著者
道広 和美 竹森 利和 稲森 義雄
出版者
日本生理心理学会
雑誌
生理心理学と精神生理学 (ISSN:02892405)
巻号頁・発行日
vol.18, no.3, pp.205-217, 2000-12-31 (Released:2012-11-27)
参考文献数
9
被引用文献数
4 1

近畿圏で行った入浴に関するアンケート調査 (19-34歳の男女200名を対象) で, 70%以上の人が1年を通して毎日お風呂に入ると回答している位, われわれにとって入浴は日常の生活行為の一つとなっている.ところで, 日本は急速な高齢化が進み, 高齢者の事故災害死亡率では住宅内の事故によるものがここ10年間に急激に増え, 特に冬季の浴室での事故死が指摘されている.われわれは, 安全な入浴の指針作りに向けて入浴に伴う様々な身体的変化および心理的反応の計測を行ってきた.まず, 一連の入浴行為の様々な時点で, 血圧計測を行ってみたところ, 入湯時と出湯時に血圧が大きく変化することを見出した.そこで, 10名の健康な男子 (19-25歳) を被験者として, 入湯時および出湯時に見られる血圧変化を, フィナプレスを用いて詳細に計測した.湯温は38℃と40℃ (いずれも10分間の入浴) であり, 湯船に素早く出入りする動作とゆっくりと出入りする動作の違いを検討した.今回は入湯および出湯動作に注目したため, 寒さによる血圧変動が起こらないように脱衣室および浴室の温度は25℃にした.入湯時, 動作開始直後に血圧は上昇し, その後下降した.脈拍数は増大した後, ゆっくりと元のレベルに回復した.入湯時には湯温や動作速度による血圧変化や脈拍変化の違いはなかった.出湯時, 血圧は大きく下降し, 脈拍数は増大した.血圧の低下量は, 速い出湯動作の方が大きかった.また, 収縮期血圧の低下は, 湯温の高い方が大きかった.脈拍数の増大量は, 湯温の低い方が大きかったが, それは40℃・10分間の入浴によって出湯時にはすでに脈拍数が増大していたためであり, その分, 入浴で低下していた収縮期血圧の下降が出湯時に更に大きくなったと考えられた.1拍毎の血圧を計測することによって, 入湯時・出湯時に急激な血圧低下が生じていることを確認した.特に, 出湯時の血圧低下は大きく, 一気に立ち上がると危険であることが示され, ゆっくりと動作するだけで血圧低下は改善されることを確認した.
著者
入戸野 宏 小野田 慶一
出版者
日本生理心理学会
雑誌
生理心理学と精神生理学 (ISSN:02892405)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.237-246, 2008-12-31 (Released:2012-11-27)
参考文献数
13
被引用文献数
3

アナログフィルタやディジタルフィルタは, 事象関連電位 (event-related potential : ERP) の測定・分析によく使われる。しかし, 不用意にフィルタをかけるとERP波形が大きく歪んでしまうこともある。本稿では, フィルタがどのように作用し, 時間領域に表現された信号にどう影響するかについての基礎知識を提供する。アナログフィルタとディジタルフィルタの簡単な紹介に続き, フィルタについての3つのよくある誤解について述べる。 (1) フィルタを適用した波形には遮断した周波数の信号は含まれない。 (2) ハイパスフィルタはいつも時定数として表現できる。 (3) ゼロフェーズフィルタは波形を歪めない。これら3つの命題はどれも正しくない。最後に, ERP研究におけるフィルタの使用についていくつか提案する
著者
大湾 麻衣 入戸野 宏
出版者
日本生理心理学会
雑誌
生理心理学と精神生理学 (ISSN:02892405)
巻号頁・発行日
pp.2003br, (Released:2020-07-04)
参考文献数
25

ハイレゾリューション音源はCDより時間方向あるいは振幅方向の解像度が高く,その高周波成分が生理状態に影響を及ぼすという報告がある。本研究では192 kHz/24bitで録音された自然環境音(オリジナル音源)にフィルタをかけ,高周波成分(>22 kHz)をカットした2種類の音源(サンプリング周波数192 kHzと44.1 kHz)を作成した。24名の大学生が3種類の音刺激をランダムな順で聴取した。脳波のシータ帯域(4.0–8.0 Hz)とスローアルファ帯域(8.0–10.5 Hz)のトータルパワーは,サンプリング周波数が高い音を聴取しているときの方が高くなった。主観的気分や音質評価には明瞭な条件差が認められなかった。この結果は,CDよりもサンプリング周波数が高い音源は,意識的に違いに気づかなくても生理状態に影響を及ぼすことを示唆している。
著者
堅田 明義
出版者
日本生理心理学会
雑誌
生理心理学と精神生理学 (ISSN:02892405)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.25-38, 2012 (Released:2013-01-25)
参考文献数
61

