著者
岡崎 仁昭 長嶋 孝夫 簑田 清次
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.27, no.6, pp.357-360, 2004 (Released:2005-02-22)
参考文献数
13
被引用文献数
5 4

スタチン系薬物は高脂血症治療薬として現在,国内外で広く使用されている.   近年のスタチン系薬物を使用した大規模臨床試験によると,虚血性心疾患の初発と再発とを予防することが示されている.この動脈硬化性病変への効果は,必ずしもコレステロール低下作用だけに基づくものではないことが最近の研究成果から明らかとなってきた.すなわちスタチンは血清コレステロール低下作用以外にも多面的効果(pleiotropic effect)を有し,例えば,抗酸化作用,血管内皮細胞の分化増殖の促進とその機能障害の改善,血栓形成改善作用,抗炎症作用など直接的に冠動脈イベントなどの動脈硬化を抑制することが示されている.さらに,最近になってスタチンの多面的効果の一つとして,免疫抑制(調整)作用を示す報告が相次いでなされ,注目を浴びている.本稿ではスタチンの免疫系への作用について文献的考察を含めて概説し,最後に我々の研究結果の一部を紹介する.
著者
三宅 幸子
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.37, no.5, pp.398-402, 2014 (Released:2015-01-06)
参考文献数
15

腸管は最大の免疫組織でもあるが,常に食物の摂取などを通して外来抗原に接するうえに,100兆個にも達する腸内細菌と共存するなど独特な環境にある.近年,自然免疫研究の進歩に加え,シークエンス技術の進歩による培養によらない腸内細菌叢の網羅的遺伝子解析などが可能となり,常在細菌による免疫反応の調節に関する研究が進み,自己免疫との関係についても注目されている.無菌飼育下では多発性硬化症や関節リウマチの動物モデルは病態が軽減する.また抗生剤投与により腸内細菌を変化させると病態が変化する.特定の細菌の移入による自己免疫病態への影響については,Th17細胞を誘導するセグメント細菌を移入すると病態が悪化する一方,制御性T細胞の増殖に関与するBacteroidesやLactobacillusを移入すると病態が軽減する.これら動物モデルの解析では,腸内細菌が積極的に病態に影響することが示されている.ヒトの疾患では関節リウマチで解析がされており,特定の菌が関与する可能性も示唆されている.免疫調節に最適な腸内環境の維持が可能になれば,疾患治療のみならず予防にもつながることから,研究の進展が期待される.
著者
牧野 聖也 狩野 宏 浅見 幸夫 伊藤 裕之 竹田 和由 奥村 康
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.350b, 2014 (Released:2014-10-07)

【目的】昨年本学会において,我々はLactobacillus delbrueckii ssp. bulgaricus OLL1073R-1(1073R-1乳酸菌)で発酵したヨーグルトの摂取が男子大学生に対してインフルエンザワクチン接種後のワクチン株特異的抗体価の増強効果を発揮することを発表した.今回,より幅広い世代の男女に対して,1073R-1乳酸菌で発酵したヨーグルト(1073R-1ヨーグルト)がインフルエンザワクチン増強効果を発揮するか否かを明らかにすることを目的に二重盲検並行群間比較試験を実施した.【方法】インフルエンザワクチン株に対する特異的抗体価が40倍未満の20歳以上60歳未満の男女62名(25-59歳;平均年齢43.7歳;男性25名,女性37名)を2群に分け,1073R-1ヨーグルト群には1073R-1乳酸菌で発酵したドリンクヨーグルト,プラセボ群には酸性乳飲料を1日1本(112ml),インフルエンザワクチンを接種する3週間前から接種6週間後まで摂取させた.摂取開始前,ワクチン接種時,接種3週間後,接種6週間後,接種12週間後に採血を行い,接種したワクチン株に特異的な抗体価をHI法で測定した.【成績】インフルエンザA型H1N1,B型に対する抗体価はワクチン接種後にプラセボ群に比べて1073R-1ヨーグルト群で有意に高い値で推移した.【結論】1073R-1乳酸菌で発酵したヨーグルトの摂取は,幅広い世代の男女に対してインフルエンザワクチン接種の効果を増強する可能性が示された.
著者
高橋 裕樹 山本 元久 篠村 泰久 今井 浩三
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.36, no.6, pp.442-451, 2013 (Released:2013-12-31)
参考文献数
30
被引用文献数
6

