著者
金子 開知 川合 眞一
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.138-148, 2011 (Released:2011-06-30)
参考文献数
54
被引用文献数
2 4

グルココルチコイド(ステロイド)誘発性骨粗鬆症(GIOP)の発症機序は,ステロイドの骨組織の局所に対する作用と,カルシウム代謝の変化による二次性副甲状腺機能亢進症や下垂体ホルモン分泌抑制を介した性ホルモン分泌の抑制などのステロイドが全身に作用を介した機序が考えられている.近年,骨組織への直接作用が特に骨形成への影響が注目されている.骨代謝マーカーにおいては,ステロイド投与早期より骨形成マーカーは低下する.一方で,骨吸収マーカーは増加傾向を示す.GIOPの治療に対して,各国でガイドラインが作成されているが,ビスホスホネート製剤はGIOPにおける骨折抑制効果が多くの臨床研究から明らかにされており治療の第一選択となっている.また,ヒト組み換え副甲状腺ホルモン剤であるテリパラチドは,GIOPにおける骨折のリスクが高い患者において使用を考慮すべき薬剤である.さらに,抗receptor activator for nuclear factor κB ligand抗体製剤であるデノスマブは閉経後骨粗鬆症においての有用性が報告されておりGIOPでの効果が今後期待される.
著者
高橋 裕樹 山本 元久 篠村 泰久 今井 浩三
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日臨免誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.36, no.6, pp.442-451, 2013
被引用文献数
6

&nbsp;&nbsp;IgG4関連疾患はグルココルチコイド(GC)が奏効することから,生命予後は良好であると推測されていたが,長期観察例の増加に伴い,臓器機能の予後に関する臨床情報が集積されてきた.これらをもとに,早期治療の必要について検討した.IgG4関連涙腺・唾液腺炎では発症後2年以内の治療開始,および臨床的寛解の維持が唾液腺分泌能の回復・維持には重要であった.IgG4関連腎臓病では治療前の推算糸球体濾過量が60 ml/分未満の場合,腎機能の回復が不十分であることから,早期の治療介入の有用性が示唆された.自然寛解率が比較的高い自己免疫性膵炎においてもGC治療が有意に再燃を抑制することが示されているが,長期例での膵萎縮,膵石形成などを伴う慢性膵炎への移行が指摘されており,治療方法や治療介入のタイミングについて検討が必要である.IgG4関連疾患は既存の慢性炎症性疾患に比較し,臓器破壊は緩徐であることが想定されるが,病変の持続により線維化の拡大とともに臓器障害が進行することより,GCなどの治療薬の副作用を考慮した上で,可及的早期の治療介入が望ましいと考えられた.<br>
著者
門野 岳史
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.83-89, 2017 (Released:2017-06-12)
参考文献数
32
被引用文献数
1 36

抗PD-1抗体であるニボルマブおよびペンブロリズマブ,抗CTLA-4抗体であるイピリムマブを代表とする免疫チェックポイント阻害薬は悪性黒色腫,非小細胞肺癌,腎細胞癌,ホジキンリンパ腫といったがん治療に新たな光明をもたらした一方で,様々な臓器に対して免疫関連有害事象という独特な副作用をもたらす.なかでも,間質性肺疾患,大腸炎,甲状腺機能低下症,肝障害,発疹,白斑,下垂体炎,I型糖尿病,腎機能障害,重症筋無力症,末梢神経障害,筋炎,ぶどう膜炎などが代表的である.免疫関連有害事象の出現時期に関しては様々であるが,抗CTLA-4抗体であるイピリムマブに関しては皮膚粘膜障害が比較的早期に出現し,その後消化器症状が出現しやすい.ニボルマブの免疫有害事象は全体としておおよそ投与数ヶ月後に生じることが多いが,出現時期には大きなばらつきがある.免疫関連有害事象に対する治療は基本的にはアルゴリズムに則って行うが,速やかに専門医にコンサルトし,有害事象のグレードと原病の状態を鑑みながら方針を立てていく.免疫関連有害事象は様々な臓器に出現するが故に他科との連携が肝要であり,病院として関係する各科横断的な対策チームを築くことが重要である.
著者
齋藤 滋 島 友子 中島 彰俊
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.35, no.5, pp.424-428, 2012 (Released:2012-10-31)
参考文献数
13
被引用文献数
1