知的障害児に関する生理心理学的研究は知的障害児の脳波基礎律動の分析的研究から始めた。当時の知的障害児脳波の特徴として,(a)α 波の低周波数化,(b)θ 波の顕著な出現,(c)不規則・不安定な脳波の出現,(d)顕著な個人差が指摘されていた。知的障害児や健常児の脳波を横断的及び縦断的研究から脳波の発達のschema を国内外で提案した。このschema は,従来のα 波周波数の連続的増加に対して,特定成分の交替を特徴とし,また特定成分を生起させるgenerator をそれぞれ有することになる。そこで,特にθ 成分とα 成分の特性の違いを明らかにすることにした。脳波のパワの変動性からθ 波とα 波のgenerator は異なり,かつθ 波のgeneratorはα 波に比べ頭皮上から一層深い位置に関連すると推測した。またθ 及びα 成分の出現の時間的相互関係,光刺激に対する応答性や部位間関係からも両成分の違いを明らかにした。これらから知的障害児脳波の特徴とされた所見のいずれも脳波の発達との関連でみられる特徴であることが指摘できた。結論的には,α 成分が低い周波数成分に対する抑制的役割をしていると想定した。
著者
河島 三幸 引間 理恵
出版者
日本生理心理学会
雑誌
生理心理学と精神生理学 (ISSN:02892405)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.33-42, 2017-04-30 (Released:2019-03-26)
参考文献数
29

本研究では,スキンケア時の意識的な自己接触が化粧品使用者の生理および心理に与える影響を検討した。実験では自己接触を化粧水の塗布後に手で顔を押さえる動作とし,生理指標には心電図計測および呼吸計測,心理指標には主観感情評価を用いた。実験の結果,化粧水塗布後に自己接触を行うことで呼吸が浅く増加し,幸福・満足感,活動的快,活力感,贅沢感や,ときめきが生起することが示された。自己接触を行うことで外に向かう自己への意識が高まり,より覚醒的な生理変化および主観感情が生じたことが示唆された。
著者
伏田 幸平 長野 祐一郎
出版者
日本生理心理学会
雑誌
生理心理学と精神生理学 (ISSN:02892405)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.181-191, 2015-12-31 (Released:2017-03-08)
参考文献数
50
被引用文献数
1

競争は心臓血管反応を増大させることが知られている。これまで,競争相手の性質,勝敗の結果,精神活動などの効果が検討されてきた。しかし,競争環境の効果が生理活動に与える影響に関しては,まだよく知られていない。本研究では競争型コンピュータ・ゲームを用い,競争環境が生理反応に与える影響を検討した。20名の大学生が,対面競争 (FF) 条件とネットワーク (NW) 競争条件の両競争条件に参加した。各条件は,4分の安静,3分の課題,3分の回復期間で構成されていた。心拍数 (HR)・指尖容積脈波 (PV)・皮膚コンダクタンス (SC) が測定された。安静期のPVは対面競争条件の方が低い値を示し,これは競争相手の非言語情報により生じた緊張感が末梢組織の血管収縮を強めた結果であると考えられた。さらに,回復期のSCは対面競争条件の方が高い値を示し,これは競争相手の非言語情報の効果を反映していると考えられた。これらの結果から,競争環境は生理活動を左右する重要な要因の1つであると言える。
著者
松田 いづみ 廣田 昭久 小川 時洋
出版者
日本生理心理学会
雑誌
生理心理学と精神生理学 (ISSN:02892405)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.43-50, 2017-04-30 (Released:2019-03-26)
参考文献数
19
被引用文献数
2

