著者
大久保 智司 青木 裕一
出版者
日本土壌微生物学会
雑誌
土と微生物 (ISSN:09122184)
巻号頁・発行日
vol.77, no.1, pp.34-39, 2023-04-30 (Released:2023-04-30)

本論文では2021 年11 月より開始した市民参加型の研究プロジェクト「地球冷却微生物を探せ」(https://dsoil.jp/soil-ina-bottle/)を紹介する。近年,研究者と市民が協調して科学研究に取り組む「市民科学」が,立場や背景知識の垣根を超えて社会を共創するための取り組みとして着目され,国内でも急速に普及し始めている。主要な温室効果ガスの1 つである一酸化二窒素(N2O)は農地土壌から多く発生するが,本プロジェクトではそれを削減するため高いN2O 消去能力をもった微生物(= 地球冷却微生物)を見つけ出すことを目的とした。具体的には参加者の身近にある土壌と空気を使って実験をしてもらい,試料を研究機関に集約してN2O 濃度や土壌微生物叢を分析する。得られたデータを手がかりに土壌の中から地球冷却微生物を見つけ出し,N2O 削減のための微生物資材開発を目指す。これまでに日本全国から多数の試料が集まり,それらの土のN2O の放出・吸収速度を測定・比較した。また,土の中に存在する微生物の種類や多様性につ いても明らかになってきたのでデータの解析を進めている。
著者
尤 暁東 東條元昭
出版者
日本土壌微生物学会
雑誌
土と微生物 (ISSN:09122184)
巻号頁・発行日
vol.74, no.2, pp.50-53, 2020 (Released:2020-10-31)

モウソウチク由来ミミズ堆肥を作出し土壌改良剤として実用化するとともに,植物病害への抑制効果とそのメカニズム を明らかにするために,次の6 つの項目について検討した。1)堆肥作出方法の確立,2)植物病原糸状菌に対する抑制効果の評価,3)植物病原糸状菌に対する抑制効果の要因の解明,4)植物寄生性線虫に対する抑制効果の評価,5)生物防除微生物添加による病害抑制効果向上の検討,および6)モウソウチク由来ミミズ堆肥で育成した植物の成長変化に及ぼす有機肥料添加の影響の評価である。ミミズ種としてシマミミズを用いた。その結果,モウソウチク由来ミミズ堆肥の作出法を確立することに成功し,植物病原糸状菌や植物寄生性線虫に対する抑制効果を温室および圃場レベルで確認した。そしてこれらの抑制効果にいくつかの拮抗細菌や抗菌物質が関与している可能性を明らかにした。またモウソウチク由来ミミズ堆肥を生物防除微生物の1 つであるP. oligandrum と同時施用することでこの生物防除活性が高まり,市販農薬と同等のレベルにまで発病抑制効果を向上させる予備結果を得た。さらに油粕とミミズを同時にモウソウチク粉末に添加して2 か月間ミミズ堆肥化を行うことによって,苗立枯病等を抑制する効果が維持され,植物の成長促進効果や可食部の食味成分を向上させる育苗土になることを示唆する結果を得た。
著者
染谷 信孝 諸星 知広 吉田 重信
出版者
日本土壌微生物学会
雑誌
土と微生物 (ISSN:09122184)
巻号頁・発行日
vol.76, no.1, pp.16-25, 2022-04-30 (Released:2022-04-30)

Bt 菌,Bacillus thuringiensis は,昆虫の病原菌として見出され,現在,日本および世界で最も利用されている生物殺虫剤である。近年,Bt 菌には殺虫効果に加えて,病害抑制効果,植物生育促進効果および環境浄化能なども有していることが分かってきた。今後,Bt 菌を有効成分とするBT 剤を殺虫剤のみならず,多用途資材としての利用拡大が期待される。本稿では,近年のBt 菌そしてBT 剤についての近年の研究動向と将来展望を紹介する。
著者
南澤 究
出版者
日本土壌微生物学会
雑誌
土と微生物 (ISSN:09122184)
巻号頁・発行日
vol.76, no.1, pp.4-11, 2022-04-30 (Released:2022-04-30)

持続的な食料生産を支える農業を目指して,窒素循環を担う土壌微生物の研究が求められている。筆者が行ってきた, (i)ダイズ根圏からのN2O の発生機構とその削減,(ii)水稲根のメタン酸化窒素固定,(iii)根粒菌の共生ゲノム研究を紹介し,人為的な温室効果ガス削減も含む地球環境に配慮した農業システムの基礎となる知見や方向性について,植物 共生細菌のゲノム研究の視点から議論を行った。
著者
染谷信孝 澤田宏之 濱本 宏 諸星知広
出版者
日本土壌微生物学会
雑誌
土と微生物 (ISSN:09122184)
巻号頁・発行日
vol.74, no.2, pp.66-76, 2020 (Released:2020-10-31)

