著者
京須 希実子
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.233-253, 2007-07-20 (Released:2013-10-23)
参考文献数
9

本論文は,介護老人福祉施設で働く介護職が他専門職,特に密接な関係にある看護師・社会福祉士・栄養士との連携・協働を通して自らの業務内容を確立していく過程を追うことで,介護職の業務確立に関する1つの知見を提示することを目的とする.X県内の介護老人福祉施設A園・B園において参与観察及びインタビューを行い,そこで収集したデータをもとに分析を行った. その結果,介護老人福祉施設における介護職は,入居者の身体介助を軸に業務を行っていた.彼らは,身辺介助業務を専ら任されるようになったことで,常に入居者の傍にいることができ,その結果,どの職種よりも多くの入居者に関する情報を把握することができる状態に置かれていた.そして,彼らは,それぞれの知識に基づいてケアを行う他職種の支援を受けつつ,その情報をもとに,入居者を生活者と捉えるという独自の視点から,業務を行っていた.こうした介護職の独自性は,他職種にも認められつつあり,そこから介護職の専門性が確立される可能性も示唆される. しかし,こうした介護職の業務の在り方は,介護老人福祉施設の職員構成に支えられてはじめて成り立つものであって,職員構成の変化により,入居者の多様な情報を把握できる立場に介護職以外の職種がおかれたとき,連携・協働の在り方の変化及び介護職の業務内容の変化が生じる可能性も考えられる.
著者
佐藤 利明
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.1-6, 2007-07-20 (Released:2013-10-23)
参考文献数
4
著者
古川 彰
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.7-29, 2007-07-20 (Released:2013-09-20)
参考文献数
14

本稿の目的は主に愛知県矢作川流域の所有,管理,利用にかかわる関係主体(アクター)の歴史過程の検討を通して,定住者(コミュニティ)の知と交流の論理について議論することである.とくに本稿では,河川環境保全主体としては注目されてこなかった内水面漁協,河川につよい権利を持つ農業水利団体,河川管理者としての行政,そして環境保全などにつよい関心をもって1980年代から登場する市民グループとの関わりの変化に焦点をあてて記述,分析をおこなった. その結果,1990年代以降の河川の環境化によって,諸アクターの活動は流域社会へと開かれ(流域社会化),それぞれのコミュニティに固定化されてきた範域的な関係主体(アクター)が,多様なアクターと関係を取り結ぶことで,アクター間の垣根を低くしてゆるやかに結ばれる関係的なアクターへと変化し,あらたな開かれたコミュニティを形成しつつあるプロセスを明らかにした.
著者
中島 信博
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.31-59, 2007-07-20 (Released:2013-10-23)
参考文献数
12

本稿は岩手県の山村で農家により自律的に取り組まれたあらたな事業を検討することで,そこでの論理を析出しようとする.具体的には大型のスキー場開発に付随して展開してきた民宿の村が,入り込み客の減少という危機に対応するなかでサッカー場経営に乗り出し,これによって「芝生」の価値を発見すると同時に,有志による組合を結成することで経営を安定化することに取り組んだ事例である.そこでは山村ゆえの目まぐるしい生業変遷の歴史の中で培われてきた経営の体験が活かされており,特に市場感覚にすぐれた対応を分析できる.また,有志が共同で新規の事業に取り組む段階と,ある程度軌道に乗ってからのより広範な家々が共同で運営していく方式も観察できた.初期の段階では既存の資源を最大限に有効利用することで投資を抑え,リスクを最小にする工夫が多様に凝らされていた.また運営にあたっては伝統的なレトリックで共同性を確保し,これによって対外的な競争力も維持している戦略も読み取れた.
著者
加藤 英一
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.211-231, 2007