Semiallograftである胎児を許容するために,妊娠時には父親抗原に対するトレランスが存在することが知られていたが,その詳細な免疫学的機構は明らかではなかった.最近の研究により,妊娠時には父親抗原特異的もしくは男性抗原であるHY抗原特異的制御性T細胞が増加していること,精漿のプライミングが父親抗原特異的制御性T細胞の誘導に重要であることが判明している.またヒトならびにマウスの流産や,ヒトでの妊娠高血圧腎症では末梢血ならびに,妊娠子宮での制御性T細胞の減少が報告されている.妊娠初期子宮内膜では,特殊なNK細胞がリンパ球の主要な成分(約80%)を占める.我々は,マウス妊娠子宮ではCD25+ NK細胞が増加すること,CD25+ NK細胞はIL-10やTGF-βを産生すること,本NK細胞は樹状細胞上のMHC class II抗原発現を抑制させ,細胞傷害性T細胞の誘導を抑制し,制御性NK細胞と呼べる性状を有することを見い出した.   このように妊娠初期において,制御性T細胞と制御性NK細胞は協同的に作用し,胎児を母体免疫系の攻撃から守っている.
著者
大坪 慶輔 金兼 弘和 小林 一郎 宮脇 利男
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.33, no.4, pp.196-206, 2010 (Released:2010-08-31)
参考文献数
66
被引用文献数
5 4

免疫系には免疫抑制機能に特化した制御性T細胞(Treg)とよばれる少数のCD4+CD25+ T細胞サブセットが存在する.この細胞は,自己免疫やアレルギー,炎症といった過剰な免疫反応を抑制して免疫恒常性の維持において非常に重要な役割を果たしている.Tregのマスター遺伝子としてFOXP3遺伝子が機能するという発見により,Tregの生理的意義が明確に証明され,その発生・分化と抑制機能の分子メカニズムを解明するうえで重要な進歩がもたらされた.   このTregの欠損や機能低下によって生じる疾患がIPEX (immune dysregulation, polyendocrinopathy, enteropathy, and X-linked)症候群である.この疾患は,I 型糖尿病や甲状腺機能低下症などの多発性内分泌異常,難治性下痢などを主症状とし,さらには自己免疫性と考えられる貧血,血小板減少,腎炎など多彩な症状を呈する.   現在まで報告されているIPEX症候群の臨床像,分子学的異常とヒトTreg細胞の機能に関して概説する.
著者
大木 伸司
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.103-113, 2016 (Released:2016-05-20)
参考文献数
36
被引用文献数
1

多発性硬化症(MS)の難治性病型である二次進行型MS(SPMS)の原因は不明であり,有効な治療法にも乏しいことから,早期の対策が望まれている.筆者等は,以前に再発寛解型MSに関わる病原性Th17細胞の制御分子であることを見出したNR4A2の遺伝子欠損マウスを作製し,同マウスを用いた実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)を解析した.その結果,C57BL/6マウスにMOG35-55ペプチドを免疫して誘導するEAE病態の背後に,転写因子Eomesを発現するユニークなTh細胞が関与し,Th17細胞に依存しない後期病態が存在することを新たに見出した.興味深いことに,ヒト末梢血および髄液中のEomes陽性Th細胞の選択的な増加がSPMSのみで認められたことから,SPMSの病態形成過程にEomes陽性Th細胞が関与する可能性が示された.さらに病態形成機序の解析から,刺激を受けたEomes陽性Th細胞が産生するGranzyme Bが,(恐らく神経細胞が発現する)Par-1受容体に作用して後期病態を引き起こすことを明らかにした.神経変性をともなうSPMSの新規動物モデルを得て,同疾患の病態形成メカニズムの解明と治療法の開発が飛躍的に進むことが期待される.
著者
竹田 潔 前田 悠一
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.256a-256a, 2017 (Released:2017-11-23)

