著者
遠藤 信介
出版者
安全工学会
雑誌
安全工学 (ISSN:05704480)
巻号頁・発行日
vol.41, no.6, pp.406-414, 2002-12-15 (Released:2017-01-31)
被引用文献数
1

航空機は,運航中に遭遇するさまざまな事態の下でも安全に飛行できるよう,システムごとに,故障解析,信頼性解析を行い,一定の安全目標が達成されていることを確認することが要求されているが,設計時に想定された安全性,信頼性を長期問維持するには,適切な検査,修復,交換などの整備を行う必要がある.本稿は,航空輸送の安全性について過去の実績とほかの社会’活動との比較を紹介し,設計における安全の目標の設定方法,設計・製造時に想定された安全性,信頼性を維持するための整備方式 などについて概説する.
著者
鈴木 宣弘
出版者
安全工学会
雑誌
安全工学 (ISSN:05704480)
巻号頁・発行日
vol.52, no.5, pp.291-299, 2013-10-15 (Released:2016-07-30)
参考文献数
2

「対等な競争条件」の名目の下に「企業利益の拡大にじゃまなルールや仕組みは徹底的に壊す,または都合のいいように変える」ことを目的として,人々の命,健康,暮らしよりも企業利益を追求するのがTPP である.特に,食料については,米国の穀物メジャー,種子を握るバイオメジャー,食品加工業,肥料・農薬・飼料産業,輸出農家などが,例外なき関税撤廃で各国の食料の生産力を削ぎ,食品の安全基準などを緩めさせる規制緩和を徹底し,食の安全を質と量の両面から崩して「食の戦争」に勝利することを目指している.TPP と国内の規制改革,国家戦略特区が表裏一体で,このまま,一握りの人々のための「今だけ,金だけ,自分だけ」の政治が暴走したら,国民の安全・安心な暮らしを守ることはできない.
著者
岸本 充生
出版者
安全工学会
雑誌
安全工学 (ISSN:05704480)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.214-219, 2014-08-15 (Released:2016-07-30)
参考文献数
7
被引用文献数
4

自然災害起因の産業事故はNatech と呼ばれ,自然災害と産業事故の間をつなぐ新しい分野として研究が進められている.本稿ではNatech 概念を紹介するとともに,前半において,Natech 文脈における,リスクとレジリエンスの概念を整理するとともに,Natech リスク評価のプロセスやスコープの拡大について概説した.後半では,重要な事故を起点として,主に専門家の認知が変化し,法規制ギャップの調査が実施され,その結果に基づき,法規制が更新される,というサイクル・モデルを紹介するとともに,戦後のNatech 規制の更新の歴史的経緯を,このモデルを念頭に置きながら,屋外石油タンク,高圧ガス施設,石油コンビナートを対象に整理した.
著者
宇於崎 裕美
出版者
安全工学会
雑誌
安全工学 (ISSN:05704480)
巻号頁・発行日
vol.58, no.6, pp.412-418, 2019-12-15 (Released:2019-12-15)
参考文献数
6

リスク・コミュニケーションに限らず,事業者の意見や主張あるいは情報はステークホルダーにただ伝えるだけでは意味はない.理想は,相手に伝わり,その結果,相手の行動や社会に変化が起きるような実効性のあるコミュニケーションが実現することである.しかし,「本音と建て前」や「忖度」がまん延する日本社会では,ステークホルダーとのコミュニケーションは容易ではない.本稿では,リスクの伝え方だけではなく,コミュニケーションそのもののとらえ方と有能なコミュニケーター育成のための方法を紹介する.また,現在の日本におけるネットやマスコミなどのメディアの影響力について実態を解説し対策についても提案する.
著者
岡部 信彦
出版者
安全工学会
雑誌
安全工学 (ISSN:05704480)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.10-16, 2016-02-15 (Released:2016-07-01)
参考文献数
10

