著者
奥田 泰久
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
巻号頁・発行日
pp.302-306, 2016-04-01

●Summary・星状神経節ブロックの合併症である頸部・縦隔血腫の発生はきわめてまれであるが,対応を間違えば最悪の場合は窒息死という結果に至る可能性がある。その確固たる予防法がない現状では,十分なインフォームドコンセントを行った後に,常に本合併症の対応を準備した状況で星状神経節ブロックを施行すべきである。・現在,一部であるが医療鑑定にカンファレンス方式(複数の専門家による討論)を採用し,より医療の現状に沿った判決を下そうとの試みを司法が始めている。・本件では,日本外傷学会外傷初期診療ガイドラインと日本ペインクリニック学会治療指針が証拠として採用されている。今後も医療訴訟においてはガイドライン・指針の存在が重要視されるかもしれない。
著者
青山 和義 竹中 伊知郎
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
巻号頁・発行日
pp.638-643, 2014-07-01

呼吸器手術では多くの場合,一側肺換気one-lung ventilation(OLV)の施行が必要となる。OLVにはダブルルーメンチューブdouble-lumen tube(DLT)の使用が一般的であるが,DLTは,太く,長く,独特の形状をもつため,通常のシングルルーメン気管チューブsingle-lumen tube(SLT)よりも挿管が困難である1~3)。マスク換気困難,気管挿管困難などの気道確保困難症例であれば,DLTの挿入はさらに困難となる。気道確保困難症例におけるOLVの施行は,呼吸器手術の麻酔の大きな問題点の一つである。
著者
宮坂 勝之
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
巻号頁・発行日
pp.569, 2020-06-01

パルスオキシメータの発明者である青柳卓雄博士(日本光電工業 青柳研究室室長)が,2020年4月18日にご逝去されました。怜悧な84歳であり,数か月前にパルスオキシメータの理論の確立と実証,そして精度の向上への不撓の決意を伺ったばかりの私は惜別の念に堪えません。麻酔科での応用から,日常生活の安全にまで及ぶその発明の恩恵は,人類の歴史に残る偉大な業績です。 患者モニター機器の開発にかかわる医療者や科学者の国際団体であり,IEEE*1 Medal for Innovations in Healthcare Technologyの受賞(2015年)に大きな役割を果たしたIAMPOV*2の関係者から,一斉にノーベル賞目前であった青柳博士の逝去を残念がる声が寄せられ,博士が世界に与えた貢献の大きさが偲ばれます*3。
著者
野地 善恵 小原 伸樹 山本 純偉 橋本 学 萩平 哲
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
巻号頁・発行日
pp.245-261, 2020-03-01

患者に対して手術中の無記憶や不動を保証するのは,麻酔科医が日常的に行っていることである。しかし,同じことを手術室外の,普段とは異なる環境で実現しようとすると,さまざまな制約に直面する。 今回の症例カンファレンスでは,これまで全身麻酔を行った実績のないCT室におけるドレナージ手術において,術中覚醒の既往のある患者の無記憶を保証したい,という状況でどのような麻酔方法を選択するかについて検討した。 それぞれの施設における環境やルーチン,麻酔科医の経験などによって戦略も変わるだろう。読者自身の施設であればどうするか,よりよい管理方法について考える機会になれば幸いである。
著者
三浦 史仁
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
雑誌
LiSA (ISSN:13408836)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.211-223, 2020-02-01

はじめに次世代シークエンサー(NGS)の登場により,核酸を対象としたオーミクス解析は大きく発展した。このような網羅的な解析を個々の細胞に対して実施する試み,いわゆるシングルセル解析に関する報告数は,ここ数年で急増している。ゲノム,トランスクリプトームのシングルセル解析は,ライブラリーの自動調製装置が市販され,より多くの細胞を解析することが可能な環境が整っている。エピゲノムに関しては代表的なエピゲノム情報をシングルセルレベルで検出する技術が出そろった。本稿では,シングルセル解析を理解するための基本となるライブラリー調製に焦点をあてて概説する。
著者
市瀬 史
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
雑誌
LiSA (ISSN:13408836)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.91-97, 2020-01-01

はじめにマラソンブームである。日本全国のマラソン大会の数は小規模のものも入れると1年間に2000〜3000回あるといわれている。週1回ジョギングする日本国民の数は500万人を上回る。マラソンはもはや日本の国技といっても過言ではないだろう。しかし,走った人にはわかるが,フルマラソンは本当にきつい。有酸素運動は健康に良いという情報がある反面,マラソンレース中に心肺停止になる中高齢者のニュースも耳に入ってくる。それでもマラソン人気は静まる気配がない。ヒトはなぜそこまで走るのが好きなのか?麻酔科医・研究者・ランナーである筆者がその謎に迫る。
著者
渡辺 邦太郎 徳嶺 譲芳
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
雑誌
LiSA (ISSN:13408836)
巻号頁・発行日
vol.24, no.8, pp.810-813, 2017-08-01

今回は,腕神経叢ブロック時に投与する局所麻酔薬にステロイドを添加することで作用が延長する効果について紹介する。本稿のようにステロイドを加えることで,単回の腕神経叢ブロックの効果を延長させることができる。これまで深夜にブロック効果が切れていたものが翌朝まで効果が得られることになり,臨床上の有用性は高い。一方で,その作用機序は明らかではなく,神経障害など副作用が生じる危険性もある。筆者の施設では,ステロイドは全身投与に留め,局所麻酔薬への添加は行っていない。適応外使用であることも含め,本稿の内容を臨床で応用する際には,リスクとベネフィットについてよく検討していただきたい(森本 康裕)
著者
石川 晴士
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
雑誌
LiSA (ISSN:13408836)
巻号頁・発行日
vol.21, no.11, pp.1032-1033, 2014-11-01

