著者
大田 修平 河野 重行
出版者
日本植物形態学会
雑誌
PLANT MORPHOLOGY (ISSN:09189726)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.19-23, 2019
被引用文献数
1

<p>植物や藻類のカロテノイドは光合成のアンテナ色素や抗酸化作用などの役割をもつことで知られている.単細胞緑藻の一種であるヘマトコッカスはβカロテンを前駆体としてアスタキサンチンと呼ばれる赤いカロテノイドを産生し細胞内に蓄積する.最近の研究によりこのアスタキサンチンは油滴に含まれ,βカロテンやルテインなどのカロテノイドと異なり葉緑体の外側に存在していることが明らかになった.このことからアスタキサンチンは葉緑体に局在するカロテノイドとは本質的に異なる機能を有することが示唆される.タイムラプスイメージング解析を行うと,油滴に含まれるアスタキサンチンは光に応答して細胞内を能動的に移動し,強光を遮断している現象が見られた.ハイパースペクトルカメラやフリーズフラクチャーレプリカ法によるイメージング解析の結果,ヘマトコッカスはアスタキサンチンを用いて光の強弱に対する巧妙な適応戦略を発達させ,強光を回避していることが明らかになった.</p>
著者
広瀬 侑 池内 昌彦 浴 俊彦
出版者
日本植物形態学会
雑誌
PLANT MORPHOLOGY (ISSN:09189726)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.41-45, 2017

<p>シアノバクテリアは,1990年代に光合成生物として初めてゲノムがシークエンスされ,光合成のモデル生物として利用されてきた.一方で,シアノバクテリアは多様性の大きな微生物群であり,我々は,シアノバクテリアの光合成アンテナが補色的に調節される光応答(補色順化)の分子機構の多様性について解析を進めている.これまでの解析により,シアノバクテリア門において,補色順化が緑・赤色光感知機構を持つフィトクロム様受容体に制御されていること,補色順化のシグナル伝達経路が2種類存在すること,光色調節を受ける光合成アンテナ遺伝子セットは4種類以上存在することを明らかにしている.さらに,これらの光色感知機構の分布は16Sリボソーム配列に基づく系統樹との相関関係が低いことから,水平伝播による進化が示唆される.今後,より大量の塩基配列情報に基づいた解析を行うことにより,シアノバクテリアの多様な光合成機構の実態が明らかになっていくことが期待される.</p>
著者
西村 芳樹
出版者
日本植物形態学会
雑誌
PLANT MORPHOLOGY (ISSN:09189726)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.11-16, 2011 (Released:2012-03-27)
参考文献数
26

ミトコンドリア(mt)や葉緑体(cp)の遺伝子は多くの生物において母親のみから遺伝する(母性遺伝).これまで母性遺伝は,父母の配偶子(精子・卵子)の大きさが異なり,mt/cpDNA量に差があることが原因と考えられてきた.これに対し,雌雄同形の配偶子で生殖をおこなう単細胞緑藻クラミドモナス(Chlamydomonas reinhardtii)では,接合後60分以内に雄の葉緑体(cp)DNAが積極的に分解されることで母性遺伝が引き起こされる.本レビューでは,この雄葉緑体DNAの急激かつ選択的な分解を明らかにしてきた生化学,細胞学,顕微分子生物学的研究の数々について俯瞰し,さらに母性遺伝の分子機構に迫りつつある遺伝学的な挑戦について述べる.
著者
大井 崇生 山根 浩二 谷口 光隆
出版者
日本植物形態学会
雑誌
PLANT MORPHOLOGY (ISSN:09189726)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.19-25, 2020 (Released:2021-03-29)
参考文献数
26

試料を薄切片にして透過観察すると,組織や細胞の内部構造を平面像として捉えられる.二次元の平面像の解釈は研究者の知識や経験に基づく想像力に補われて三次元の全体像が理解されてきたが,複雑に入り組んだ構造や,切断方向によって異なる断面像を示す構造を精確に把握することは困難であった.しかし,試料を何十,何百枚という連続切片にして一枚ずつ撮影し,それらを画像解析ソフト上で順々に積み上げる三次元再構築法を用いることで,細胞やオルガネラを立体的に捉えることが可能となる.本稿では,走査型電子顕微鏡(SEM)に集束イオンビーム加工装置(FIB)を内蔵した装置内において切削と観察を繰り返すことで精確に連続切片像を取得できるFIB-SEMを用いた三次元解析について,イネ(Oryza sativa L.)葉身の葉肉細胞の解析例を紹介する.細胞の端から端までを超薄切して三次元再構築することで,イネの葉肉細胞のような複雑に入り組んだ細胞の外形や,その内部の葉緑体などのオルガネラの構造を立体的に捉えることが可能となることに加え,二次元の断面像からは精確な推定が難しかった体積や表面積の定量も可能となる.対象の一部分のみを見る断面観察だけではなく,全体を包括的に捉える三次元解析を行う意義についても議論したい.
著者
根本 知己 川上 良介 日比 輝正 飯島 光一郎 大友 康平
出版者
日本植物形態学会
雑誌
PLANT MORPHOLOGY (ISSN:09189726)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.31-35, 2014 (Released:2015-04-21)
参考文献数
15