IgG4関連疾患はグルココルチコイド(GC)が奏効することから,生命予後は良好であると推測されていたが,長期観察例の増加に伴い,臓器機能の予後に関する臨床情報が集積されてきた.これらをもとに,早期治療の必要について検討した.IgG4関連涙腺・唾液腺炎では発症後2年以内の治療開始,および臨床的寛解の維持が唾液腺分泌能の回復・維持には重要であった.IgG4関連腎臓病では治療前の推算糸球体濾過量が60 ml/分未満の場合,腎機能の回復が不十分であることから,早期の治療介入の有用性が示唆された.自然寛解率が比較的高い自己免疫性膵炎においてもGC治療が有意に再燃を抑制することが示されているが,長期例での膵萎縮,膵石形成などを伴う慢性膵炎への移行が指摘されており,治療方法や治療介入のタイミングについて検討が必要である.IgG4関連疾患は既存の慢性炎症性疾患に比較し,臓器破壊は緩徐であることが想定されるが,病変の持続により線維化の拡大とともに臓器障害が進行することより,GCなどの治療薬の副作用を考慮した上で,可及的早期の治療介入が望ましいと考えられた.
著者
舟久保 ゆう
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.35, no.6, pp.470-480, 2012 (Released:2012-12-31)
参考文献数
67
被引用文献数
2 8

全身性エリテマトーデス(Systemic lupus erythematosus : SLE)は若年女性に好発する慢性炎症性の自己免疫疾患である.SLE患者は動脈硬化性心血管病による死亡率および罹病率が高く,画像診断では若年齢から潜在性動脈硬化が進んでいることも明らかになった.動脈硬化は血管内皮傷害を発端に炎症性細胞やメディエーターが関与した血管の慢性炎症と認識されており,SLEにおける動脈硬化発症・進展過程にも慢性炎症や免疫異常の関与が示唆されている.SLEの動脈硬化危険因子として脂質異常症,高血圧,耐糖能異常といった古典的心血管危険因子だけでなく,高CRP血症,高ホモシスチン血症,高疾患活動性,炎症性サイトカイン,血管内皮傷害,自己抗体や治療薬などが候補にあがっている.今後はSLE患者でも動脈硬化リスクを評価する必要があり,さらに動脈硬化の予防戦略と最適な治療法の確立が期待される.
著者
種市 幸二 芝木 秀俊
出版者
The Japan Society for Clinical Immunology
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.207-214, 1987-04-30 (Released:2009-01-22)
参考文献数
27
被引用文献数
1 2

著者らの経験した無菌性脳脊髄膜炎(AME)を合併したシェーグレン症候群(SjS)の5症例の臨床像の検討を行った.自験例は男性1例女性4例で,年齢は19歳~56歳(平均38.8歳)であった.成人スチル病の合併が1例のみ認められたが,その他はSjS単独であった.臨床所見としてはレイノー現象および関節炎を呈したものが5例中3例,尿細管性アシドーシスの合併は5例中2例に認めた. HLA抗原に共通するものはなかった. 5例中4例はsubclinical SjSであった.髄液所見は,細胞数は中程度の増加でリンパ球優位,タンパクは8回中5回増加,糖は5回中4回に低下が認められた. AMEは4例中2例が再発性であった.AMEがSjSの多臓器病変の1つとして位置づけられるかどうかを論じ, AMEを合併したSjSの症例の蓄積とその長期にわたる観察がAMEとSjSの関連を明らかにすることを強調した.

2 0 0 0 OA 光アレルギー

著者
川田 暁
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.8-12, 2011 (Released:2011-03-01)
参考文献数
19
被引用文献数
1 2

皮膚科領域のアレルギーの中に「光アレルギー」という概念がある.これは日光が関与するアレルギーで,内因性と外因性に分類される.内因性疾患として日光蕁麻疹,多形日光疹,慢性光線過敏性皮膚炎などが,外因性疾患として薬剤性光線過敏症,光接触皮膚炎などがある.特に薬剤性光線過敏症と光接触皮膚炎は,皮膚科医以外の医師も日常診療でしばしば遭遇する疾患である.したがってこれらの2つの疾患の概念・原因薬剤・臨床症状・治療と予防について理解しておく必要がある.薬剤性光線過敏症の原因薬剤としては,ニューキノロン系抗菌剤,ピロキシカムとそのプロドラッグであるアンピロキシカムが圧倒的に多い.最近塩酸チリソロール,シンバスタチン,ダカルバジンなどが増加傾向にある.光接触皮膚炎の原因薬剤としては,ケトプロフェン(ゲル剤,テープ剤,貼付剤)の頻度が増加傾向にある.
著者
福島 聡
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.30-36, 2016 (Released:2016-05-14)
参考文献数
19
被引用文献数
1 7

