著者
劉 浩
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.207-215, 2010 (Released:2016-04-15)
参考文献数
13

生物は,ナノサイズの分子やタンパク質から,サブミクロンレベルの細胞やバクテリア,ミリサイズの昆虫や魚類,そしてメータサイズのイルカやクジラまで,11 桁にも亘る広大なスケール間に多様な形態,複雑な運動・機能が常にまわりの環境に適応し淘汰・進化する.生物の運動は,各スケールにおいて船や飛行機の人工物のような‘直線的推進’ではなく,横の運動,いわゆる波動によるものが殆どであり,これらの最適化された運動機構が非定常性と波動性の調和によるものと考えられる.本稿では,著者がこの生物流動波というコンセプトを導入し,新しい視点に立って,遊泳・飛翔生物の運動における非定常性と波動性を考察し,生物運動メカニズムに対して統一的に取り扱う考え方について述べる.
著者
寺田 佳代
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.141-146, 2018 (Released:2019-08-01)
参考文献数
20

馬術には,馬と騎手の2 つのそれぞれの個体の中で,情報の受け取り,解釈,アウトプットのループが存在する.また,騎手は馬上にいるため,そして馬は騎手が騎乗しているためその存在自体も常時相互に影響をしている.そのような中,人馬が一体となって演技をするには人馬間のコミュニケーションが鍵となる.人馬のコミュニケーションには様々な方法があるが,本稿では主に鞍を介して行う騎座のコミュニケーションと,手綱を介して行う拳のコミュニケーションに焦点を当てて解説する.鞍の座位部は厚みを有するが,本稿ではそのような形状の鞍の上で騎手の意思が馬に伝わるのかを含めた馬の研究を幾つか紹介する.
著者
齋藤 早紀子 小林 吉之 河内 まき子
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.228, 2023 (Released:2023-11-23)
参考文献数
23

若年女性の歩容から受ける美的印象に対する観察者の性別の影響を調べた.はじめに,歩行動作の印象を具体的なイメージとして喚起するような評価用語を検討した.重回帰分析の結果,色っぽい,スムーズである,バランスが悪い,が選定された.20 の歩行動作に女性のデジタルマネキンをあてはめた動画を作成し,各用語がどの程度当てはまるかを5 件法で回答させた.その結果,同じ歩容から受ける色っぽいという印象は,男性観察者群の方が女性観察者群よりも有意に高い評価得点を示し,スムーズである,バランスが悪いには有意差がなかった.さらに,色っぽいという用語のみ,男性観察者と女性観察者の評価得点間に有意な相関が見られなかったことから,男性観察者と女性観察者では色っぽいと感じる女性の歩容が異なるものといえる.そこで,提示画像に用いた1 歩分の関節角度を主成分分析によって分析し,動作特徴を抽出し,「色っぽい」という語の評価得点との関連を調べた.「色っぽい」という語の評価得点は,男性観察者では第5 主成分得点との間に有意な負の,女性観察者では第3 および第5 主成分得点との間に有意な負の相関がみられ,男性観察者と女性観察者では,色っぽいという印象をうける女性の歩行特徴が異なっていた.また色っぽいという印象をうける女性の歩容は,先行研究とは異なり,必ずしも歩行者の腰部の動きが大きいこととは関係していなかった.
著者
稲垣 宏樹 権藤 恭之
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.18-22, 2003 (Released:2004-02-27)
参考文献数
20
被引用文献数
2

著者らが行った東京百寿者研究の結果を中心に, 百寿者の認知及び身体機能の状態と機能維持のための要因を検討した. 多くの百寿者では全般的な認知機能の低下が示され, 従来加齢の影響を受けにくいとされる結晶性知能についても低下が認められた. 身体機能も全般的に低下しており, 特に移動能力において低下が顕著であった. また, 百寿者の特徴として, 認知機能が身体機能の状態と強く関連していた. これらの機能的側面の低下は, 生理的な加齢に強く影響されており, 免れ得ないものである. 超高齢期のサクセスフル·エイジング達成には, 低下した機能を補完する方向での多方面からの積極的介入が重要であると考えられる.