近年,腸内細菌叢の割合の変化(dysbiosis)が様々な疾患で報告されるようになってきている.その中には,dysbiosisが疾患の原因になるものもあることが報告されている.関節リウマチ(RA)は,遺伝的素因だけでなく,様々な環境因子がその病態に関与していることが知られている.マウスモデルを用いた解析では,腸内細菌の無いgerm-freeマウスが関節炎を発症しないことから,腸内細菌の関節炎の病態への関与が示唆されている.我々は,腸内細菌叢のRAの病態への関与を解析した.発症初期のRA患者と健常人の腸内細菌叢を解析すると,一部のRA患者で健常人にはない,Prevotella copriが著明に増加している腸内細菌叢を有していた.RAで認められる腸内細菌叢の変化が,RAの結果なのか,原因となるのかを解析するために,関節炎を発症するSKGマウスを用いた.SKGマウスに抗生物質を経口投与し,腸内細菌叢を排除すると関節炎を発症しなくなることから,SKGマウスの関節炎の病態には腸内細菌が関与していることが示唆された.そこで,SKGマウスをgerm-free化し,健常人(HC)型,RA型の腸内細菌叢を定着させ,HC-SKGマウス,RA-SKGマウスを作成した.そして,RA-SKGマウスは,HC-SKGマウスに比べて重症の関節炎を発症した.この結果から,関節リウマチ患者で認められる腸内細菌叢の変化は,RAの発症に深く関わっていることが示唆された.
著者
坪井 洋人 飯塚 麻菜 浅島 弘充 住田 孝之
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.77-85, 2013 (Released:2013-04-28)
参考文献数
23
被引用文献数
3 4

シェーグレン症候群(SS)は唾液腺炎・涙腺炎を主体とし,様々な自己抗体の出現がみられる自己免疫疾患である.SSでは,種々の自己抗体が検出されるが,SSに特異的な病因抗体はいまだ同定されていない.外分泌腺に発現し,腺分泌に重要な役割を果たすM3ムスカリン作働性アセチルコリン受容体(M3R)に対する自己抗体(抗M3R抗体)は,SSにおいて病因となる自己抗体の有力な候補であると考えられ,近年注目されている.我々のグループの研究で,M3Rのすべての細胞外領域(N末端領域,第1,第2,第3細胞外ループ)に対して,抗M3R抗体の抗体価および陽性率は健常人と比較してSS患者で有意に高値であった.またSS患者において,抗M3R抗体はM3Rの細胞外領域に複数のエピトープを有することが明らかとなった.さらにヒト唾液腺(HSG)上皮細胞株を用いて,塩酸セビメリン刺激後の細胞内Ca濃度上昇に対する抗M3R抗体の影響を解析した.抗M3R抗体の細胞内Ca濃度上昇に対する影響は,抗M3R抗体のエピトープにより異なる可能性が示唆された.興味深いことに,M3R第2細胞外ループに対する抗M3R抗体陽性SS患者のIgGと,我々が作成したM3R第2細胞外ループに対するモノクローナル抗体は,ともにHSG細胞内Ca濃度上昇を抑制した.M3R第2細胞外ループに対する抗M3R抗体は,唾液分泌低下に関与する可能性が示唆された.   以上の結果より,抗M3R抗体は複数のエピトープを有し,唾液分泌への影響はエピトープにより異なる可能性が示された.抗M3R抗体はSSにおける病因抗体としての可能性のほか,診断マーカーや治療ターゲットとなる可能性も期待される.
著者
門野 岳史
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.33, no.5, pp.242-248, 2010 (Released:2010-10-31)
参考文献数
44
被引用文献数
2 3

