著者
南木 敏宏
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.172-180, 2016 (Released:2016-06-17)
参考文献数
55
被引用文献数
17

ケモカインは細胞遊走に関わるサイトカイン様分子であり,炎症細胞の遊走により炎症性疾患に関わる.関節リウマチ(RA)の滑膜組織では多数のケモカイン発現がみられ,リンパ球,単球/マクロファージなどの炎症細胞浸潤,さらに,滑膜細胞の活性化,血管新生にも関与していると考えられている.これまでに,関節炎モデル動物ではCCL2, CCL3, CCL5, CCR1, CCR9, CXCL2, CXCL5, CXCL13, CXCL16, CXCR3, CXCR4, CXCR7, CX3CL1の阻害による関節炎抑制効果が報告されている.RA患者への投与も試みられており,CCR1阻害薬,抗CXCL10抗体による関節炎抑制が見られた.しかしながら,マクロファージやT細胞浸潤抑制が期待されたCCL2,CCR2,CCR5の阻害ではRAに効果は認めなかった.さらなる臨床試験の推進が期待される.
著者
中嶋 蘭 三森 経世
出版者
The Japan Society for Clinical Immunology
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 = Japanese journal of clinical immunology (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.71-76, 2013-04-28
参考文献数
17
被引用文献数
34

抗MDA5抗体は皮膚筋炎特異的抗体であり,同抗体陽性例は筋症状が少なく,高率に急速進行性間質性肺炎を併発し予後不良であること,高フェリチン血症・肝胆道系酵素上昇を伴うなど特徴的な臨床像を呈する.抗MDA5抗体陽性患者と陰性皮膚筋炎患者の治療前血清サイトカインを比較したところ前者では有意にIL-6, IL-18, M-CSF, IL-10が高値を示し,IL-12, IL-22は低値を示した.これらのことから,抗MDA5抗体陽性例においては単球・マクロファージの異常活性化が病態の背景に存在すると考えている.抗MDA5抗体陽性例は一旦酸素投与が必要な呼吸不全状態になると極めて救命率が低いため,診断後可及的速やかに治療介入が必要であると考えられる.ステロイド大量療法・シクロスポリン内服・シクロホスファミド間歇静注療法(IVCY)の3剤を併用した強力免疫抑制レジメンを用いることで,同抗体陽性例の予後が改善した.特に疾患活動性を反映することが報告されている血清フェリチン値は,IVCY投与約2週後に低下する傾向を認め,IVCYが同抗体陽性例の治療においてキードラッグとなることが示唆された.<br>
著者
山本 相浩 河野 正孝 茎田 祐司 藤岡 数記 永原 秀剛 村上 憲 藤井 渉 中村 薫 妹尾 高宏 角谷 昌俊 川人 豊
出版者
The Japan Society for Clinical Immunology
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.334b-334b, 2012

Allograft inflammatory factor-1(AIF-1)はラット異所性心移植モデルにおいて同定された分子量約17 kDのポリペプチドである.これまでに我々は,関節リウマチ患者の関節滑膜組織において,AIF-1の発現が滑膜細胞,単核球,線維芽細胞で亢進していることや,AIF-1が滑膜細胞の増殖,及び滑膜線維芽細胞やヒト末梢血単核球(PBMC)のサイトカインIL-6産生を促進することを報告している.前回,健常人のCD14陽性単核球において,RNA MicroarrayでAIF-1刺激による発現遺伝子を網羅的に検索し,ケモカインCCL2, CCL3, CCL7が高発現することを示した.また,これらケモカインのELISAでの定量的評価や,Cell Migration Assayでの細胞遊走能の評価も行った.今回さらに解析を進め,CCL2, CCL3, CCL7以外にもIL-6やCCL1の発現が亢進していることを明らかにし,定量的評価や細胞遊走能の評価も行った.関節リウマチにおけるAIF-1のサイトカイン・ケモカイン産生能および細胞遊走能について,考察を交えて報告する.<br>
著者
谷口 克
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.22, no.6, pp.363-367, 1999-12-31 (Released:2009-02-13)
参考文献数
16
著者
久野 千津子 中村 稔 真弓 武仁 林田 一洋 加治 良一 長澤 浩平 仁保 喜之 福田 敏郎 恒吉 正澄 大島 孝一
出版者
The Japan Society for Clinical Immunology
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 = Japanese journal of clinical immunology (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.256-264, 1995-04-30
被引用文献数
8 3