有害事象によって被害を被った患者及びその家族は,主に「事実の解明」,「医療従事者による謝罪」,「事故を今後の教訓にして欲しい」という3つの要求を訴えて裁判を起こすことが,既存の研究によって明らかにされている.本稿では,有害事象を経ることによって,如何にしてこれら3つの要求が生じることになったのかを「信頼」の崩壊過程を通じて明らかにした.
著者
大井 慈郎
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.42, pp.85-96, 2013

本稿は,インドネシア首都ジャカルタ郊外のブカシ県を調査地に,露天商228人への個別訪問調査から成員の性質を分析することで,先行研究では検討されていなかったインフォーマルセクター成員の「時間帯による差異」とそれに関わる兼業の状況を指摘する.1960年代に途上国の都市における雇用問題が国際機関にて議論され始めてから今日に至るまで,「インフォーマルセクター(政府の公式統計に反映されない多種多様な都市雑業層)」をどのように描き出すかについて,多くの研究が行われてきた.本稿で取り上げる露天商は,生産単位としては「インフォーマルセクター事業」に,職業的地位としては「自営業」にあたるため,多層なインフォーマルセクターのなかにおいて諸々の賃金労働従事者よりも上位に位置する.兼業という観点を考慮し調査結果を分析すると,①自給生産に頼らず露天商としてのみ働く者,②フォーマルセクターで雇用されながらも露天商でも働く者,の2タイプの存在が浮き彫りになる.この2タイプは,朝の時間の日曜市では①,夜の時間のナイトマーケットでは②の傾向が,それぞれ明らかになった.また,本研究は,調査地が首都中心ではなく,近年の東南アジア諸国の発展を牽引する首都郊外であるところから,インフォーマルセクターの「地理的分布による差異」の問題にも言及する.
著者
寺田 征也
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.45, pp.63-73, 2016

<p> 本稿は鶴見俊輔の「限界芸術」論に関する諸論文,「ルソーのコミュニケイション論」([1951]1968),「文化と大衆のこころ」([1956]1996),「芸術の発展」([1960]1991),「限界芸術再説」(1969)の読解を通じて,「限界芸術」を論じる上での鶴見の課題と目的,そして当概念の核心を明らかにすることを目的とする.<br> 「限界芸術」は概して「芸術」に関する新しい分類法として理解されてきている.しかし本研究では,芸術の分類法だけでなく,デューイやモリスのプラグマティズムに影響を受けながら,日常的な芸術への参加と,それに基づく大衆の能動性,自主性の回復,美的経験の獲得が論じられていた.また60年代後半では,当時の社会運動の状況や後に論じられるようになるアナキズム論と関連しつつ,自らデザイン可能な自由な生活領域の確保と,それに基づく権力への抵抗の可能性が論じられるようになってきていた.鶴見の芸術論はプラグマティズムに影響を受けつつ,後にアナキズム論へと接続していく.</p>
著者
苫米地 なつ帆
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.103-114, 2012

本稿では,教育達成を規定する要因としての家族およびきょうだい構成に着目し,教育達成に格差が生じるメカニズムの一端を明らかにするため,マルチレベルモデルを用いて分析を行った.分析の結果,家族属性変数を統制した状態でも女性は男性に比べて教育達成が低くなることが明らかとなり,きょうだい内におけるジェンダー格差の存在が確かめられた.出生順位に関しては負の効果がみとめられ,きょうだい内で遅く生まれると教育達成が下がることが明らかとなった.加えて出生間隔も負の効果を持っており,きょうだいと年齢が離れている場合には,高い教育達成を得やすくなる環境や,それを獲得するための情報資源が存在しないことが考えられる.また,長男・長女であること自体は教育達成に影響を与えないが,長男の場合はきょうだい内に男性が多いと教育達成が低くなる傾向があり,長女の場合には,次三女に比べて家庭の社会経済的地位の正の効果を受けやすいことがわかった.このように,きょうだい内における教育達成は,家族属性要因と個人属性要因の交互作用の影響も受けているのである.さらに,母親が主婦である場合に子どもの教育達成が高くなることが示されたが,これは母親が大卒以上の主婦である場合に顕著であり,高学歴の母親が子どもの教育達成を高めようとしている可能性が示唆される.
著者
牛渡 亮
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.42, pp.73-83, 2013

