著者
阿比留 教生
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 = Japanese journal of clinical immunology (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.31, no.6, pp.432-439, 2008-12-31

近年,抗CD3抗体などの生物学的製剤を中心に,ヒト1型糖尿病の分野においても,疾患の治癒・寛解を目指し治療法の開発研究がすすめられているが,安全性,経済性などの問題を抱えている.インスリンは,ヒト,NODマウスの1型糖尿病発症に関連した主要自己抗原である.膵島浸潤T細胞に反応せず,しかも,血糖降下作用を維持する変異インスリン(B鎖16位残基アラニン置換)のみを発現するNODマウスでは,インスリン自己抗体が発現せず,糖尿病も発症しない.NODマウスに,poly I:Cをアジュバントに,インスリンB鎖ペプチドを皮下投与すると,制御性T細胞だけでなく,攻撃側のeffector細胞も膵島内に誘導する.一方,インスリンB鎖16, 19位残基を置換したアナログペプチドを,コレラトキシンをアジュバントに経鼻投与すると,強力な糖尿病発症の抑制と高血糖からの寛解を誘導した.このように,膵島抗原を用いた免疫学的治療法は,投与ルートやアジュバント,補助療法に改良を加え,制御性T細胞を優位に誘導することより,今後,ヒト1型糖尿病において,安全な発症阻止,寛解誘導の治療法となる可能性がある.<br>
著者
宮川 周士
出版者
The Japan Society for Clinical Immunology
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 = Japanese journal of clinical immunology (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.174-184, 2007-06-28
参考文献数
40

移植を待つ患者の数と実際のドナーの数の差から,今また異種移植が注目されつつある.この総説は実際の臨床を主体としてまたそれを目指した遺伝子改変したブタ作りを焦点としている.<br>   ブタの臓器にDAF(CD55)を中心としたヒト補体制御因子を発現させ,また糖転移酵素,α1,3 galactosyltransferase (α1,3GT)が作り出すα-Galエピトープ(Galα1-3Galβ1-4GlcNAc-R)をノックアウトする試みは,既にハーバード大学,ピッツバーグ大学,メイヨークリニック,ブレザジェンなどでおこなわれている.我々も,DAF (CD55)と糖転移酵素GnT-IIIを発現しこのα-Galエピトープをホモでノックアウトしたブタ,を昨年開発している.<br>   一方,臨床のブタ膵島移植は多くの国(ロシア,スエーデン,メキシコ,中国)で2005年まで行われており,アメリカでもここ3年以内に臨床治験が始まる予定である.<br>   加えて,異種移植領域の最近の研究,たとえば糖鎖抗原や補体の活性化やNK細胞やその他の免疫反応を押さえる研究を紹介する.また,ブタ内在性レトロウイルス(PERV)の感染性に関する研究も報告する.<br>
著者
山本 元久 小原 美琴子 鈴木 知佐子 岡 俊州 苗代 康可 山本 博幸 高橋 裕樹 篠村 恭久 今井 浩三
出版者
The Japan Society for Clinical Immunology
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 = Japanese journal of clinical immunology (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.28, no.5, pp.349-356, 2005-10-31
参考文献数
44
被引用文献数
9 14

症例は,73歳女性.1998年頃より口渇,両側上眼瞼腫脹が出現,2003年10月には両側顎下部腫脹を認めた.同時期に近医で糖尿病と診断され,経口血糖降下薬の投与が開始された.2004年夏頃より上眼瞼腫脹が増強したため,当科受診,精査加療目的にて10月に入院となった.頭部CT・MRIでは,両側涙腺・顎下腺腫脹を認めた.血清学的に高γグロブリン血症を認めたが,抗核抗体・抗SS-A抗体は陰性であり,乾燥性角結膜炎も認めなかった.さらなる精査で,高IgG4血症及び小唾液腺生検にて著明なIgG4陽性形質細胞浸潤を認めたため,Mikulicz病と診断した.腹部CTではびまん性膵腫大を認め,ERCPで総胆管・主膵管に狭窄を認めた.自己免疫性膵炎の合併と診断し,プレドニゾロン40 mg/日より治療を開始した.その結果,涙腺・顎下腺腫脹は消失,唾液分泌能も回復した.また膵腫大,総胆管・膵管狭窄も改善した.耐糖能障害も回復傾向にある.Mikulicz病と自己免疫性膵炎は共に高IgG4血症を呈し,組織中にIgG4陽性形質細胞浸潤を認めることから,両疾患の関連を考える上で非常に興味深い症例であると思われた.<br>
著者
溝口 史高 上阪 等
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.69-74, 2012 (Released:2012-02-28)
参考文献数
31
被引用文献数
1 1

