著者
西澤 茂
出版者
日本管理会計学会
雑誌
管理会計学 : ⽇本管理会計学会誌 : 経営管理のための総合雑誌 (ISSN:09187863)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.43-60, 1995-03-29 (Released:2019-03-31)

本稿は,オプション取引の会計測定,特に買建オプションと売建オプションへのヘッジ会計の適用方法の違いを明らかにすると共に,オプション取引に関する会計情報を用いた一管理手法を提案することを目的としている.具体的には,ヘッジ目的でプロテクティブ・プットおよびカバード・コール・ライティングと呼ばれる通貨オプション取引を締結した取引モデルを想定して検討を行っている.2つのオプション取引の経済特性を検討してみると,プロテクティブ・プットの場合には,ヘッジ対象から損失が発生した時点で,同額の本源的価値の増加が発生するので,ほぼ完全なヘッジが働く.しかし,カバード・コール・ライティングの場合には,オプション料の受領という収益機会が得られる反面,そのヘッジ効果は受領した金額の範囲内でしか働かないばかりでなく,さらに為替変動が不利な方向に進んだ場合には,多額の損失を被る可能性がある.会計では,これらの経済的実質を反映した測定を行うべきであり,プロテクティブ・プットには,ヘッジ対象から生じる損失が発生した時点で,同額増加する本源的価値を測定するヘッジ会計を適用すべきであるが,カバード・コール・ライティングには,ヘッジ会計は適用すべきでない.さらに,それらの取引から生じるリスクを適正に管理するには,プロテクティブ・プットの場合には,オプション対象と同一通貨でのオプションを設定している限りヘッジ効果が有効に働くため問題はないが,カバード・コール・ライティングの場合には,為替変動に対してオプション取引から発生する利益または損失のポジションを適時・適正に把握する必要がある.
著者
牧野 功樹
出版者
日本管理会計学会
雑誌
管理会計学 : ⽇本管理会計学会誌 : 経営管理のための総合雑誌 (ISSN:09187863)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.71-95, 2020-03-31 (Released:2020-04-15)
参考文献数
122
被引用文献数
1

本論文では,Lavia Lòpez and Hiebl (2015) の方法に準拠し,日本における中小企業の管理会計研究についてシステマティック・レビューを実施した.結果として,第1に,日本においても中小企業を対象にした管理会計研究は,わずかしかないことを確認した.第2に,中小企業における管理会計の採用要因やアウトカムについての一般的な傾向を明らかにした研究が,ほとんどされていないことを示した.第3に,日本においても中小企業は管理会計の利用によって多様なアウトカムを得ていることを確認した.レビューによって示唆された今後の研究機会は以下の3点である.第1に,経時的研究のような日本における中小企業の管理会計研究では実施していない研究を行うことである.第2に,ケース・スタディや実態調査から得られた知見を理論へと進展させることである.第3に,個別の管理会計システムの採用による業績への影響を具体的に明らかにする必要性があることである.
著者
加登 豊
出版者
日本管理会計学会
雑誌
管理会計学 : ⽇本管理会計学会誌 : 経営管理のための総合雑誌 (ISSN:09187863)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.3-20, 2022-03-30 (Released:2022-03-30)
参考文献数
44

本稿は,2021年度日本管理会計学会全国大会(主催校:長崎県立大学佐世保校(リモート開催))の特別企画報告「再び「管理会計のレゾンデートル」について」(2021年8月27日(木))の概要を,それに先行して公表した二編の論文(加登2020, 2021)やここ数年の学会報告も踏まえて取りまとめたものである.管理会計の存在意義の確認が研究遂行上,不可欠であることを強調した後に,管理会計の研究・教育の高度化を達成し,加えて,経営実践での有用性を獲得するために取り組むことが望まれるアクションを示す.具体的には,経営者・経営幹部・他領域の研究者との「対話」を促進すること,管理会計の魅力を広く喧伝すること,管理会計教育の一層の高度化を果たすことなどがある.
著者
高橋 邦丸
出版者
日本管理会計学会
雑誌
管理会計学 : ⽇本管理会計学会誌 : 経営管理のための総合雑誌 (ISSN:09187863)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.53-68, 2008