症例は20歳,女性. 1993年2月,高熱,関節痛,サーモンピンク様皮疹が出現し,白血球増多,脾腫を認め,成人スチル病と診断された. γ-globulin製剤およびprednisolone(PSL)の投与にて症状は改善した.同年9月より全身倦怠感,微熱が出現し,当科に再入院.成人スチル病の再燃を疑われ, PSL 15mg/day投与にて経過観察していたが, 10月2日,高熱と下肢にサーモンピンク様皮疹が出現. 10月7日にはGOT 3,270IU/<i>l</i>, GPT 1,880IU/<i>l</i>, LDH 5,480IU/<i>l</i>と肝障害が出現し,急速に肝不全状態となったため, methylprednisoloneによるpulse療法,血漿交換を開始した. hemophagocytosisが原因と思われる汎血球減少を合併し, VP-16による化学療法も施行.しかしDICが進行し, 11月2日死亡した.剖検所見では,肝臓は組織学的に肝細胞の広範な壊死を認め, histiocyteの浸潤を認めた.本症例はhemophagocytic syndrome(HS)により成人スチル病や急性ウイルス性肝炎と鑑別困難な症状を呈した興味ある症例と考え報告する.
著者
穂坂 茂 間中 久美 岡田 純 近藤 啓文 柏崎 禎夫
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.52-57, 1993-02-28 (Released:2009-01-22)
参考文献数
11

&全身性エリテマトーデス(SLE)は男性にはまれな疾患である.今回,われわれは男性SLE 17例を対象に,その臨床像,血清学的および内分泌学的検討を行った.発症年齢,観察期間を一致させた女性SLEと比較して,男性例では日光過敏症が有意に多く(p=0.04),リンパ節腫脹と中枢神経障害がやや多かった.腎障害は同率であったが,ネフローゼ症候群が男性に多かった.白血球減少は女性例に有意に多かった(p=0.07)が,血清学的検査で男女間に有意差は認められなかった.治療内容では,男性例により多くのステロイドホルモンが必要とされた,われわれの男性SLEは女性例に比してやや重症である傾向がみられた.血中性ホルモン値では,従来報告されているestrogenの上昇を示す症例はなく,一部の症例で大量ステロイド剤や免疫抑制剤による精腺障害,視床下部-下垂体機能障害が疑われた.
著者
五野 貴久
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.36, no.5, pp.346-346, 2013 (Released:2013-10-31)

全身性エリテマトーデス(SLE)は,自己抗原に対して過剰反応する樹状細胞やリンパ球が活性化し,抗二本鎖DNA抗体をはじめとする自己抗体の産生,補体及びサイトカインを介して,皮膚炎,関節炎,血球減少,腎炎,神経障害など全身の諸臓器に障害をきたす自己免疫疾患である.一卵性双生児におけるSLEの発症一致率は25%であり,その病因に遺伝的要因が強く関与している.SLEは,20-40歳代の若年女性に発症する頻度が高く,日光暴露にて病状の増悪を認めることから,性ホルモン,紫外線などの環境的要因もSLEの発症に関わっている.個々の症例においてSLEの病状は異なり,その臨床像は多彩である.例えば,SLEに起因する腎炎(ループス腎炎)といっても,メサンギウムの増殖と上皮下や内皮下に免疫複合体の沈着を伴う腎炎と,基底膜の肥厚が主体となる膜性腎症に分けられる.また,SLEに起因する精神・神経障害を呈するneuropsychiatric (NP) SLEでは,アメリカリウマチ学会により19の精神・神経症候に分類され,その病態は複雑で治療もしばしば難渋する.このセッションでは,SLEの予後規定因子であるループス腎炎とNP-SLEを中心に,SLEにおける基本的な病態を踏まえつつ,近年,新たに明らかとなったSLEの病態に関する研究成果をレビューし,その病態の理解を深めていきたい.
著者
中嶋 蘭
出版者
The Japan Society for Clinical Immunology
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.283-283, 2012

