著者
正村 俊之
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.43-47, 2009-07-19 (Released:2013-12-27)
参考文献数
1

社会学的研究には,数理的研究/非数理的研究,理論研究/実証研究/学説研究といったさまざまな種類の研究が含まれている.本稿では,第1に,共時的・静態的な観点および通時的・動態的な観点からそれらの研究の相互関係を説明し,社会学的研究に関する全体的な見取り図を提示する.第2に,その全体的な見取り図のなかに三つの報告(三隅報告,木村報告,渡邊報告)を位置づけて本シンポジウムの意義を探る.
著者
寺田 征也
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.53-62, 2009-07-19 (Released:2013-12-27)
参考文献数
24
被引用文献数
1

本論文は,G.H. ミードにおける「思考(thinking)」の議論を取り上げ,「思考」概念の内実を検討する.これまでのミード研究において,「思考」とは相互行為過程における他者の身ぶりや態度を内面化した結果としてあらわれる,内的会話であるとされていた.しかし,本論文での検討の結果,「思考」とは内的会話であると同時に,内的会話を通じて考えられた事柄を表明する局面をも,ミードは視野に入れているということが明らかとなった. ミードによれば,内的会話で考えた事柄の表明は,個々人の「思想(thought)」の表明に他ならない.そしてこの「思想」は,言語や身ぶりという形態に限られない.例えば芸術家の作り上げた作品も,その芸術家の持つ「思想」の表明なのである.つまり,作品とはまさに作り手による「思想」の表現であり,ミードによれば,こうした「思想」の表現としての作品は誰しもが作ることができるのであった.その意味で,人間社会とは,「思想」の表明としての作品を通じて互いの「思想」を交換し合う世界なのである.
著者
徳川 直人
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.39, pp.1-4, 2010-07-16 (Released:2014-02-07)
参考文献数
6
著者
岡部 健
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.39, pp.5-14, 2010-07-16 (Released:2014-02-07)
参考文献数
10
被引用文献数
3

爽秋会岡部医院は1997年の開院以来,WHOの提唱する緩和ケアの理念を達成するべくチームケアのモデル開発を行なってきた.患者・家族の希望を満たしつつ,QOLサポートを進めるなかで,医療・介護・スピリチュアリティ等を支える多職種の専門職集団(医師,看護師,薬剤師,ソーシャル・ワーカー,介護士,作業療法士,鍼灸師,チャプレン・臨床心理士)を形成するに至っている.このチームで現在年間約300名のがん患者を自宅で看取っており,在宅における看取り率も8割を超えている. 本稿では,在宅緩和ケア医としてのこれまでの私の経験をもとに,爽秋会で行ってきたモデル形成を紹介し,そのうえで,現在,在宅緩和ケアが直面している課題を提示することにしたい.結論としては,看取りの問題は医療の再構築だけでは解決することが困難であり,社会システム全般の再構築を必要としており,そのためには社会科学的な観点からの分析が必要不可欠であることを示す.
著者
相澤 出
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.39, pp.15-25, 2010-07-16 (Released:2014-02-07)
参考文献数
9
被引用文献数
1

病院での死亡率が世界的に見ても大変高い日本にあって,在宅ホスピスケアという選択肢は患者・家族にとって目新しいものである.そのため,選択の是非をめぐって患者・家族は問い直しを続ける.特にその問い直しが生じるのは,病状や家族をめぐる状況の変化が生じた時である.この時,自宅でのケアを継続するか中断するかをめぐる意思決定がなされる.この意思決定は患者,家族の意向だけでなく,様々な他者(患者と家族にとって重要な他者としてのきょうだい,親族,さらには友人知人)の意見にも左右される.加えて,決定の方針も不動のものではなく,状況の変化にあわせて動揺し続ける場合も多い.本稿では,社会学ではほとんど研究がされていない在宅ホスピスケアの現場について事例に即しながら紹介し,患者と家族が在宅での療養生活を選択するプロセス,迷い,決定について,現場では実際にどのような事態が生じているのかを記述する.
著者
佐々木 久美子
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.37, pp.105-116, 2008-07-17 (Released:2013-12-27)
参考文献数
38
被引用文献数
1

