著者
野上 元 西村 明 柳原 伸洋 蘭 信三 渡邊 勉 福間 良明 山本 昭宏 一ノ瀬 俊也 木村 豊
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

2018年度は、5年間の研究計画の二年目であった。まず、4月14、15日に東京大学で行われた戦争社会学研究会第9回大会の場を利用して、野上は、東京大学文学部社会学教授・佐藤健二氏を招いて特別講演「「戦争と/の社会学」のために」を企画した。これもまた、学際的研究領域としての「戦争社会学」の内実を検討するものであり、活発な質疑を経て、戦争社会学の可能性を検討することができた。また西村は、テーマセッション「宗教からみる戦争」を企画した。宗教と戦争と社会の結びつきについて、多面的な議論が行われた。6月には、同研究会の研究誌『戦争社会学研究』の第二号が刊行された。特集となる「戦争映画の社会学」は、昨年度企画したシンポジウム「『野火』の戦争社会学」の活字化である。企画者の山本ほか、野上・福間が寄稿した。また、第二特集として「旧戦地に残されたもの」があり、西村が企画趣旨文を寄せている。8月12日には、京都女子大学で小林啓治『総力戦の正体』の書評会を開催した。歴史学の立場からの「戦争と社会」研究であるが分野をまたいだ議論を可能にする幅広い問題提起を行う書物であった。書評担当者の一人を野上が担ったが、「戦争と社会」研究における「総力戦」概念の重要性に照らした検討を行った。この2018年度より、筑波大学を所属機関とする非常勤研究員として木村豊氏を雇用し、研究会の事務手続きを手伝ってもらうことになった。こうした研究会の企画のほか、研究打ち合わせを12月に行い、プレ調査の実施計画を進め、科研メンバーだけのクローズドな研究会を行った。また、筑波大学大学院「歴史社会学」演習と合同で、深谷直弘『原爆を継承する実践』の書評会を筑波大学で行った。若手研究者による戦争社会学的研究の成果である。
著者
渡邊 勉
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.218-233, 2018 (Released:2019-09-28)
参考文献数
43

本稿の目的は,職業経歴の不平等の時代変化の特徴を明らかにすることである.これまで7回おこなわれたSSM調査の職歴データを分析した歴史研究は,ほとんどない.そこで本稿では,労働経済学における終身雇用,二重構造の研究を参照しつつ,社会階層論の枠組みで,1920年代から2000年代以降までの日本の労働市場の変化を分析した. 明らかになった点は以下の通りである.第一に,職歴の不平等は,1970年代半ばまでの入職者において小さくなり,その後大きくなっている.第二に,職歴の雇用安定性は,戦後1970年代まで大きくなっていき,その後若干小さくなる.また職歴の従業先安定性は,初職大企業のほうが中小企業よりも安定しており,初職ホワイトカラーのほうがブルーカラーよりも安定しており,時代による変化は小さい.第三に,通時代的に職歴パターンは,父職,学歴,初職職業,初職規模それぞれの影響を受けている.特に従業先規模は戦後影響が大きくなっている.まとめると,職歴の不平等は,まず戦前から戦後の社会,制度の大きな変化の中で,平等化が進んだ.その後終身雇用制度の浸透と共に,さらに平等化が進んだが,1970年代後半以降の入職者は,不安定な職歴が増え,不平等が進行した.
著者
渡邊 勉
出版者
信州大学
雑誌
人文科学論集. 人間情報学科編 (ISSN:13422782)
巻号頁・発行日
vol.39, pp.65-78, 2005-03-15

最後通牒ゲーム (Ultimatum Game) に関する実験研究の知見は, 経済理論から得られる予想と大きくずれていることが知られている。つまり, 経済理論では不平等が実現すると予想するのに対して, 現実の実験では平等が実現するのである。このズレを説明する有力な仮説の一つとして, 人々が経済合理的個人なのではなく, 公正観を持つ個人だからという仮説がある。本稿では, 最後通牒ゲームの実験研究から得られている知見を, 理論的に説明することを目的とする。その際, 競争志向プレーヤーと平等志向プレーヤーを想定し, それらのプレーヤーがゲームをおこなった場合に, 平等が実現するのかを検討した。その結果, 競争志向プレーヤー間, 平等志向プレーヤー間だと平等が成立する。その一方で, 異なるプレーヤー間, あるいは相手のタイプがわからない場合には平等が実現しないことも示した。つまり, 人々が経済合理的個人であっても, 公正観を持つ個人であっても条件次第によって, 平等が実現することが明らかとなった。
著者
渡邊 勉
出版者
公益財団法人 日本学術協力財団
雑誌
学術の動向 (ISSN:13423363)
巻号頁・発行日
vol.27, no.12, pp.12_22-12_27, 2022-12-01 (Released:2023-04-28)
参考文献数
9