本稿の課題は,スチュアート・ホールによって1970年代に展開されたモラル・パニック論の内容を詳らかにするとともに,このモラル・パニック論と1980年代以降に展開される彼の新自由主義論との結びつきを明らかにすることにある.ホールによれば,モラル・パニックとは,戦後合意に基づく福祉国家の危機が進展するなかで人々が感じていた社会不安や恐怖感の原因を,社会体制の危機そのものではなくある逸脱的集団に転嫁し,当該集団を取り締まることで一時的な安定を得ようとする現象である.本稿では,このモラル・パニックを通じて高まった警察力の強化に対する能動的同意を背景に,それまでの合意に基づく社会からより強制に基づく社会への転換が起こり,そのことがサッチャリズム台頭の基礎となったことを示した.したがって,本稿での作業は,ホールが「新自由主義革命」と呼ぶ長期的プロジェクトの端緒を理解するための試みであると同時に,オルタナティヴの不在により今日ますます勢いを増す新自由主義を理解するための試みでもある.
著者
木村 雅史
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.46, pp.33-43, 2017

<p> 本稿の目的は,アーヴィング・ゴフマンの「状況の定義」論の観点から,「いじり」と呼ばれるコミュニケーションのあり方について扱ったメディア・テクストを分析することで,テクストが提供している「いじめ」と「いじり」の区別や関連性に関するカテゴリー適用の方法を記述・考察することである.<br> ゴフマンの「状況の定義」論は,①「状況の定義」と自己呈示の関連性に着目している点,②人々の「状況の定義」活動を記述する枠組(「状況の定義」の重層性や移行関係)を提供している点において,独自のパースペクティブをもっている.本稿では,ゴフマンの「状況の定義」論の観点から,「いじめ」と「いじり」をめぐる「状況の定義」活動の記述・考察を行った.メディア・テクスト分析の結果,状況やオーディエンスの変化が,「いじめ」/「いじり」定義の維持や変化,それぞれの定義における意味世界の形成,参加者の自己呈示やその読みとられ方に影響を与えていることが明らかになった.本稿で分析したメディア・テクストは,それぞれ方法は異なるものの,「いじめ」カテゴリーと「いじり」カテゴリーの区別や関連性について,オーディエンスにカテゴリー適用の方法を提供している.</p>
著者
大堀 研
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.40, pp.23-33, 2011

東京大学社会科学研究所の希望学プロジェクト釜石調査グループは,地域活性化に必要な条件の一つとして,「ローカル・アイデンティティの再構築」を掲げた.しかし,調査グループが2009年に調査成果として発刊した書籍では,ローカル・アイデンティティという用語は,地域の個性・らしさという言い換えが示されている以外に,明確な概念規定はなされていなかった.またそれが地域活性化をもたらすという論理は,釜石の事例に関しては検討すべき点が残されている.後者の論点については,筆者の考えでは,岩手県葛巻町,福井県池田町の事例でみてとることができる.葛巻町ではクリーン・エネルギーのまちという新しい要素が導入されたことにより,交流人口が増大している.池田町では,従来の「能楽の里」という自己規定に加え,農村という特性に基づき環境のまちづくりを推進したことから,NPO など各種環境団体が形成されるようになっている.これらの事例を踏まえ,本稿では「地域(社会)」を自治体と規定し,ローカル・アイデンティティは,自治体のキャッチフレーズ等に表示されるものとして捉えた.これを敷衍すれば,ローカル・アイデンティティの再構築とはキャッチフレーズの更新に象徴されるようなものとなり,自治体戦略の一環となる.ただしこの再構築は,自治体行政だけでなく,企業や住民など多様な主体が関与しうるものであり,その意味で偶有的である.
著者
吉原 直樹
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.43, pp.35-47, 2014

