著者
藤野 清美
出版者
日本精神保健看護学会
雑誌
日本精神保健看護学会誌 (ISSN:09180621)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.81-90, 2014-06-20 (Released:2017-07-01)

研究目的は,地域生活へ移行し定着した慢性期統合失調症患者の,症状を調整するために自ら選択・決定した体験の語りから,地域生活の定着に向けた意志決定過程を明らかにすることである.研究対象者は,精神科デイケアへ1年間以上通所する成人期後期の患者9名である.研究方法は,半構造化面接によりデータを収集し,修正版グラウンデッド・セオリー法による質的帰納的研究を行った.慢性期統合失調症患者の地域生活の定着に向けた意志決定過程は,1)安心して意欲を回復する局面,2)現実へ直面して自分を知る局面,3)自ら判断して生活を積み重ねる局面の3つの局面で構成された.その過程は,他人との相互作用を通して安全で安心できる体験が得られることにより意欲を回復し,現実へ直面して自分をより良く知ることが可能となっていた.そして,ゆるぎない自分となることで,自らが判断して生活の中での目標を見出し,日々を積み重ねて人間性を醸成する過程であった.
著者
柏 美智
出版者
日本精神保健看護学会
雑誌
日本精神保健看護学会誌 (ISSN:09180621)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.29-39, 2021-06-30 (Released:2021-06-30)
参考文献数
22

本研究は,困難に陥った一般病棟看護チームのレジリエンス表出による回復のプロセスを記述することを目的とした.看護師経験が6か月以上で,一般病棟に勤務する常勤看護師20名を対象に半構造化面接を行い,修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチの手法に基づき分析した.困難に陥った一般病棟看護チームのレジリエンス表出による回復のプロセスは,【混迷】の中でチームが粘り強く耐えて【模索】し始めることで,看護師個々の相互関係を【醸成】し,さらにチームとして【強化】することで,安心空間の創出という【変容】に至るプロセスをたどったと解釈された.これら5局面において,【醸成】における〔対話の成立〕の有無がその後の【変容】にまでつながる契機となり,チームは相互作用を高めながらレジリエンスを表出して回復すると考察された.このプロセスにおいて,省察の場,つながりを求めること,経験知を蓄積していくことの重要性が示唆された.
著者
長田 恭子 長谷川 雅美
出版者
日本精神保健看護学会
雑誌
日本精神保健看護学会誌 (ISSN:09180621)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.1-11, 2013-06-10 (Released:2017-07-01)
参考文献数
18
被引用文献数
2

本研究は,自殺企団後のうつ病者を対象として,自殺に至るまでと自殺企図後の感情および状況を明らかにすることを目的とした.うつ病あるいは双極性障害で自殺未遂が原因で入院となった11名を対象にナラテイヴ・アプローチを活用した非構造化面接を行い,質的帰納的に分析した.その結果,自殺前の感情および状況として【常在する自殺念慮】【強い孤独感】【長年にわたる家族への我慢】【価値のない自分】【生への絶望感】【自殺の衝動】の6カテゴリー,自殺後の感情および状況として【死への執着】【自殺の肯定】【医療者への隠された本音】【抑うつ状態の持続】【家族からの疎外感】【先がみえない不安】【自殺念慮の緩和】【再生への意欲の芽生え】の8カテゴリーが抽出された.参加者は,自殺未遂後も【死への執着】や【自殺の肯定】を抱えており,自殺前からの不変的環境下において,容易に自殺念慮が高まる可能性があることが明らかになった.自殺未遂者に対する多職種による包括的支援の必要性が示唆された.
著者
岡本 典子 田中 有紀
出版者
日本精神保健看護学会
雑誌
日本精神保健看護学会誌 (ISSN:09180621)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.91-100, 2014-06-20

