著者
山本 正宣
出版者
日本信頼性学会
雑誌
日本信頼性学会誌 信頼性 (ISSN:09192697)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.144-153, 2009-03-01 (Released:2018-01-31)

システム安全工学について,まずシステムを定義し,その安全性について一般的事項を記述する.システムの安全性を構築するための手順,システムの危険源分析手法のチェックリスト方式,FMEA,HAZOP,FTA及びETA,並びに安全性設計のハードウェア,ソフトウェア,伝送系及び計算機を使用する場合の設計手法,評価手法について解説する.さらに鉄道信号システムを事例とした安全性の構築と評価の概要を記述する.
著者
土肥 正
出版者
日本信頼性学会
雑誌
日本信頼性学会誌 信頼性 (ISSN:09192697)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.2-9, 2014-01-01 (Released:2018-01-31)

ソフトウェアエージングと呼ばれる現象は30年程前からその存在が認識されていたが,発生メカニズムや予防策であるソフトウェア若化の研究が盛んに行われるようになったのは2000年頃からである.最近では,ソフトウェアエージングと若化の研究発表が国際ワークショップで定期的に行われるようになり,研究者や実務家のコミュニティも徐々に拡大しつつある.我が国の信頼性研究の拠点でもある日本信頼性学会の学会誌において,「ソフトウェアのエージングと若化」の特集号を企画し,現在の研究動向を各分野のエキスパートに執筆して頂いたことは大変貴重な機会である.特集号の一番バッターでもある本稿では,各種応用領域において展開されているソフトウェアエージングと若化に関する研究の基礎知識として,当該研究分野の歴史的な経緯を概観した後,用語の定義や事例紹介を行い,以降に続く4編の解説記事を理解する助けとしたい.
著者
Michael GROTTKE Kishor S. TRIVEDI
出版者
Reliability Engineering Association of Japan
雑誌
日本信頼性学会誌 信頼性 (ISSN:09192697)
巻号頁・発行日
vol.27, no.7, pp.425-438, 2005-10-01 (Released:2018-01-31)
参考文献数
53

過去10年間, 長期間稼動するソフトウェアシステムに対して, hang/crash障害の発生率が増加したり, 徐々にシステムの性能が劣化する現象であるソフトウェアエージング(経年劣化)について, 数多くの研究がなされてきた.本論文では, 例えプログラムコード上にフォールトが作り込まれていなかったとしても, ソフトウェアシステムが経年劣化を引き起こすことについて考察する.まず最初に, ソフトウェアバグの分類について議論し, それらの定義と相互関係について明らかにする.特に, ソフトウェアエージングに起因するバグがここで提案する分類方法に適合していることを示す.ソフトウェアエージングに関する問題を解決するために, ソフトウェア若化(レジュビネーション)と呼ばれる予防的な方法が提案されている.具体的には, 稼働中のソフトウェアシステムを一旦停止し, 累積エラーの原因を除去した後にシステムを再始動するといったものである.ソフトウェア若化によって生じるオーバーヘッドにより, システムの初期化を行う最適なタイミングを求める問題が考えられる.本論文では, 上記のような重要な問題を取扱うために開発された種々のアプローチについて概説する.
著者
村岡 哲也 池田 弘明
出版者
日本信頼性学会
雑誌
日本信頼性学会誌 信頼性 (ISSN:09192697)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.106-115, 2013-03-01 (Released:2018-01-31)
参考文献数
23

