著者
林 林
出版者
嘉悦大学
雑誌
嘉悦大学研究論集 (ISSN:02883376)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.181-198, 2011-03-20

本稿では、日本語教育と日本語学習者の立場に立ち、設定事態(従来のいわゆる前提)と焦点(成分焦点と文焦点)との相関から「ノダ」の機能を捉え、「ノダ」は、主に発話者が主観的に設定された事態の関連事項に対する確認を聞き手に言表するマークであるとして、日本語学習者に把握しやすい統一的な解釈を提案する。
著者
尾村 敬二
出版者
嘉悦大学
雑誌
嘉悦大学研究論集 (ISSN:02883376)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.1-24, 2004-03-31

アジア通貨危機による最大の被害国はインドネシアであった。1998年のルピアの対米ドル切り下げ率は70%、GDPはマイナス13%で、1999年に他のアジア諸国経済が急回復を示したにもかかわらず、わずかO.8%の成長であった。また、経済危機の過程において、32年に及ぶスハルト体制の崩壊という政治危機が発生し、経済はメルトダウンの状態になった。経済危機に対して、IMFを中心とする経済支援が実施されたが、そのコンディショナリティの厳しさ、インドネシア政府のガバナンスの弱さ、IMF支援政策の誤謬とその実施の遅れなどから、インドネシア経済復興に制約が見られた。銀行や企業の倒産、海外への大量の資本逃避などにより、生産活動も低迷した。経済回復がようやく見え始めたのは2003年である。今後のインドネシア経済成長のためには、グッドガバナンスの確立はもちろん、経済合理性と国際協調にもとづく経済戦略が必要である。
著者
林 林
出版者
嘉悦大学
雑誌
嘉悦大学研究論集 (ISSN:02883376)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.75-87, 2007-10-31

初級日本語教育における文型指導は、文の構造理解と生成能力の獲得のため、語彙教育と並んで中心的な位置を占めるものである。従来、「〜に(は)〜がある/いる」と「〜は〜にある/いる」という文型が、いわゆる存在文型のペアとして定着している。しかし、それを導入する際、ほとんどの教科書では単に動詞の「存在」と「所在」という意味合いに着眼点を置き、そして文型間に無関係の語彙を代入して練習するに止まるといえよう。文型の意味づけと、「は」、「が」または「に」を含む名詞句とのかかわり、また文型の提出順序と名詞句との関連性によるアプローチが不充分であり、単なる動詞からの捉えでは、初級学習者の習得には明らかに十分ではないと考えられる。本稿では、主として文の発話前提と名詞句の役割との関係について、変形文法の記述から議論することによって、この二つの文型の意味づけにおける名詞句の関与を考察する。これを踏まえて、文型導入際の文型の提出順序を提案し、教室現場の文型指導に値する手口を探ることを試みたい。
著者
内藤 勝
出版者
嘉悦大学
雑誌
嘉悦大学研究論集 (ISSN:02883376)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.1-38, 2007-10