切除不能メラノーマに対しては,40年間にわたって有効な治療はなかった.しかし,抗PD-1抗体ニボルマブや抗CTLA-4抗体イピリムマブといった免疫チェックポイント阻害剤の登場で状況は一変した.免疫チェックポイント阻害剤は免疫抑制系を阻害し,腫瘍免疫を活性化する薬剤であるが,免疫療法として初めて大規模ランダム化試験でその有効性を証明した.夢の新薬である免疫チェックポイント阻害剤であるが,種々の免疫関連有害事象(irAE)が起きる.免疫チェックポイント阻害の時代においては,これまでにどのようなirAEが報告されており,どのような徴候に留意してフォローすべきかを頭に入れておくことは,臨床家にとって非常に重要である.irAEについて概説し,皮膚,消化管,肝臓,肺など項目ごとに既報を紹介し,免疫チェックポイント阻害剤使用における注意点をまとめる.
著者
右田 清志 上松 一永
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.34, no.5, pp.355-360, 2011 (Released:2011-10-31)
参考文献数
21
被引用文献数
11 11 3

家族性地中海熱(Familial Mediterranean fever, FMF)は,持続期間が比較的短い(1~3日)周期性発熱と漿膜炎を主徴とする遺伝性の自己炎症疾患である.2009年に行った全国調査の結果では,日本における推定患者数は,約300人で各種臨床症状の頻度は,発熱が95.5%,胸痛(胸膜炎症状)が35.8%,腹痛(腹膜炎症状)62.7%,関節炎が31.3%であった.またAA amyloidosisは5名(3.7%)に確認された.治療に関しては,コルヒチンが91.8%の患者で有効であった.本邦において一定数のFMF患者が存在しており,重篤な合併症であるAA amyloidosisを予防するためにも早期診断,早期治療介入が望まれる.
著者
大橋 広和 高橋 裕樹 小原 美琴子 鈴木 知佐子 山本 元久 山本 博幸 牧口 祐介 玉川 光春 嵯峨 賢次 村上 理絵子 今井 浩三
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.27, no.6, pp.407-413, 2004 (Released:2005-02-22)
参考文献数
23
被引用文献数
1 4

症例は40歳,女性.1995年5月頃より下腿浮腫が出現し膜性腎症によるネフローゼ症候群と診断,ステロイド大量投与により不全寛解を得た.また,同時期に頭部から四肢に拡大する角化性紅斑を認めた.1996年当院皮膚科にて毛孔性紅色粃糠疹(以下PRP)と診断されたが,治療抵抗性であった.1999年7月手指関節炎が出現,2000年4月に再び蛋白尿が出現し,同年8月当科入院となった.入院時,両手指遠位指節間(以下DIP)関節と右第4指近位指節間(以下PIP)関節に著明な腫脹を認めた.抗核抗体,リウマトイド因子,HLA-B27は陰性.関節X線上DIP・PIP関節の破壊を認め,関節MRIにて滑膜炎が確認された.加えて骨シンチグラフィーでは両中足趾節関節と左仙腸関節に集積をみた.関節症の特徴が乾癬性関節炎に類似しており,乾癬と同様皮膚の異常角化を主徴とするPRPに伴う関節炎と診断した.膜性腎症に対してステロイド大量投与を施行後,いったん関節症状は改善したが,手指関節の破壊は急速に進行した.2002年4月よりシクロスポリンAを併用し,関節炎の消退傾向を認めている.PRPに合併する関節症の報告例は少なく,その病態解析には今後の症例の蓄積が必要である.
著者
石森 加奈 高桑 由希子 大慈彌 久絵 吉岡 拓也 前田 聡彦 大岡 正道 山田 秀裕 尾崎 承一
出版者
The Japan Society for Clinical Immunology
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.36, no.5, pp.418a-418a, 2013