【背景】抗MDA5抗体は皮膚筋炎特異抗体であり,急速進行性間質性肺炎の頻度が高く予後不良であるなど特徴的な臨床像を示す.血清フェリチン高値・肝胆道系酵素上昇・血球減少・血清IL-6高値などからマクロファージ活性化が本抗体陽性例の病態に関連する可能性が示唆される.そこで本抗体陽性例における血清サイトカインの特徴を調べるとともに,多剤併用免疫抑制療法(新規レジメン)による効果を検討した.【方法】抗MDA5抗体陽性例(n=24)と陰性DM(n=23)の治療前血清サイトカインをELISAで測定した.抗MDA5抗体陽性例に新規レジメン(ステロイド大量・シクロスポリン・シクロホスファミド大量静注(IVCY))併用治療を適応し(n=12),従来治療群(n=14)と生存率を比較した.【結果】抗MDA5抗体陽性例は血清IL-6,IL-10,M-CSFが有意に高値を示し,IL-12,IL-22は低値を示した.同抗体陽性例において,新規レジメン治療群の生存率は従来治療群に比べて有意に高かった(6ヶ月生存率:75.0% vs. 28.6%,p=0.038).新規レジメン治療群ではIVCY後に血清フェリチンが一時的に低下し,生存例は連用により安定して低下した.【結語】抗MDA5抗体陽性例ではマクロファージ活性化病態が示唆され,早期にIVCYを中心とする多剤併用免疫抑制療法を施行するべきである.<br>
著者
田中 良哉
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.28-33, 2004 (Released:2004-12-28)
参考文献数
20

関節リウマチ (RA) や全身性エリテマトーデス (SLE) 等の全身性自己免疫疾患の病態形成の過程で, B細胞は自己反応性T細胞に対する抗原提示細胞, 並びに, 自己抗体産生細胞として中心的な役割を担う. CD20はB細胞に特異的な抗原であり, リツキシマブを用いたCD20抗体療法はB細胞リンパ腫を対象に保険収載される. 欧米では, 造血系自己免疫疾患, SLEやRAに対しても, CD20抗体が試用され, 認容性と有効性が報告される. 著者らは, CD20抗体療法の難治性SLEに対する有効性と免疫異常リセットの可能性を示唆している. 今後, 自己免疫疾患の治療分野で, CD20を標的とした治療が寛解導入へのブレークスルーを齎せばと期待される.
著者
池川 健 山崎 和子 西村 謙一 金高 太一 菊地 雅子 野澤 智 原 良紀 佐藤 知実 櫻井 のどか 横田 俊平
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.176-182, 2014 (Released:2014-06-30)
参考文献数
15
被引用文献数
1

症例は14歳男児.1か月以上続く弛張熱,紅斑,関節痛,筋痛を認め,抗菌薬投与では改善せず,全身型若年性特発性関節炎(JIA)を疑われた.メトトレキサートの内服,メチルプレドニゾロン(mPSL)・パルス療法2クールが行われたが,効果不十分であったため当科へ転院となった.骨髄検査で悪性所見なく,positron emission tomography(PET)で椎体骨,骨盤骨,上腕骨近位端など赤色髄への18F-FDG集積を認めた.また弛張熱,発熱時の紅斑,関節痛,筋痛があり,血液検査では白血球増多,顆粒球増多,CRP高値,フェリチン高値,IL-6高値を認めた.以上から全身型JIAと診断した.きわめて強い全身炎症があり,mPSLパルスをさらに2クール追加後,トシリズマブ(TCZ)を導入した.その効果は著しく,症状は改善した.激しい全身炎症を有する全身型JIA重症例には,トシリズマブ導入を早めることで早期に炎症を沈静化でき,ステロイドの副作用を軽減できる可能性がある.トシリズマブ治療のさらなる検討を行い,時期を違えずにトシリズマブを導入する適応の検討が必要であろう.
著者
新井 万里 水野 慎大 南木 康作 長沼 誠 金井 隆典
出版者
The Japan Society for Clinical Immunology
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.289a-289a, 2015

