著者
林 成多
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.25-35, 2016-04-01 (Released:2017-05-12)
参考文献数
47
被引用文献数
1

日本列島の昆虫相の変遷を解明するため,鮮新世以降の昆虫化石の調査を各地で行った.その結果,鮮新世〜前期更新世には絶滅種と現生種の昆虫が共存していたことが判明した.絶滅種のほとんどは,前期更新世末〜中期更新世初頭には絶滅したと考えられる.特に化石記録の豊富なネクイハムシ亜科(コウチュウ目ハムシ科)について研究を行った結果,現生種の化石記録には,鮮新世〜前期更新世まで遡る「古い現生種」と中期更新世に出現する「新しい現生種」の存在が明らかになった.絶滅種の記録も含め,ネクイハムシ相の変遷を時代ごとに区分した.現在のネクイハムシ相がほぼ完成した時期は中期更新世以降である.また,現生種の化石記録を基に,分子系統樹の時間軸を設定し,分化年代を推定した.
著者
林 成多
出版者
Entomological Society of Japan
雑誌
昆蟲.ニューシリーズ (ISSN:13438794)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.175-178, 2023-09-25 (Released:2023-10-17)
参考文献数
4

The carabid beetles, Lebidia octoguttata Morawitz were raised under laboratory conditions. The adults preyed on spittlebug nymphs and laid eggs in foamy masses of the nymphs. The hatched larvae preyed on the nymphs within foamy masses. They had three larval instars, and the egg-to-adult development took 28–29 d.
著者
林 成多
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.105, no.9, pp.609-624, 1999-09-15 (Released:2008-04-11)
参考文献数
15
被引用文献数
3 2

新潟県三島郡和島村の大武遺跡において, 泥炭質堆積物からなる完新統から8種のネクイハムシ類を含む多様な甲虫化石群集が得られた.ネクイハムシ類について化石群集の産状を7つに区分した層相を基に検討した結果, 種構成と層相には対応関係があることがわかった.さらに, 新潟県を中心に東日本でのネクイハムシ類の現生調査から生息環境をまとめた結果, ネクイハムシ類が示す古環境と層相などから推定される古環境はよく一致し, ネクイハムシ類の化石群を解析することにより詳細な水辺~湿地環境を推定できること明らかにした.ネクイハムシ化石群の解析結果や他の化石, 産出層準の層相から, 大武遺跡の埋没谷は流水の影響下で砂質堆積物がまず堆積し, その後に浮葉植物群落を伴う止水域が出現した.止水域はやがて湿性植物が繁茂する湿地となった.この湿地は層準により止水域を伴う場合や, スゲ類やヨシが優占するなど環境が変化したという, 古環境変遷が推定される.
著者
林 成多
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.305-312, 1996-10-31
参考文献数
19
被引用文献数
3 5

前橋台地に広く分布する前橋泥炭層(約14,000~13,000年前)からは,おもにネクイハムシ類やゲンゴロウ類などの湿地性の甲虫類の化石が産出する.産出した昆虫化石について検討した結果,北方系のゲンゴロウ類であるクロヒメゲンゴロウ属<i>Ilybius</i>の一種が得られた.本標本は,クロヒメゲンゴロウ属では1種のみ本州に分布するキベリクロヒメゲンゴロウ<i>I.apicalis</i>とは形態が異なるため,北海道を中心に分布するクロヒメゲンゴロウ属(3種)と,形態が類似しているマメゲンゴロウ属の大型種(1種)との比較を行った結果,ヨツボシクロヒメゲンゴロウ<i>I.weymarni</i>であることが明らかになった.さらに,ヨツボシクロヒメゲンゴロウは,最終氷期の寒冷気候を示す気候推定の指標性昆虫であることを示し,生息していた古環境について考察した.
著者
山内 健生 渡辺 護 林 成多
出版者
一般社団法人 日本昆虫学会
雑誌
昆蟲.ニューシリーズ (ISSN:13438794)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.24-30, 2013-01-05 (Released:2018-09-21)