精神科病棟に1年以上入院している統合失調症患者の社会行動を,病棟看護師がSocial Behaviour Schedule (SBS)日本語版を用いて評価した場合の妥当性について検討した.尺度は<対人交流における奇妙さ><過剰で不適切な行動><低下したための不適切な行動><反社会的な行動><対人交流における自己顕示><不安や気分の落ち込み>の6因子構造であった.Cronbach a係数0.88, 2名の看護師間の信頼性係数の範囲は-0.09≦k≦0.78, 1ヵ月の期間をおいて行った再検査の信頼性係数の範囲は0.43≦r≦0.83であった.Global Assessment of Functioning(GAF)尺度との相関係数はr=-0.65であり,本尺度が測定する社会的に容認されない行動が多いほど,全体的機能が悪い傾向にあることが示された.SBS得点は,52.7%の患者に【社会との適切な接触】の問題が見られ,長期在院者の状況を反映していた.以上の結果から,構造的側面,一般化可能性の側面,外的側面,結果的側面からの証拠が集められ,SBS日本語版を病棟看護師が1年以上入院している統合失調症患者の社会行動評価に使用した場合の妥当性を確認することができた.
著者
鷺 忍 寳田 穂 和泉 京子 德重 あつ子
出版者
日本精神保健看護学会
雑誌
日本精神保健看護学会誌 (ISSN:09180621)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.19-28, 2022-06-30 (Released:2022-06-30)
参考文献数
16

本研究の目的は,高齢者入所施設で生活する高齢精神障害者の語りを通して,援助職者から受けるケアに関する体験を描き出し,施設における精神障害者へのケアの課題を考察することである.半構造化インタビュー調査にて,認知症を除く精神障害の診断名をもつ65歳以上の高齢者から①施設入所の経緯②印象的なケア体験③ケアへの思い等の自由な語りを得た.同意を得てICレコーダーに録音し,逐語録を作成し分析した.参加者は4施設の10名であり,参加者の語りからは次のようなケアのストーリーが明らかになった.精神障害をもつことによって自尊感情が傷ついている参加者にとって,〈一人の人〉として関心を向け,ケアしてくれる援助職者との関係性を築いていくプロセスを通して,援助職者との関係で傷ついたりしながらも,病気や生活に対する捉え方が前向きになっていった.これは〈一人の人〉として認められた感覚の獲得につながっていた.施設でのケアにおいては,入所者の自尊感情が回復できるような対人関係のあり方が重要な課題であると考えられた.
著者
嵐 弘美
出版者
日本精神保健看護学会
雑誌
日本精神保健看護学会誌 (ISSN:09180621)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.38-49, 2009-05-31 (Released:2017-07-01)
参考文献数
6

<目的>中井(1989)の「身体-身体像-自我の三者関係からみた統合失調症の経過のモデル」に基づき、統合失調症者に対する身体ケア技術の意味を明らかにすることである。<方法>看護ケアの参加観察からデータを質的に分析した。<結果>研究対象者の身体-身体像-自我の三者関係の障害は、身体→自我→身体像の順に回復し、身体ケア技術は、障害の回復に先んじて、身体→自我→身体像の順にその焦点を移行させていた。また、身体ケア技術は、<精神及び身体の状態を観察・把握する><身体感覚の機能を代理し、回復を促す><自我を保護し、補足する><看護師の身体性を通して、空無化した身体の存在を保証する><身体像の修復を促す>という5つの技術から構成されており、特に<身体感覚の機能を代理し、回復を促す>技術の重要性が示唆された。<結論>結果から、身体ケア技術の意味は、身体-身体像-自我の三者関係に直接的に働きかけることによって、心身の分裂に橋を架け、統合失調症の回復に寄与するものであると捉えられた。
著者
安達 寛人 塩谷 幸祐 田口 玲子 長谷川 雅美
出版者
日本精神保健看護学会
雑誌
日本精神保健看護学会誌 (ISSN:09180621)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.40-49, 2021-06-30 (Released:2021-06-30)
参考文献数
19