軟腐病は,土壌伝染性の多犯性細菌病である。植物組織を軟化腐敗させ,その際には独特の臭気を伴う。我が国では主に野菜類の主産地で問題となり,気象条件によってしばしば大きな被害を生じる。病原細菌種は主にPectobacterium carotovorumおよびその亜種とされてきたが,近年の分類体系の変遷から,現在では10 種以上が軟腐病の病原となることが分かってきた。我が国において過去に軟腐病の病原として分離・同定されてきた細菌株についても,P. carotovorum以外の種が混在している可能性がある。本病は土壌,灌漑水など様々な環境中に存在し,宿主植物の周辺で急激に増殖し,一定密度を越えると発病に至る。本病の防除は,銅剤や抗生物質などによる化学的防除が基本となるが,生物農薬の普及も進みつつある。近年の研究成果を活用した,農業現場での迅速な病原細菌の検出技術および新規防除技術開発が期待されている。
著者
Reiji Fujimaki Takahiro Tateishi Ayato Kohzu Masanori Saito Naoko Tokuchi
出版者
Japanese Society of Soil Microbiology
雑誌
土と微生物 (ISSN:09122184)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.121-128, 2001-10-01 (Released:2017-05-31)
参考文献数
21

Arbuscular mycorrhizal (AM) colonization pattern in the roots of 4 plant species, Cryptomeria japonica (coniferous tree), Lindera triloba (deciduous shrub), Hydrangea hirta (deciduous shrub) and Leucosceptrum stellipilum (perennial herb), was investigated in a Japanese red cedar (C. japonica) forest on Mt. Ryuoh, central Japan. The AM colonization percentage was determined at different sampling sites along the slope. The AM colonization percentage in L. triloba was higher in the upper part of the slope than in the lower part. Topographic variations in soil nitrogen availability may have affected the AM colonization of the roots of L. triloba at the study site. However, other plants did not show such topographic changes in the AM colonization percentage. Microscopic observation of the morphological characteristics of AM colonization revealed that H. hirta and L. stellipilum were classified as Arum-type plants. In contrast, the mycorrhizas of C. japonica and L. triloba contained coiled hyphae to some extent as well as vesicles and arbuscules. Therefore, these two plants may be intermediate species between Arum- and Paris-type plants.
著者
渡辺 巌
出版者
Japanese Society of Soil Microbiology
雑誌
土と微生物 (ISSN:09122184)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.1-10, 1978-12-15 (Released:2017-05-31)

アカウキクサ(Azolla)は温帯,熱帯の池,水田に広く分布する水生羊歯植物でその上面葉下部の空腔中に窒素固定性藍藻Anabaena azollaeが共生し,無窒素培地で生育することができる。国際稲研究所内の圃場で1年間連続して22回のAzolla pinnataを栽培したところ,330日の生育期間で総計ha当り450kgの窒素をAzolla中に貯えることができた。この窒素固定力は熱帯マメ科牧草の窒素固定量年間最高値に近いものであり,共生藍藻細胞窒素当りの固定力もマメ科植物根粒中のバクテロイド細胞の値をはるかにこえるものである。Azollaは概して温帯性の種と分布が多いが,熱帯に分布するA. pinnataでも日平均気温22-27℃が最適で日最高気温の月平均が32℃をこすと,生育がおとろえる。高温に対する抵抗性が弱いことが熱帯での利用で問置になる。りん酸肥料の施用はAzollaの水田での生産にかかせない,過燐酸石灰の分施をすればP_2O_5 1kgで2kg以上の窒素をAzollaは生産できる。Azollaは中国,ベトナムでは広く水田緑肥として田植前後に水田で栽培されまた,堆肥源,動物飼料としても利用されている。国際稲研究所での近年の試験でも緑肥としての有効性が確認されたし,アジア諸国でもその利用が注目されはじめている。
著者
高木 滋樹 北村 章 丸本 卓哉
出版者
日本土壌微生物学会
雑誌
土と微生物 (ISSN:09122184)
巻号頁・発行日
vol.39, pp.41-48, 1992-03-01 (Released:2017-05-31)
被引用文献数
3