最近では,PCの普及によりディスプレイを使わない生活はありえない.しかし,眼の安全性を考慮して,ディスプレイの使用による眼精疲労が及ぼす作業への影響に関しては,自然科学としての観点から行なわれた研究は殆ど見られないようである.そこで,筆者らは眼精疲労に基づく目の焦点調節機能(視機能)の低下と可読性の劣化に焦点を当て,測定法提案や試料測定を行い,更に,可読性劣化の要因である作業効率(仕事率)の低下,誤読文字の増加などを測定・分析し,必要なパラメータをデバイス評価の定量的データとして収集・評価することを試みた.なお,本文では眼精疲労の物理的要因を調べるため,疲労による毛様体筋の温度上昇を測定して,ほぼ1℃程度の温度上昇が疲労に大きな影響を齎すことも明らかにした.試料はCRT,冷陰極管をバックライトとしたTFT-LCD,および白色LEDマトリックスをバックライトとしたTFT-LCDの3種類である.上述の結果を相対評価することにより,ヒューマン・マシン・インターフェースとして良好な特性を持ち,目に安全な型式のディスプレイを選別する方法を明らかにした.
著者
横川 慎二
出版者
日本信頼性学会
雑誌
日本信頼性学会誌 信頼性 (ISSN:09192697)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.135-147, 2019 (Released:2022-02-03)

複雑な構造を持つシステムにおいては,しばしば“創発性”の発現による障害が観測される.この創発的不具合は, FMEA や FTA などの従来リスク分析手法を用いた記述や評価が難しいとされている.本研究では,自動車のリコール情報に関するテキストマイニングや多変量解析を用いた分析を通じて,システムの創発的不具合の構造と特性について調査する.また,機能共鳴分析法を用いて不具合構造の可視化と数量化を行い,グラフィカルモデリングやクラスタ分析による構造分析と,名義ロジスティック回帰分析による要因分析を実施し,設計時に創発的不具合を抑止する方策について議論する.
著者
小美濃 幸司 舟津 浩二
出版者
日本信頼性学会
雑誌
日本信頼性学会誌 信頼性 (ISSN:09192697)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.283-286, 2009

従来,鉄道は安全対策として,絶対に事故を起こさないための技術開発を進めてきたが,近年,万一の事故時にも人的被害を最小化するための研究開発,特に鉄道車両の衝突安全性にも関心が高まっている.鉄道車両の衝突安全性を検討するにあたり,車両自体の挙動と乗客・乗務員の衝撃挙動の両面を考慮に入れる必要がある.鉄道車両(特に車体の構造)については,衝突エネルギー吸収による衝撃の緩和と,生存空間確保の両立が課題となる.一方,乗客・乗務員の衝撃挙動については,車内設備や他の乗客等との衝突による傷害を防ぐことが課題となる.これらの課題解決のため,車体構造については破壊試験とコンピューターシミュレーション,乗客の挙動についてはダミー人形の衝撃試験とコンピューターシミュレーションを活用している.実験結果とシミュレーション結果は,相互に比較・検証されている.今後の安全性評価では,車体構造と乗客を連携させた衝撃挙動解析も重要になっていくと考えられる.
著者
井原 廣一
出版者
日本信頼性学会
雑誌
日本信頼性学会誌 信頼性 (ISSN:09192697)
巻号頁・発行日
vol.20, no.5, pp.348-356, 1998
被引用文献数
2

近年の工学技術の急激な革新は、医療機器・システムの研究開発を促進し、最近では、医療の場における診断治療と共に医療機関経営においても、計算機をともなった医療機器・システムなしには高度な診療行為が行われがたいといっても言い過ぎでない。ともすれば、医療機器・システムの性能および機能競争に目を向けがちで、医療利用の観点から、特別に重要である信頼性についての議論が少ないようである。医療機器・システムの特性をもとに、これまでの工学の場での信頼性の本質を再考することにより、信頼性の持つ意味がより深まり、工学医療の接近がより進むと思われる。
著者
猿渡 秀郷
出版者
日本信頼性学会
雑誌
日本信頼性学会誌 信頼性 (ISSN:09192697)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.23-28, 2017 (Released:2019-08-07)