アジア・太平洋戦争は、日本人を国家総動員体制のもと、等しく戦争に協力することが求められていた。しかし現実には、社会全体を巻き込む災禍や暴力においてでさえ、人々が等しく協力しているわけではないし、負担を負っているわけでもない。そうした不平等の実態を知るための一つの方法として、社会調査データの分析がある。過去の社会調査データを分析することで、アジア・太平洋戦争時の不平等の実態を、ある程度明らかにすることができる。そこで実際に分析してみてわかることは主に二つある。第一に戦争は格差を消失させるわけではないということである。戦前社会は高格差社会であった。戦時中においてもそうした格差は一部維持されていた。第二に戦争はあらたな格差をつくりだすということである。戦時中に負担を強いられた人々は、戦後も苦しい生活を強いられていた。戦争によってもたらされる負担は、戦時中のみならず、戦後も継続しており、それは特定の社会階層に偏っていたのである。
著者
渡邊 勉
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.17-30, 2009-07-19 (Released:2013-12-27)
参考文献数
37

本稿は,社会学的研究における理論と実証の関係について,景観問題というテーマを通じて,検討することを目的としている.まず景観問題に関する人々の意識を調査データから明らかにした.その上で社会的ジレンマの枠組では,うまく分析できず,権利の問題として捉えるべきであることを示す.そして権利の観点から意識調査の結果を分析し,景観をめぐる課題として,権利の所在が人々の間で共通了解されていないこと,権利の対立に対して人々がどの権利を優先すべきであるかの共通了解がないことが示された. 以上の分析を通じて,社会現象を分析する際,理論は現象を説明するための道具ではなく,現象を理解するための枠組を提供する道具として有効であることが明らかとなった.つまり,理論は単に説明するだけではなく,現象を理解,定義するためにも重要な役割を担っているのである.
著者
中村 高康 吉川 徹 三輪 哲 渡邊 勉 数土 直紀 小林 大祐 白波瀬 佐和子 有田 伸 平沢 和司 荒牧 草平 中澤 渉 吉田 崇 古田 和久 藤原 翔 多喜 弘文 日下田 岳史 須藤 康介 小川 和孝 野田 鈴子 元濱 奈穂子 胡中 孟徳
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2011-04-01

本研究では、社会階層の調査研究の視点と学校調査の研究の視点を融合し、従来の社会階層調査では検討できなかった教育・学校変数をふんだんに取り込んだ「教育・社会階層・社会移動全国調査(ESSM2013)を実施した。60.3%という高い回収率が得られたことにより良質の教育・社会階層データを得ることができた。これにより、これまで学校調査で部分的にしか確認されなかった教育体験の社会階層に対する効果や、社会階層が教育体験に及ぼす影響について、全国レベルのデータで検証を行なうことができた。
著者
渡邊 勉
出版者
関西学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

第一に1900年以降の階層構造について、戦前、戦中、戦後の不平等を兵役という観点から分析し、不平等の実態を明らかにした。具体的には、SSM調査の職歴データを利用し、徴集、召集のしやすさが学歴や職業によって異なることを明らかにした。また戦時の死亡リスクについても、階層の影響があることを確認した。第二に1900年以降のキャリアについて、職歴データから職業分布の変化と職工の転職行動について検討した。戦前と戦後では戦争によって職業分布の変化が断絶していることを明らかにした。また職工の分析を通じて、戦前の転職率はやや高いことを確認するとともに、戦時中に移動が爆発的に増加していることが明らかとなった。
著者
渡邊 勉
出版者
信州大学
雑誌
人文科学論集. 人間情報学科編 (ISSN:13422782)
巻号頁・発行日
vol.40, pp.15-31, 2006-03-15

ライフコース研究におけるライフイベント分析は,単純集計やクロス集計による記述か,イベントヒストリー分析が主であった。本稿では,学卒,初職,離家,結婚,第1子誕生,最長職の6つのライフイベントの順序パターンをクラスター分析によって抽出した。その際,各サンプル間の順序パターンの距離を一対比較によって定義した。クラスター分析の結果得られた順序パターンをもとに,性別,学歴,職業によってパターンが異なることを明らかにした。特に性別によって学歴,職業の影響の仕方が異なることが明らかとなった。
著者
渡邊 勉 Tsutomu Watanabe
雑誌
社会学部紀要 (ISSN:04529456)
巻号頁・発行日
no.114, pp.107-121, 2012-03-15