隠匿情報検査では,被検査者が犯罪関連情報を認識しているかを調べる。本研究では,隠匿情報検査において,鼻尖部の皮膚血流量を測った。参加者20名が,犯罪関連項目を認識している条件としていない条件で隠匿情報検査を受けた。鼻尖血流量は,認識がある項目に対して,認識がない項目に対してよりも低下した。この鼻尖血流量の時間的な変化は,隠匿情報検査の既存の指標である指尖血流量とは異なっていた。また,鼻尖血流量により,各参加者の犯罪関連情報に対する認識の有無を有意に正しく判定できた。本研究の結果は,鼻尖血流量が隠匿情報検査の新たな指標になりうることを示している。
著者
田中 秀樹 松下 正輝 古谷 真樹
出版者
日本生理心理学会
雑誌
生理心理学と精神生理学 (ISSN:02892405)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.61-71, 2007 (Released:2012-11-27)
参考文献数
40
被引用文献数
4

本稿では, 高齢者の睡眠と健康, 高齢者の不眠の特徴について概説するとともに, 健康生活の必須条件である快適な睡眠確保に有効な生活指導法を科学的根拠, 地域保健現場での実践例を交えながら紹介する。高齢者に短時間の昼寝と夕方の軽運動による生活指導を4週間を実施した結果, 睡眠の改善, 夕方以降の居眠りの減少が認められ, 夕方以降の覚醒維持が重要であることが実証された。また, 認知・行動的介入により, 睡眠の改善に伴い, 精神健康や身体健康の改善が認められた。高齢者の睡眠健康改善のための認知・行動的介入技法は, 高齢者のQOLやADLの向上にも有効であることが示唆された。
著者
尾崎 由佳
出版者
日本生理心理学会
雑誌
生理心理学と精神生理学 (ISSN:02892405)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.67-74, 2010 (Released:2011-08-26)
参考文献数
27

社会的認知研究は, その創始当初から主に社会心理学の手法を主に研究が進められてきた。1990年代に社会神経科学が興隆して新たな視点と手法が持ち込まれたことにより, 社会的認知研究は大きな進展を遂げつつあり, 今後の展開にも期待が集まっている。本論文の目的は, 社会神経科学が社会的認知研究にもたらす恩恵と今後の可能性について, (a)仮説的構成概念の検証, (b)プロセスモデルの検証, (c)非意識的プロセスの検証という3点から論じることである。
著者
大塚 結喜 苧阪 直行
出版者
日本生理心理学会
雑誌
生理心理学と精神生理学 (ISSN:02892405)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.11-18, 2005-04-30 (Released:2012-11-27)
参考文献数
22
被引用文献数
2 5

言語性ワーキングメモリの個人差に影響を与えていることが知られている前部帯状回 (anterior cingulate cortex : ACC) と前頭前野 (prefrontal cortex : PFC) 間の脳内ネットワークに対する加齢の影響を検討した.機能的磁気共鳴画像法 (fMRI) を用いて, 言語性ワーキングメモリの個人差を測定するリーディングスパンテスト (RST) を遂行中の若年者と高齢者の脳活動を比較した.その結果, 高齢者はACCとPFCの信号変化の時系列相関が若年者よりも有意に低く, ACCとPFCの間の機能的結合性が加齢の影響で弱くなっていることが示された.以上の結果から, 高齢者の言語性ワーキングメモリが衰退する原因はACCとPFCの間のネットワークが加齢の影響で劣化していることにある可能性が示された.
著者
広重 佳治
出版者
Japanese Society for Physiological Psychology and Psychophysiology
雑誌
生理心理学と精神生理学 (ISSN:02892405)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.217-225, 2012

本研究は軽度断眠(部分断眠)が睡眠のホメオスタシス調整を駆動するか否かを実験的に検証した。5名の参加者(19~25歳)は,4夜の自宅睡眠の観測後,睡眠実験室にて連続4夜の睡眠ポリグラフを受けた。就床時刻は第1夜,第2夜および第4夜を午後11時,第3夜を午前2時とした。起床時刻はいずれも午前7時であり,したがって第3夜は総就床時間が5 時間に制限された。レム睡眠関連の睡眠変数の点から実験夜をとおして第1夜効果(ストレス夜)の順応が見られたが,これと対照的に第3夜ではノンレム睡眠と脳波δ帯域パワが睡眠初期の3時間に有意に増えた。第3夜は眠気を除いて出眠後の睡眠感にも改善がみられた。本研究は不眠症改善に適用される睡眠制限療法にホメオスタシス調節が関与する可能性を支持する基本的証拠を提供するものと思われる。
著者
藤原 修治 余語 真夫
出版者
日本生理心理学会
雑誌
生理心理学と精神生理学 (ISSN:02892405)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.193-203, 2011-12-31 (Released:2012-06-27)
参考文献数
26
被引用文献数
1