"世界の温室効果ガス(主にCO_2)の排出量を2050年までに現在の半分にしよう、とドイツで行われた07年6月のサミットで安倍前首相は提案した。このまま二酸化炭素(以後CO_2と記す)の増加が続けば、地球の温暖化が進み40年後は、北極の氷山は氷解してしまうであろう。更に、高山の万年雪やツンドラ地帯の永久凍土も急速に溶け出すであろうと予想されている。その結果、海面上昇による国土の水没、海岸や平野の海没が世界で懸念されている。既に、世界では異常気象の発生や酸性雨の増加による森林の枯死そして砂漠化が拡大している。2004年における世界のCO_2の排出量は265億tに上る。主に、先進工業国の経済活動の結果生じたものであった。これらの国々は、京都議定書が2005年に批准されるまで市場に、製品を送り出しそれを販売し利潤を得てきた。その製造の結果生じた温室効果ガスの排出には責任を持たないでよかった。従って、市場メカニズムを前提とする既存の経済学では、環境問題に答えを出せない。そこで、「経済」からでなく世界の「政治」によって答えを出そうとしている。現代人は理想的であるよりも貪欲である。京都議定書を離脱したアメリカの行動は、その最たるものであろう。この国は、世界一豊かである。中国の約5.5倍以上の経済規模である。因みに、05年のアメリカの国内総生産は12兆455億ドル、中国は2兆263億ドル、日本4兆988億ドルである。しかし、アメリカは今の生活に満足をしていないようだ。と言うことは、今後5倍の経済規模に中国が達しても、満足しないと言うことであるかも知れない。約13億人を有する国がアメリカ並みの生産と消費水準に達した時、その排ガスにより地球の生態系は極度に汚染され、全人類の生存が不可能になるであろうと予測されている。現在(07年)でも中国の排ガスによって、わが国はpH4台の酸性雨に見舞われている。このようにグローバルな問題を含むがゆえに、その解決にあたり国際政治の力が必要となってきた。京都議定書を批准した基準年の1990年のわが国の温室効果ガスは、12億6100万tであった。それが、04年には、約13億635万t(内CO_2は12億9670万t)に増加してしまった。この数字は、1990年レベルを6%下げるどころか04年では8%増加した。(そして05年には7.8%に減少した。)改善の余地の大きいのは、運輸と家庭であると言われている。今回の調査結果でCO_2排出の一番多い分野は、自家用車であった。一番ガソリンを消費した家庭(表7のG)は、5人家族で年間3,840lを消費しCO_2排出量は8,832kg排出している。この家庭では、1l入りのボトルにして1,059万8,400本CO_2を排出したことになる。これは、車の増加と国鉄の解体が関係している。国民にとって国鉄の縮小によって交通の便が悪くなれば、車で対応するしかない。つまり環境問題は、一国の運輸政策やエネルギー政策と直接に関わっている。安倍前首相は、「美しい星50」において、わが国のCO_2削減策を具体的に示している。各家庭の工夫は大切である。しかし、大な排出分野である自動車(特にマイカー)や飛行機の制限の方がより効果が大きい。国全体の政策から家庭のCO_2を対策考えなければ、京都議定書のノルマは達成できないであろうと言う結論に達した。"
著者
クレイ サイモン
出版者
嘉悦大学
雑誌
嘉悦大学研究論集 (ISSN:02883376)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.75-100, 2005-10-31

"This paper deals with the translation of Matsuo Suzuki's play Mashin Nikki, which was commissioned by the Japan Foundation as part of the Japan Foundation Project for the Translation of Contemporary Dramatic Works. Following some background information about the play and the playwright, the paper goes on to look at specific problems encountered in the translation process. One of these is the creation of acoustic masks, or replications in English of the style and speech patterns of each character. The second is the challenge of maintaining the tone of the original play in an English translation."
著者
俵 尚申
出版者
嘉悦大学
雑誌
嘉悦大学研究論集 (ISSN:02883376)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.189-209, 2003-10

優れた選手の育成には、優れた指導者が必要である。世界のスポーツ先進国において、選手の育成と同時に、それ以上に指導者の養成(資質向上)を重視することは常識である。スポーツ先進国として代表される欧米やキューバは、選手個々の年齢に応じたアプローチを、総合スポーツクラブや国家政策としてのシステムが、社会基盤(インフラストラクチャー)として、みごとなばかりに確立されている。それらに対し、わが国のスポーツは、明治時代に欧米から伝播したスポーツという文化を「体育」として受容したことにより、学校を中心として発展し、学校スポーツ(体育)の延長線上に生まれたのが「企業スポーツ」である。すなわち、それらの環境がベースとなっているのがわが国のスポーツシステムであり、コーチング(指導)スタイルである。これらの世界のスポーツ先進国である諸外国のコーチング(指導)スタイル、および養成システムを通して、わが国のシステムとコーチングの根底に存在する問題点を、整理、検討し、スポーツにおけるコーチングについて論考する。
著者
山田 寛
出版者
嘉悦大学
雑誌
嘉悦大学研究論集 (ISSN:02883376)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.1-20, 2005-10-31