2光子励起レーザー顕微鏡(2光子顕微鏡)は,低侵襲性や深い組織到達性といった特徴のため,神経科学を中心に,免疫,がんなどの他領域にもその使用が爆発的に広がっている.植物の研究領域においても,葉緑体の自家蛍光を回避することが可能であるため,2光子顕微鏡の利用は増加している.我々は2光子顕微鏡の開発とその応用に取り組んで来ているが,最近,生きたままでマウス生体深部を観察する“in vivo”2光子顕微鏡法の,新しいレーザー,光技術による高度化に取り組んでいる.特に共同研究者の開発した長波長高出力の超短パルスレーザーを励起光源として導入することで,生体深部観察能力を著しく向上させることに成功した.この新規“in vivo”2光子顕微鏡は,脳表から約1.4 mmという世界最深部の断層イメージング,すなわち,生きたマウスの脳中の大脳新皮質全層及び,海馬CA1領域のニューロンの微細な形態を観察することが可能になった.一方で,我々は超解像イメージングの開発にも取り組み,細胞機能の分子基盤を明らかにするために,形態的な意味での空間分解能の向上にも取り込んでいる.特に,我々は新しいレーザー光「ベクトルビーム」を用いることで,共焦点顕微鏡や2光子顕微鏡の空間分解能の向上にも成功した本稿では,我々の最新の生体マウス脳のデータを紹介しつつ,2光子顕微鏡の特性や植物組織への可能性について議論したい.
著者
栗原 大輔
出版者
日本植物形態学会
雑誌
PLANT MORPHOLOGY (ISSN:09189726)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.81-89, 2011 (Released:2012-03-27)
参考文献数
46

細胞周期の中でも細胞分裂期はダイナミックな染色体動態を伴う過程であり,その動態の美しさは古くから研究者たちを魅了している.安定した遺伝情報の継承のために必須な染色体動態は,様々な分子が関わる精巧なメカニズムによって制御されている.染色体分配に失敗すると直接異数染色体につながり,遺伝情報のバランスに狂いが生じ,細胞死やガン化を引き起こすため,動物の研究では医薬の分野も含めて精力的に研究が行われているが,植物ではほとんど明らかになっていない.著者らはこれまで,シロイヌナズナ,タバコを用いて染色体動態を制御する分裂期キナーゼ,オーロラキナーゼの同定および機能解析を進めることによって,植物における染色体動態制御機構を明らかにすることを進めてきた.本稿では,近年次第に明らかになりつつある染色体動態の制御機構とともに,植物における染色体動態研究の現状と展望を解説する.
著者
野口 哲子
出版者
日本植物形態学会
雑誌
PLANT MORPHOLOGY (ISSN:09189726)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.63-70, 2009 (Released:2011-12-26)
参考文献数
25
被引用文献数
1 2

植物細胞におけるゴルジ装置の研究の歴史と現状を解説し,また,著者が主に単細胞緑藻を用いて行った研究の一端とゴルジ装置の複製に関する研究を紹介した. 植物細胞では,ゴルジ体(扁平なシスターネが5~十数個積み重なった直径1~3μmのゴルジスタック)が細胞全体に分布している. ゴルジ体は細胞周期を通してダイナミックに形態変化し,その酵素活性部位も変化する. ゴルジ装置の形態と細胞内の分布は動物(哺乳類)・植物細胞で大きく異なり,核分裂に伴う複製様式も異なる. 動物細胞では,ゴルジスタックが連結して大型のゴルジ装置を形成し,核周辺に局在している. 核分裂期に管状・小胞化して消失し,核分裂後に再構築される. 一方,植物細胞のゴルジ体は核分裂前期以前に二分裂し,核分裂期を通して消失しない. このように複製様式が異なる起因について検討した結果,核分裂に引き続く細胞壁形成の有無,及び,形態・分布における相違は関係しないと考えられた.
著者
植田 美那子 東山 哲也
出版者
日本植物形態学会
雑誌
PLANT MORPHOLOGY (ISSN:09189726)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.23-31, 2010 (Released:2011-04-08)
参考文献数
42