<p>本論文は,買収対価の支払手段の違いが経営者の裁量行動にどのような影響を及ぼすかについて考察を行っている.本論文では,1999年10月に施行された株式交換制度・移転制度後に株式交換およびTOB(現金取引)にてM&Aを行った298社(株式交換:買収企業123社,ターゲット企業80社,TOB:買収企業45社,ターゲット企業50社)をサンプルとして,株式交換比率決定日および買収アナウンス日前に利益増加型の利益調整を行っているかについて分析を行った.分析の結果,買収企業については株式交換を利用した企業のほうが交換比率決定日前の決算期に利益増加型の利益調整をしていることが明らかとなった.また,ターゲット企業についても一部統計的に有意でないものの買収企業と同様の結果が得られた.この結果から,株式交換比率を自社に有利なものにするために,経営者が利益増加型の利益調整を行っていることが示唆されている.</p>
著者
渡邊 章好
出版者
日本管理会計学会
雑誌
管理会計学 : ⽇本管理会計学会誌 : 経営管理のための総合雑誌 (ISSN:09187863)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.11-20, 2013-03-31 (Released:2019-03-31)
被引用文献数
3

本稿では,ゲーム理論を応用し,実務の説明理論構築を志向した分析的研究について,その意図と,それが管理会計の領域にもたらす貢献を明らかにする.伝統的に,このような分析的研究としてはエージェンシー理論を応用した研究が想定され,特に業績管理会計に関連するテーマを分析してきた.しかし,近年,戦略管理会計,特にポジショニング・アプローチのように市場における企業間の関係を対象とするテーマが増えてきたが,このようなテーマの分析には産業組織論の応用が有用である.そして,いずれにせよ,分析的研究は,伝統的知見の拡充を意図しており,管理会計教育への貢献を第一に考えていると言える.また,革新的な技法を提供することや,業績を改善するための方策を示すことはないが,分析的研究は教育を通した実務へ貢献も重視している.さらに,分析的研究が実務との関連を強めるために,それ以外の研究方法との連携を重視しなければならず,その点にも言及する.
著者
横田 絵理
出版者
日本管理会計学会
雑誌
管理会計学 : ⽇本管理会計学会誌 : 経営管理のための総合雑誌 (ISSN:09187863)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1-2, pp.55-66, 2005-03-31 (Released:2019-03-31)

日本企業が米国から紹介されたマネジメント理論を導入する際に困難が伴うことを踏まえ,日本企業のマネジメントコントロールがもつコンテクストとはいかなるものであり,どのように変化しようとしているかを質問紙調査,インタビュー調査,事例研究などから仮説探索的に検討した.結果として,従来,長期的な心理的契約を構築することに寄与してきた人事管理システムの変化により,マネジメントコントロールの2分割構造は変わりつつある.業績評価システムは,両者をつなぐ役割を果たし,新しいコンテクストの移行に影響を与えることもできよう.
著者
山田 恵一
出版者
日本管理会計学会
雑誌
管理会計学 : ⽇本管理会計学会誌 : 経営管理のための総合雑誌 (ISSN:09187863)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.43-64, 2001

<p>本論文は,セール・アンド・リースバック取引の会計基準等の比較検討を行い,その取引の経済的実質を明らかにし,会計理論上,その妥当な測定方法を提案することを目的としている.検討の結果,セール・アンド・リースバック取引は,経済的実質の相違に基づいてつぎの3つに分類される,1)その取引の経済的実質は,譲渡担保による資金の借入れである,2)その取引の経済的実質は,財産の売買取引とオペレーティング・リース取引とが一体となった取引である,3)その取引の経済的実質は,財産の売買取引と準フルペイアウトを満たすファイナンス・リース取引とが一体となった取引である.したがって,セール・アンド・リースバック取引の測定方法の妥当性については,それぞれの目的の取引の経済的実質を的確に写像する測定方法が必要である.</p>
著者
山本 宣明
出版者
日本管理会計学会
雑誌
管理会計学 : ⽇本管理会計学会誌 : 経営管理のための総合雑誌 (ISSN:09187863)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.109-126, 2007