島根県産アブ類について,野外調査と標本調査を実施し,20種を記録した.島根県におけるジャーシーアブの記録は,誤同定に基づいている可能性が非常に高いため,島根県のアブ科の種リストから本種を削除することを提案した.タイワンシロフアブ,マツザワアブ,アカバゴマフアブ,トヤマゴマフアブは島根県本土新記録となる.アカウシアブ,シロフアブ,ハタケヤマアブは隠岐諸島新記録となる.既知の記録と新記録を合計すると,28同定種が島根県に分布していることが明らかとなった.
著者
杉浦 真治 阪上 洸多 林 成多
出版者
THE LEPIDOPTEROLOGICAL SOCIETY OF JAPAN
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.13-16, 2019-04-30 (Released:2019-05-17)
参考文献数
15

スカシバ類成虫の形態や色彩,行動はスズメバチ類やアシナガバチ類,ドロバチ類に擬態していると考えられている.スカシバ類成虫は昼行性だが,他の昼行性の鱗翅類(チョウ類)と比べて訪花記録は少ない.隠岐諸島中ノ島と西ノ島において,2018年7月の梅雨明け直後にスカシバガ科3種の訪花行動を観察した.中ノ島の集落で植栽されたトウネズミモチでクビアカスカシバ雄とモモブトスカシバ雌の訪花を,西ノ島の放牧地に自生するハリギリでクビアカスカシバ雌とキオビコスカシバ雄の訪花を観察した.同時に,擬態のモデルと考えられているスズメバチ類やドロバチ類なども盛んに訪花しているのが観察された.モモブトスカシバはこれまでも多様な植物種で訪花が記録されてきたが,クビアカスカシバとキオビコスカシバについては著者らが知る限り初めての訪花記録となる.また,隠岐諸島からはこれまでモモブトスカシバを含むスカシバガ科6種が記録されているが,クビアカスカシバとキオビコスカシバは隠岐諸島から初めての記録となる.
著者
林 成多
出版者
The Association for the Geological Collaboration in Japan
雑誌
地球科学 (ISSN:03666611)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.38-52, 1999-01-25 (Released:2017-07-14)

埼玉県南西部の加治丘陵および入間川流域に分布する鮮新-更新統の上総層群から産出したネタイハムシの化石について再検討を行った.その結果,仏子層(前期更新世)からはオオミズクサハムシPlateumaris constricticollis,ブシミズクサハムシPlateumaris dorsata,フトネクイハムシ近似種Donacia cf. clavareaui,フトネクイハムシ亜属の1種Donacia(Donaciomima)sp.,コウホネネクイハムシ近似種Donacia(Donacia)cf. ozensis,イネネクイハムシ亜属の1種Donacia(Cyphogaster)sp.の6種を確認した.また,仏子層の下位層である飯能礫下部層(後期鮮新世)からもオオミズクサハムシとフトネクイハムシ近似種が産出した.仏子層および飯能礫層から産出したネクイハムシの化石には,後期鮮新世から前期更新世のネクイハムシ相には現生種と絶滅種の両方が含まれていることを示している.さらに,関東地方の各地から報告された中期更新世と後期更新世のネクイハムシの化石には現生種のみが含まれており,より古い時代の後期鮮新世から前期更新世のネクイハムシ相とは種構成が異なっている.絶滅種とされるブシミズクサハムシは仏子層から記載されたミズクサハムシ属の1種である.原記載以降,本種の系統関係を推定する上で重要ないくつかの形質が観察された.本種は近縁種のヒラシマミズクサハムシPlateumaris weiseiとの共通祖先から前期更新世以前に旧北区東部で分化し,北米に分布する姉妹種のP. germariは本種から派生した種であることが,これら3種の新たに得られた系統関係,化石記録,地理的分布から推定される.
著者
林 成多
出版者
The Association for the Geological Collaboration in Japan
雑誌
地球科学 (ISSN:03666611)
巻号頁・発行日
vol.51, no.5, pp.361-370, 1997-09-25 (Released:2017-07-11)

埼玉県入間市野田の入間川河床において,仏子層のA部層より多くのネクイハムシ亜科の化石が得られた.これらの化石を検討した結果,ほとんどの化石はミズクサハムシ属の1種に同定された.この種は,前胸背板の表面を網目状の微細彫刻が覆い,不明瞭な中央縦溝を持つなどの特徴により,ミズクサハムシ属の現生種とは区別され,絶滅した未記載種である.本論では,仏子層A部層産のミズクサハムシ属の1種を新種Plateumaris dorsata, sp. nov.ブシミズクサハムシ(新称)として記載し,本種のミズクサハムシ属における分類学的な位置づけについて考察した.