1 0 0 0 OA 園芸療法

著者
田崎 史江
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.59-65, 2006 (Released:2008-01-18)
参考文献数
12
被引用文献数
5 2

私たちは植物のある環境に身を置くことで癒されたり喜びを感じる.都市の中の緑のオアシスである公園やオフィスや病院の中インテリアプランツが,ストレスにさらされている人間を癒すことは科学的に証明されてきている.また,植物の生長に積極的な活動で関わることで心身ともに健康な状態を維持することもできる.長年農業にたずさわっている高齢者や定年後に農業をはじめる高齢者が健康的な生活を楽しんでいる様子がよく見られる.人間は植物の恩恵を受け,生命を維持していることを経験的に知っているのである.園芸療法は植物を育て,使う活動を通して心身機能を良い状態に導いていく手法で,昔から作業療法の作業種目の1つとして用いられてきた.園芸活動は体を動かす健康的運動であるだけでなく,人の五感を刺激し,これにより楽しさや喜び,驚きを感じ,それは心を良い状態に保ち続けることになる.さらに,グループで作業することは会話を楽しみ,帰属感も責任感も養い,社会性を保つことにもつながっていく.高齢社会の現在,介護予防,認知症予防の方向からも園芸療法が取り組まれてきている.
著者
山内 繁
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.205-210, 2019 (Released:2020-08-01)
参考文献数
24
被引用文献数
2 2
著者
河合 隆史
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.11-16, 2019 (Released:2020-02-01)
参考文献数
7

本稿では,VR 空間におけるクロスモダリティの活用について,筆者らの取り組みを中心に紹介する.具体的に,VR空間におけるラバーハンド錯覚の追試をはじめ,クロスモダリティによる身体イメージの操作を意図したシステム設計へのアプローチについて述べる.さらに,VR 空間におけるクロスモダリティの活用にかかる,期待や課題について述べる.
著者
菊池 泰弘
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.61-66, 2020 (Released:2021-10-28)
参考文献数
40

霊長類は哺乳類の中でも多種多様の移動運動様式を持つことから,近縁種間でさえも筋骨格形態が異なるものがあり,機能形態学的な解釈をするうえで欠かせない研究対象と考えられる.骨格は移動の際に運動を支え,軸となる一方,筋は骨格 同士を結びつけ,骨間距離を変化させることで体肢や体幹における様々な動きの原動力となっている.移動運動様式が異なれば,その動きにそれぞれ適応した骨形態を有することが想定され,それに伴い筋形態も連動して違う様相を呈していると想像するに難くない.本稿では樹上性霊長類の筋骨格形態に焦点を当て,移動運動様式に関連した形態の違いを紹介する.
著者
佐々木 亮
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.183-188, 2017 (Released:2018-11-01)
参考文献数
45

ヒトが空間内を自由に動きまわり,同時に動く物体を知覚し,判断するとき,脳は実に複雑な計算処理にさらされることになる.網膜から入力される視覚情報に基づく脳神経細胞の活動を,いかにして知覚,判断へと結び付けているのだろうか.本稿では,物体の動きに関する座標表現について取り上げ,視覚-前庭情報統合の神経基盤について,覚醒行動下のサルの空間物体運動知覚を対象とした,心理行動,神経生理及び計算論的アプローチから得られた総括的な知見を基に解説する.
著者
池井 寧
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.17-22, 2019 (Released:2020-02-01)
参考文献数
1
被引用文献数
2 2

過去の体験をバーチャルリアリティ技術によって伝えるための手法について述べる.従来の追体験は多くの場合,身体を使わないメディアで体験を伝えるものであったが,バーチャルリアリティ技術を応用することより,一人称の知覚体験で過去の体験を再現し,身体感覚にも伝えられるようになる可能性がある.本稿では,身体的な追体験の考え方を述べ,実装方法の1つを示す.身体的追体験は,体験学習,身体技能の伝承,身体運用に制約のある人のQOL などに貢献できる可能性がある.
著者
村澤 智啓 小林 吉之 小関 道彦
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.46, no.3, pp.176-184, 2022 (Released:2023-03-03)
参考文献数
29