多細胞生物は複雑な構造をもつが、それらは全て受精卵という単細胞に由来する。被子植物の受精卵は顕著な細胞極性をもち、その不等分裂によって、植物体の地上部の元となる頂端細胞と、根端や胚外組織になる基部細胞が生み出される。つまり、受精卵の非対称性が成熟植物の頂端-基部軸に変換されるわけだが、どのように受精卵が極性化して不等分裂へと至るのか、また、どのような分子基盤によって頂端と基部とで異なる発生運命が生じるのか、いまだ解明されていないことばかりである。しかし近年、これらのメカニズムを理解するための端緒がようやく見え始めてきた。そこで本稿では、主に被子植物であるシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)を用いた分子生物学研究によって得られた最新の知見を概説し、今後の体軸研究の展開について考えたい。
著者
野口 哲子
出版者
The Japanese Society of Plant Morphology
雑誌
PLANT MORPHOLOGY (ISSN:09189726)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.51-60, 2001 (Released:2010-06-28)
参考文献数
22

要旨:ゴルジ体から小胞体系(ER系)への逆行輸送が植物細胞でも存在する証拠を得る目的で、ER系とゴルジ体が近接している藻類細胞二種(単細胞緑藻Scenedesmus acutusとBotryococcus braunii) を用い、brefeldin A(BFA)がゴルジ体とER系の微細構造に及ぼす影響およびBFA処理によってゴルジ体標識酵素のチアミンピロフォスファターゼがER系に移行するか否かを細胞周期のいろいろな時期について調べた。その結果、BFAによって誘導されるゴルジ体からER系への逆行輸送は哺乳類の細胞だけに特有な現象ではなく、植物細胞にも共通の現象であることが示唆された。この逆行輸送は、二種の藻類ともに、間期の細胞では誘導されたが、分裂期の細胞では誘導されなかった。更に、この逆行輸送にはアクチンフィラメント系が関与し、微小管系が関与している哺乳類の細胞とは異なる機構であることが判った。
著者
小笠原 希実
出版者
日本植物形態学会
雑誌
PLANT MORPHOLOGY (ISSN:09189726)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.13-17, 2014 (Released:2015-04-21)
参考文献数
19

二次イオン質量分析法(Secondary ion mass spectrometry : SIMS)は,広い範囲のエネルギーのイオンビーム(一次イオン)を固体試料に照射することで引き起こされるスパッタリング現象により,二次的に放出される試料の構成原子によるイオン(二次イオン)を信号として検出することで,試料に含まれている元素および化合物の情報を得る分析法である.これまでは主に半導体などの材料科学や,鉱物の年代分析などに用いられてきた.SIMSの技術を発展させた同位体顕微鏡,NanoSIMS,TOF-SIMSなどの顕微鏡技術の登場によりSIMS装置での生物試料の分析が検討されるようになり,植物試料においても元素および分子を直接観ることが可能になってきた.現在では植物の組織・細胞レベルでの微量元素の検出ができるようになりつつある.これまでの植物科学における元素分析は,根や葉などの器官レベルでのバルク分析によって,定量的に知見を得てきた.植物における元素の重要性は組織・細胞レベルで考えられているにもかかわらず,実際の分布を直接観察することは難しかった.本稿では,植物科学におけるこれまでの元素分析手法を紹介するとともに,SIMS装置を用いた植物組織・細胞レベルでの元素のダイレクトイメージングの進歩について説明したい.
著者
鈴木 孝仁
出版者
The Japanese Society of Plant Morphology
雑誌
PLANT MORPHOLOGY (ISSN:09189726)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.29-38, 1995 (Released:2010-06-28)
参考文献数
28

真菌の二形性とは、一つの菌株が環境条件によって二つの異なる栄養増殖形態を示すことである。そのうち、単細胞性の酵母と、細胞の連なった菌糸との間で可逆的におこる二形性についての研究では、パン酵母やカンジダ酵母での分子遺伝学的諸法を適用した報告がなされるようになり、遺伝的制御を受けていることが分かってきた。形態形成や分化のモデルとして、最近の知見について総説する。
著者
豊岡 公徳
出版者
日本植物形態学会
雑誌
PLANT MORPHOLOGY (ISSN:09189726)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.15-21, 2016 (Released:2017-04-14)
参考文献数
20
被引用文献数
3

