著者
田中 茜
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.50, pp.69-80, 2021-09-30 (Released:2023-02-24)
参考文献数
24

1990年代後半以降,女性の労働市場への参入が進んでいる一方で,男性の家事育児分担は低水準のままである.このように伝統的な性別役割が残存し夫婦間での分担が十分に行われていない状況下では,個人の働き方は本人だけでなく配偶者の働き方や家事分担などの影響を受けると想定される.本研究では男女間の不平等状態のメカニズムを解明するために,出産前後における夫婦それぞれの就業行動の変化とそれに対する配偶者の影響を検討する.とくに夫婦間の相互影響が既存の子ども数によって違いが見られるか否かを確認するために,第1子出産群と第2子以上出産群の2群に分けて検討を行った. 「働き方とライフスタイルの変化に関する全国調査」(JLPS)のパネルデータを使用し,夫婦の出産前後の労働時間が相互に影響し合うことを想定した分析を行った.結果は第2子以上出産群においてのみ,出産1年前の夫の労働時間が出産1年後の妻の労働時間に対して負の影響を持つことが示された.その一方で,出産1年後の夫の労働時間に対する妻の影響は確認されなかった.この結果は夫婦間の役割分担がジェンダー伝統主義であることを表しており,男性の働き方改革が必要であることを示唆している.
著者
池田 岳大 濱本 真一
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.48, pp.139-149, 2019-08-30 (Released:2021-02-26)
参考文献数
19

本研究では,無業リスクに関する高校学歴格差とその趨勢について検討する.先行研究では,高い職業的地位への到達可能性において職業科トラックは普通科トラックよりも下位に位置付けられる一方で,職業科トラックが無業リスクを軽減するセーフティネットとしての機能を果たす可能性も指摘されている.この機能は,人的資本論的な教育効果として説明されるのか,それとも「日本的高卒就職システム」のマッチングシステムとして個人の教育年数のみでは捉えきれない質的差異により説明されるのか,検討の余地が残る.以上を踏まえ,調査データを用いて無業リスクに関する普通科,職業科の違いとその趨勢を検討した.分析の結果から,①初職入職時の間断リスクにおいては普通科に比して職業科の優位性がみられるものの,一度職業に就いた後の無業移行リスクに両者の違いはみられない,②工業科からの進学など一部の職業科では,中等後教育への進学はむしろ無業リスクを高める,③これらの構造は,高卒無業者の増加した1990年代以降も状態は大きく変化していない,という3点が分かった.すなわち職業科トラックのセーフティネット機能は間断リスクの低さでみられ,また無業移行リスクの結果も鑑みると,この機能は人的資本論的なミクロレベルの説明よりも,「日本的高卒就職システム」のマッチングシステムというメゾレベルの説明がより妥当であると結論づけられる.
著者
板倉 有紀 伊藤 和恵 佐藤 美智子 佐藤 はま子 大田 秀隆
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.48, pp.151-161, 2019-08-30 (Released:2021-02-26)
参考文献数
14

「認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)」では認知症高齢者等にやさしい地域づくりが目指されている.本稿では,認知症啓発・予防および認知症当事者支援が行われる秋田県羽後町の事例を取り挙げる.「若竹元気くらぶ」と「うごまちキャラバンメイト・認知症サポーター協会」という二つのグループの認知症に関する活動が成立する背景要因を検討する.特に「認知症予防」という考え方が,どのように働いているかに焦点化する.認知症予防の取り組みは認知症当事者を結果的に排除するという議論がなされてきたためである.「若竹元気くらぶ」は,認知症予防のための活動として始まったが認知症当事者支援の場にもなっている.「うごまちキャラバンメイト・認知症サポーター協会」は「若竹元気くらぶ」から独立して結成され,当事者支援のための活動として始まったが認知症予防に関心のある会員を取り入れ活動を継続している.いずれの活動においても保健福祉に関する専門知識を持つ行政職員や住民が活動に深く関与している.地域社会において認知症予防という考え方は,認知症の当事者の参加の機会にもなりうる.当事者の参加のためには専門職の関わりかたが重要である.
著者
大井 慈郎
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.48, pp.163-174, 2019-08-30 (Released:2021-02-26)
参考文献数
38
被引用文献数
1