血球細胞はまず皮膚の血管内皮細胞によって捕獲(capture)され,血管に沿って転がり(rolling),固着する(firm adhesion).その後,血管内皮細胞を通り抜け(transmigration),血管外へと遊出し(diapedesis),皮膚へと浸潤する.これらの過程には様々な細胞接着分子が重要であり,例えばcaptureおよびrollingはセレクチンファミリーによって主に制御される.セレクチンファミリーはL-selectin, P-selectin, E-selectinよりなり,これらの分子の阻害により皮膚の炎症が減弱する.Firm adhesionにはインテグリンファミリーが重要であり,その主なものとしてβ2 integrinとそのリガンドであるICAM-1およびα4 integrinとそのリガンドであるVCAM-1がある.これらの分子の阻害によっても皮膚の炎症は減弱する.Transmigrationおよびdiapedesisに関与する分子に関しても,PECAM-1, CD99, JAMの阻害により皮膚の炎症が改善した報告がみられている.今後,これら様々な細胞接着因子を抑えることにより,皮膚の炎症を制御することが期待される.
著者
下垣 保恵 郡山 健治 田中 雅博 望月 裕司 豊田 嘉清 中井 直治 河野 厚
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.33, no.6, pp.329-334, 2010 (Released:2010-12-31)
参考文献数
30
被引用文献数
1

50歳,女性.2003年9月に全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus ; SLE)を発症.抗Sm抗体陽性.右水腎症.プレドニゾロン(prednisolone ; PSL)40 mg/日で治療開始.大腿骨頭壊死(2B),ステロイド精神病合併.2005年5月PSL15 mg/日まで漸減中に尿蛋白再出現でシクロスポリン(CyA)併用開始.1年後,嘔吐を伴う激しい頭痛を繰り返したが画像診断上は異常を認めなかった.2007年2月タクロリムス(TAC)に変更,頭痛は消失したが,同年9月頃より左優位の巧緻性運動障害,振戦,小刻み歩行等を認めた.2009年6月ドーパミントランスポーターのイメージング(DAT)検査にてパーキンソン病(Parkinson's disease ; PD)確定診断.遺伝子解析で孤発性PDと判明.TAC中止によりParkinsonismは一部改善し,薬剤性が示唆された.TAC投与中のSLE患者に振戦を認めた場合,Parkinsonism誘発の可能性があるため減量や中止を考慮すべきである.
著者
藤谷 幹浩 高後 裕
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.254-254, 2015 (Released:2015-10-25)

【目的】炎症性腸疾患(IBD)は原因不明の慢性炎症性疾患であり,その病態に免疫異常や腸内細菌叢の異常が関与しているとされる.本研究では,宿主に有益な菌である(プロバイオティクス)から産生される腸管保護活性物質を用いて,新規IBD治療薬を開発することを目的とした.【方法】1.乳酸菌SBL88の培養上清を各種カラムで分離し,各分画をヒト腸上皮由来Caco2/bbe細胞に投与して,細胞防御蛋白heat shock protein(Hsp)27の誘導能をwestern blottingで検討した.Hsp27の誘導能を持つ分画を単一物質まで繰り返して分離し菌由来活性物質を同定した.2.DSS慢性腸炎モデルおよびTNBS腸炎モデルを作成し,菌由来活性物質を5"7日間注腸投与して腸管長,組織学的変化,炎症および線維化関連メディエーターの発現を検討した.【成績】1.乳酸菌SBL88の培養上清からHsp27誘導能をもつ活性物質,長鎖ポリリン酸を同定した.2.長鎖ポリリン酸投与によりDSS慢性腸炎,TNBS腸炎による腸管短縮,組織学的な炎症および線維化が改善した.また,腸管粘膜における炎症性サイトカインIL-1β,TNFα,IFNγおよび線維化促進分子TGFβ1,SMAD4,CTGFの過剰発現が抑制された.【結論】乳酸菌由来長鎖ポリリン酸は腸炎モデルの腸管障害および線維化を改善した.長鎖ポリリン酸はIBDにおける腸管障害や線維化に対する新規治療薬として臨床応用が期待される.
著者
好川 真以子 中山田 真吾 久保 智史 岩田 慈 阪田 圭 宮崎 佑介 鳥越 正隆 齋藤 和義 田中 良哉
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.39, no.4, pp.397a-397a, 2016 (Released:2016-09-03)