<p>本研究はAbernethy and Lillis(2001)に依拠して,非財務測度を含めた業績評価システムが現在の日本の大規模病院において,どのように機能しているのかを実証的に検討している.先行研究であるAbernethy and Lillis(2001)は,オーストラリアの病院を対象として病院の戦略的スタンスと診療科の自律性,業績評価システムのシーケンシャルな関係が病院の効率性と有効性に正に関連することを実証している.本研究における結果は,資源管理業績基準がモニター機能も情報的機能も果たしていないこと,自律性の委譲との対応関係に基づく財務的責任構造が明確ではないこと,診療管理業績基準がモニター機能を発揮できていないという3点を示しており,診療科の自律性を考慮した業績評価システムの構築と運用が課題であることを浮き彫りにしている.特に財務的責任構造の整備は喫緊で必要であり,併せて測度の寄せ集めに終わらない取り組みが求められている.</p>
著者
浦田 隆広
出版者
日本管理会計学会
雑誌
管理会計学 : ⽇本管理会計学会誌 : 経営管理のための総合雑誌 (ISSN:09187863)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.43-60, 2000

<p>品質原価計算に関する研究の多くは,当該技法の技術的側面に焦点をあてたものであり,同技法のもつ社会的・経済的機能について包括的な検討を試みた研究は少ない.そこで本稿では,品質原価計算は歴史的所産であり,その存在は社会的・経済的要因に規定されるとの観点から,既存の研究成果を踏まえた上で,実在する企業における品質原価計算の実践過程を取り上げ,それを要請する社会経済的背景とともに,当該技法の構造と機能について分析を行った.</p><p>Xerox社の品質原価計算は,アメリカ複写機市場をめぐる資本間競争を背景として構築された管理会計技法である.同社は,1960年代,電子複写原理・技術の商品化を契機に,経済的成長の基盤を確立し,アメリカ複写機市場における独占的地位を獲得した.しかし,1970年代以降,反トラスト法の適用による特許技術の公開や高品質・低価格戦略を経営戦略の支柱とする競争企業の参入によって,Xerox社の独占的支配力は低下した.同社の経営層は,品質向上と原価低減の同時的達成を企図した経営戦略への転換を余儀なくされ,それは品質原価計算の導入というかたちで具現化されるに至ったのである.</p><p>同社の品質コストは,ASQCの推奨するPAF接近法に依拠しながらも,それに拘束されることなく,同社の戦略的基盤となるTQMを反映して定義された.同社の機会喪失コストにそれがあらわれており,外部失敗コストから敢えて分離・独立させ,その測定と管理を試みていた.また,品質コスト管理の技術的主流は,実際品質コストの期間比較にあったが,同社の場合,予算を適用し,実際との比較を可能にすることで,差異分析を試みており,さらにはその成果を全社組織的に浸透させるべく,非製造部門へ展開されている.</p><p>品質原価計算の基底には,競争戦略としての品質の重要性が存在している.当該技法は,経営管理の用具として,労働者および下請企業の管理強化に寄与することによって,品質向上と原価低減の同時的達成に貢献したのである.</p>
著者
山本 達司
出版者
日本管理会計学会
雑誌
管理会計学 : ⽇本管理会計学会誌 : 経営管理のための総合雑誌 (ISSN:09187863)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.49-64, 2009

<p>M&Aは経営資源の効率的利用を促進し,不効率な経営を行ってきた経営者を排除する1つの有力な手段である。しかし,日本の株式市場にはTOBが円滑に実行できる環境が整っておらず,その原因は株式市場の非効率性にあると考えられる。そして,この非効率性を形成する2つの要因は,投資家の心理的要因と株式相互持合の慣行である。</p><p>このような非効率な株式市場において,TOBを成功させるための現実的な戦略は,ターゲット企業の経営者に経営者地位を保証するとともに,経営者が友好的TOBに応じる最低限の経営者報酬を約束することである。</p>
著者
福嶋 誠宣 濵村 純平 井上 謙仁
出版者
日本管理会計学会
雑誌
管理会計学 : ⽇本管理会計学会誌 : 経営管理のための総合雑誌 (ISSN:09187863)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.117-129, 2020-03-31 (Released:2020-04-15)
参考文献数
11