本稿は,東南アジア首都圏の拡大メカニズムの分析に際し,郊外ニュータウン区画外の居住地区に焦点を当て,工場労働者の向都市移動と就業機会の現状を明らかする.具体的には,事例研究としてインドネシア首都ジャカルタ郊外のKarawang県における土地利用データとニュータウン区画外アパート住人135名に対する質問紙調査および8名に対するインタビュー調査を実施した.従来,東南アジア首都圏の拡大を論じる際,欧米の研究が援用され,郊外ニュータウンの分析が行われてきた.対して本稿は,工業団地,ニュータウンと集落地区がモザイク状に分布するアジア都市の現状を指摘し,ニュータウン区画外に工場労働者のための居住地区が形成されていることを提示する.また,近年の非正規雇用の普及によりリクルート会社や学校の紹介といった「フォーマルな方法」が整備されるなか,向都市移動に際し途上国研究で指摘される「人的つながり」である親族・同郷者ネットワークの重要性は低下している.代わりに,短期雇用を繰り返す現在の非正規雇用制度のもと,工場労働者同士情報交換のための人的つながりが重要な役割を担っていることを,本稿は指摘する.
著者
田中 茜
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.48, pp.175-183, 2019-08-30 (Released:2021-02-26)
参考文献数
19

本稿の目的は,女性の離職行動に配偶者が及ぼす影響を捉えることを通じて,1960年代以降の女性の就業選択のメカニズムを明らかにすることである.離職が生じやすいタイミングの一つである結婚に着目し,妻の結婚離職に結婚時の夫の従業先規模が及ぼす影響を検討した.1995年,2005年,2015年のSSM調査を用いて分析を行った結果,大企業に勤務する男性と結婚した女性の結婚離職が促されるという関連が示された.またその関連は1960年代から1980年代結婚コーホートまで確認されるものの,1990年代以降では確認されなかった.この結果から,結婚時における妻の就業選択が夫の従業先規模に依存するという状況は1990年代を境に消失したと結論づけることができる.1990年代は人々の女性就業に対する意識が徐々に変化し始めた時期であり,それに伴い女性の就業に関する意思決定が変化したと考えられる.
著者
内田 龍史
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.48, pp.31-43, 2019-08-30 (Released:2021-02-26)
参考文献数
43

部落差別は,近世以前の身分制を出発点とするものの,自由と平等をその基本理念とする近代社会において,差別が告発される形で生成されてきたと言えよう.そうした告発は,部落差別を撤廃するための国策を求める運動へと展開され,同和対策審議会答申(1965年)によって「実態的差別」と「心理的差別」,さらにはその悪循環を断ち切ることが行政の責務とされた.そのうえで実施された同和対策事業は,事業対象を求めることとなり,「同和地区」「同和地区住民」などといったカテゴリーが生成された. こうしたカテゴリーは,ターゲット型政策の実施・運用にあたって必要不可欠であるが,他方で施策の対象となる人々へのマイナスイメージや「ねたみ」・「逆差別」意識を生み出した.そうした意識は,今日まで引き続く部落差別の一端をなしていると言えよう. 現代社会において,差別が生成・維持されるメカニズムを考えるにあたり,部落解放運動などの社会運動による「告発」のインパクトと,その帰結として実施される政策,さらにはそれによって生じる否定的な反応といった,部落問題においては決して目新しくはない視点は,新しいレイシズム・新しいセクシズムなどのように,今日的な「差別の生成メカニズム」を論じるうえで,改めて欠かせないのではないかと考える.
著者
田辺 俊介
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.48, pp.45-61, 2019-08-30 (Released:2021-02-26)
参考文献数
40

本稿は「差別」という現象の計量分析について,排外主義に関する研究を事例として紹介しつつ,その可能性と限界を論じるものである.具体的には,まず差別と関連現象(偏見や排外主義など)の計量的研究の系譜について簡便に紹介する.続いて様々な差別に関わる現象の中でも,著者が主たる関心として分析している「排外主義」を対象とした計量的研究について,著者のグループが行った全国調査データの分析に基づく結果を例示する.その上で,計量分析による差別の解明可能性と問題点を論じる.
著者
稲葉 陽二
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.48, pp.77-84, 2019-08-30 (Released:2021-02-26)
参考文献数
21

社会関係資本は学術研究の対象として認知されるようになり,社会関係資本をテーマにした論文は多数に上っている.だが,その概念に関する議論は収束をみていない.しかし,AIに象徴される技術進歩は,社会関係資本研究に新たな付加価値を与えている.エリノア・オストロムによってコモンズの運営にとって社会関係資本が不可欠であることが明らかにされたが,ジェレミー・リフキンは,技術進歩の過程で,技術開発と情報の共有の領域で,新たなコモンズが多数生まれていることを指摘している.換言すれば,今日のAI時代においては,コモンズの運営について不可欠である社会関係資本は,技術開発と情報の共有のコモンズの前提条件として新たな付加価値を生むことが期待されている.
著者
佐藤 嘉倫
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.48, pp.85-93, 2019-08-30 (Released:2021-02-26)
参考文献数
15

