著者
鹿野 嘉昭 Yoshiaki Shikano
出版者
同志社大學經濟學會
雑誌
經濟學論叢 = Keizaigaku-Ronso (The Doshisha University economic review) (ISSN:03873021)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.159-186, 2007-09-20

江戸時代の日本では、藩札という事実上の不換紙幣が地方所在の大名領国における日常の交換手段として広く普及していた。この藩札の流通状況に関しては、その大部分は濫発とともに幕末にかけて価値が大きく下落し、領民の生活に悪影響を及ぼしたとされることが多い。仮にそうだったとした場合、明治政府が発行する不換紙幣を誰もが喜んで交換手段として受け入れたとは考え難い。しかし、明治通宝という政府不換紙幣がすんなりと受け入れられたほか、藩札と新貨幣との交換も順調に進んだのである。本稿は、藩札濫発論に問題があるのではないかという視点から、明治初年に作成された各種の資料などを利用して江戸後期における藩札発行高の推移を独自に推計のうえ、貨幣論の立場から改めて藩札濫発論の妥当性について検討しようとするものである。その結果、藩札濫発論あるいは価値下落論のいずれとも支持されえなかった。だからといって、藩札の増発自体を否定するものではない。むしろ、藩札の増発は、徳川幕府が万延の改鋳後に財政赤字補填を目的として採用した通貨増発政策、それに伴って生じた銀相場の大幅な下落や国内一般物価の騰貴に起因するものと観念される。
著者
鹿野 嘉昭 Yoshiaki Shikano
出版者
同志社大學經濟學會
雑誌
經濟學論叢 = Keizaigaku-Ronso (The Doshisha University economic review) (ISSN:03873021)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1-2, pp.35-79, 2010-09-20

本稿は、明治初年に実施された旧藩札と新貨との交換(藩札整理)の実態について数量分析の立場から明らかにすることを狙いとしており、次のような興味深い事実を見出した。藩札の新貨との交換価格は各地における金銀銭相場を基準にして全国一律のルールにしたがって藩ごとに個別に決定されたが、届相場が九六銭12貫500文以下となった諸藩発行の銭札・銀札については、全国一律に1貫文8銭あるいは100文当たり8厘、市場実勢との比較において2~3割ほど割安な水準で新貨に交換された。明治政府が承継した藩札債務は3855万円から最終的には2493万円に更生減額されたが、その8割は先に掲げた交換価格の設定方法に由来する。そうであるがゆえに、大蔵省としても「官吏を派遣し精密な調査を行った結果、諸藩から報告のあった藩札の流通価格が大きく減額されたため」としか説明できなかったのであろう。
著者
小野塚 佳光 Yoshimitsu Onozuka
出版者
同志社大學經濟學會
雑誌
經濟學論叢 = Keizaigaku-Ronso (The Doshisha University economic review) (ISSN:03873021)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.1-49, 2006-12-20

本稿は、2001年末のアルゼンチン危機を、国際政治経済学の基本命題を意識して、多角的に理解する。通貨危機の重要な条件は、経済学から見て、兌換制と財政赤字であった。しかし危機に至る過程では、さまざまな選択肢や矛盾した要求、社会運動があった。それらを結びつける制度やイデオロギー、指導的役割を担った個人は重要な影響を与えた。アメリカやIMF、国際社会には危機を回避する十分な合意や政治的意志を欠いていた。
著者
船橋 恒裕
出版者
同志社大學經濟學會
雑誌
経済学論叢 (ISSN:03873021)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.439-452, 2008-03

医療サービス同様、介護サービスについても、地域間に大きな格差があるといわれている。そこで、本稿では、近畿地方において、介護費用におよぼす要因を明らかにし、地域において特徴や大きな違いがあるのかを示したい。結論として、介護保険における回帰分析から、全ての府県で、「老年人口」が介護費用の増加に大きくかかわっていることが示された。その他、「介護給付件数」と「高齢者世帯」が、医療費に影響を与えることが判明した。論説(Article)
著者
木山 実
出版者
同志社大學經濟學會
雑誌
経済学論叢 (ISSN:03873021)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.1312-1282, 2013-03