企業が開示する財務データは有用な研究資源である.例えば,ある特定の管理会計システムの成果変数として,クロスセクショナルに抽出された財務データが使用される場合がある.しかし,財務データの決算月は企業によって異なるため,クロスセクショナルな財務データといっても会計期間が共通しているとは限らない.本論文では,このような会計期間の相違がサンプリングされた財務データの同質性に与える影響を検証している.なお,こうした問題を回避する手段として,会計期間が同じ企業の財務データのみを抽出するという方法も存在する.そこで,このような抽出方法を採用した場合のサンプリング・バイアスについても検証する.結果として,3月期と前年12月期の財務データが含まれるようにサンプリングすることで,より同質性の高いサンプルを得られることが示唆された.また,3月期の財務データのみを抽出すると,業種構成や企業規模の点でバイアスが存在するおそれがあることも明らかとなった.
著者
鈴木 研一 松岡 孝介
出版者
日本管理会計学会
雑誌
管理会計学 : ⽇本管理会計学会誌 : 経営管理のための総合雑誌 (ISSN:09187863)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.3-25, 2014-03-20 (Released:2019-03-31)
被引用文献数
1

本研究は,従業員満足度,顧客満足度,および財務業績の関係に関わる検証を,ホスピタリティ産業の一つであるホテル業を営む日本企業A社の,6年間に及ぶデータを用いて検証した.このような一連の関係を扱った研究は会計学の分野では非常に少ないために,マーケティング論および組織論まで含めて幅広く先行研究をレビューした.学際的な視点から見た本研究のオリジナリティは,(1)従業員と顧客が直接に相互作用する代表的な業種であるホスピタリティ産業において,(2)6年間もの長期間にわたって収集したデータを用いて,(3)従業員満足度→サービスの質→顧客満足度→稼働可能客室当り粗利益という一連の関係を同時に分析し示したことである.このことは,一連の関係を同時に明らかにした研究が限られている中で,実務がそのような関係を重視することの裏付けを与えたということだけでなく,サービス・プロフィット・チェーンやバランス・スコアカードといった多様な業績指標を含むフレームワークの妥当性を示す一つの実証的証拠を提示したという点で,一定の意義があると思われる.
著者
西澤 脩
出版者
日本管理会計学会
雑誌
管理会計学 : ⽇本管理会計学会誌 : 経営管理のための総合雑誌 (ISSN:09187863)
巻号頁・発行日
vol.4, no.2, pp.51-66, 1996-03-25 (Released:2019-03-31)

筆者は,1994年秋に主要会社1,000社に対して,管理会計の全領域に亘り227項目のアンケート調査を実施した.当調査に回答した229社の回答を集計・分析した結果を『日本企業の管理会計-主要229社の実態分析』と題して出版した.当調査を解析した結果,管理会計理論と実務の間に相当の乖離を発見した.中には理論と実務が一見正反対の傾向を示している回答結果さえ存する.なぜ管理会計理論と実務は乖離するのか,両者を融合させるにはどうすべきか.この課題に挑んだのが,本論文である.本論文では,対象とする理論と実務を定義・類別したうえ,理論と実務のうち応用理論と実態理論について両者の関連性を検討している.この場合には,乖離説や一体説は容認し難いので,融合説に立ち,いかに両者を融合すべきかを論及する.まず管理会計理論と実務の乖離・融合問題を解明するため,有用性-特に目的適合性の立場に立ち,目的適合性を単一目的適合性,複合目的適合性(経営機能別・管理階層別に細分)及び環境適応型目的適合性に分類する.これらの目的適合性別に乖離の要因と融合の方策を,内外の文献を基に史的に考察し,理論的検討の基盤とする.またこれらの立前論とは別に本音論についても言及する.本論としては,以上の検討に基づき4つの仮説(単一目的適合性,経営機能別目的適合性,管理階層別目的適合性及び環境対応型目的適合性の各仮説)を立て,これを上記の実態調査結果により例証する.最後に管理会計理論と実務の融合を図るには,日本管理会計学会に期待するところが極めて大きいことを主張し,本論文の結論とする.なお,本論文は,1995年11月10日に立命館大学で開催された日本管理会計学会第5回全国大会の統一論題において研究報告した草稿を加筆したものである.
著者
佐藤 康男 森 淳
出版者
日本管理会計学会
雑誌
管理会計学 : ⽇本管理会計学会誌 : 経営管理のための総合雑誌 (ISSN:09187863)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.3-22, 1998-03-31 (Released:2019-03-31)