ヒト腸管には多種多様な腸内細菌が生息し,生体の恒常性維持に重要な役割を担っている.次世代シークエンサーを用いた解析により,炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease: IBD)・過敏性腸症候群などの腸管疾患のみならず,生活習慣病・自閉症など様々な疾患で,腸内細菌叢の構成の異常(dysbiosis)が示されている.特にIBDでは腸内細菌叢の深い関与が明らかになっており,プロバイオティクス投与による腸内細菌叢の制御メカニズムも科学的に解明されつつある.我々のグループでも,プロバイオティクスとして知られるクロストリジウム・ブチリカムが,マクロファージ・樹状細胞を介して腸管炎症を抑制する機序を明らかにした.さらに,ヒト由来の複数種のクロストリジウム属細菌が制御性T細胞を誘導して腸炎を抑制することも報告されており,複数菌種の投与がより効率よくdysbiosisを改善すると考えられている.これらの流れを受けて健常人の糞便を投与する糞便微生物移植(Fecal micro: FMT)が脚光を浴びている.難治性クロストリジウム・ディフィシル感染症に対するランダム化比較試験でFMTが著しい再発抑制効果を示したことも相まって,IBDにおけるFMTの有効性が検討されている.これまで評価は二分されており,我々のグループは本邦初となるIBDに対するFMTを開始した.新たな治療戦略につながる可能性も含め,腸内細菌とIBDの関係性およびFMTの現状を報告する.
著者
大村 浩一郎 山本 奈つき 寺尾 知可史 中嶋 蘭 井村 嘉孝 吉藤 元 湯川 尚一郎 橋本 求 藤井 隆夫 松田 文彦 三森 経世
出版者
The Japan Society for Clinical Immunology
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.310a-310a, 2012

Myelin basic protein(MBP)は神経ミエリン鞘を形成する主要なタンパクであるが,関節リウマチ(RA)において,myelin basic proteinに対する自己抗体が高率に認められることを我々は以前報告した(PLoS One 2011; 6: e20457).ヒト脳由来抽出タンパクを抗原として用いた場合,抗MBP抗体はRAの約65%に認められ,特異度は膠原病患者を対照として83%であり,またその対応抗原は主にMBPタンパク自身ではなく,シトルリン化MBPに対する抗体であることも明らかにした.一方,MBPは神経系に発現するclassic MBPと神経系のみならず血球系にも発現するGolli-MBPのアイソフォームがあり,それぞれにまたいくつかのアイソフォームが存在する.RAで認められる抗MBP抗体の対応抗原がclassic MBPなのかGolli-MBPなのかは不明であったことから,classic MBPおよびGolli-MBPのrecombinantタンパクを作成しin vitroでシトルリン化し,ELISAで抗MBP抗体を検出したところ,その感度,特異度に差は認められなかった.現在Golli-MBPのアミノ酸配列(304アミノ酸)を15種類の25アミノ酸ペプチドでカバーし,それぞれのペプチドをシトルリン化して抗原とし,12人の抗MBP抗体陽性RA患者血清を用いてELISAにてエピトープマッピングを行っている.<br>
著者
今留 謙一
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.36, no.6, pp.433-441, 2013 (Released:2013-12-31)
参考文献数
13

Epstein-Barr virus (EBV)はヒトヘルペスウイルスに属する腫瘍原性ウイルスとして1964年に世界で初めて報告されたウイルスである.しかし,世界の90%の成人が既に感染しており,死ぬまで何の疾患も引き起こさない場合がほとんどである.EBV感染細胞は多岐にわたり,B, T, NK細胞のいわゆるリンパ球系と上皮細胞系においてEBV感染が報告されている(Figure 1).EBV感染症の治療法・治療薬の研究はほとんどなされてこなかった.これはEBV感染モデル動物が存在していなかったことが大きな原因と言える.EBVはマウス・ラットなどの小動物には感染せず,霊長類にはわずかに感染するもののEBVに類似のサルヘルペスウイルスが既に感染していることで個別の解析が困難であることと高価なため研究に使用することが困難であった.適当なモデル動物が無かったためin vivoでの薬剤評価や感染実験ができず,感染直後のEBV特異的宿主免疫応答,EBV遺伝子発現,感染細胞動態などの研究の進展はゆるやかであった.今回我々はNOGマウスを使用しEBVがT/NK細胞感染モデルを作製し病態解明を試みた.その結果,モデルマウスはサイトカイン,感染細胞増殖,臓器への感染細胞浸潤など様々な患者病態を反映し再現していることが示された.また,これまでEBV感染T/NK細胞は白血病やリンパ腫の細胞と同様に腫瘍細胞であると考えられてきたが,このモデルマウスでの解析の結果感染初期は典型的な腫瘍細胞ではないことが明らかとなった.さらに,その応用として新規治療薬の評価,マイナー分画感染に対する感染細胞同定を紹介する.
著者
鑑 慎司
出版者
The Japan Society for Clinical Immunology
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 = Japanese journal of clinical immunology (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.13-19, 2011-02-28
被引用文献数
8