明治9年に設立された三井物産は、先収会社と三井組国産方という2つの源流が合流して成り立つものであった。本稿は、その源流の1つである先収会社および草創期三井物産には、どのような人材が勤務していたのかを明らかにしたものである。本稿では、先収会社には従来想定されていたよりも多くの人員が勤務していたこと、また先収会社時代から慶応義塾出身者が何人か雇用されていたことを示した。義塾で近代的な西洋式簿記や外国語の知識を身につけた彼らは、貿易商社たる三井物産の基礎を構築するのに貢献したと考えられるのである。論説(Article)
著者
上ノ山 賢一
出版者
同志社大學經濟學會
雑誌
経済学論叢 (ISSN:03873021)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.575-593, 2012-03

本稿は内生成長を伴う世代重複モデルを用いて、習慣形成が貨幣供給率の変化による経済成長率の変化に対してどのような影響をもたらすのかを分析した。その結果、均衡が一意に決定する場合には、貨幣成長率の上昇は、内生成長率を低下させることが示された。その一方、均衡が複数となる場合には、高成長率となる均衡はサンスポット均衡となり、貨幣成長率の上昇が内生成長率を上昇させるが、低成長均衡では低下させる可能性があることが明らかとなった。研究ノート(Note)
著者
室田 武
出版者
同志社大学
雑誌
經濟學論叢 (ISSN:03873021)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.283-319, 2008-12

論説(Article)2007年現在、瀬戸内海北岸の山口県上関町において、複数の裁判が進行中である。問題は、入会地、神社有地、そして漁業者の生活に影響を及ぼす、中国電力株式会社による原子力発電所の建設計画が発端であった。本稿では、まず、原発は地球温暖化防止に寄与するという中国電力の宣伝が妥当かどうかを、温排水問題を中心に批判的に検討する。さらに、中国電力と地元関係者が争う裁判、ならびに神社本庁をめぐる裁判の過程を整理する。最後に、瀬戸内地方に環境破壊をもたらしかねない原発計画に関する司法判断の問題点を、上級審に着目しながら明らかにする。Fearing an impending environmental and social crisis, some commoners and fishermen in Kaminoseki Town have filed cases at various levels against the Chugoku Electric Power Company, which has announced the plan to build a nuclear power plant on the coast of the Seto Inland Sea. The purpose of this paper is threefold. First, by focusing on the issue of massive warm-water current, the paper inspects the advertisement of the company claiming that electric power generation by nuclear reactors contributes to the prevention of global warming. Second, the paper organizes the cases according to the plaintiffs against the corporation at each level of court, also taking up the problematic standpoints of the National Agency of the Shinto Shrines and a local shrine. Third, the paper attempts to critically examine the attitude of the judiciary toward the problem of nuclear power and shows that the judgments of the higher court have tended to be more in favor of nuclear power than those of the lower courts, at least until today.
著者
三俣 延子 Nobuko Mitsumata
出版者
同志社大學經濟學會
雑誌
經濟學論叢 = Keizaigaku-Ronso (The Doshisha University economic review) (ISSN:03873021)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.259-282, 2008-09-20

主として編纂物に所収される歴史資料を分析することにより、近世京都における屎尿肥料取引の実態を解明し、エントロピー論や物質循環論にもとづいて考察する。分析の結果、都市から近郊農村への屎尿肥料の供給は主として金銭を介しての売買によるものであったことが判明する。これを「屎尿経済」と定義するとともに、この金銭を介した経済活動が増大したエントロピーの処分を行いながら物質循環を活発化させる経済循環として機能し、持続可能な社会の実現に大きな役割を果したことを述べる。