美大島・加計呂麻島において 2018年のセイヨウミズユキノシタの帰化状況を調査した.奄美大島の中部に16集団が認められ,そのうち 2集団は1,000個体を越える大きな集団であった.本種の生育環境は光条件,水分条件ともに非常に幅広く,緑地,グラウンド,路傍,未舗装道路,溝,水路などに陸生,抽水および沈水状態で生育していた.各地で開花・結実と実生個体が確認され,本種は種子繁殖で分布拡大していると考えられた.セイヨウミズユキノシタは生態系被害防止外来種リストの掲載種ではないが,本研究の結果から亜熱帯気候下において侵略的にふるまう可能性が示された.今後の分布拡大を警戒するとともに,奄美諸島における生態系への影響に注意する必要がある.
著者
伊藤 昇
出版者
大阪市立自然史博物館
雑誌
大阪市立自然史博物館研究報告 = Bulletin of the Osaka Museum of Natural History (ISSN:00786675)
巻号頁・発行日
vol.76, pp.1-13, 2022-03-31

台湾のツヤゴモクムシ属(Gen. Trichotichnus)のleptupus species groupのうち,Trichotichnus lulinensisおよび近似2既知種の図示とともに,次の5新種を報告する:Trichotichnus(Trichotichnus)alessmetanai N. Ito, sp. nov. from Mt. Yushan [玉山], T. (T.)fumiakii N. Ito, sp. nov. from Tayulin [大萬領],T(. T.)similaris N. Ito, sp. nov. from Tsuifen [翠峰], T(. T.)lishanensis N. Ito, sp. nov. from Mt. Lishan [梨山],T. (T.)nitidipennis N. Ito, sp. nov. from Sungkang [松崗]. T. alessmetanai は,2021年8月にご逝去された,ハネカクシ研究の世界的権威でいらっしゃったカナダの Dr. Aleš Smetana氏に因む.氏は多くの研究材料を著者の研究のために供与くださった.ご生前の多大なご功績称賛と標本ご供与への深謝の意を表して献名した.
著者
浜田 信夫 佐久間 大輔
出版者
大阪市立自然史博物館
雑誌
大阪市立自然史博物館研究報告 = Bulletin of the Osaka Museum of Natural History (ISSN:00786675)
巻号頁・発行日
vol.72, pp.161-166, 2018-03-31

大阪市立自然史博物館でカビ汚染の状況をモニタリングするため,収蔵庫や展示室などで落 下カビの調査を行い,以前行った寺社の収蔵庫での落下カビの調査の結果と比較した.大阪市立自 然史博物館の落下カビ数は,寺社の場合に比べて,非常に少ないことが明らかになった.寺社の空 調を施していない部屋に比べて1/100以下に,空調のある部屋に比しても1/30以下だった.また,収 蔵庫内部で生育したとみられるカビは見られなかった.その理由として,博物館の収蔵庫は年中温 湿度が20°C,55%に自動制御されていることが原因であると思われる.
著者
横川 昌史
出版者
大阪市立自然史博物館
雑誌
大阪市立自然史博物館研究報告 = Bulletin of the Osaka Museum of Natural History (ISSN:00786675)
巻号頁・発行日
no.75, pp.107-111, 2021-03-31

2020年に入ってから,全世界的に新型コロナウイルス感染症が猛威を振るっている.日本国内 において,新型コロナウイルス感染症拡大防止のために,春の半自然草原の火入れを中止した地域が 多数見られた.感染症が草原の管理に影響を与えた記録は重要だと考えられるため,インターネット 上で見つけられた新型コロナウイルス感染症に関連した火入れの中止について記録した.2020年2月下 旬から5月中旬にかけて,Google や Twitter・Facebook などの SNS で,「火入れ」「野焼き」「山焼き」「ヨ シ焼き」「コロナ」「中止」などのキーワードを任意に組み合わせて検索し,新型コロナウイルス感染 症の影響で中止になった日本国内の火入れを記録した.その結果,14道府県18ヵ所の草原で火入れが 中止になっており,4県4ヵ所の草原で制限付きで火入れが実施されていた.これら,新型コロナウイ ルス感染症による半自然草原の火入れの中止は,草原の生物多様性や翌年以降の安全な火入れに影響 を及ぼす可能性がある.
著者
初宿 成彦
出版者
大阪市立自然史博物館
雑誌
大阪市立自然史博物館研究報告 = Bulletin of the Osaka Museum of Natural History (ISSN:00786675)
巻号頁・発行日
vol.72, pp.19-31, 2018-03-31

日本産トウヒ属6種の樹上には,9種のカサアブラムシにより,13種類の虫えいが形成される.トウヒ属の1樹種に対し,複数のカサアブラムシが虫えいを形成する場合でも,カサアブラムシの同一種が複数のトウヒ属樹種に虫えいを形成する場合でも,相互に虫えいに形態差が生じる.植物の種同定は従来から用いられてきた枝・葉・球果よりも,カサアブラムシ虫えい形態を用いたほうがより容易で,化石で産出した場合にトウヒ属の種同定が期待できる.第2世代成虫が羽化・脱出した後の乾燥した状態の虫えいについて,形態の記載を行い,分布地,宿主種,検索表を示した.
著者
横川 昌史
出版者
大阪市立自然史博物館
雑誌
Bulletin of the Osaka Museum of Natural History (ISSN:00786675)
巻号頁・発行日
vol.69, pp.1-18, 2015-03-31

大分県の国東半島南東部の塩性湿地および砂浜・砂丘の植物群落の現状を把握し,約20年前の植生調査データと比較することを目的として,5つの調査地で,総計50ヵ所の植生調査(調査区サイズ:1 m × 1 m)を行った.得られたデータをNoise clusteringで類型し,主に優占種の違いに基づく14のクラスターが認識され,大きく塩性湿地タイプと砂浜・砂丘タイプに分けられた.塩性湿地においては,すべての調査地で,特有のクラスターが認識された.一方,砂浜・砂丘においては,特定の調査地ですべてのクラスターが認識され,残りの調査地では一部のクラスターしか認識されなかった.過去の植生資料と比較した結果,各調査地レベルでは,一部の植物群落は消失し,一部の植物群落が新たに出現していた.これらの海岸植生の20年間の変化についての現状と過去との比較の情報は,地域の植物相の保全に役立つと考えられる.