岩手県は広大で山地が多く,高度経済成長期以前の県民の所得水準が低く,農村地域では特にその環境は劣悪なもので都市部との地域間格差があった.このような状況の中,高度経済成長期前の岩手の保健活動は乳児死亡率を低下させることが第一の課題であり,それを実現させるために自治体を初め医療関係者が地道な努力を行った. 本稿では,地域住民に直接かかわる保健師の活動を焦点として戦後から高度経済成長期までの岩手県内の乳児死亡率の変化と町村保健師の配置状況との関連を分析し,地域における保健師の活用が地域保健を充実させた要因の一つであることを検証した.その結果,保健師の採用時期が早い町村ほど,また,一人あたりの担当人口が少ない町村ほど乳児死亡率の低減が早いことが明らかになり,岩手の地域保健医療における保健師の貢献の可能性を実証した.
著者
渡邊 勉
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.17-30, 2009-07-19 (Released:2013-12-27)
参考文献数
37

本稿は,社会学的研究における理論と実証の関係について,景観問題というテーマを通じて,検討することを目的としている.まず景観問題に関する人々の意識を調査データから明らかにした.その上で社会的ジレンマの枠組では,うまく分析できず,権利の問題として捉えるべきであることを示す.そして権利の観点から意識調査の結果を分析し,景観をめぐる課題として,権利の所在が人々の間で共通了解されていないこと,権利の対立に対して人々がどの権利を優先すべきであるかの共通了解がないことが示された. 以上の分析を通じて,社会現象を分析する際,理論は現象を説明するための道具ではなく,現象を理解するための枠組を提供する道具として有効であることが明らかとなった.つまり,理論は単に説明するだけではなく,現象を理解,定義するためにも重要な役割を担っているのである.
著者
坪郷 實
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.37, pp.5-16, 2008-07-17 (Released:2013-12-27)
参考文献数
23

本稿では,参加ガヴァナンスの視点から,「国民国家を超えるガヴァナンス」について議論をした.参加ガヴァナンスは,「多様な主体による問題解決のための機会を創出する」ものであり,「参加と討議による合意形成」を重視する新たな民主主義の展開である.グローバル・ガヴァナンスは,国際レジームをはじめとする政府間による政策調整システムと,ガヴァナンスの法化と社会化を基礎とする国家横断的な制度やネットワークによる政策調整システムからなる複合的政策調整システムであり,非階層的政策調整を基本とする.他方,「ヨーロッパ・ガヴァナンス」は,超国家機関による階層的政策調整システムと政府間・国家横断的ネットワークによる非階層的政策調整システムの組み合わせによる重層的ガヴァナンスである.EUにおける政策調整は,ヨーロッパ域外を含む国際組織における調整とリンクしており,「拡大された重層的システム」である.さらに,ベァツェルが述べているように,EUに「独特な」超国家機関による「階層的制御の影」が,ヨーロッパ・ガヴァナンスの特徴でもある.重層的ガヴァナンスにおいては,とりわけ民主主義の正統性問題がある.この問題は,「ガヴァナンスがよい政治結果を導いたか」,「政策づくりのプロセスへの多様なアクターの参加拡大」ともかかわるが,実践的には困難が伴う課題である.さらに,重層的ガヴァナンスにおいては,多様なアクター間のコミュニケーションと相互学習プロセスが重視されている.ヨーロッパ・ガヴァナンスは,グローバル・ガヴァナンスの一構成要素であり,その形成プロセスの可能性を示唆するものである.
著者
吉原 直樹
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.37, pp.17-30, 2008-07-17 (Released:2013-12-27)
参考文献数
38
被引用文献数
1

近年,新自由主義的なグローバル化の進展とともに,ローカルの次元でいわゆる「閉じられたコミュニティ」への希求が広がっている.本稿ではそうした「閉じられたコミュニティ」に回収されていかない「開かれた都市空間」の可能性を,ジンメル,ジェイコブス,ダール等の都市空間への視座を受け継ぎながら,複数の主体の間で繰り広げられる調整パターンとしてのローカル・ガバナンスの存在形態に即して論じる.併せて,ヘルドのいう社会民主的なグローバル化への道をさぐることにする.
著者
植田 和弘
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.37, pp.31-41, 2008-07-17 (Released:2013-12-27)
参考文献数
13
被引用文献数
1