ランニング中の大きな leg stiffnessは優れた長距離走パフォーマンスに関連づけられるが,大きな leg stiffnessに関連づけられる運動学的特徴は十分明らかにされていない.そこで本研究では, 14名の優れた長距離ランナーを含む 28名の実験参加者の,ランニングにおける運動学的変数に対し主成分分析を行い,優れた長距離ランナーの運動学的特徴を記述する主成分と leg stiffnessの間の関係を調べた.その結果,第 1主成分のみが優れた長距離ランナー群で有意に大きく( p ‹ 0.01),かつ leg stiffnessと有意に相関する( r = 0.77, p ‹ 0.01)ことが明らかになった.この主成分は,立脚期における,小さな骨盤下降変位や小さい膝関節の屈曲運動範囲など,大きな leg stiffnessに関係する HRの運動学的特徴を記述していた.
著者
太田 航 吉村 崇
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.251-257, 2011 (Released:2016-04-15)
参考文献数
21

四季の存在する地域に棲む動物は,季節の変化に応じて行動や生理機能を変えることで環境の変化に適応している.このとき動物たちは日照時間(光周期)を季節の指標としているため,このような性質は光周性と呼ばれる.ウズラやマウスを用いた最近の研究により,脊椎動物における光周性の制御機構が徐々に明らかとなりつつある.本稿では光周性研究の歴史から,我々の研究によって明らかとなった動物が「春」を感じるしくみ,及び光周性制御に重要な光情報を感知している「脳深部光受容器」の発見までを概説し,光情報をもとに引き起こされる動物の巧みな生存戦略を紹介する.
著者
佐々木 玲子
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.73-78, 2012 (Released:2016-04-15)
参考文献数
18
被引用文献数
5 4

我々は自身や他者の動きに伴って何らかの時間,空間的なリズムを感じ取ることができる.発達的にみると,自発的に内 在するリズムやテンポの発現は乳児の段階でも見られ,それが発話やのちの身体運動とも深くかかわっていることが推察される.また成長に伴い,外界からのリズムを読み取り自身の動きを適切に調節していくことも可能となり特に自己の抑制的な調節にその発達をみることができる.神経系機能の発達が著しい乳幼児から児童期にかけては,様々な動きを獲得しさらにそのスキルを高めていく可能性を持っている.動きの発達には,知覚,認知などの機能および環境が相乗的に作用し,そこに時間調整的要素をもつリズムは非常に関わりの深いものとなっている.
著者
小池 耕彦
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.179-187, 2019 (Released:2020-08-01)
参考文献数
51

ハイパースキャニングとは,コミュニケーション中の二者から同時に脳活動を計測し,二者間での脳活動相関といった 形でコミュニケーションを特徴づける脳活動のハイパーパラメータを計算することで,コミュニケーションの神経基盤を描出 することを目指す研究手法である.この研究手法は時折,非科学的であるとか意義を感じられないという反応に出くわす.本 研究では,筆者の過去の研究経験をもとに,ハイパースキャニング研究をおこなう意義,脳活動の二者間相関が発生する機序, さらには実験計画を立てる際の注意点などを紹介する.またこれまでに行われた幾つかのハイパースキャニング研究を紹介す るとともに,今後,さらなる検討が求められる点を議論する.
著者
小宮山 伴与志
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.66-72, 2012 (Released:2016-04-15)
参考文献数
28

ヒトにおける四肢によるリズミックな運動は多種多様であるが,最も基本的であり,生活を支える重要な基盤となる移動行動は歩行運動であろう.歩行運動は,大脳からの運動指令を受けて大脳基底核,小脳,脳幹,脊髄など様々な運動中枢が協調的に働くことにより実行される.特に,四足歩行動物では,上位運動中枢と末梢感覚入力なしに四肢の屈筋- 伸筋の活動交代を再現可能な中枢パターン発振器(central pattern generator, CPG) が存在することが確かめられている.また,CPG は,屈筋- 伸筋感のリズミックな活動交代を再現するだけではなく,歩行運動の円滑な遂行に必要な様々な反射の利得調整を行っている.ヒトにおけるCPG の存在とその機能的意義を証明することは実験的に困難であるが,現在まで様々な間接的な証拠が提出されている.本稿では,歩行運動,リハビリテーション,四肢の協調運動の基盤としてのCPG の神経機構ついて概観する.