【目的】SLE末梢血ではメモリーB細胞が増加するが質的異常の詳細が不明である.今回,ケモカイン受容体発現によるB細胞の亜分類を試み,その誘導機構と病態との関連を検討した.【方法】健常人(HD)8例,関節リウマチ(RA)31例,SLE 56例の末梢血よりPBMCを分離,T・B細胞表面抗原,分化マーカー,ケモカイン受容体(CXCR3, CXCR5)を染色後,8 color FACSで解析した.また,HDから分離したB細胞を各種サイトカインで刺激し,ケモカイン受容体および転写因子発現の変化を8 color FACSで評価した.【結果】1)SLE末梢血B細胞ではHD,RAと比べ,エフェクターメモリー(EM; IgD−CD27−)B細胞が有意に増加した(p < 0.01).2)SLE末梢血B細胞ではHD,RAと比べ,CXCR5−およびCXCR3+の亜集団が有意に増加し,特にEM B細胞で顕著であった(p < 0.01).3)HDから分離したB細胞はIFNγ刺激でCXCR3発現が増強し,IFNβ刺激でCXCR5発現が減弱した(p < 0.05).4)HDから分離したB細胞はIFNγ刺激でT-bet発現が亢進した(p < 0.01).【考察】SLEではエフェクターB細胞が増加するのみならず,Type I IFNを介したCXCR5減弱,Type II IFNを介したT-bet発現誘導とCXCR3増強の両者を伴う質的異常が齎され,B細胞の病変組織への浸潤と炎症病態の形成に寄与する可能性が示唆された.
著者
塚本 浩 上田 尚靖 堀内 孝彦
出版者
The Japan Society for Clinical Immunology
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 = Japanese journal of clinical immunology (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.34, no.5, pp.361-368, 2011-10-31
参考文献数
24
被引用文献数
2 6

TNF receptor-associated periodic syndrome(TRAPS)は常染色体優性遺伝形式の家族性周期性発熱疾患である.TRAPSではI型TNF受容体(TNFRI)をコードするTNFRSF1A遺伝子について100以上の遺伝子変異が報告されており,かつ浸透率は85%以上と高い.本邦からはC30R, C30S, T61I, C70S, C70G, C88Y, N101Kの7種類の変異が報告されている.変異TNRIは小胞体内に停滞し,ミトコンドリアからの活性酸素産生を介してMAPキナーゼを活性化状態にする.ここに細菌感染等でToll様受容体からのシグナルが付加され,炎症性サイトカイン産生誘導が起こることが本症の病態形成に関与していると考えられている.臨床所見として発熱期間は平均21日間,発熱間隔は1から数ヶ月である.発作期には,発熱と共に,皮疹,筋痛,関節痛,腹痛,漿膜炎,結膜炎,眼窩周囲浮腫などの随伴病変を伴う.治療としては,副腎皮質ステロイド剤とTNF阻害薬エタネルセプトが発作の重症度や発作期間の短縮に有効である.エタネルセプトでは発作頻度も減少するが無効例も存在する.最近では,IL-1受容体拮抗薬アナキンラやIL-6受容体拮抗薬トシリズマブの有効性も報告されている.厚生労働省のTRAPS研究班(代表者:堀内孝彦)は2010年に,本邦のTRAPS患者の病態に即した診断基準を作成するため全国の実態調査を行い,現在遺伝子解析が進行中である<br>
著者
塚原 智英
出版者
The Japan Society for Clinical Immunology
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.299-299, 2014

