著者
櫻井 康人
出版者
史学研究会 (京都大学大学院文学研究科内)
雑誌
史林 = THE SHIRIN or the JOURNAL OF HISTORY (ISSN:03869369)
巻号頁・発行日
vol.97, no.1, pp.36-74, 2014-01-31

古来よりエルサレム巡礼がキリスト教徒にとって最も聖なる行為であったことは言うまでもないが、当然のことながらその旅を支える者たちがいた。一四世紀から一六世紀前半の「聖地巡礼の黄金期」においては、ヴェネツィアのガレー巡礼船のパトロン(船主) たちがその主役であり、彼らに着目することは聖地巡礼という「聖なる移動」をまた異なる角度から照射することができる、ということを意味する。しかし、膨大な聖地巡礼史の分野において、パトロンに着目した研究はこれまでにほとんどない。その中で、ヴェネツィア側の史料を網羅的に分析したM・ニューエットの成果は特筆すべきものがあるが、聖地巡礼記という史料群の分析が不十分であるという問題が残されたままである。 そこで本稿では、ニューエットが明らかにしてくれたヴェネツィアのガレー巡礼船システムに関する成果と、聖地巡礼記を網羅的に分析した結果との突き合わせ作業を時系列的に行うことで、ガレー巡礼船網度の変遷およびパトロンという巡礼者を運搬した者たちの全体像の把握により近づくことを目的とする。
著者
福元 健之
出版者
史学研究会 (京都大学大学院文学研究科内)
雑誌
史林 (ISSN:03869369)
巻号頁・発行日
vol.97, no.4, pp.533-569, 2014-07

本稿の目的は、一九・二〇世紀転換期におけるポーランド王国の繊維業都市ウッチに焦点をあて、労働者の政治的動員をめぐる情勢について考察することにある。行論では「工場社会」という本稿独自の分析枠組が設定され、ウッチ労働者の行動を一都市における工場内部に留まらない、帝国規模の人的ネットワークに位置づけて考察した。その結果、一八九〇年代では、労働者は法律を駆使して生活改善を目指していたものの、二〇世紀初頭における工場制度の変更をへてからは、法律ではなく政党組織に対して生活の安定を求め始めたことが明らかになった。本稿はまた、特に労働者と国民民主党との関係についても論じ、同党にとって労働者動員には階級闘争から国民的一体性を防衛するという意義があり、実際にウッチではその理念から影響を受けた組織が成立したことを解明した。以上の考察を通じて、ポーランド王国における労働運動はロシア帝国の工場政策と密接な関連性をもち、また運動の形態も階級闘争に限定されないことが示された。
著者
村上 衛
出版者
史学研究会
雑誌
史林 (ISSN:03869369)
巻号頁・発行日
vol.100, no.1, pp.106-140, 2017-01
著者
程 永超
出版者
史学研究会
雑誌
史林 (ISSN:03869369)
巻号頁・発行日
vol.99, no.6, pp.803-836, 2016-11
著者
丘 凡眞 李 在璟 金 玄耿
出版者
史学研究会
雑誌
史林 (ISSN:03869369)
巻号頁・発行日
vol.100, no.6, pp.678-706, 2017-11
著者
北林 昌史
出版者
史学研究会
雑誌
史林 (ISSN:03869369)
巻号頁・発行日
vol.100, no.3, pp.427-454, 2017-05
著者
安平 弦司
出版者
史学研究会
雑誌
史林 (ISSN:03869369)
巻号頁・発行日
vol.98, no.6, pp.871-877, 2015-11
著者
黒岩 康博
出版者
史学研究会
雑誌
史林 (ISSN:03869369)
巻号頁・発行日
vol.94, no.1, pp.125-153, 2011-01
著者
村上 亮
出版者
史学研究会 (京都大学大学院文学研究科内)
雑誌
史林 (ISSN:03869369)
巻号頁・発行日
vol.99, no.4, pp.558-586, 2016-07

