- 著者
-
内藤 準
- 出版者
- 東北社会学会
- 雑誌
- 社会学年報 (ISSN:02873133)
- 巻号頁・発行日
- vol.48, pp.5-18, 2019-08-30 (Released:2021-02-26)
- 参考文献数
- 33
社会科学的な差別研究が困難なものとなる理由の一つに,その対象となる社会現象の認識自体が,時代とともに変化していくことが挙げられるだろう.社会学の差別研究でも,以前は差別と呼ばれなかったり,差別と考える人と考えない人とが混在するような差別現象が新たに見出され,それらを分析するための理論的な試行錯誤が繰り返されてきた.社会学的な差別研究における重要な理論的拡張の一つに,分析の中心を「集団に向けた攻撃」から「マジョリティからの排除」にシフトさせたことがある.これにより社会学的な差別研究では,被差別者集団へ向けられた攻撃のようなものだけでなく,被差別者を意識せずになされる行為や,いじめのような個人の排除といった多様な現象が,差別として分析の射程に収められるようになった.また,こうした理論的拡張は,「差別の解決」を考え,理論の体系化を試みる際に,より精密な理論的分析を可能にするものでもある. 本稿では,社会学的な差別研究を理論面から検討し,こうした一連の理論的拡張を跡づけることを試みる.そのうえで,理論社会学的な社会秩序問題の枠組みを応用し,相互主体的な相互行為の理論モデルを用いることで,さまざまな差別の要因とそれらの絡まり合いを体系的に把握する試みを提示する.