本研究では,実験室での急性ストレス課題に対する唾液中の免疫グロブリンA(s-IgA)の反応について,時系列的な変化を検討した。29名の実験参加者が,1 週間おきに三つの課題-能動的対処を要するストレス課題として暗算,受動的対処を要するストレス課題として寒冷昇圧,統制課題として中性映像の視聴-に取り組んだ。各実験条件について,安静期,課題期,回復期にわたって計5回唾液検体を採取した。実験の結果,暗算条件においてs-IgA分泌量は,統制条件に比べて課題の前半に有意に減少し,課題終了直後に有意に増加した。これに対して,寒冷昇圧条件においてs-IgA分泌量は,統制条件に比べて課題終了直後に有意に減少した。これらの結果は,能動的対処課題と受動的対処課題を実施した際のs-IgAの測定値が,唾液採取のタイミングにより影響を受けることを示している。
著者
杉本 史惠 片山 順一
出版者
日本生理心理学会
雑誌
生理心理学と精神生理学 (ISSN:02892405)
巻号頁・発行日
pp.1403oa, (Released:2014-10-18)
参考文献数
21
被引用文献数
1

本研究は,体性感覚プローブ刺激と聴覚プローブ刺激に対するP300の振幅がトラッキング課題の難度を反映するか検討し,この難度の効果がプローブ刺激のモダリティによって異なるかを調べた.実験参加者はトラッキング課題中に,体性感覚または聴覚オドボール課題を二次課題として行った.手首と指への電気刺激と,2種類の音刺激を標準(呈示確率.80)または標的 (.20) プローブ刺激として呈示した.参加者は標的プローブ刺激に対してマウスのボタン押し反応を行った.標的刺激に対するP300振幅は体性感覚と聴覚プローブどちらに対しても,トラッキング課題の難度が低い場合に比べて高い場合に減衰した.本研究はプローブ刺激に対して二次課題を行う手続きにおいて,体性感覚プローブ刺激と聴覚プローブ刺激に対するP300が主課題への注意配分量に対して同程度の感度を持つことを示す.
著者
中村 航洋 川畑 秀明
出版者
日本生理心理学会
雑誌
生理心理学と精神生理学 (ISSN:02892405)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.9-26, 2016-04-30 (Released:2017-12-28)
参考文献数
76
被引用文献数
1

脳機能画像技術の発展に伴い,人が主観的に経験する美がどのような脳神経過程によって生み出されているかを研究する神経美学が近年注目を集めている。これまでの脳機能画像法による計測から,視覚芸術や人間の身体に対して主観的に美が経験されている際には,情動的処理システム,認知的処理システム,感覚運動的処理システムの少なくとも3つの機能的に独立した神経システムが駆動することが示されてきた。情動的処理システムは美の知覚に伴う快情動の経験において中核的役割を果たし,脳の報酬系を構成する眼窩前頭皮質や腹側線条体の神経活動は美的評価の程度と相関する。また,認知的処理システムは美的印象評価の決定に必要とされる情報の統合を担い,背外側前頭前野の関与が指摘されてきている。さらに,具象画や顔,身体像などの知覚処理を担う感覚運動的処理システムは,対象に特定的な知覚処理のみならず,対象の視覚美も表現していることが明らかになってきた。近年では,このような美的経験の神経基盤を計測するのみならず,経頭蓋磁気刺激や経頭蓋直流電気刺激などの脳刺激法を導入した研究も行われ,美的経験はその背後にある神経活動状態を脳刺激によって修飾することで操作されることが明らかになってきた。こうした脳機能画像法と脳刺激法による神経美学的研究から,美は報酬価値表象,意思決定,感覚運動に関わる神経システムの複雑な相互作用によって生み出されていることが示唆される。
著者
木村 健太 井澤 修平 菅谷 渚 小川 奈美子 山田 クリス孝介 城月 健太郎 長野 祐一郎 長谷川 寿一
出版者
日本生理心理学会
雑誌
生理心理学と精神生理学 (ISSN:02892405)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.41-51, 2016-04-30 (Released:2017-12-28)
参考文献数
30
被引用文献数
1