本稿は、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ併合(一九〇八年一○月) を題材として、ハプスブルク独特の二重帝国体制に従来とは異なる角度から光をあてることを目的とする。とくに今回は、他の首脳に先がけて併合を上奏した共通財務相ブリアーンに着目する。具体的には彼による二つの『建自書』を中心に、併合に至るハプスブルク国内の動向の検討から、オーストリアとハンガリーの枠組みをこえた帝国全体に関わる案件(「共通案件」) の決定過程を浮き彫りにする。考察の結果、ブリアーンが占領状態に起因する民族運動をおさえるために併合を発意したこと、ブリアーンの計画が共通外務相エーレンタールらの影響を受けつつも、併合への道筋を整えたことが示される。ただし、ハプスブルク家の継承法(「国事詔書」) をめぐる折衝の不調は、ボスニアの「合法的」な併合を不可能とした。ここからは、帝国中枢における政策決定の多元性と機能不全がみてとれるのである。
著者
藤岡 真樹
出版者
史学研究会 (京都大学大学院文学研究科内)
雑誌
史林 (ISSN:03869369)
巻号頁・発行日
vol.99, no.3, pp.419-456, 2016-05

本稿は、ハーヴァード大学ロシア研究センターが空軍の人材開発研究所との契約研究に基づいて実施したソ連研究である難民聞き取り計画(RIP、一九五〇年~五四年) の歴史的経緯を大学と軍部との人的ネットワークに注目しつつ解明しようとするものである。一九五〇年、人材開発研究所とロシア研究センターは、ソ連空爆にあたっての都市選定を目的とした研究契約を締結し、ドイツとオーストリア等に居住していたソ連人難民への聞き取り調査を開始した。しかし研究者達が人々の行動に関する行動科学研究への強い関心を抱いていたことから、RIPは「ソ連の社会制度の研究」へと変貌した。これに対し連邦議会をはじめとする反共主義者が激しい攻撃を浴びせた結果、RIPは中止に追い込まれた。RIPの研究成果はその後に刊行されたものの、それらは軍部との人的ネットワークの緊密さゆえに、ソ連人難民に関する貴重な資料を用いながらもソ連の制度や社会に対する画期的な視座や知見を提示することができないという意味で、学術的な「停滞」に陥ったことを示すものとなった。ただし、こうした「停滞」状況は軍部とのネットワークが消滅することで大きく変わることになる。
著者
中山 俊
出版者
史学研究会 (京都大学大学院文学研究科内)
雑誌
史林 (ISSN:03869369)
巻号頁・発行日
vol.99, no.3, pp.388-418, 2016-05

一九世紀前半のトゥールーズの都市計画には、町の衛生の改善や経済的利益の獲得だけではなく、美しい景観の創造や記念物の保存を通じて、学術・芸術の町、「パラスの都市」として栄えていたという地元の歴史的記憶の想起を企図したものもあった。その代表例がフランス革命以前から構想されていたサン=セルナン教会堂の隔離工事である。市は教会勢力等の反対意見を抑え隔離を実行に移す中で、教会堂に隣接し見栄えの劣る旧サン=レイモン寄宿学校の解体を予定したが、中央政府と愛好家はこの計画を中止させた。中央政府はこの記念物にフランスにとって重要な歴史的価値等を、愛好家は地元の歴史的記憶等を見て取ったからだった。隔離工事の実行過程は、一九世紀前半からすでに中央と地方による歴史的記念物の評価に強調点の差異があったこと、地元の愛好家はフランスへの愛着を世紀後半期と比べるとさほど強調していなかったことをも明らかにするものだった。
著者
春日 あゆか
出版者
史学研究会 (京都大学大学院文学研究科内)
雑誌
史林 (ISSN:03869369)
巻号頁・発行日
vol.99, no.2, pp.229-256, 2016-03

イギリスの大気汚染史においては王権による煤煙対策が行われた一七世紀と近代的な煤煙対策が始まった一九世紀以降に研究が集中している。この論文では、これまで空白期だと考えられてきた一八世紀を、近世的な煤煙対策から近代的な煤煙対策の移行期と位置づける。最初に、煙のイメージは地理的、時間的、社会的に多様性を持つものであったこと、煙が必ずしも否定的なイメージを伴っていなかったことを明らかにする。煤煙対策としては、工芸振興協会から出された煤煙を削減する技術に関する懸賞が見られたが、本格的な対策はボールトン・ワット商会による技術の発明が最初であり、これは利用が拡大した蒸気機関による煤煙問題への対応だった。この発明は改良法への煤煙条項の導入を後押しするものだった。産業革命と大気汚染対策には、対策枠組みの形成という面においてはほとんど時間的なずれがないことを示す。