本稿の目的は,ソーシャル・キャピタルの生成メカニズムをミクロ・メゾ・マクロレベルの相互連関に着目して解明することである.ソーシャル・キャピタルをめぐっては,(1)ソーシャル・キャピタルの定義・概念化,(2)ソーシャル・キャピタルの生成過程の解明,(3)ソーシャル・キャピタルの効果の分析という大きく3つの問題群がある(Portes 1998).(1)と(3)については多くの研究が蓄積されてきたが,(2)の研究は(1)と(3)に関する研究ほど進んでいない.それは,Coleman(1988=2006)が指摘するように,ソーシャル・キャピタルが副産物であるという特性によるものである.本稿ではこのことを踏まえて,下位レベルのソーシャル・キャピタルを促進する上位レベルの仕組みを分析するとともに,下位レベルのソーシャル・キャピタルが上位レベルのソーシャル・キャピタルを促進する過程も同時に分析する.そして,すべてのレベルでソーシャル・キャピタルが高まる好循環過程とすべてのレベルでソーシャル・キャピタルが低下する悪循環過程があることを示すとともに,下位レベルのソーシャル・キャピタル向上のために上位レベルの仕組みが介入することの問題点も指摘する.
著者
金澤 悠介
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.48, pp.95-113, 2019-08-30 (Released:2021-02-26)
参考文献数
51

社会関係資本研究における重要性にもかかわらず,従来の一般的信頼の測定方法は大きな問題をはらんでいた.多くの経験的研究で使用されている測定法(一般的信頼性推定質問)において,「たいていの人」が誰を意味するのかが不明瞭なため,相矛盾する経験的知見が併存する状況となっていた.そこで,本研究は回答者によって一般的信頼性推定質問で想定する信頼のタイプが異なると考え,一般的信頼性推定質問の測定内容を検討した.『地域の絆と健康に関する調査』をもちいて,一般的信頼性推定質問・近隣住民への信頼・団体参加・協力行動を対象に潜在クラス分析を行ったところ,その意味内容が異なる4種類の信頼が抽出された.すなわち,(a)近隣住民を含む他者一般を信頼し,多様な他者とも関わるような団体参加・協力行動を促進する一般的信頼,(b)近隣住民のみを信頼し,居住地域に関わるような団体参加・協力行動を促進する地域主義的信頼,(c)社会的に望ましい回答をしたいという動機から一般的信頼性推定質問に肯定的に回答する非活動的信頼,(d)他者を信頼せず,団体参加・協力行動も活発ではない不信頼であり,社会的属性や居住地域によって回答者が想定する信頼のタイプが異なることも示された.そして,以上の分析結果をもとに,一般的信頼性推定質問の特性を議論するとともに,社会関係資本研究の知見の整理を試みた.
著者
鈴木 伸生
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.48, pp.115-128, 2019-08-30 (Released:2021-02-26)
参考文献数
41

本稿の目的は,集団のネットワーク構造がLinの社会関係資本の形成に及ぼす影響について,Coleman,Burt,Putnamの理論に依拠したネットワークの閉鎖性/開放性を表す閉鎖的/開放的集団への参加効果に関する仮説を検証することである.日本の代表的な大規模調査JGSS 2012データを用いて,多変量解析(Heckit, ZINB)を行った結果,第1に,開放的集団への参加数が多い個人ほど,豊かな社会関係資本(一般的社会関係資本,拡張性,上方到達可能性,異質性)を形成していた.第2に,閉鎖的集団への参加数が多い個人ほど,アクセス可能な地位の総数(拡張性)を多く形成していた.以上の知見は,豊かな社会関係資本の形成に対するネットワークの開放性の重要性を示唆している.
著者
高木 竜輔
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.47, pp.11, 2018-08-30 (Released:2019-11-08)
参考文献数
12
被引用文献数
1

福島第一原発事故から7年が経過し,避難指示の解除も進み,被災者の生活再建がある程度進んでいる.避難指示が解除された地域への住民帰還は進んでいないなか,避難先での住宅の自力再建ならびに復興公営住宅への入居という形で住宅の再建が進んでいる.長期避難・広域避難を前提とした原発避難者の住宅再建にはどのような課題があるのだろうか. 本稿では2017年に実施した質問紙調査データを用いて,福島県内において建設された原発避難者向けの復興公営住宅入居者の抱える課題をコミュニティ形成という観点から明らかにする.調査の結果,(1)団地内の人間関係はある程度形成されているが,共助の関係までは十分できておらず,コミュニティ形成としては道半ばであること,(2)団地の流動性は比較的高く,団地入居者の高齢化がますます進行していくこと,(3)多くの団地入居者は住民票を避難先に異動することを考えていないこと,などが明らかとなった.これらを踏まえて,団地の高齢化が急速に進むなかでのコミュニティを長期にわたって維持していくことは困難であること.さらに団地入居者が避難元の住民票を持ち続けた上での支援体制の構築が早期に求められること,という二点の課題を示した.
著者
本間 照雄
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.47, pp.25, 2018-08-30 (Released:2019-11-08)
参考文献数
6