1)キチンと同様に土壌内で特異的に放線菌密度を高める有機物をスクリーニングした結果,光合成細菌処理汚泥発酵物(CPBS)が選抜された。2)第1報で選抜した5株の拮抗菌をCPBSに添加・培養させた資材を調製した。調製した資材は細菌,放線菌密度が高く,添加した拮抗放線菌の存在が確認された。3)CPBSと拮抗放線菌を組み合わせた資材のダイコン萎黄病及びキュウリつる割病に対する発病抑制効果を検討した結果,発病抑制効果が確認された。発病抑制効果は第1報で報告した拮抗菌のみの場合よりも有機物と拮抗菌を組み合わせた場合で大きく,また単菌株よりも複数の拮抗菌を組み合わせた場合に顕著であった。4)ダイコン萎黄病発病抑制試験において添加した各菌株は土壌及び根部より再分離されたが,菌株によって菌密度は異なり,菌株により土壌及び根部での定着とその活動は異なると推察された。5)4種類の異なった土壌において,拮抗菌を含む資材Aは放線菌密度を高め,F. oxysporum密度には影響を与えなかった。6)以上のように放線菌密度を選択的に高める有機物と拮抗菌を組み合わせた資材は各種土壌で放線菌密度を高め,ダイコン及びキュウリにおいて発病を抑制した。しかしその作用については今後の解明が必要である。
著者
小林 達治
出版者
日本土壌微生物学会
雑誌
土と微生物 (ISSN:09122184)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.35-47, 1971-12-27 (Released:2017-05-31)
被引用文献数
2
著者
小川 眞
出版者
日本土壌微生物学会
雑誌
土と微生物 (ISSN:09122184)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.73-79, 1999-10-01 (Released:2017-05-31)
参考文献数
4
被引用文献数
1

インドネシアでフタバガキの根に外生菌根菌が共生すると,苗の生長と植栽後の生長がよくなることや粉炭がこの菌の増殖に効くこともわかり,現在では実用的な育苗技術として,きのこと炭がとりあげられている。マメ科樹木やモクマオウなど空中窒素を固定する微生物と共生する植物にも木炭粉やモミガラくん炭が効く。炭を土壌に加えると明らかに根粒や放線菌根がつきやすく,VA菌根もつくので苗の生長がよくなる。チーク,ゴムノキ,ドリアン,アブラヤシでもVA菌根菌を接種すると苗の生長がよくなったという。しかし,共生微生物を考えに入れた育苗・植栽技術はまだできあがっていない。また外来種を植え続けると,養分の収奪が激しく,土壌とその中の生物相が変化してしまう。今後持続的な熱帯林業をすすめるためには,土壌微生物や小動物の保全も考えた土壌管理が必要になるだろう。炭を利用するのもひとつの重要な方法である。近年モミガラくん炭や粉炭を簡便に生産する炉やプラントが開発され,炭も土壌改良材として広く使用できるようになった。炭は根粒菌やVA菌根菌を固定するのに適しており,ペレット状の接種源や炭を含んだ肥料も使われるようになった。炭は共生微生物だけでなく,アゾトバクターやバイエリンキアを増殖させるのにも役立つ。インドネシアでモミガラくん炭と石灰を使うと,第一作目のダイズだけでなく,第二作目のトウモロコシでも高い収量が得られたという。ちなみに熱帯では,どこで土壌を採っても空中窒素固定菌がほぼ100%出現するが,日本では30〜50%が通常である。熱帯で焼畑が可能なのも,この微生物の分布に負っているらしい。熱帯や亜熱帯の自然の潜在力,言いかえれば微生物の力をいかに有効に使うかという点に,将来の人口増加と食料供給問題を解決する鍵があるように思える。炭を農林業に用いることは,単に植物の生長や収穫を増やすのによいというだけではない。CO_2の増加による地球温暖化も年々地球規模で深刻化しており,樹木の枯死や異常気象などとなって現れている。CO_2固定のアイディアは多いが,大量かつ効果的に固定する方法は,森林や緑地を作る以外にない。しかし植物が光合成によって同化固定した炭素も,そのままでは燃えたり腐ったりして再びCO_2に戻ってしまう。そのため固定された炭素を不活性化し,封じ込める方法を見いださなければならない。炭を農林業に利用するというこのアイディアは単純だが,炭素の封じ込めには最も効果的なものである。過去の地球上で植物が光合成によって同化し,石炭や石油として土の中に閉じ込めたものを掘り出して燃焼させれば,地球の大気が過去の状態へ戻ってしまうことは誰にでもわかる。もし植物やその残廃物をすべて炭化し,これを土壌に還元し,自然の力によってさらに植物や樹木を育て,炭素の封じ込めと資源のリサイクルを同時に実行することができれば,地球温暖化の防止にいささかでも役立つのではないだろうか。熱帯で実行できる方法を提案する。
著者
坂本 一憲
出版者
日本土壌微生物学会
雑誌
土と微生物 (ISSN:09122184)
巻号頁・発行日
vol.51, pp.35-47, 1998-03-01 (Released:2017-05-31)
参考文献数
47
被引用文献数
3