人類は感染症に対して,かなりの克服をしてきたが,近年感染症に関する話題が多い.WHO(世界保健機関)は,1990 年代より新興再興感染症(emerging/re-emerging infectious disease)という概念を導入し,感染症に対する強化を図り始めた.感染症が再び我々にとって身近な問題として戻って来た大きな要因として,人口の増加と都市化,集団生活機会の増加,食習慣・生活習慣の急速な変化,自然環境の破壊,人の住居地の拡大による人と野生動物の距離の接近など,多くのものが挙げられる.そして交通機関の発達による人と物の大量なしかも短時間での移動は,病原体の移動をも容易にした.本稿では,最近話題になった,鳥インフルエンザ,デング熱,エボラ,MERS などの現状と課題について述べた.
著者
松井 康人 長野 有希子 橋本 訓 吉崎 武尚
出版者
安全工学会
雑誌
安全工学 (ISSN:05704480)
巻号頁・発行日
vol.58, no.5, pp.337-344, 2019-10-15 (Released:2019-10-16)
参考文献数
11

国立大学の法人化に契機として,京都大学では安全管理の強化が行われた.2010 年以降に発生した約 1 900 件の事故情報を対象としてリスクを定量的に評価するために,アンケートのパラメータ間の比較と自由記述部の自然言語処理を用いた分析を実施した.分類毎の事故の報告数では,針刺し,転倒,交通事故,体液曝露,切れ・こすれの合計が,総報告数の7 割近くを占めていた.発生月は6 月が最大であり, 11 月も多い二峰性を示していた.自然言語処理では,車道から歩道に移動する際の自転車による転倒など,分類調査だけでは分からなかった傾向を,ベクトル俯瞰図から得た.またこれらの転倒は,接触型とスリップ型に分類でき,それぞれの要因についても明らかにした.
著者
鷹野 澄
出版者
安全工学会
雑誌
安全工学 (ISSN:05704480)
巻号頁・発行日
vol.50, no.6, pp.488-494, 2011-12-15
参考文献数
9

<p>緊急地震速報は気象庁が観測点で地震を検知したら,その震源と規模を推定し,各地の震度を推定して提供される防災情報である.この情報は一つの地震で何度も出され,最初の情報は,地震検知から3 ~5 秒後に出されている.推定震度が5 弱以上の場合を警報と定義し一般向けに提供される.この緊急地震速報を減災に活用するには,事前の訓練と周辺の安全エリアの確保が重要である.東日本大震災では警報発表時には,地震の規模と震度がともに過小評価され,後続の情報で規模や震度がいつまでも大きく成長した.これは巨大地震の時の緊急地震速報の姿そのものであったが,後続の情報は活かされず課題を残した.現在日本列島の地震活動が活発化し,内陸直下型地震への注意も必要であるが,緊急地震速報のみでは直下型地震には対応できず,直下型地震対応の情報システムの実現が急務となっている.</p>
著者
古家 泰三
出版者
安全工学会
雑誌
安全工学 (ISSN:05704480)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.125-134, 1990-04-15 (Released:2017-10-04)

この究明を通じて,日本の火災統計のうちで,「死因別の火災による死者数の推移」は,その集計過程に問題点があると指摘した, この分析結果から,焼死者発生の問題点は,集積した易燃性可燃物の急激な延焼拡大である.建物内に合板内装材,プラスチック,紙類,繊維類が集積していると,これらに火源から着火して急激に拡大 する。 このような急激な延焼拡大は,必然的に酸素不足の不完全燃焼になるので,出火建物内に高濃度の一酸化炭素を含んだ煙が充満する。この煙に取りまかれた滞在者は,短時問でCO中毒になり,行動不能 で倒れ,避難することができなくなる. この事例研究から,火災による死者発生要因を究明するうえで,消防が行う火災原因調査事務は,重要な役割を果たすことができる、そのためには,調査過程では監察医による死体検案結果をぜひとも参考にすべきである.また,焼死者の煙中における,短時間での行動不能原因についても,究明されるべ きである.
著者
永田 宏文 萩原 隆一
出版者
安全工学会
雑誌
安全工学 (ISSN:05704480)
巻号頁・発行日
vol.20, no.6, pp.379-385, 1981