2005年度春学期、私は嘉悦大学と、兼任講師をしている東京情報大学の自分の授業の受講生を対象に、外交や安全保障に関するミニ世論調査(アンケート調査)を実施した。毎回の授業の冒頭に1問ずつ出し、答えを選択してもらった。調査実施の主な理由はもちろん、国際政治、国際関係論を研究する者として、こうした問題に対する学生たちの関心と認識の度合いを知りたいと思ったことだった。電車の中でも、歩道を歩いていても、いつも目の前のケータイのメールをチャカチャカやっているいまの学生たち。その友人とのチャットの画面の外側に国内社会が広がり、さらにその外側に国際社会が広がるのだが、彼らの関心が外側に向けてどんどん広がっている感じはしない。本当のところ、学生たちはチャット画面を越えて、外側のまた外側の国際問題にどれだけの関心と認識を示すのだろうか。それを調べてみたいと考えた。さらに、いまの学生たちは自分の意見を人前で発表することがどうも不得手のようだが、そんな発表の小さな機会を作りたいとの思いもあった。結果は、学生たちは、憲法改正や自衛隊のイラク派遣、小泉首相の靖国神社参拝、日本の国連安保理常任理事国入りなど、日本が直面している重要問題について、まずまず真面目に考え、かなり理性的で前向きの回答をした。他方、平和日本の若者ののんびりムード、他力本願傾向を改めて印象付けるような面もあった。だが、学生たちが自分の意見を求められてそれに答えること自体には、決して消極的ではないのだと確認できたのは、私にとってうれしい収穫だった。
著者
上原 聡
出版者
嘉悦大学
雑誌
嘉悦大学研究論集 (ISSN:02883376)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.1-15, 2009-10-01
被引用文献数
2

1990 年代以降、マーケティング研究における中核的な概念として顧客満足(CustomerSatisfaction)が再認識されることとなった。このような顧客満足に関する先行研究においては、利益面の経営成果に対して顧客満足が直接的に影響することが示されていることが特に重要な視点となる。先行研究の中では、期待と経験値のギャップが顧客満足に及ぼす影響を扱ったギャップモデルが多く散見されると同時に、顧客満足に対する期待水準自体の直接的な効果も提起されている。本稿では、サービス・プロフィット・チェーンのような有効な理論モデルが提唱され、特に今後の産業構成上に占めるウェイトがより高まることが予想されるサービス企業に焦点をあてる。サービス企業を研究の調査対象とするため、顧客満足に先行する要因としてサービス品質を考慮する。具体的なサービス企業としてホテル業を選んで実証分析を行い、SERVQUAL モデルに立脚した分析枠組みを用いてサービス品質と顧客満足間の関係を調査した。実証分析の結果、期待水準および期待-経験値間ギャップの双方が顧客満足に影響を与えることを明らかにしている。
著者
倉田 安里
出版者
嘉悦大学
雑誌
嘉悦女子短期大学研究論集 (ISSN:02883376)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.57-74, 1996-03-18
著者
谷川 喜美江
出版者
嘉悦大学
雑誌
嘉悦大学研究論集 (ISSN:02883376)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.77-92, 2011-03-20