東日本大震災の避難者は,被災から6年経った今,全国で75,206人.避難先は47都道府県1,052市区町村に広がり,宮城県内では9,795人が避難生活を送っている(平成30年1月16日現在,復興庁). 東日本大震災は,被災規模が甚大であることだけではなく「避難生活の期間が非常に長い」ことが被災者の困難さを増している.この長期間に渡る避難生活を支えているのが生活支援員である.東日本大震災では,被災者自身も生活支援員となって被災者支援に携わり,日々,応急仮設住宅/災害公営住宅での生活を見守り続けている. 本稿では,宮城県南三陸町を事例にして,この長期間の避難生活で生じた新たな支援ニーズとしてのコミュニティづくりに関わる生活支援員に注目し,彼らがいかにして養成されたかを被災者支援センターの制度設計から見いだし,当事者性と市民的専門性を持って活動してきたかを報告する. また,住民が生活支援員となって被災者支援を担い,その支援者としての仕事を終えた後に地域社会の一員に戻っていく.そうした一連の過程の中で,被災者支援という一時的・臨時的であっても,その関わり方如何により,地域福祉の推進に資する人財に育つことを示したい.
著者
伊藤 亜都子
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.47, pp.37, 2018-08-30 (Released:2019-11-08)
参考文献数
3
被引用文献数
1

阪神・淡路大震災(1995年1月17日)では,住宅の復興政策は「避難所」→「仮設住宅」→「災害復興公営住宅」への移行を中心とするものであった.しかし,その移行の過程において震災前の地域コミュニティが分断されたことで新たな問題が生じ,同時にこの単線型の支援メニューから外れた人々への支援が不十分になるなどの問題があらわれた. 本稿では,仮設住宅および災害復興公営住宅における地域コミュニティの状況を紹介し,課題や解決のための取り組みについて示す.特に,災害復興公営住宅における状況については,神戸市灘区にあるHAT神戸・灘の浜団地の事例をとりあげる.まず,1999~2000年に実施したコミュニティ調査の内容を報告し,入居から1~2年が経過した住民へのヒアリング調査をもとに分析を行う.そして,震災から20年以上が経過した現在の災害復興公営住宅が抱える大きな課題として,借り上げ市営住宅への対応と居住者の高齢化,そしてコミュニティ形成のための取り組みについて紹介する. 現在,神戸市では,高齢者への「見守り活動」を安否確認に限らず地域コミュニティづくりの支援も含めて取り組んでおり,復興公営住宅へのサポートに限らず一般的な取り組みへと広げつつある.
著者
小林 博志
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.47, pp.57, 2018-08-30 (Released:2019-11-08)
参考文献数
5

本稿では,農協婦人部の機関誌的存在である雑誌『家の光』を通して,農村女性におけるモータリゼーションの展開を考察する.この展開は,1950年代後半から普及が進むテーラーの導入を契機に,稲作の機械化を背景として1970年代中頃から普及が進む軽トラックの導入により促進される.結果として生じる生活圏の広域化が家庭内に交通格差をもたらし,その相対的優位者となった嫁は,減反を背景とする家庭内分業の再編において姑からの干渉を減少させていく.農機具として導入されたテーラーは,生活の移動手段となり,軽トラックは移動手段の枠を超えて,私的空間の形成装置となることで,都市と農村が共有しうる近代家族的価値観を具現化する装置として機能する.これは,人と「モノ」との相互作用による「人並み」という生活水準意識の形成を意味するものである.
著者
望月 美希
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.47, pp.83, 2018-08-30 (Released:2019-11-08)
参考文献数
18

本稿の目的は,東日本大震災後の近郊農村において,地域自治を共同で担っていく基盤とはどのようなものであるかを検討することである.長期的な復興課題に対しては,住民同士の支え合いによる解決が必要であるが,「上からの組織化」による従来のコミュニティ政策の限界も懸念されている.そこで,先行研究で得られた,地域の歴史的背景,外部者との関係性,近隣組織の変容という視点から,「下からの組織化」に至る住民の動向を取り上げる. 対象とする亘理町吉田東部地区において,共同の基盤であったのは部落会であったが,津波被害による移転者が相次ぎ世帯数が減少し,復興段階の課題への対処が難しい状況であった.そうした状況のなか,外部支援者と地区内外住民の対話から,異質性を持つメンバーによる新たな共同関係が展開し,問題解決に挑んでいる.この共同関係は,震災前は弱い紐帯であった個人間のつながりが表出し,組織化に至っていた.