<p><tt><b>ガソリン注油中のポリエチレン製携行缶での発火事故,ネオプレンゴム製ボール圧送による油送管内の残油処理中の爆発事故,LPGタンク車から貯蔵タンクヘLPG移充填中の火災事故,およびアルミ粉製造プラントにおけるアルミ粉回収用パグフィルタ室爆発事故の以上4件の事例は,事故原因の調査解析の結果,いずれも静電気が着火源と考えられた.ここでは,静電気の災害に結びつく帯電過程を明らかにするための実験や,事故の発生要因等の検討結果について解説し,静電気災害防止のための一資料として提 </b></tt><tt><b>供する. </b></tt></p>
著者
海上 智昭 幸田 重雄・渡辺 美香・井上 雄介・田辺 修一・岡村 信也
出版者
安全工学会
雑誌
安全工学 (ISSN:05704480)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.165-172, 2012-06-15 (Released:2016-08-31)
参考文献数
71

人間のリスク認知は,居住する“環境”や,地理・規範・身体・心理などの要素が入り混じって構成される,広義での“文化”によって大きく左右されることがこれまでの研究で明らかにされてきている.これまでにも,文化や環境を用いて,人間のリスク認知の特徴を説明しようとする研究が行われてきている.たとえば,人種によるリスク認知の差異を扱う研究や,居住する土地への愛着心の程度からリスク認知を説明しようとした研究などが典型的な例である.また,自然災害の被災経験を持つ者や,自然災害リスクの高い地域に居住する者が,次の自然災害に備えるか否かについての議論も,近年では注目されるようになってきている.本論では,文化や環境が,人間のリスク認知に及ぼす影響について,文化心理学的・環境心理学的な研究の動向をまとめ,今後の研究への展望をまとめる.
著者
三本木 徹
出版者
安全工学会
雑誌
安全工学 (ISSN:05704480)
巻号頁・発行日
vol.29, no.6, pp.384-390, 1990-12-15 (Released:2017-09-30)

産業廃棄物行政は昭和45年以来「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」に基づいて行われてきた。しかし近年,廃棄物の排出量の増大と質の多様化,不適正処理の発生,処分場の不足などさまざまな問題点が表面化し,このような問題点への対応が求められている。このため厚生省では各種処理ガイドラインの策定やマニマェストシステムの導入を行ってきたが,現在「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」の改正も含め,制度の見直しを行っているところである.
著者
宇野 研一・高野 研一 高野 研一
出版者
安全工学会
雑誌
安全工学 (ISSN:05704480)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.115-122, 2014

<p>最近,化学産業の重大事故が続いており,業界をあげてその対策に取り組んでいるが,これらの事故の調査報告書には,直接原因に対する再発防止対策のみならず,その背景にある安全文化面の原因を追究し,安全文化醸成のための対策まで検討されている.これらの原因を安全工学会の保安力向上センターが進める安全文化診断の各要素に分類したところ,「積極関与」と「学習伝承」に分類されるものが多く見られたが,一方で,要素間にまたがるものも多く,要素間に重なりがあるためと考えられた.そこで,新たにシステムシンキングの考え方を導入し,各要素間の因果関係を考慮した因果ループを提案した.安全文化面の原因がどの要素と関連しているかを因果関係に基づくループとして認識でき,上流の要素に遡って原因検討を深めるとともに,ループ間の関係をもとに安全文化全体を視野に入れた検討が可能となる.</p>
著者
宇野 研一
出版者
安全工学会
雑誌
安全工学 (ISSN:05704480)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.109-114, 2015

1984 年のボパールの大災害を契機に設立されたCenter for Chemical Process Safety( CCPS)は,米国はじめ世界の化学産業のプロセス安全の向上を目的として各種の大会や教育プログラム,そして100 冊以上にも上る各種ガイドラインの発行を行ってきている.ここでは,まず,それらの活動の概要と,その原動力となっている組織運営の在り方についてまとめる.特に,その中核であるプロセス安全管理システムについては,安全工学会が推進する保安力の取り組みと比較検討する.CCPS のこれらの取り組みを踏まえて,我が国の化学産業の保安力に対する全般的なフィードバックについて考察した.
著者
山口 晋一 白坂 成功
出版者
安全工学会
雑誌
安全工学 (ISSN:05704480)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.124-132, 2019