IL-23は樹状細胞などの抗原提示細胞が産生する.そしてIL-23はTh17細胞への分化を誘導し,Th17細胞の増殖,維持に必要である.Th17細胞は好中球を遊走するケモカイン,抗菌ペプチド,および他の炎症性サイトカインの発現を増強する.IL-23とTh17細胞が正常に機能する状態では宿主はカンジダ,黄色ブドウ球菌,溶連菌等の微生物を駆除できるが,Th17細胞が欠損した状態では易感染性となる.その一方で乾癬等の自己免疫疾患ではTh17細胞が過剰な状態になっていることが報告されている.また,様々な検体を用いた解析で,乾癬患者は健常人よりもこれらの微生物感染が多いことも報告されており,乾癬発病におけるスーパー抗原の関与も示唆されている.IL-23やTh17細胞の機能を理解することは,宿主の微生物に対する防御反応と乾癬などの自己免疫疾患をみるうえで重要な洞察をもたらし,感染症や自己免疫疾患の効果的な治療法の開発へとつながることが期待される.<br>
著者
山本 元久 高橋 裕樹 苗代 康可 一色 裕之 小原 美琴子 鈴木 知佐子 山本 博幸 小海 康夫 氷見 徹夫 今井 浩三 篠村 恭久
出版者
The Japan Society for Clinical Immunology
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 = Japanese journal of clinical immunology (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.1-8, 2008-02-28
被引用文献数
27 39 12

ミクリッツ病は涙腺・唾液腺腫脹を,自己免疫性膵炎は膵のびまん性腫脹を呈し,ともに腺組織中へのIgG4陽性形質細胞浸潤を特徴とする疾患である.私たちは,当科における全身性IgG4関連疾患(systemic IgG4-related plasmacytic syndrome ; SIPS)40例の臨床的特徴(腺分泌機能,血清学的評価,合併症,治療および予後)を解析した.男性は11例,女性は29例で,診断時の平均年齢は58.9歳であった.疾患の内訳は,ミクリッツ病33例,キュッツナー腫瘍3例,IgG4関連涙腺炎4例であった.涙腺・唾液腺分泌低下は,約6割の症例にみられたが,軽度であった.抗核抗体陽性率は15%,抗SS-A抗体陽性は1例のみ,低補体血症は30%に認められた.また自己免疫性膵炎,間質性腎炎,後腹膜線維症,前立腺炎などの合併を認めた.治療は,臓器障害を有する症例で治療開始時のステロイド量が多く,観察期間は最長16年のうち,臓器障害の有無に関わらず3例で再燃を認めた.ミクリッツ病をはじめとするSIPSの現時点における問題点と今後の展望について述べてみたい.<br>
著者
久保 亮治
出版者
The Japan Society for Clinical Immunology
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 = Japanese journal of clinical immunology (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.76-84, 2011-04-28
被引用文献数
4

生命にとって自己と外界を区切るバリア構造を持つことは,生体内部のホメオスターシスを保ち,生命活動を維持するために必須である.我々の身体の表面,すなわち皮膚の最外層では重層扁平上皮のシート(表皮)とその表面を覆う角質層がバリアとして働いている.上皮細胞シートにおいては,細胞自体を物質が通過しようとする場合(transcellular pathway)は細胞膜がバリアとして働き,細胞と細胞の隙間を物質が通過しようとする場合(paracellular pathway)は細胞間を密に接着するタイトジャンクション(TJ)がバリアとして働く.角質層とTJによるバリアの内側には様々な免疫系の細胞が存在し,外来物質の侵入に備えている.表皮内にはランゲルハンス細胞と呼ばれる樹状細胞が存在し,表皮細胞間に網目のように樹状突起を張り巡らせている.ランゲルハンス細胞は通常,TJバリアの内側に留まるが,活性化すると表皮TJバリアの外側に樹状突起を伸ばし,樹状突起の先端部分より抗原取得を行う性質を持つことを,我々は見出した.外敵との闘いの最前線における索敵活動のように見える本現象について詳しく解説する.<br>
著者
和田 琢 秋山 雄次 横田 和浩 佐藤 浩二郎 舟久保 ゆう 三村 俊英
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.35, no.5, pp.433-438, 2012 (Released:2012-10-31)
参考文献数
22
被引用文献数
6 28