リチウムイオン電池(LIB: Lithium Ion Battery)は他の電池に比べエネルギー密度が大きいことが最大 の特長であり,その負極には一般的に炭素材料が用いられる.この炭素材料のかわりにチタン酸リチウ ム(LTO)を負極に用いた場合,エネルギー密度は低下するものの,そのほかの特性でユニークな性能 を有する電池とすることができる.本稿では LTO 負極を用いた LIB の安全性と信頼性を中心にその特 長とそれを活かした応用について紹介するとともに,実際に電池を長期使用するために必要なオンサイ ト診断技術について説明する.
著者
岡村 寛之 土肥 正
出版者
日本信頼性学会
雑誌
日本信頼性学会誌 信頼性 (ISSN:09192697)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.10-15, 2014-01-01 (Released:2018-01-31)

ソフトウェアエージングおよびソフトウェア若化は,メモリリークなどに代表されるソフトウェアの経年劣化による性能低下や障害発生現象を表す.ソフトウェア若化は信頼性工学でよく知られた予防保全に例えられ,最適なソフトウェア若化方策を決めるためのモデルが数多く提案されている.本稿では,ソフトウェア若化モデルの紹介と,その拡張の方向性について言及し,今後の発展に関する展望を述べる.
著者
氏田 博士
出版者
日本信頼性学会
雑誌
日本信頼性学会誌 信頼性 (ISSN:09192697)
巻号頁・発行日
vol.26, no.6, pp.529-541, 2004
被引用文献数
2

安全性向上のために組織として技術的に考慮すべき内容は,安全文化や関連する組織過誤また倫理などの管理的思想および深層防護やリスグ概念などの工学的思想とに分けることができる.さらに安全確保には,社会側から組織や技術システムヘ働きかける仕組みが不可欠である.ここでは安全目標設定の考え方,安全に対する法律および規制・規格の機能,再発防止のための事故調査やインシデント分析の仕組み,等について述べる.さらに,組織から社会への視点も大切であり,リスク認知,リスクコミュニケーション,リスク受容について最近動向や個人的見解を述べる.
著者
神田 健三
出版者
日本信頼性学会
雑誌
日本信頼性学会誌 信頼性 (ISSN:09192697)
巻号頁・発行日
vol.34, no.7, pp.428-435, 2012-09-01 (Released:2018-01-31)
参考文献数
16

雪の結晶には樹枝六花や羊歯六花と分類されるデンドライトの形状のものがあり,これらはサイズが大きく,雪の結晶の代表的な形と考えられることが多い.雪の研究を行った中谷宇吉郎は,人工雪を作ることに成功し,雪の結晶形とそれが成長する際の物理的条件(気温・湿度)の関係を明らかにした.その成果である中谷ダイヤグラムから,デンドライトな成長は-15℃前後で起こることがわかる.本稿では,雪の結晶について,主にデンドライトな成長に関わる内容を検討した.又,筆者が属する中谷宇吉郎雪の科学館(石川県加賀市)では,雪や氷のいろいろな科学実験を実施しているが,そのうち,デンドライトな成長が観察できるものを中心に,実験内容を紹介した.
著者
九鬼 俊雄 中村 智紀 板橋 裕行
出版者
日本信頼性学会
雑誌
日本信頼性学会誌 信頼性 (ISSN:09192697)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.303-308, 2004

0.13μm以降の半導体デバイスの故障解析・早期検証において裏面からの解析が必須となってきている.エミッション裏面解析ツールEmiScope^[○!R]及びIREMは近い将来の45nmプロセスまで対応可能であり,裏面からのフォトンを高効率で収集することができる.
著者
神山 敦
出版者
日本信頼性学会
雑誌
日本信頼性学会誌 信頼性 (ISSN:09192697)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.196-203, 2018 (Released:2019-12-02)