本研究は,急性心理社会的ストレスに対するコルチゾールの反応性が脅威刺激からの注意解放の困難さと関連するか否かを検討した。この目的のため,手がかり刺激の提示時間を比較的長くした(1,000 ms)空間手がかり課題を用いて怒り顔への注意バイアスを計測した。実験参加者は,急性心理社会的ストレス課題を行った後空間手がかり課題を行った。本研究では,急性心理社会的ストレス課題により上昇した唾液中コルチゾール値に基づき,実験参加者をコルチゾール反応者と非反応者に分けた。その結果,反応者は怒り顔に対する注意の解放困難を示したのに対して,非反応者は怒り顔からの迅速な注意解放を示した。これらの結果は,急性心理社会的ストレスに対するコルチゾールの反応性の高さが脅威刺激からの注意解放の困難さと関連することを示唆する。
著者
山村 武彦 佐々木 紀彦
出版者
日本生理心理学会
雑誌
生理心理学と精神生理学 (ISSN:02892405)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.61-69, 1990
被引用文献数
1

対比較対照質問法による各60個の関係質問及び対照質問が含まれる20例の精神生理学的虚偽検出ポリグラフ記録の心拍反応の変化について分析した.資料に対する判定結果は, 半数の虚偽判定が被検者の有罪宣告 (虚偽事象), 残り半数の真実判定が容疑事実無し (真実事象) という法的結果により確認された.質問提示時の6拍を質問期間, 返答時10拍を返答期間として, それぞれ質問表提示前5拍の値との比を求めて心拍の変化とした.その結果, トニックな心拍変化において, 真実事象に較べ虚偽事象で心拍が増大していた.フェイジックな心拍では, 虚偽事象の質問期間中の関係質問と対照質問, 真実事象の質問期間中の関係質問に対して加速された.一方, 返答期間中には有意な心拍の変化は指摘されなかった.<BR>これらの結果は, 実務の虚偽検出事態では, トニックな心拍変化が虚偽と真実の識別に重要な役割を担っているが, フェイジックな心拍変化は見かけ上有効でない事が指摘された.従って, 実務事態では, 被検者の構えによる注意過程由来性の心拍変化が重要であると考えられた.
著者
松浦 倫子 林 光緒 堀 忠雄
出版者
日本生理心理学会
雑誌
生理心理学と精神生理学 (ISSN:02892405)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.61-69, 2002
被引用文献数
2

本研究では習慣的自己覚醒が夜間睡眠に及ぼす効果を検討した.朝, 習慣的に自己覚醒している13名の被験者が2夜の実験夜に参加した.1夜は強制覚醒夜で, 被験者は習慣的な起床時刻に実験者によって強制的に起こされた.もう1夜は自己覚醒夜で, 被験者は習慣的な起床時刻に自己覚醒を試みた.就床直前の不安, 夜間のポリグラフ記録, さらに起床直後の睡眠の主観的評価が分析された.19夜の自己覚醒夜のうち, 自己覚醒に成功したのは8夜 (42.1%) であった.不安, 睡眠の主観的評価, 睡眠段階1の出現量以外の睡眠変数には, 強制覚醒夜と自己覚醒夜の間で有意差は認められなかった.これらの結果は, 習慣的自己覚醒は夜間睡眠, 起床後の気分, 睡眠満足感を悪化させないことを示唆している.
著者
伏田 幸平 長野 祐一郎
出版者
日本生理心理学会
雑誌
生理心理学と精神生理学 (ISSN:02892405)
巻号頁・発行日
pp.1502oa, (Released:2015-11-19)
参考文献数
50

競争は心臓血管反応を増大させることが知られている。これまで,競争相手の性質,勝敗の結果,精神活動などの効果が検討されてきた。しかし,競争環境の効果が生理活動に与える影響に関しては,まだよく知られていない。本研究では競争型コンピュータ・ゲームを用い,競争環境が生理反応に与える影響を検討した。20名の大学生が,対面競争 (FF) 条件とネットワーク (NW) 競争条件の両競争条件に参加した。各条件は,4分の安静,3分の課題,3分の回復期間で構成されていた。心拍数 (HR)・指尖容積脈波 (PV)・皮膚コンダクタンス (SC) が測定された。安静期のPVは対面競争条件の方が低い値を示し,これは競争相手の非言語情報により生じた緊張感が末梢組織の血管収縮を強めた結果であると考えられた。さらに,回復期のSCは対面競争条件の方が高い値を示し,これは競争相手の非言語情報の効果を反映していると考えられた。これらの結果から,競争環境は生理活動を左右する重要な要因の1つであると言える。