本稿は会計情報システムのうち,管理会計情報システムの予算管理情報システムにおける会計情報システム上のデータベースモデルの問題点に焦点を絞り,データウエアハウス(Data Warehouse)の適用可能性について論述している.近年の著しい情報システムの発達が会計情報システムに大きな影響を与えている.情報技術の進歩が特にデータベースシステムに対して決定的に影響を及ぼすことでこれまで当然とされていたリレーショナルデータベース(Relational Database)を核とした情報システムに疑問が投げかけられている.会計学は財務会計と管理会計のという二つの分野に分類することができるが,会計情報システムもまた,財務会計情報システムと管理会計情報システムという二つの分野に分類することができる.この二つの大きな違いは,財務会計情報システムでは財務データを扱うが,管理会計情報システムでは財務データに加えて非財務データを含めて扱わなければならない点である.したがって予算管理情報システムは財務データだけでなく,非財務データを取り扱うことができなければ評価価値は相対的に大きく低下する.一般に会計情報システムにおいてデータベースはすなわちリレーショナルデータベースが当然とされていたが,リレーショナルデータベースに向く業務はいわゆるOLTP(Online Transaction Process)としての業務であり,予算管理のようなOLAP(Online Analytical Process)に分類される業務にリレーショナルデータベースを適用することに関して様々な技術的問題が存在する.管理会計情報システムのうち特に予算管理情報システムが多元的な情報を必要としており,これに適しかデータベースを考えると現在の情報システムにおけるデータベースモデルとしてはデータウエアハウスが最も適したデータベースである.データマイニングツール(Data Mining Tool)がまだ十分に成熟してはいないが,今後はこのデータウエアハウスが管理会計情報システムの核となるであろう.
著者
佐藤 紘光
出版者
日本管理会計学会
雑誌
管理会計学 : ⽇本管理会計学会誌 : 経営管理のための総合雑誌 (ISSN:09187863)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.17-31, 2000

<p>所有者の立場からすると,企業の投資は現在価値法や内部利益率法などの合理的ルールに従って,株主価値が最大化されるように決定されるべきである.しかし,経営者や管理者はこの基本ルールを無視して株主の選好とは異なる意思決定を行う場合がある.エイジェンシー理論はその理由を経営者や管理者(エイジェント)が株主(プリンシパル)の利益よりも自分自身の利益を優先するインセンティブをもつからであると説明する.エイジェントの投資決定をコントロールするインセンティブ・システムを構築することが業績管理会計の重要課題となる所以である.</p><p>本稿は,このような視点から,経営者や管理者に効率的投資決定を動機づける報酬体系(業績評価システム)のあり方を論じる.最初に,Holmstrom and Ricarti Costaのエイジェンシー・モデルに数値例を当てはめて管理者の投資行動を分析する.そして,効率的な投資決定を動機づけるには,長期(2期間)の雇用関係を自己選択させる業績連動型の報酬体系が必要となることを明らかにする.ついで,モデル分析の含意を用いて,経営者のキャリア・コンサーンが投資決定の効率性を歪めるプロセスをいくつかのケースで説明する.そして,企業価値を測定する業績尺度を報酬体系に結びつける必要性を再確認し,業績評価尺度としての株価や会計利益,経済付加価値などの意義を検討し,経営者報酬との連動性について言及する.</p>
著者
佐藤 紘光 齋藤 正章
出版者
日本管理会計学会
雑誌
管理会計学 : ⽇本管理会計学会誌 : 経営管理のための総合雑誌 (ISSN:09187863)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.61-79, 1995