我が国では、経済成長のために金融資産活用の期待が高まっている。また、かつては、異なる会計基準を適用する国での上場には、財務諸表作成コストが問題とされていたが、国際的に統一された財務報告基準(IFRS)の適用が拡大し、我が国でも強制適用が検討されている。これは、企業における財務諸表作成コストの問題を緩和するものであると同時に、投資家にとっては財務諸表の国際比較を容易にするものであり、国際的な投資活動が一層進むことが予想されよう。そこで、諸外国の金融所得課税を概観すると、特に税制の崩壊を経験した北欧諸国では、勤労性所得よりも資産性所得への課税を簡素化し、かつ軽減することで税制の崩壊を修復し、公平性を担保する努力がなされてきた。しかしながら、歴史的経緯からは、所得税に所得再分配機能が求められており、このためには包括的所得概念を採用し、かつ、勤労性所得は資産性所得よりも軽課することが求められるのである。したがって、我が国の所得税には、総合課税、かつ、勤労性所得軽課、資産性所得重課が求められるところであるが、すべての所得の間における損益通算を認めること及び資産性所得を重課することは、租税回避から生ずる税制の崩壊を招くことが懸念される。一方、勤労性所得と資産性所得とそれぞれの区分に基づく課税は、個人の合計所得による真の担税力を考慮した課税が行われ難い。そこで、我が国における金融所得課税を考慮する際には、課税ベースを広く捉え、損益通算の範囲に関しては、租税回避から生ずる税制崩壊を抑制するため、勤労性所得と資産性所得でそれぞれ区分の上、認めるべきである。そして、損益通算後の両所得を合算し、合算後の所得に基づく累進税率を適用した課税を行うことで、簡素かつ所得再分配機能を十分に備えた所得税制を構築しなければならないのである。
著者
安田 利枝
出版者
嘉悦大学
雑誌
嘉悦大学研究論集 (ISSN:02883376)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.1-24, 2005-04-30

1999年の地方自治法(LSGA)は、開発援助の与え手(ドナー)側の援助思潮ならびに開発戦略に基づいて、分権化の原則と政策、参加型開発の定式化、地方政府機関の確立に向けて相当程度包括的な法的枠組みをもたらした。しかしながら、1982年地方分権法とこれに続く分権化スキームと同様、問題は法の実効性、運用、実施にある。実施を阻害する要因として、多くの研究者が、高度に権力を集中させた封建的、権威主義的、世襲制的政治、中央政府の実質的コミットメントの欠如、財政分権化への中央省庁の抵抗、地方政府機関の弱体な管理運営能力等を指摘してきた。だがむしろ根源的な問題は、ネパールの恩顧主義の政治文化に支えられて、課題設定権力がドナーの側にあり、ネパール政治社会に適合的な制度設計の代替案が十分に検討されてこなかったことにある。
著者
谷川 喜美江
出版者
嘉悦大学
雑誌
嘉悦大学研究論集 (ISSN:02883376)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.95-114, 2009-03
被引用文献数
1

昨今、我が国では厳しい財政状況を背景に税と社会保障を一体的に捉え改革することで社会的経費を抑制し、安定的で持続可能な制度創設の要求から給付付税額控除制度が注目されている。しかし、所得税には所得再分配機能の十分な発揮が要求されており、本要求の充足には所得税の控除制度が担うべき重要な役割があると考える。そこで本論文では、まず、我が国で注目されている給付付税額控除制度をすでに所得税に取り入れている米国・英国・オランダにおける制度を整理した。その結果、複雑な税制の中に組み込まれているが故に不正受給を招き、公平を大きく阻害する制度であるという問題を抱えていることが示された。次に、我が国所得税の所得控除制度及び税額控除制度創設の背景と沿革を整理したところ、現行の我が国所得税の控除制度は昭和42年改正で制度簡素化を理由に所得控除制度へと改められたものが多数維持されていることが示された。我が国所得税では累進税率を適用しているため、所得控除制度の税軽減額は所得の大小により異なるのに対し、税額控除制度の税軽減額は変化しない。それゆえ、所得控除制度は低所得者よりも高所得者に有利に働く制度となっている。したがって、所得再分配機能を十分に発揮する所得税構築のための控除制度の確立には、複雑な我が国所得税において公平を大きく阻害し、控除制度が果たすべき機能を阻害する給付付税額控除制度の導入は認めがたく、また、所得控除制度とすべき控除は所得税を負担する者の担税力に配慮して最低生活費にまで所得税の課税が及ぶことを排除するために設けられる控除のみを認め、税額控除制度とすべき控除は制度奨励の意図や政策的意図を達成するための控除とする制度へと見直すべきとの結論に至った。
著者
上原 聡
出版者
嘉悦大学
雑誌
嘉悦大学研究論集 (ISSN:02883376)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.1-14, 2010-10-25