失敗する環境政策の欠陥を克服し,持続可能な発展を実現する環境政策への進化が求められている。そのためには,現代環境問題の新しい特徴と相互依存関係をふまえた重層的環境ガバナンスの構築が課題になっている.環境ガバナンスは環境政策の形成過程における環境NGOなど非政府セクターの役割が認知されてから注目されてきたが,重層性の重要性が認識されるようになったのは,EU出現以降のことである.グローバルな経済活動がグローバル・リージョナル・ローカルな環境問題の基本原因をなしている.個々の地域環境問題は世界経済のグローバリゼーションに起因するがゆえに相互に関連を持つものであるが,同時に地域固有の条件の下で現れるので均質な現象にはならない.このことは,現代において持続可能な発展の実現を阻む構造の存在を示しており,このメカニズムを解明し克服することが求められる.問われるべきは,環境ガバナンスすなわち環境問題に対するどのような政策・制度的対応と民主主義的プロセスが,持続可能な発展を現実化しえるのか,である.グローバル,リージョナル,ナショナル,ローカルといった重層性を伴い,各層間が相互作用を伴って動態化している重層的環境ガバナンスの構造と機能を明らかにし,そこへの移行戦略を構築していかなければならない.
著者
安達 智史
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.105-125, 2007-07-20 (Released:2013-10-23)
参考文献数
11

本稿は,デュルケムの『社会分業論』をナショナリズム論の視角から検討することにより,ネイションという観念を近代社会における連帯の条件として提示することを目的とする.『社会分業論』は,「人格崇拝」および「中間集団論」を論じた著作として,今日なお高く評価されている.人格崇拝の規範は,組織的社会において復元的法律に宿り,社会の機能連関つまり分業を担保する.だが,人格崇拝はいかにして可能なのだろうか.法律は制裁的機能を弱められているのだから,人格に向けられた集合意識は沸騰しない.崇拝には,具体的な表象が必要とされる.本稿では,その表象として,「ネイション」という観念に注目する.そして,集合表象としてのネイションと中間集団による集合意識との結びつきが,深い多様性をもった諸個人の連帯を可能にさせる「道徳的個人主義」を形成することを明らかにする.
著者
山口 健一
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.149-169, 2007-07-20 (Released:2013-10-23)
参考文献数
11

本稿はA.ストラウスの相互行為論における,パーソナルな行為者が有するアイデンティティの変容と持続性について検討する. 諸状況においてパーソナルな行為者が意図的であれ非意図的であれ集団の成員として行為する(名づける)とき,その行為者はその行為が示す集合的アイデンティティを有する.パーソナルな行為者は状況的にも時間的にも複数の集合的アイデンティティを有し,それらは時間の経過とともに変容する.またパーソナルな行為者の経歴は,同一化・脱同一化していく地位移行であり,常に新たな集合的アイデンティティを獲得するプロセスである.これがパーソナルな行為者が有する集合的アイデンティティの変容である. パーソナルな行為者による再帰的行為としてのパーソナルなアイデンティティは,過去から未来にわたる経歴における複数の集合的アイデンティティを秩序化したものである.これは再帰的行為の時点においてその行為者が属す集団の用語法によって行われる.しかし再帰的行為の都度パーソナルなアイデンティティの正当性が問われるため,パーソナルなアイデンティティを持続させる営みは継続していく.これがパーソナルな行為者が有するパーソナルなアイデンティティの持続性である.
著者
林 雄亮
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.189-209, 2007-07-20 (Released:2013-10-23)
参考文献数
24

本稿の目的は,人々の格差に対する意識の実態を調査分析によって明らかにすることである.用いるデータセットは「2006年格差と不平等に関する仙台市民意識調査」である. 本調査研究で扱った社会格差は,大学進学機会,就職機会,職業上の成功機会,所得,資産,医療サービス受給機会,年金の格差である.これらの格差に対する意識は格差認知(どのくらいの格差があると認知されているか)と格差許容度(認知された格差が許容できるかどうか)に区別される.それぞれの分布は格差の種類によって異なり,全体的には機会の格差は小さく,結果の格差は大きく認知され,福祉の格差についての許容度が低く,所得や資産の格差についての許容度が高いことがわかる.そしてこれらの格差意識は,因子分析の結果,従来の伝統的な階層意識とは別の次元に存在している.さらに,格差意識と社会的属性との関連では,比較的低地位者の格差認知が高く,格差許容度が低い.しかしながら,多変量解析の結果,社会的属性の影響は決して強くはない.
著者
加藤 英一
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.211-231, 2007-07-20 (Released:2013-10-23)
参考文献数
18
被引用文献数
2

有害事象によって被害を被った患者及びその家族は,主に「事実の解明」,「医療従事者による謝罪」,「事故を今後の教訓にして欲しい」という3つの要求を訴えて裁判を起こすことが,既存の研究によって明らかにされている.本稿では,有害事象を経ることによって,如何にしてこれら3つの要求が生じることになったのかを「信頼」の崩壊過程を通じて明らかにした.