光−電子相関顕微鏡法(Correlative light and electron microscopy: CLEM法)とは,同一試料を光学顕微鏡と電子顕微鏡を用いて観察し,両顕微鏡により得られた像の相関を得る解析法である.これまでに様々なCLEM法が開発され報告されているが,主に動物の培養細胞等が用いられており,植物の組織や細胞に適した方法は報告例は乏しい.植物組織・細胞においても,GFP等の蛍光で標識した生体分子の局在を高分解能で正確に捉えるためにはCLEM法の開発が重要である.我々は植物材料において,GFP蛍光を放つ細胞小器官の超微形態を高分解能走査電子顕微鏡で可視化する「GFP-走査電子相関顕微鏡法」の開発を進めている.細胞小器官をGFPで標識したシロイヌナズナ形質転換体の根端や子葉などの組織・器官を固定・脱水後,樹脂包埋する.そして,ミクロトームにより準超薄切し,導電性スライドガラスに載せ,そのGFP蛍光を共焦点レーザー顕微鏡により検出する.その後,その切片を電子染色し,高感度な反射電子検出器をもつ電界放出形走査電子顕微鏡により,蛍光を撮影した同一箇所の微細構造を撮影する.最後に,蛍光像と電顕像を重ね合わせることで,蛍光を放つオルガネラを特定し,その超微細構造を明らかにする.本技術は,蛍光タンパク質が普及した植物科学分野の超微細構造解析研究に大きく貢献できると期待される.
著者
山田 敏弘
出版者
The Japanese Society of Plant Morphology
雑誌
PLANT MORPHOLOGY (ISSN:09189726)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.103-112, 2004
被引用文献数
1

要旨:被子植物がどのような祖先裸子植物に由来したのかを明らかにするために, 被子植物の共有派生形質の1つである外珠皮の進化過程に関しての考察を行なった. 現生被子植物の中で初期に分岐したことが知られているANITA植物を用いた研究によって, 放射相称なコップ型の外珠皮を持つ胚珠よりも, 左右対称な幌型の外珠皮を持つ胚珠が原始的であることが示唆された. さらにこの結果を化石記録から効率良く検証するために, 化石として残りやすい種子と外珠皮の形態を結びつける形態マーカーを探索した. その結果, 珠孔とへそが外種皮によって隔てられるか否かにより幌型外珠皮由来かコップ型外珠皮由来かを推定できることが明らかとなり, 最古の被子植物種子化石が幌型外珠皮を持つ胚珠に由来することが明らかとなった. 幌型外珠皮は葉などに特徴的な左右対称な性質を持つことから, 著者らは「外珠皮は葉的器官に由来する」との仮説に至った. この仮説の検証のため, 分子マーカーとしてINO相同遺伝子の発現を用いて, ANITA植物のスイレンの外珠皮に葉に特徴的な背腹性が見られるのかを観察した. その結果, 外珠皮ではIN0相同遺伝子が最外層のみで発現することから, 外珠皮は背腹性を持つと考えられた. 以上の結果は外珠皮が葉的器官に由来する可能性を示唆し, 心皮が胞子葉由来とされることを加味すると, 被子植物の雌性生殖器官は一部のシダ種子植物に見られるような「1珠皮性直生胚珠を2枚の葉的器官が包み込んだ構造」に対比されると推定された.
著者
山内 大輔 福田 安希 唐原 一郎 峰雪 芳宣
出版者
日本植物形態学会
雑誌
PLANT MORPHOLOGY (ISSN:09189726)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.3-7, 2016 (Released:2017-04-14)
参考文献数
15
被引用文献数
1

種子は一般的に乾燥状態で,その中に休眠している幼植物(胚)が含まれており,適当な条件が揃うと発芽する.発芽過程における種子中の形態的変化の観察では,その周りを覆う種皮が支障となり,光学顕微鏡観察のための切片作製では固定・樹脂包埋等による試料の変形も問題となる.そこで著者らは,種子を非侵襲で観察するために放射光施設SPring-8においてX線マイクロコンピュータートモグラフィー(CT)を利用している.マメ科ミヤコグサの種子をBL20B2で撮影した結果,胚の輪郭や将来維管束になる前形成層等を捉えることができた.この前形成層周辺にはX線の透過しにくい構造が散在していたが,それはシュウ酸カルシウム結晶であり,種子形成過程中期に現れ,吸水後10日目の子葉中でも消失しないで残ることがわかった.発芽種子の子葉には乾燥種子で見られないX線の透過し易い部分が散在していた.これは細胞間隙であり,吸水後60分になると出現することが分かった.一方,より高分解能での観察が可能なBL20XUを使ってシロイヌナズナ種子を撮影した.その結果,幼根から胚軸にかけての領域を構成する細胞の形が把握でき,胚の表皮,皮層,内皮を構成する大部分の細胞輪郭が抽出できるようになった.これら著者らの結果をふまえ,本総説ではX線マイクロCTの有効利用法や問題点についても言及したい.
著者
今市 涼子
出版者
日本植物形態学会
雑誌
PLANT MORPHOLOGY (ISSN:09189726)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.41-50, 2001 (Released:2010-06-28)
参考文献数
28
被引用文献数
2