消費者行動研究では、消費者をコンピューターに見立てた情報処理アプローチが1970年代における主要な研究パラダイムであった。情報処理アプローチのような、認知過程を中心に展開された消費者意思決定モデルの中では、感情は認知過程の付随的要素として扱われてきた。しかし、さまざまな領域で感情の研究が進展したことを受け、1980 年代から現在にかけて、消費者行動研究のテーマとしての感情研究の重要性は徐々に高まっている。 このように、感情研究の重要性は認められてはいるが、その機能および構造が体系化された先行研究がみられないことが問題点として指摘できる。 そこで本稿の目的は、人間が日常的に行う社会的判断(意思決定)に焦点を絞り、感情を考慮した消費者行動研究を拡充していくための理論的基盤として、感情がどのような機能を果たしているか、さらに、感情をどのような構造として理解すべきかを解明することにある。そして、感情の機能と構造を解明するために社会心理学や感情心理学の知見を導入している。 結論として、感情構造を「快楽-覚醒」の2 軸により分類し、これにポジティブ感情とネガティブ感情を対応させ、それぞれをムードと情動に区分した上で、4 つの感情タイプ別に感情機能を説明することができた。最後に、この仮説を裏づけるため、社会的判断の場面である購買行動について実際にフィールド調査を実施し、データによる実証分析から、選択され易い認知処理方略を含む購買行動特性を感情タイプ別に明らかにしている。
著者
黒瀬 直宏
出版者
嘉悦大学
雑誌
嘉悦大学研究論集 (ISSN:02883376)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.93-111, 2011-03-20

戦後実施された重要産業復興策は大企業体制確立のための「原始的蓄積政策」であり、これによる中小企業の資材難・資金難が戦後最初の中小企業問題であった。朝鮮戦争をきっかけに大企業は資本蓄積を急速に進め、大企業体制を再確立した。これとともに大企業体制に起因する中小企業問題が発生した。下請代金支払遅延、大企業カルテルによる原料高・製品安などの収奪問題、収奪問題と大企業への融資集中による資金難、大企業の中小企業分野進出による市場問題が発生した。このような中小企業問題は大企業体制が確立している先進国では共通に見られるが、日本では低賃金基盤に基づく中小企業間の過当競争が著しく、中小企業問題が深刻化し、二重構造問題と呼ばれるように、中小企業と大企業の間で生産性・賃金に関し、大きな格差が発生した。中小企業問題が壁となり、中小企業は物的生産性、付加価値率とも上昇させるのが困難となり、低賃金に依存する「問題中小企業」の厚い堆積ができた。ただし、高度成長期に発展した量産型中小企業の先触れとなる輸出軽機械工業のような革新的中小企業も現れたが、この分析は次の機会とする。
著者
平井 東幸
出版者
嘉悦大学
雑誌
嘉悦大学研究論集 (ISSN:02883376)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.55-68, 2003-10-01

近年、産業集積をめぐっての論議が少なくない。学会はもとより、行政、さらには産業界でも日本経済再生とのからみもあって各方面で産業集積という用語が用いられるようなった。そして学際的な研究が国の内外で活発に行われるようになっている。ここでは、産業集積として歴史の古い繊維産地、とくに織物産地を産業集積という観点から整理をしてみたいと思う。産業集積の概念が当初の工業集積に限られた時代から最近は商業集積等を含めた広義に解釈されるようになっている。そこで、先ず産業集積の定義を試み,次いで、織物産地について歴史的形成、全国的な分布、立地条件、集積のメリットそしてデメリット等について検討する。
著者
松行 彬子
出版者
嘉悦大学
雑誌
嘉悦大学研究論集 (ISSN:02883376)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.1-17, 2002-03-30