畑土壌における微生物バイオマスと土壌窒素肥沃度との関連について議論することを目的とし,著者が検討を進めてきた有機物資材が微生物バイオマスと土壌窒素肥沃度に及ぼす影響,および各種土壌型における微生物バイオマスと窒素肥沃度との関係に関する研究について紹介した。土壌中のバイオマス量は有機物資材の易分解性有機画分の施用量,および土壌の粘土含量・CECと高い相関関係にあることが認められ,バイオマスにとって有機物資材は「増大因子(基質の供給)」として,また土壌の粘土含量・CECは「定着因子(住み場所の確保)」として重要であると考えられた。土壌窒素肥沃度の指標である可給態窒素量とバイオマス窒素量との関係を解析してみると,有機物資材による可給態窒素の増大や各種土壌型の可給態窒素量は共にバイオマス窒素量と高い相関関係にあることが認められた。このことからバイオマス窒素は土壌窒素肥沃度と密接な関係にあること,また有機物資材中の窒素はバイオマスを一旦経由して作物に供給されることが明確となった。今後バイオマスは土壌の肥沃度管理や土壌改良の指標として多いに活用されるべきものと考えられた。以上の研究成果をふまえ,今後進展されるべき微生物バイオマスの研究について議論した。
著者
國頭 恭 諸 人誌 藤田 一輝 美世 一守 長岡 一成 大塚 重人
出版者
土壌微生物研究会
巻号頁・発行日
vol.73, no.2, pp.41-54, 2019 (Released:2020-04-09)

2008年のリン価格の高騰以降,農地に蓄積した「legacy P」の有効化を試みる研究が多くされている。このlegacy Pの有効化は,リン資源枯渇の問題だけでなく,湖沼の富栄養化や植物病害を抑制する上でも重要である。土壌のリンの可給化に寄与する因子としては,アーバスキュラー菌根菌が最もよく研究されているが,ここでは効果が明瞭でない,あるいはあまり研究されていない,リン溶解菌,ホスファターゼ,微生物バイオマスリン,土壌の還元化に関する基礎的情報を提供した。いずれも,いまだ基礎的な知見すら不足しており,すぐに実用的に利用することは困難である。しかし,実際に土壌中で重要な役割を果たしており,農地に蓄積したリンの可給性を規定する仕組みを理解するうえでも,これらに関する理解の深化は不可欠である。またlegacy Pを有効利用するためにリン減肥をする際は,これまでよりもさらに精確なリン可給性の評価が必要となる。その場合,化学的評価法だけではなく,微生物バイオマスリンや土壌酵素の資源配分モデルといった生物指標の利用も有用である可能性があり,今後検証する必要がある。
著者
福田 雅夫
出版者
日本土壌微生物学会
雑誌
土と微生物 (ISSN:09122184)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.84-88, 2008
参考文献数
12

高残留性環境汚染物質であるポリ塩化ビフェニル(PCB)の分解細菌Rhodococcus jostii RHA1株は,放線菌群に属するグラム陽性無芽胞桿菌で,妹尾らにより分離されたγ-HCH(リンデン)分解菌と同じ圃場に由来する。RHA1株においてPCB分解を触媒するビフェニル代謝酵素系では,(1)各分解ステップに複数の同種酵素(アイソザイム)が関与し,(2)5つのオペロンに分散した酵素遺伝子が巨大な線状プラスミドにコードされ,グラム陰性PCB分解菌とは異なるベクトルで分解酵素系を進化させてきたと想像される。RHA1株のゲノム解析はブリティシュコロンビア大学(UBC,カナダ)のグループとの共同研究で進められ,2005年に9.7メガベースの巨大ゲノムのシーケンスが完了し,上述のアイソザイムの分布や,多数のオキシゲナーゼ遺伝子をもつことなどが明らかになった。我々は農業環境技術研究所の小川(現・静岡大学)らとRHA1株の滅菌土壌中での増殖における遺伝子発現を,DNAマイクロアレイ技術を用いて調べ,滅菌土壌中で特異的に発現すると考えられる遺伝子を同定することに成功した。