要旨:一葉性はイワタバコ科のモノフィレア属とストレプトカルプス属にみられる。これら一葉植物では大きく成長した1枚の子葉だけで体が構成され、一生を通じて茎も普通葉も作られず、花序は子葉の葉身基部から生じる。一葉植物は、その形態の特異さから、これまで様々な分野、特に進化形態学の研究者の注目を集めてきた。本稿では最近の比較形態形成研究ならびに分子系統解析の情報から、イワタバコ科における一葉性の進化について議論する。
著者
東山 哲也
出版者
日本植物形態学会
雑誌
PLANT MORPHOLOGY (ISSN:09189726)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.57-64, 2010 (Released:2011-04-08)
参考文献数
25
被引用文献数
1

花粉管ガイダンス分子(誘引物質)の存在が19 世紀後半に提唱され始めて以来,多くの植物学者がその同定を目指してきた.今回我々のグループは,胚嚢が胚珠組織の外に裸出するユニークな植物トレニアを用いて,助細胞特異的に高発現するシステインに富むペプチド(ポリぺプチド)が花粉管誘引物質であることを発見した(Okuda et al. 2009 ).そのペプチドは,少なくとも2 つ存在し,LURE1 およびLURE2 と名付けた.LURE は,ディフェンシン類似のペプチドであり,助細胞の基部側(花粉管が進入する側)に分泌される.適切に折りたたまれた組換えタンパク質は強い花粉管誘引活性をもつ.その誘引活性の特徴は,花柱を通過していない花粉管は誘引しない,異種の花粉管は誘引しないなど,助細胞で見られる誘引活性の特徴と一致した.また,独自に開発したレーザーインジェクター装置により,遺伝子発現を抑えるモルフォリノアンチセンスを胚嚢に導入すると,花粉管の誘引が阻害された.これらの結果は,LURE が花粉管誘引物質であることを示している.本総説では,LURE の発見の経緯と,その発見がもたらすインパクトについて概説する.
著者
豊岡 公徳 佐藤 繭子 朽名 夏麿 永田 典子
出版者
日本植物形態学会
雑誌
PLANT MORPHOLOGY (ISSN:09189726)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.3-8, 2014 (Released:2015-04-21)
参考文献数
9
被引用文献数
3 6

近年,蛍光イメージングの発展に伴い,組織・細胞・細胞小器官・分子の動態や局在を容易に推定できるようになった.しかし,各組織・細胞にどのような形態のオルガネラが存在し,どのような状態で分布しているか超微形態レベルでの実体を把握するには,未だに透過電子顕微鏡(TEM)による観察が必須である.我々は,組織や細胞などのTEM像を広域に渡って自動撮影するシステムと,撮影したTEM像をつなぎ合わせ1枚の高解像度TEM写真を取得するプログラムを組み合わせた「広域TEM像自動取得システム」を開発した.本システムを用いて,植物組織や培養細胞などの数万枚のTEM像を自動撮影し,結合させることで,ギガピクセルクラスの写真の取得に成功している.さらに,試料を瞬時に凍結する高圧凍結技法により,広域超薄切片の作製に取り組み,動的なオルガネラの分布を広域に渡り把握することに成功している.本稿では,広域TEM像自動取得システムの原理と,高圧凍結技法で作製した超薄切片から画像取得した結果を中心に紹介する.
著者
八木沢 芙美
出版者
日本植物形態学会
雑誌
PLANT MORPHOLOGY (ISSN:09189726)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.105-109, 2012 (Released:2013-03-30)
参考文献数
27

液胞は,細胞内分解をはじめとする多様な機能を持つ.液胞は,小胞体やゴルジ体から新しく合成されうる(Hoh et al. 1995, Catlett and Weisman 2000).それにも関わらず,液胞は,細胞分裂時に母細胞から娘細胞へと分配される.液胞の分配は,細胞が分裂直後から正常に機能するために必要であると考えられる.これまでに知られている液胞の分配機構は,V型ミオシンとアクチンに依存するものであった.これに対し,アクトミオシン系を持たない原始紅藻Cyanidioschyzon merolaeでは,液胞がミトコンドリアに結合することで液胞の分配がおこる.本稿では,真核生物で知られる液胞の分配機構を紹介し,今後の展望について述べる.