背景:従来Lupus腸炎と言われてきた中でLupus mesenteric vasculitis (LMV)は,悪化すると腹膜刺激症状を呈して腸壊死に至ることがある重篤な合併症である.腹部CTで腸管壁の全周性肥厚と腹水貯留を認めることで診断される.腸壊死に至る症例はSLE活動性と相関することが多く,治療はステロイドパルスとシクロスフォスファミド間歇静注療法を必要とする.今回,LMV様所見を合併した3症例を経験したので報告する.症例1:47歳女性.主訴は腹痛と嘔吐.腹膜刺激症状と,腹部CTで典型的なLMV様所見を呈し,ステロイドパルス,プレドニゾロン(PSL)50 mg/日とアザチオプリン併用にて寛解.症例2:40歳女性.主訴は軟便,腹痛,嘔吐.腹部CTで典型的なLMV様所見を呈し,PSL 50 mg/日にて寛解.症例3:39歳女性.主訴は腹痛と下痢.腹膜刺激症状と腹部CTで典型的なLMV様所見を呈し,ステロイドパルス,PSL 50 mg/日とタクロリムス併用にて寛解.3症例とも診断時にSLE disease activity index (SLEDAI)の上昇は認めなかった.結語:3症例ともLMVと矛盾しない所見を呈したが,PSL反応性良好であり,重篤な経過を辿らなかった.LMV様の所見を呈しても,SLEDAIが上昇していない症例では,比較的予後良好であることが示唆された.<br>
著者
鈴木 厚 関山 菜穂 小井戸 則彦 大曾根 康夫 美田 誠二 松岡 康夫 入交 昭一郎
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.53-59, 1995-02-28 (Released:2009-02-13)
参考文献数
21
被引用文献数
4 9

全身性エリテマトーデス(SLE) 193例(男性17例,女性176例)を対象にSLEの肝障害について検討した.肝障害は各患者の初診時からの全経過を調べTransaminaseが40IU/ml以上を認めた症例とした. SLE193例中78例(40.4%)に肝障害を認めた. Transaminase 1回のみの異常例では全例(34例)肝障害の原因は不明であった. Transaminase 2回以上高値例では44例中35例(79.5%)に確定診断を得た.肝障害の原因として原病によるものが12例と最も多く,ついで脂肪肝の9例であった.ウイルス性肝炎としてA型肝炎2例, B型肝炎2例, C型肝炎1例を認めた.自己免疫性肝疾患は3例で,自己免疫性肝炎2例,原発性胆汁性肝硬変1例であった.その他,胆石/胆嚢炎3例,薬物性肝障害(アスピリン1例,抗生剤1例) 2例,風疹による反応性肝障害1例を認めた.肝関連抗体については130例について検討し,抗平滑筋抗体は自己免疫性肝炎で1例陽性,抗ミトコンドリア抗体は原発性胆汁性肝硬変で1例陽性であった.
著者
長岡 章平 中村 満行 瀬沼 昭子 関口 章子
出版者
The Japan Society for Clinical Immunology
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 = Japanese journal of clinical immunology (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.28, no.6, pp.389-397, 2005-12-31
被引用文献数
1 3

1998年8月から2003年12月までの期間中当科において初めてMTXを開始した活動性RA460例(男80例,女380例,平均年齢59.3歳)についてカルテベースにて検討した.MTX投与24週後のACR20改善率61.3%,50%改善率30.4%であり,投与48週までの累積投与継続率は0.567であった.観察期間中260例(56.5%),304回に有害事象を認めた.有害事象のため投与中止した症例は52例,11.3%,死亡例は10例,2.2%であった.1%以上の内訳は,肝機能異常31.7%,感染症6.1%,消化器症状5.0%,口内炎3.9%,血球減少3.5%,骨折3.5%,悪性腫瘍2.6%,間質性肺炎2.0%,脳あるいは心血管障害2.0%,頭痛1.7%,皮疹1.3%,脱毛1.1%であった.有害事象例は高齢者,高Stageに多かった.MTXの有用性が再評価されたが,慎重なモニタリングが大切であると思われた.<br>
著者
川名 敬
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.251-251, 2015 (Released:2015-10-25)