癌免疫は,癌に対する免疫応答の理解と癌の免疫制御を目指す学問であり,癌抗原の同定によって飛躍的に発展した.よって癌免疫の理解には癌抗原の理解が重要である.癌免疫の存在は1990年代に自家細胞傷害性T細胞(CTL)クローンに認識されるヒト癌抗原のクローニングにより,主にメラノーマで証明された.これらの発見にはforward immunology approachといわれる腫瘍反応性ヒト自家CTLクローンの樹立とcDNAライブラリ発現クローニング法の開発が大きく貢献した.さらに既知の候補抗原からCTLエピトープを求めるreverse immunology approachも盛んに行われ,メラノーマ以外からも多くの抗原が同定された.これらの知見はペプチドワクチンや抗原特異的リンパ球大量輸注療法の開発につながっている.また昨年は抗CTLA-4抗体や抗PD-1抗体などのチェックポイント抗体による活性化T細胞制御がメラノーマに対して有効性を示して一世を風靡した.チェックポイント抗体がメラノーマでよく効いた理由として(1)癌抗原が皮膚のランゲルハンス細胞に取り込まれてCTLを効率よくプライムできる,(2)高い免疫原性を持つ変異抗原が多く発現してる点が重要と考えられる.今後は高い腫瘍特異性をもち,かつ造腫瘍能を制御する癌の根源に迫る癌抗原の同定が重要となる.また自家CTLが認識する抗原の同定は,時に我々の想像がおよばないようなセレンディピティを与えてくれる.
著者
藤田 英樹
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.168-175, 2012 (Released:2012-06-30)
参考文献数
58
被引用文献数
3 10

IL-22はIL-10, IL-19, IL-20, IL-24, IL-26等と共にIL-10ファミリーに属するサイトカインである.IL-22はCD4陽性T細胞,NK細胞,NKT細胞等の免疫担当細胞より産生され,呼吸器,腸管,皮膚,肝臓などの上皮細胞に作用する.皮膚の表皮角化細胞においては,IL-22は抗菌ペプチドの発現を誘導し自然免疫に関与する.その一方でIL-22は角化細胞の増殖を誘導し表皮肥厚を引き起こすと同時にその終末分化を阻害しバリア機能関連タンパクの発現を低下させる.Th17細胞で高発現されることよりIL-22はTh17サイトカインと考えられてきたが,近年IFN-γ, IL-4, IL-17を産生しない新しいIL-22産生CD4陽性T細胞サブセット(Th22)が発見され,注目されている.Th22細胞は皮膚にホーミングするためのケモカイン受容体であるCCR4とCCR10を発現するが,実際に正常皮膚に存在するとともに,炎症性皮膚疾患患者において末梢血と比べて皮膚病変内に多数見られることより,皮膚の恒常性の維持や皮膚疾患の病態形成に関わっているものと考えられる.これまで著明な表皮肥厚を伴う炎症性皮膚疾患である乾癬においてIL-22の病態への関わりが詳しく研究されてきたが,近年IL-22がアトピー性皮膚炎の病態にも深く関わっていることが明らかになってきた.今後様々な皮膚疾患においてIL-22の病態における役割がより詳しく検討され,IL-22をターゲットとした治療法が開発される可能性がある.
著者
樋口 理 向野 晃弘 中根 俊成 前田 泰宏 小森 敦正 右田 清志 八橋 弘 中村 英樹 川上 純 松尾 秀徳
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.334a-334a, 2014 (Released:2014-10-07)