近年様々な生理的・病的状態におけるmicroRNAの役割が明らかになってきている.特に免疫におけるmicroRNAの役割については詳細な検討が進められている.関節リウマチにおけるmicroRNAの報告は,免疫系における役割が報告されていたmiR-146とmiR-155が炎症性滑膜組織に発現することが報告されて以降,様々なmicroRNAの発現が病態に関与する可能性が報告されてきている.関節リウマチにおけるmicroRNAの役割についてはまだその一部が明らかとなったにすぎないが,今後さらに詳細な検討がなされることにより,新たな治療標的やバイオマーカーとしての役割が明らかとなることが期待される.
著者
徳永 美貴子 齋藤 和義 中塚 敬輔 中山田 真吾 中野 和久 辻村 静代 大田 俊行 田中 良哉
出版者
The Japan Society for Clinical Immunology
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 = Japanese journal of clinical immunology (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.26, no.5, pp.304-309, 2003-10-31
被引用文献数
2

症例1;14歳女性,平成13年5月多関節痛,蝶形紅斑を認め当院受診.抗核抗体陽性,腎障害,溶血性貧血(Hb 63g/dl, D-クームス(3+)), 抗ds-DNA抗体高値より全身性エリテマトーデス(SLE)と診断. PSL 60mg/日に免疫吸着・ステロイドパルス療法,シクロスポリン併用したが溶血性貧血は持続. 7月シクロホスファミドパルス療法(IV-CY) 500mg/回を開始し, 6回終了後Hb 11.4g/dlと改善.症例2;53歳女性,昭和53年SLEと診断, PSL 5mg/日で維持療法中の平成13年6月発熱と貧血(Hb 5.9g/dl)の為7月当科入院. Hb 3.4g/dl, D-クームス(3+)と進行性溶血性貧血に対しPSL 50mg/日とステロイドパルス療法施行するも改善なく8月IV-CY (500mg/回)開始. 3回終了後Hb 13.2g/dlと改善した. SLEに併発する治療抵抗性溶血性貧血に対し, IV-CYの著効例の既報は乏しく,今後の治療選択に於いて貴重な症例と考え報告する.
著者
福島 聡 尹 浩信 西村 泰治 千住 覚
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.113-120, 2011 (Released:2011-06-30)
参考文献数
14

iPS細胞作製法の開発により,任意個体の体細胞から多能性幹細胞を作製することが可能となった.iPS細胞は各種の再生医療のための細胞ソースとしてのみならず,細胞治療に用いる樹状細胞(DC)を作製するための材料としても有用であると考えられる.多能性幹細胞は,無限増殖能を有し,遺伝子導入も容易であり,より強力な効果を有するDCを無限にin vitroで作成し治療に用いることができるようになる可能性を秘めている.これまでに行われてきた多能性幹細胞由来DCを用いたがん免疫療法の研究を概説し,今後の展望を述べる.
著者
菱川 恭子 岩井 一宏
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.28, no.6, pp.372-380, 2005 (Released:2005-12-31)
参考文献数
29
被引用文献数
1 1

鉄は赤血球のみならず生体の全ての細胞に必須な微量金属であると同時に,フリーラジカルの産生源となり,毒性を有するためにその代謝は厳密に制御されている.近年,鉄代謝制御機構研究は急速な進展を見せ,鉄貯蔵量に応じて,鉄吸収を制御するホルモンであるヘプシジンが同定され,ヘプシジンが慢性炎症時の鉄不応性貧血に関与する事が示されるなど新たな展開を見せている.また,これまで明らかでなかった鉄と感染防御の関連なども明らかになり,我々は従来想像していなかった細菌感染防御機構を備えていることが明らかになってきた.本稿で近年急速に理解が進んだ生体レベルでの鉄恒常性維持機構を中心に,筆者らの研究も含め鉄代謝研究の現状を概説し,今後の展望についても簡単に述べてみたい.