子宮頸癌は30歳代に罹患ピークがあり,年間約7000人が発症し,約3000人が死亡する癌である.ヒトパピローマウイルス(HPV)が原因であることは周知であり,HPVを標的とした癌免疫療法が期待されてきた.20年以上の開発の歴史の中で製剤化されたものはない.我々は,粘膜免疫を誘導する免疫療法を開発し,子宮頸癌前癌病変(CIN3)を対象とした臨床試験を実施した.HPV癌蛋白質E7を表出した乳酸菌をCIN3患者に経口投与し,HPV特異的細胞性免疫を腸管粘膜に誘導し,腸管粘膜由来のintegrin beta7陽性リンパ球を子宮頸部病変に見出した.そのうち,HPVE7特異的IFNgamma産生リンパ球の子宮頸部粘膜の集積と臨床的病変退縮は相関した.この臨床試験のデータをもとに,E7表出乳酸菌を改良し,現在第二世代乳酸菌ワクチンを製剤化している.一方,integrin beta7陽性リンパ球が子宮頸部粘膜上皮にホーミングし,かつ集積することがCIN3病変を排除することに寄与することを見出したので,細胞療法として,これらの細胞に山中因子を導入するT-iPS技術を応用することをめざしている.本講演では,これまでの粘膜免疫を介した新しい免疫療法の臨床成果と今後の新技術(特に再生医療)との複合について紹介したい.
著者
川尻 真也 川上 純 岩本 直樹 藤川 敬太 荒牧 俊幸 一瀬 邦弘 蒲池 誠 玉井 慎美 中村 英樹 井田 弘明 折口 智樹 江口 勝美
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.190-194, 2008 (Released:2008-06-30)
参考文献数
12

症例は56歳,女性.主訴は多発関節痛.1999年に拇趾MTP関節の痛風発作を発症した.その後,痛風発作を繰り返すもコルヒチン内服にて症状は軽快していた.しかし,2006年頃より関節痛は全身の多関節におよび,持続性となった.2007年4月,多発関節炎の精査加療目的にて当科紹介入院となった.入院時,著明な高尿酸血症を認めた.入院中,関節炎発作による全身の関節痛および高熱を認めた.関節液所見にて白血球に貪食された尿酸ナトリウム針状結晶を認め,痛風と診断した.デキサメタゾン4 mg筋注およびコルヒチン投与により症状は改善した.
著者
松永 敬一郎 白井 輝 五十嵐 俊久 谷 賢治 菅 千束 池沢 善郎 大久保 隆男
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.58-63, 1993-02-28 (Released:2009-01-22)
参考文献数
16

突発性難聴に対するステロイド療法直後より,掌蹠膿疱症性骨関節炎(PAO)およびバセドウ病を発症した症例を経験した.症例は55歳女性.掌蹠膿疱症と診断されてから約1ヵ月後に突発性難聴を併発.ステロイドによく反応し聴力はほぼ正常に回復したが腰痛,胸鎖骨痛,発汗,動悸が出現した.骨シンチ, T3, T4の高値, TSHの低下,甲状腺シンチよりPAOおよびバセドウ病と診断した.メチマゾール(MMI)と非ステロイド性抗炎症剤の投与にてPAO,バセドウ病は軽快していたが,金属アレルギー検索を目的としてパッチテストを施行したところPAOおよびバセドウ病が増悪した. MMIを増量し,パッチテストで強陽性を示したアンチモンを除去する目的にて歯科治療を施行した.歯科治療後約1年間PAOの再燃は認められなかったが,バセドウ病は増悪した.バセドウ病に対してMMIを単独再投与したところPAOも良好にコントロールされた.
著者
末松 綾子 高柳 広
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.22-28, 2007 (Released:2007-03-02)
参考文献数
29
被引用文献数
1 2

骨格系と免疫系は,サイトカイン,シグナル分子,転写因子や膜受容体などの多くの制御分子を共有し,非常に密接な関係にある.関節リウマチ(RA)における炎症性骨破壊研究の発展が,両者の融合領域である骨免疫学に光をあてた.その後,種々の免疫制御分子の遺伝子改変マウスに骨異常が見い出され,骨免疫学の重要性が浮き彫りとなった.骨と免疫系をつなぐことになった最も重要な分子である破骨細胞分化因子(RANKL)は,破骨細胞分化を制御する中心的なサイトカインである.骨免疫学はRANKLを中心とした研究からRA骨破壊のメカニズムの解明や骨免疫疾患の新しい治療戦略にますます重要になっている.ここでは,免疫系と骨軟骨細胞のクロストークについて概説し,T細胞が産生する制御因子による破骨細胞分化制御,破骨細胞分化マスター転写因子NFATc1の同定,免疫グロブリン様受容体群を介したRANKL共刺激の発見やカルモジュリンキナーゼ(CaMK)による破骨細胞分化および機能の制御などの最新の知見を紹介する.