【背景と目的】全身性および臓器特異的自己免疫疾患では,古くから自律神経障害を伴う症例が知られるが,その分子病態は未解明である.近年,急性あるいは慢性経過を示し,広汎な自律神経障害を呈す自己免疫性自律神経節障害(AAG)の主因が,自律神経節後シナプス領域に局在するganglionicアセチルコリン受容体(gAChR)に対する自己抗体であることが多角的実験手法により証明され,自律神経障害における自己抗体介在性の分子病態の存在が注目されている.本研究では,膠原病や自己免疫性慢性肝疾患における抗gAChR抗体の陽性率を解明する.【方法と結果】長崎大学病院と長崎医療センターにて集積された自己免疫疾患217症例(関節リウマチ,シェーグレン症候群,全身性エリテマトーデス,自己免疫性肝炎,原発性胆汁性肝硬変,その他関連症例を含む)を対象とした抗gAChR抗体探索を実施し,平均22.6%の抗体陽性率を確認した.一方,抗gAChR抗体検査目的で当院に送付された著明な自律神経障害を呈する自己免疫疾患合併12症例の血清検体では,50%(6/12)の抗体陽性率を確認した.【結論】膠原病や自己免疫性慢性肝疾患に抗gAChR抗体が潜在することが明らかとなった.特に,広汎かつ著明な自律神経障害を呈す症例はAAGに匹敵する抗体陽性率を示し,当該抗体と各種自律神経症状の因果関係が疑われた.
著者
山原 研一
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.285b-285b, 2015 (Released:2015-10-25)

近年,骨髄間葉系幹細胞(MSC)を用いた細胞治療応用に関し,その免疫調節作用が注目され,急性GVHD・クローン病に対する臨床効果が示されている.しかしながら,自己骨髄MSCは,(1)骨髄採取は侵襲を伴い重病人には不適である,(2)初代培養時の細胞が少なく,培養時間を要し,迅速対応が困難である,(3)白血病など骨髄疾患では不適である,といった問題点がある.これら問題を解決すべく,我々は(1)通常破棄され,(2)侵襲性がなく,(3)倫理的問題の少ない胎児付属物(羊膜・絨毛膜・臍帯)からMSCの樹立に成功し,その細胞移植による効果を,急性GVHD,心筋炎,腎虚血再灌流,全身性エリテマトーデス,炎症性腸疾患,放射線腸炎,肝硬変といった各種難治性疾患モデル動物を用いて検討を行い,その有用性を証明してきた.これらを踏まえ,我々は胎児付属物,中でも羊膜由来のMSCを用い,同種造血幹細胞移植におけるGVHD,Crohn病などの難治性免疫関連疾患を対象とした細胞治療の臨床応用研究を,当センター,兵庫医科大学および北海道大学と共同で行っている.今年度中に急性GVHDやクローン病,肝硬変を対象とし,羊膜MSCの北海道大学病院CPCを活用した医師主導治験(第Ⅰ-Ⅱ相)を開始し,今後,株式会社カネカが神戸に新たに製造するCPCを用いた企業治験(第Ⅱ-Ⅲ相)も計画している.本講演では,羊膜MSCにおけるこれまでの前臨床研究の成果および臨床試験の状況をご報告できればと考えている.
著者
西田 直徳
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.313b-313b, 2014 (Released:2014-10-07)

原発性免疫不全症(PID)の中には自己免疫疾患や自己炎症性疾患を呈するものが少なからず存在する.自己炎症性疾患の一病型である炎症性腸疾患(IBD)は慢性肉芽腫症やWiskott-Aldrich症候群などでときどき合併することが知られている.難治性IBDと診断されていた症例でIL-10/IL-10R欠損症が同定されたのを機に,IBDを呈するPIDが注目されるようになった.XIAP欠損症の主症状はEBウイルス関連または反復性の血球貪食性リンパ組織球症(HLH)であるが,一部にIBDを合併していることが明らかとなった.わが国のXIAP欠損症の約40%にあたる9例のXIAP欠損症でIBDを呈していた.反復するHLHの経過中にIBDを合併する症例のみならず,IBDのみを症状とする症例も認められた.治療抵抗例が多く,生物学的製剤の使用にも関わらずコントロール不良のため,腸切除に至った症例もある.わが国において小児例を中心に難治性IBDの中にはXIAP欠損症を基礎疾患とする患者が少なからず存在することは明記すべきである.1例ではあるが,臍帯血移植によって合併したIBDが寛解に至った症例がある.PIDを基礎疾患とするIBDは造血幹細胞移植の治療対象となりうるので,早期発見による治療介入により患者QOLの向上につなげたい.