●換気血流比とはまず,一つの肺胞とそれを灌流する肺毛細血管の血流の組合せをイメージしてみよう。理想的な状態では,単位時間当たりに肺胞を出入り(換気)するガスの量と,肺毛細血管の血流量は一致し,換気血流比は1となる(図1A)。このとき,換気によって吸気時の肺胞内のガス組成は毛細血管内に比べて酸素分圧が高く,二酸化炭素分圧が低くなるため,圧勾配に従って二酸化炭素が毛細血管内から肺胞内に移動し,逆に酸素が肺胞内から毛細血管内に移動する。このガスの移動によって,一時的に肺胞内の二酸化炭素分圧は高く,酸素分圧は低くなるが,次の瞬間には換気が行われるので,肺胞内のガス組成は再びもとのレベルに戻る。このようにして換気が維持される限りは,肺胞内と毛細血管内のガス交換が続くことになる。 ところが,換気と血流の組合せは,このように理想的な状態にあるものばかりではない。例えば,気管支が血液や分泌物で閉塞すると,そこより末梢の肺胞では換気が行われなくなり,その結果,肺胞と毛細血管の間の圧勾配がなくなり(平衡状態)ガス交換が行われなくなる。これは血流が肺胞を素通りすることを意味しており,この状態を「シャント」と呼ぶ(図1B)。一方,換気は行われているにもかかわらず,何らかの理由で毛細血管の血流が途絶している状態を「死腔」と呼ぶ(図1C)。換気と血流の組合せのうち,シャントと死腔は最も極端な異常の例であり,それぞれ換気血流比はゼロと無限大の状態に相当する。
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
雑誌
LiSA (ISSN:13408836)
巻号頁・発行日
vol.26, no.12, pp.1269, 2019-12-01

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著者
広田 喜一
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
雑誌
LiSA (ISSN:13408836)
巻号頁・発行日
vol.25, no.8, pp.897-905, 2018-08-01

はじめに酸素はヒトの生命維持に必須な分子である。もう少し細かく述べると,酸素はヒトの細胞のアデノシン三リン酸(ATP)産生に必須な分子である。酸素が欠乏するとエネルギーが不足し,生体機能の維持ができなくなる。ミトコンドリアでの酸化的リン酸化,つまり電子伝達系に共役して起こる一連のATP合成反応において,酸素は電子の最終的な受容体として機能しており,酸素が不足すると,NADH(還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)やFADH(還元型フラビンアデニンジヌクレオチド)といった一連の補酵素の酸化と,酸素分子の水分子への還元反応が立ち行かなくなる。その持続的な欠乏は,生体機能の失調を経て個体の死に至る。これが,古典的な酸素観である。 しかし,このような古典的な酸素観は,ここ20年ほどの研究により見直しが進んでいる。哺乳類をはじめとする高等生物は,酸素が生命維持に必須な分子であるのに,その酸素を体内で生合成する仕組みをもたない。高等生物を構成する多臓器は常に「酸素不足」のリスクに曝されており,それ故,生体は低酸素に応答する仕組みを進化的に獲得してきた,とする考え方が支配的になってきている。
著者
小川 広晃 神宮司 成弘
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
雑誌
LiSA (ISSN:13408836)
巻号頁・発行日
vol.25, no.6, pp.658-660, 2018-06-01

筆者は内科に従事し各内科をローテーションした後,救急領域に身を移しER専属で働いた。その後,現在の職場で整形外傷を中心に年間200件前後の手術に入り,そのすべての周術期管理を行っている。今回は内科医,外科医の両方の視点から述べたい。 まず内科医にも専門医や病院総合医・ホスピタリスト(臨床メモ),家庭医などさまざまな役割があるが,総じて手術侵襲や術後管理については不慣れである。そのため内科医にコンサルテーション(以下,コンサルト)を行う際は,知りたい内容は手術侵襲度や術後管理の見込みを含めた疾患管理の依頼なのか,薬剤調整など単純な内容の依頼なのか明確にすることが求められる。
著者
本望 修
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
雑誌
LiSA (ISSN:13408836)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.11-24, 2016-01-01

筆者らは1990年代初頭から脳梗塞や脊髄損傷の動物モデルに対して各種幹細胞をドナーとした移植実験を繰り返し行っている。なかでも,有用なドナー細胞として骨髄間葉系幹細胞に注目し,経静脈的に投与することで著明な治療効果が認められるという基礎研究結果を多数報告してきた。現在,自己培養骨髄間葉系幹細胞を薬事法下で一般医療化すべく,治験薬として医師主導治験を実施し,医薬品(細胞生物製剤)として実用化することを試みている。脳梗塞は,2013年2月に治験届を提出し,医師主導治験(第Ⅲ相)を開始している。脊髄損傷は,2013年10月に治験届を提出し,医師主導治験(第Ⅱ相)を開始している。数年後を目途に薬事承認を受けることを目指している。
著者
奥田 泰久
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
雑誌
LiSA (ISSN:13408836)
巻号頁・発行日
vol.25, no.3, pp.246-254, 2018-03-01

●Summary第4子を分娩する予定の産婦が,無痛分娩のために施行された硬膜外麻酔の直後に容態が急変し,結果的に母子ともに死亡した。家族が,人的物的体制が不十分な状況で患者に硬膜外麻酔を施行したために合併症の呼吸不全が生じたにもかかわらず,早期に適切な呼吸管理及び全身管理処置をとらなかった過失があるとして病院に損害賠償請求を行ったが,裁判所は家族の訴えを退けた。