<p>本稿では,経営者と管理者の間の情報伝達に焦点を当て,エイジェンシー・モデルに基づいてその経済的価値を分析する.管理者が実行した行動の結果は,管理会計が測定する業績情報に集約され,これを報告するという形式で経営者に伝達される.それがリスク・シェアリングと動機づけに果たす役割については,これまでのエイジェンシー研究が明らかにしたところであり,業績情報の伝達が経済的価値をもつことについては異論がない.</p><p>経営者と管理者の間で伝達される情報には,会計報告のような事後情報だけでなく,有用であれば,事前情報も含まれるであろう.たとえば,契約を締結する前段階において、環境条件や生産性についての両者の認識にギャップが存在するのは珍しいことではない.そうした認識の相違は、契約条件,すなわち,業績評価(成果配分)ルールに重要な影響を及ぼすはずであるから,このギャップを埋めるために相互に意志疎通を図る場が用意されるであろう.予算ないし業績目標の決定に管理者の私的情報を反映すべく,決定過程へ管理者の参加を求めるのは,その一例である.本稿は,そうした事前情報の伝達に経済的価値があるか否かを分析する.したがって,本研究は参加の有効性に関する検証とみることもできる.</p><p>論文の構成は以下の通りである.第2節では基本モデルとして,情報伝達を要求しないモデル(PROGRAM 1)と要求するモデル(PROGRAM 2)を提示し,同時に情報レントという概念を導入する.第3節では数値例を用いて情報伝達の経済的価値を測定し,それが価値をもつ場合ともたない場合を明らかにする.第4節では情報伝達の価値の有無を決定づける要因を一般式を用いて検証する.</p>
著者
浅田 拓史
出版者
日本管理会計学会
雑誌
管理会計学 : ⽇本管理会計学会誌 : 経営管理のための総合雑誌 (ISSN:09187863)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.71-86, 2010-01-10 (Released:2019-03-31)

本稿は,個別企業における管理会計の変化プロセスについてより良い理解を提供することを目的としている.このために本稿では進化的アプローチを採用し,株式会社村田製作所の事例を用いて,その優位性を経験的に検証する.また,歴史研究において蓄積されてきた豊かな知見を利用し,これを拡張するという方法でより説明力の高い分析枠組みを構築しようと試みる.このような新たな分析枠組みを用いることで,村田製作所のマトリックス経営における管理会計技法の機能のみの変化という新たな進化型や,経路依存性などの組織的な変化の性質について考察することが可能となる.最後に,進化的アプローチの有用性を主張するとともに,将来研究へ向けたいくつかの課題を述べる.
著者
佐久間 智広
出版者
日本管理会計学会
雑誌
管理会計学 : ⽇本管理会計学会誌 : 経営管理のための総合雑誌 (ISSN:09187863)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.27-46, 2016-03-31 (Released:2019-03-31)

本研究の目的は,ビジネスユニットのマネジャーの個人差が自身のユニットの業績に与える影響を検証することにある.経営者やマネジャーが誰であるかによって意思決定が異なり,その結果として業績も異なるということは,多くの企業実務や経営学の研究において前提となっている.しかしながら,マネジャーが誰であるかによって担当するビジネスユニットの業績にどの程度の違いが生じるのかについて,理論的予測は必ずしも一貫しておらず,実証的な証拠も示されていない.そこで本研究では,株式会社ドンクにおける店舗別の財務・人事データを用いて,マネジャーの個人差が組織業績に与える影響の有無とその大きさを推定した.検証の結果,マネジャーの個人差は,ビジネスユニットの業績に対して経済的に重要な影響を与えるということを発見した.加えて,推定された個人差は,マネジャーのキャリア,年齢の違いと有意に関係していることを発見した.
著者
濵村 純平
出版者
日本管理会計学会
雑誌
管理会計学 : ⽇本管理会計学会誌 : 経営管理のための総合雑誌 (ISSN:09187863)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.93-108, 2019-03-31 (Released:2019-05-15)
参考文献数
22

本研究では,川上部門が自身の提供する製品の製造費用を削減する投資を行なうとき,競争も情報の非対称性もない状況で設定する市価基準振替価格が,限界費用を上回ることを示した.市価基準振替価格を用いると,川上部門が市場価格の決定を通じて振替価格を間接的に操作できるため,自身のマージンを上げるために振替価格水準を高く設定する.この結果は,過去の理論研究では示されていない会計実務を説明する重要な結果である.
著者
新井 康平 加登 豊 坂口 順也 田中 政旭
出版者
日本管理会計学会
雑誌
管理会計学 (ISSN:09187863)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.49-69, 2009

本論文の目的は,工場や事業所の製品原価計算について,その実態を明らかにすることである.管理会計教育における製品原価計算の割合は依然として大きいにもかかわらず,近年,この領域が研究者によって研究されることは少なくなってしまった.そこで本論文は,規範的な議論ではなく,実証的かつ経験的な方法によって製品原価計算の利用目的と設計原理を探求する.探索的因子分析の結果,製品原価計算の5つの利用目的が明らかとなった.また,これらの利用目的と技術変数などが,製品原価の範囲,総合/個別原価計算の選択,原価情報の報告相手,といった設計要素に影響を与えることが明らかとなった.