近年、企業を取り巻く経営環境は、急速に変化し、また、きわめて複雑な様相を呈している。このような環境変化に対応して、1980年代後半を境として、企業経営のパラダイムは、それまでの内部資源重視から外部資源利用による経営資源の補完へと大きく転換し、その流れは現在にいたるまで続いている。その結果、戦略的提携、アウトソーシングなどのネットワーク型のグループ経営が数多く登場してきた。これまでのグループ経営研究においては経営資源の補完という単なる機能的な側面が注目された。しかし、本論文では、グループ経営への参加企業間では、情報を媒体とした何らかの関係性が形成され、知識移転・組織間学習が生起し、それらが企業変革を促進すると考える。そこで、本論文では、このような問題認識に基づいて、企業間の組織学習と組織間学習に着目し、その概念および特性について明らかにする。そして、企業間における組織間学習を通して、知識創造が行われ、最終的には、企業変革にいたる一連のプロセスについて検討・考察する。
著者
遠藤 ひとみ
出版者
嘉悦大学
雑誌
嘉悦大学研究論集 (ISSN:02883376)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.45-62, 2011-03-20
被引用文献数
1

近年、わが国では、地域社会の活性化、まちづくり、保健、医療、福祉、子育て支援、教育、人材育成、環境保全、食の安全と安心など、さまざまな社会的課題が顕在化している。そして、このような地域社会が抱える課題を解決するためのソーシャルビジネスが注目されている。その発展は、地域雇用政策、地域独自の雇用創出政策を目指すという観点で、大きな期待や評価を集めている。本論文では、ソーシャルビジネスに関する一考察として、その担い手として期待されるアクティブシニアに焦点を当てる。まず、ソーシャルビジネスの定義とその現状を取り上げ、その事業活動を地域課題解決型と地域資源活用型に類型し、検討していく。そして、ソーシャルビジネスの担い手であるアクティブシニアに着目し、多様な社会参画の現状と概要、ソーシャルビジネス事業における代表的な事例を取り上げ、その実態を明らかにする。また、そのアクティブシニアの多様な社会参画に欠かすことができない、ソーシャルビジネスの支援策を検討し、その可能性について論究していく。
著者
井口 正彦 大久保 ゆり
出版者
嘉悦大学
雑誌
嘉悦大学研究論集 (ISSN:02883376)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.39-55, 2012-10-26

本稿は2011年12月に南アフリカのダーバンで開催された第17回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP17)における会議プロセスに注目する。京都議定書によって義務づけられている削減目標の期間は2012年で終了するため、COP17では2013年以降の国際的な温暖化対策への一刻も早い合意が期待されていたという意味で重要な会議であった。このような背景に対し、本稿では締約国が自主的にボトムアップ式で目標や対策を決めるという流れと、締約国が法的拘束力のもとに一定のトップダウンで目標や対策を定めていくという、二つの流れに着目しながらCOP17における交渉プロセスを詳細に分析する。この結果、COP17では法的拘束力を持たず、あくまで自主的にボトムアップ方式で温暖化対策を目指したコペンハーゲン合意から、法的拘束力のある次期枠組みへの交渉に向けて舵を切った会議であったことが分かった。つまり、COP17ではすべての国が法的拘束力のある枠組みの中で科学的知見に沿った削減目標を掲げるという機会を提供したといえる。このような結果を踏まえ、今後においてはトップダウンとボトムアップの両者のバランスを考慮した「衡平性」の議論が交渉の中で重要な論点になることを提起する。