福島第一原発が立地する大熊町では,全住民の96パーセントが「帰還困難区域」に指定され,故郷を追われている.加えて,新自由主義的な復興政策の下ですさまじい勢いで「難民化」=「棄民化」がすすんでいる.にもかかわらず,東京に拠点を置く主流メディアは真実を報道することを避け,人びとの目をフクシマからそらすことに躍起になっている.避難民は,「忘却」という暴力にさらされたうえで,「絶望の共有」(shared despair)を余儀なくされている.しかしながら決してあきらめず,自らの生存と人権をかけた復興への道を模索している.<br> 本稿では,たえず組み合わせを変えながら横に広がっていく「関係としての相互作用」を通して,剥奪された場所を回復しようとする避難民の姿を,サロンを事例にして,「創発するコミュニティ」の展開をフォローアップしながら追う.そして旧来のガバメント(統治)によるトップダウンの「統制」(control)にも,市場を介して私化された関係による「調整」(coordination)にも回収されないコミニュニティの可能性について論じる.併せて,「コミュニティ・オン・ザ・ムーブ」を契機とするコミュニティ・パラダイム・シフトの方向性について検討する.
著者
余田 翔平
出版者
The Tohoku Sociological Society
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.43, pp.131-142, 2014

本稿の目的は2点ある.第1の目的は,家族構造と子どもの教育期待との関連を記述することである.第2 の目的は,両者の関連を説明する仮説,すなわち格差が形成されるメカニズムを検証することである.そのような仮説として,本稿では経済的剥奪仮説,役割モデル仮説,家族ストレス仮説,セレクション仮説を取り上げた.<br> 中学3年生とその保護者を対象にした社会調査データを分析した結果,以下の知見が得られた.まず,初婚継続世帯の子どもと比較して,非初婚継続世帯の子どもは総じて教育期待が低い.非初婚継続世帯の中の差異に着目すると,死別母子世帯,継親子関係を含まない再婚世帯では,子どもの教育期待は比較的高い.他方で,離別母子世帯や父子世帯,さらに継親子関係を含む再婚世帯では,教育期待がいずれも低水準にとどまっている.また,多変量解析によって非初婚継続世帯の形成と関連する要因を統制してもなお,家族構造の効果は残されていた.本稿の分析結果はおおよそ家族ストレス仮説と整合的であり,子ども期に定位家族が安定的であることが教育達成にとって重要であることが示唆された.
著者
木村 邦博
出版者
The Tohoku Sociological Society
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.31-41, 2009

本稿の目的は,科学としての社会学と歴史学(科学史)としての社会学史との双方にとって,どのような「学説研究」が実り多いものと考えられるかについて,論じることである.より具体的には,具体的な社会現象に対する「問い」を主題とした学説研究を実践することこそが,社会学・社会学史それぞれの分野における研究の発展を促すものであることを主張する.まず,科学としての社会学と歴史学(科学史)としての社会学史とを峻別する必要があることを述べるだけでなく,このふたつの違いをできるだけ明快な形で定式化する.その上で,社会現象の科学的探求としての社会学がどのような目標と方法をもつべきものであるかを,具体例を挙げつつ論じる.さらに,相対的剥奪に関するレイモン・ブードンの研究を模範例として取り上げ,そこにおいてブードンがとった研究戦略を検討することで,「問い」を主題とした学説研究の重要性を示すことにしたい.最後に,「問い」とそれに対応した仮説を主題とした学説研究が,学者(学派)・言説(主張)・概念・メタ理論を主題にした場合と比較して,科学としての社会学においては先行研究のレビューとして有効かつ不可欠なものであると同時に,社会学史の分野でも社会学的な営みを魅力的なものとして描くことにつながるものであると主張する.

1 0 0 0 OA 執筆者紹介

出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.37, pp.127-127, 2008-07-17 (Released:2013-12-27)