本研究は,一豪雪地域で生活を継続している統合失調症を持つ人の経験について当事者の語りから明らかにすることを目的として,精神科デイケアまたは就労支援事業施設に通所している統合失調症者11名を対象に半構成的面接を実施し,質的帰納的に分析を行った.結果,本研究における豪雪地域で生活する統合失調症を持つ人の経験は,【健康維持の心がけと習慣化】【日常生活維持のための自己決定】【積雪環境への適応】【周囲の人々からの支え】【今後の生活への希望となるものの獲得】【自分の病気と療養生活の受け入れ】【対人関係における配慮】【問題や課題の保留と我慢】の8カテゴリーに分類された.積雪環境において,彼らは自身の気分変調への対処や気持ちの整理をし,周囲のサポートを受けながら【積雪環境への適応】をすることで生活を継続していることが明らかとなった.本研究では,当事者が健康を維持できるよう配慮しながら,積雪に関連した移動手段の確保や余暇活動の支援の重要性が示唆された.
著者
八木 こずえ 鈴木 麻記子 坂井 美加子 北村 育子 阿保 順子
出版者
日本精神保健看護学会
雑誌
日本精神保健看護学会誌 (ISSN:09180621)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.12-23, 2008 (Released:2017-07-01)
参考文献数
9
被引用文献数
1

本研究は、地域生活を営む初発の統合失調症患者に対して、自我強化に焦点をあてた看護面接を実施し、寛解期以降の生きにくさの本質と、看護面接の構造を明らかにすることを目的とした。対象は青年期の初発の患者3名である。面接は精神科看護経験3年以上の面接者3名が、生活体験を自我にフィードバックすることを主眼に行った。面接記録から生きにくさの本質と面接方法を質的に抽出し、カテゴリー化した。その結果、対象の生きにくさとは、【病気の本態に関連する生きにくさ】に対して【病気である自分に対する思い】と日々格闘しながら【他者との間で葛藤】し、【日常生活の制約】を強いられるという相互関係があった。またそれが、自己を確かな者と感じることを妨げており、その【不確かな自己】がさらに生きにくさを助長する構造をなしていた。面接者は迷いや限界、自分の傾向性をはじめ、患者の可能性に気づく体験をしており、最終的には【患者の鏡になる】役割を果たしていた。
著者
吉村 公一
出版者
日本精神保健看護学会
雑誌
日本精神保健看護学会誌 (ISSN:09180621)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.12-20, 2013-06-10 (Released:2017-07-01)
参考文献数
13
被引用文献数
1

長期入院統合失調症患者の退院後の生活の場への意向に対して精神科看護師がどのような態度をとるのかを探求し,概念およびカテゴリーを生成する目的で研究を行った.半構造化面接を行い,収集したデータを,M-GTAを参考に分析を行った.調査の結果得られたカテゴリーから,今回【退院調整の障壁】カテゴリーに焦点をあて考察をした.【退院調整の障壁】を打破するために,必要な追加教育を精神科看護師に紹介し,専門的な技術を展開できるように支援する必要性が示唆された.また,精神科看護師が葛藤を感じたときに意思決定を導き出せるような組織体制や倫理に関する教育システム作成の必要があること,精神科看護師のかかわりの効果を保障するといった心理的サポートや家族支援の学習を行うなどの教育システム作成の必要があること,そして,精神科看護師に対する社会資源,地域資源などに関する教育的な働きかけが必要であることも示唆された.
著者
藤野 成美 脇崎 裕子
出版者
日本精神保健看護学会
雑誌
日本精神保健看護学会誌 (ISSN:09180621)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.105-115, 2010-06-30 (Released:2017-07-01)
参考文献数
28

本研究の目的は,高齢期の長期入院統合失調症患者がとらえる老いの認識と自己の将来像について明らかにし,看護実践への示唆を得ることである.研究対象者は,精神科病院に10年以上入院中である65歳以上の統合失調症患者7名であり,半構造化インタビューを実施し,質的帰納的分析を行った.その結果,老いの認識は「加齢に伴う心身能力の衰え」「精神科病院で老いていくしかない現状」「満たされることのない欲求の諦め」「死に近づく過程」であり,自己の将来像は「期待が心の糧」「成り行きに身を任せる」「将来像を抱くことを断念」であった.長期入院生活で老いを実感した対象者が語った現実は,社会復帰は絶望的であるという心理的危機状況であったが,現状生活に折り合いをつけて,心的バランスを保っている心情が明らかとなった.退院の見通しがつかない現状であるが,その人がその人らしく生きていくために,少しでも自己実現のための欲求を満たすことができるよう支援する必要がある.