<p>システム開発の要件定義工程において,STAMP/STPA の適用により得られる損失シナリオから導出したコンポーネント安全制約を,開発へ直ちにフィードバックすることは,開発早期でより安全性の高いシステムを構築する上で重要である.本論文では,STAMP/STPA での解析対象となるコントロールアクションから抽出した非安全なコントロールアクションに優先順位をつけて解析を実施する手法を示した.非安全なコントロールアクションは,システムハザードに至り,そのハザードは損失を引き起こす.そのトレーサビリティを利用して,非安全なコントロールアクションに関連づくハザードの影響度から,安全解析の優先順位をつける.システム全体を構成する各要素に対して,本論文で提案する手法でSTAMP/STPA を適用し,優先順位の高い非安全なコントロールアクションから順次,解析する.その結果として得られた,損失シナリオから導出したコンポーネント安全制約を要件定義工程へ逐次的にフィードバックする.それにより,開発早期でのより安全性の高いシステム開発を目指した.そして,放射線治療装置へ適用することで,STAMP/STPA の実施における非安全なコントロールアクションへの安全解析の優先順位づけに対する課題の解決手法を提示することができた.</p>
著者
弘津 祐子
出版者
安全工学会
雑誌
安全工学 (ISSN:05704480)
巻号頁・発行日
vol.46, no.4, pp.194-202, 2007-08-15 (Released:2016-11-30)
参考文献数
10

トラブルに対し,ヒューマンファクターの側面からの根本原因分析を実施することは,実効性の高い再発防止,さらには重大事故の未然防止に効果的である.根本原因分析結果を充実させる鍵となるのは,トラブル発生後の情報収集である.収集した情報をもとにした背後要因追究の支援方法は,世の中で提案されている根本原因手法で提示されているので,分析者のレベルや分析対象トラブルの重大性などに合わせて選択するのが望ましい.分析結果については,単独で再発防止に活用するほかに,事業所内で共有化されたトラブルの分析結果に対して傾向分析をして特徴を抽出すると活用の幅が広がる.傾向分析結果を事業所の共通的な問題点としてとらえ,安全活動を重点化することにより,活動のマンネリ化を防止できるとともに,その時々の事業所の弱点に的確に対応できるだろう.
著者
秋田 一雄
出版者
安全工学会
雑誌
安全工学 (ISSN:05704480)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.218-219, 1990-06-15 (Released:2017-10-03)
著者
吉田 道雄
出版者
安全工学会
雑誌
安全工学 (ISSN:05704480)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.2-8, 2005

<p>リーダーシップが組織の安全に及ぼす影響について,理論的・実証的研究の成果を中心に検討した.特に,<i>1</i>)リーダーシップを特性よりも行動として把握すること,<i>2</i>)リーダーシップがフォロワーたちの仕事に対する意欲や満足度,さらには安全意識にも影響を及ぼすこと,<i>3</i>)リーダーシップを改善・向上させるトレーニングによって,安全性が向上することに焦点を当て,分析と考察を行った.</p>
著者
近藤 重雄
出版者
安全工学会
雑誌
安全工学 (ISSN:05704480)
巻号頁・発行日
vol.34, no.5, pp.379-380, 1995-10-15 (Released:2017-06-30)
著者
中村 隆宏
出版者
安全工学会
雑誌
安全工学 (ISSN:05704480)
巻号頁・発行日
vol.47, no.6, pp.383-390, 2008-12-15 (Released:2016-10-31)
参考文献数
3

「危険体験」をはじめ「体験型教育」,「体感教育」といった安全教育手法が注目されている.その内容や手法は多岐にわたり,今後ともさまざまに発展する可能性を示している.一方で,今後の普及およびさらなる発展のためには,どのようなコンセプトに基づく教育であるべきかといった議論が不可避であり,危険体験という教育手法についてその成り立ちや経緯,実施上の問題点や課題についても検討・整理する必要がある. 本研究においては,さまざまな展開を示しつつある危険体験教育について,安全教育としての実質的な効果を高め有効な教育手法としての発展の方向性を探る観点から,危険体験教育を実施する教習機関などへの聞き取り調査を実施した.本稿では,調査結果の報告を含め,教育手法開発の背景,教育実施上の課題など,危険体験教育の問題点と今後の展開について検討する.