モバイル製品に搭載されているリチウムイオン電池(LIB)の事故件数に増加傾向が見受けられる. モバイルバッテリー,スマートフォン,ノートパソコンの事故等,LIB が関係する製品事故,LIB の構 造及び特徴について,製品安全の観点から解説する.
著者
向殿 政男
出版者
日本信頼性学会
雑誌
日本信頼性学会誌 : 信頼性 (ISSN:09192697)
巻号頁・発行日
vol.24, no.7, pp.554-559, 2002-10-25
被引用文献数
1

これまで個別技術として発展してきた各分野の安全技術には,実はかなりの共通的な考え方がそこには横たわっている.各分野で開発された安全技術に共通する考え方を一般化,原則化することで,他の分野の安全技術にも応用可能な道が開けるはずである.これを実現するためには,あらゆる安全技術をその適用範囲の広さ,抽象度に従って階層化する必要がある.本稿では,それを三層構造で構成することを提案している.一方,安全には,個人の価値観やその時代の社会の価値観が深く関与している.従って,安全には,工学としての技術だけではなく,人文科学や社会科学が深く係りあっている.真の安全を実現するためには,広く人文・社会科学を包含した包括的な立場から安全を考察し,安全を学問として構築していく必要がある.本稿では,安全技術を基礎にした安全学の確立を提案している.以上を実現するために,本稿では安全に纏わるあらゆるキーワードを網羅してリストアップし,それらを分類し,階層化することを提案する.これを安全マップ,または安全曼荼羅と呼んでいる.
著者
斎藤 彰
出版者
日本信頼性学会
雑誌
日本信頼性学会誌 信頼性 (ISSN:09192697)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.64-71, 2018 (Released:2019-10-07)

ディープラーニング技術の発明以来,様々な分野で業務の AI 化が進み,社会の構造が大きく変化しつつ ある.一方,品質という社会的責任を支える品質管理部門の人材不足は深刻であり,また電子機器の複雑 化・精密化に対応できる高い故障解析力を有する故障解析技術者の育成は至難の業である.本報文では, AI 自体の進歩や社会への浸透ではなく,AI 化がもたらす故障解析業務への影響を主に示した.加えて,故 障解析技術者の育成や技術の伝承をサポートするための方向性も示した.なお,本報文は,日本信頼性学 会故障物性研究会での調査結果と議論した内容に筆者の私見を加えたものである.
著者
鵜沢 滋 小松 昭彦 小川原 鉄志
出版者
日本信頼性学会
雑誌
日本信頼性学会誌 信頼性 (ISSN:09192697)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.276-283, 2002-05-20 (Released:2018-02-26)

当社では,アルミ固体電解コンデンサに迫る電気的特性と実用性を有するアルミ電解コンデンサを開発し,1998年にZシリーズとして商品化した.このZシリーズの駆動用電解液には,水を主溶媒とした電解液(水系電解液)を用いている.従来,水系電解液を用いたコンデンサは,低インピーダンス特性が期待できる反面,高温条件下では,アルミニウム電極箔と水との著しい化学反応(水和反応)により短時間で急激な特性変化を起こすという欠点があった.また,開発当初に行った温度加速試験において,このコンデンサの寿命は,寿命推定に適用されるアレニウス則(2倍/10℃加速の法則)が成立せず,アルミ電解コンデンサの信頼性に最も重要な寿命の予測ができないという課題も抱えていた.これらの大きな障害により,従来のアルミ電解コンデンサ駆動用電解液は,水を少量添加することはあっても,主溶媒として使われることはあり得なかった.当社では,これらの課題を克服できれば,水系電解液の持つ高い電気伝導特性を生かして,超低インピーダンスの理想的なコンデンサを製造することができると考え,20年前より研究開発を行ってきた.その結果,溶媒として水を単独で用いた電解液でも,従来の有機溶媒を用いた電解液とほぼ同等のコンデンサ寿命特性を有することを確認した.そして,水の反応性を制御することに成功し,多くのノウハウを集積して実用性の高いアルミ電解コンデンサを開発し商品化するに至ったのである.ここでは,水系電解液を用いたコンデンサの開発について述べる.