アバタセプト(ABT)を投与後に肺間質影の増悪がみられた関節リウマチ(RA)の1例について報告する.55歳時にRAおよび間質性肺炎を発症した.間質性肺炎は副腎皮質ステロイド大量療法で改善した.RAは多種の疾患修飾性抗リウマチ薬およびインフリキシマブに対して抵抗性であった.タクロリムス(TAC)が有効であったが難治性の掻痒感と下痢のため中止となった.2ヶ月後,関節炎が増悪したためABTの国内第III相試験に参加した.ABT投与2日目から白色痰が出現.痰培養は陰性であり投与13日後に胸部CTを施行した.2ヶ月前に比して間質影の増悪がみられたため,臨床試験は中止された.関節炎に対しABT投与27日後にプレドニゾロンを2 mg/日から10 mg/日に増量した.ABT投与44日後に胸部CTを再検した結果,間質影は改善傾向を示した.本例の発症機序については,ABTによる間質性肺炎の増悪以外に,TAC中止による間質性肺炎の増悪,RA増悪による間質性肺炎の悪化,ウイルス感染の関与なども考えられた.新規抗リウマチ生物学的製剤であるABT投与後に間質性肺炎が増悪した症例は未だ報告されておらず,これが最初の症例報告である.ABTと間質性肺炎増悪の因果関係は不明であり,このような症例の蓄積が必要であると考える.
著者
瀬理 祐 庄田 宏文 松本 功 住田 孝之 藤尾 圭志 山本 一彦
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.154-159, 2014 (Released:2014-06-30)
参考文献数
39
被引用文献数
2

関節リウマチ(rheumatoid arthritis; RA)は全身の慢性,破壊性の多関節炎を主症状とする代表的な自己免疫疾患である.病態形成において様々な遺伝,環境因子の関与が示唆されているが,依然として詳細な機序は不明である.最近,RAの疾患感受性遺伝子として約100種類が報告されたが,Peptidylarginine deiminase type4(PADI4)はRAのgenome-wide association studyによってnon-MHC遺伝子のRA感受性遺伝子として本邦より初めて報告され,様々な疾患の遺伝学的解析と併せてRAとの特異的な関連が示唆されている.現在,PADI4はアジア人や欧米人の一部でもRAとの関連が示され,アジア人ではanti citrullinated peptide antibody(ACPA)の有無に関わらず骨破壊の危険因子となることも報告された.PADI4遺伝子はシトルリン化による翻訳後修飾能を有するPAD4蛋白をコードする.PADI4は骨髄球,顆粒球といった血球系細胞で特異的に発現している.PADI4のRA感受性ハプロタイプではmRNAの安定性が増すことでPAD4蛋白が増加することが示唆されている.従来,RAにおけるACPAの特異性から,PAD4蛋白の増加に伴うシトルリン化蛋白の過剰産生とACPAの誘導といった仮説が注目されてきた.しかし,PADI4は核内移行シグナルを有することで様々な遺伝子発現の制御やneutrophil extracellular trapsの形成に関与し,RAの病態形成において多彩な役割を担う可能性が示唆される.本項ではPADI4の機能とRAにおける役割のまとめ,考察を行う.
著者
保田 尚孝
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.209-216, 2013 (Released:2013-08-31)
参考文献数
32
被引用文献数
1 3

破骨細胞分化因子RANKLの発見から15年が経過し,破骨細胞分化メカニズムの解明が飛躍的に進んだ.この発見は抗体医薬である完全ヒトRANKL中和抗体(デノスマブ)の開発につながり,2010年頃から欧米を始め,多くの国で骨粗鬆症治療薬および癌骨転移による骨病変の治療薬として臨床応用されている.日本では,2012年から癌骨転移による骨病変の治療薬として臨床応用されているが,本年3月に骨粗鬆症治療薬としても承認された.破骨細胞分化に必須の絶対的因子であるRANKLを標的にした抗体医薬の切れ味は強力であり,多くの患者にとって福音となろう.本稿ではRANKLの発見により,解明された破骨細胞分化メカニズムを紹介し,抗RANKL抗体による強力な骨量増加をマウスモデルにより解説する.RANKL中和抗体を投与するとわずか数日後には破骨細胞が激減し,骨吸収が抑制されることにより,骨量が増加する.この抗RANKL抗体により,破骨細胞を不活性化し,骨量を簡単に増加させることが可能となった.