著者
川口 有美子
出版者
日本保健医療社会学会
雑誌
保健医療社会学論集 (ISSN:13430203)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.26-40, 2011-08-20 (Released:2016-11-16)

本稿は、2009年12月に上梓した『逝かない身体』の執筆動機となった2004年以降の尊厳死・安楽死にまつわる人々の言動や事件を紹介するとともに、「無駄な延命」とされてきた植物状態の人の生を肯定する。なかでも、この間に超重度コミュニケーション障害(TLS)のALS患者からの「呼吸器の取り外し」が検討されてきたことは執筆の主要な動機になっている。ALS患者の一部に発現するTLSという状態は、その人の生を肯定できない他者や社会が作る「読みとってもらえない」状況と考える。この状況は、患者の医療や介護の担当者を孤独にせず、より充実した環境と資源で支えることで変えることができ、患者の社会貢献度と尊厳が増すことを主張する。
著者
武井 麻子
出版者
日本保健医療社会学会
雑誌
保健医療社会学論集 (ISSN:13430203)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.7-13, 2002
被引用文献数
1

本稿は、2002年5月に日本赤十字看護大学にて開催された第28回保健医療社会学会での講演をもとにしている。看護師のバーンアウトの問題から感情労働としての看護という視点への転換の歴史、さらには感情労働という言葉への社会学者と看護師たちの反応の違いから、現在の医療の現場が直面する深刻な問題状況を論じた。
著者
武井 麻子
出版者
日本保健医療社会学会
雑誌
保健医療社会学論集 (ISSN:13430203)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.7-13, 2002-12-25 (Released:2016-11-16)
被引用文献数
1

本稿は、2002年5月に日本赤十字看護大学にて開催された第28回保健医療社会学会での講演をもとにしている。看護師のバーンアウトの問題から感情労働としての看護という視点への転換の歴史、さらには感情労働という言葉への社会学者と看護師たちの反応の違いから、現在の医療の現場が直面する深刻な問題状況を論じた。
著者
樫田 美雄
出版者
日本保健医療社会学会
雑誌
保健医療社会学論集 (ISSN:13430203)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.73-77, 2015-07-31 (Released:2017-02-23)
参考文献数
3

本稿では、2013–2014年度の日本保健医療社会学会編集委員会の活動記録の一つとして、『保健医療社会学論集』(以下適宜『論集』または、本誌と表記)の投稿動向および査読動向のデータを提示し、若干の分析を添える。投稿数は頭打ちであり、かつ、査読を通過して掲載される率(掲載率)は低下傾向にある。また、評価ワレ率と審査日数の平均値がともに増大している(2011年に本誌が受け付けた論文においては、『社会学評論』よりも審査日数は短かったが、2013年に本誌が受け付けた論文においては、『社会学評論』よりも審査日数が長くなっている)。この変化の原因は不明だが、「第三査読者の負担増問題」が再燃しており、対策が必要となってきている。また、単著論文に対する共著論文の比率が漸増してきており、この傾向に対応した執筆支援および投稿支援体制づくりが今後は検討されてよいだろう。
著者
田代 志門
出版者
日本保健医療社会学会
雑誌
保健医療社会学論集 (ISSN:13430203)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.21-30, 2016

本稿では、現代的な死にゆく過程の成立をある医師の個人史と重ねて整理し、それが以下の3段階から形成されていることを明らかにした。まず、病院での死が当たり前となり、死にゆく過程が医療の管理下に置かれるようになること。次にその過程で「一分一秒でも長く生かす」ことの正しさが疑われるような局面が表面化すること。最後にこうした難しい局面においては、本人が死の近いことを知ったうえで、主体的に「生き方」を選択するという規範が支持されるようになること。これにより、「自分の死が近いことを認識している人間が残された生をどう生きるべきか思い悩む」という実存的問題が「発見」され、それが医療スタッフの経験する困難にも質的変化をもたらした。以上の変化を受けて、医療社会学には専門家による「生き方の道徳化」を批判的に検討しつつも、現代的な死にゆく人役割の困難さの内実に迫る研究に取り組むことが求められている。
著者
井上 芳保
出版者
日本保健医療社会学会
雑誌
保健医療社会学論集 (ISSN:13430203)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.44-53, 2018-01-31 (Released:2019-02-26)
参考文献数
17

HPVワクチン接種被害事件では、それまで健康そのものだった女性に必要性が疑わしく、副反応の危険性の高いワクチンが打たれた結果、重篤な被害に見舞われた女性たちの苦しみが続いている。国が公認して接種を進めていったことの責任が問われなければならない。このワクチンは、国会の議を経て2013年4月に定期接種化されたが、2カ月後に中断された。しかし日本産婦人科学会をはじめ医学系の多くの学会が定期接種再開を求めている。膠着状態の続く中、2016年7月には被害者たちによる、国と製薬会社を相手どっての集団訴訟も開始された。本稿はそのような経緯を踏まえつつ、このワクチンの接種が強行されてしまったことの背景にあるものを探ってみる。「病」が医療側の都合でつくられている現実がある。先制医療に対して無防備になってしまう我々の中にある、「正常」への過剰な志向性、すなわち「正常病」の兆候、そして予防幻想が視野に入ってくる。この問題は何も医療だけに限らない広がりを有している。
著者
朝倉 京子
出版者
日本保健医療社会学会
雑誌
保健医療社会学論集 (ISSN:13430203)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.82-93, 2000-05-22 (Released:2016-11-16)

This article reviews the literature on the concept of sexuality and questions the dominant paradigm in Japanese health science and medicine. Furthermore, it discusses the several underlying problems of the concept. A study of the literature suggests the following issues. 1) The vague conceptualdefinition of sexuality specified by SIECUS about 35 years ago has been used without critical examination. 2) Many researchers and practitioners adopt the mind and body dualism of this definition. 3) They seem to support the idea of essentialism that the sexual desire is an instinct. 4) The definition can lead to discrimination and human rights violations against sexual minorities.
著者
天田 城介
出版者
日本保健医療社会学会
雑誌
保健医療社会学論集 (ISSN:13430203)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.9-16, 2018-07-31 (Released:2019-08-08)
参考文献数
10

「地域包括ケア」が論じられる際に、しばしば見過ごされ不可視化されているのが、当事者や家族が担わされている膨大な負担やコストである。「地域包括ケア」は、どのような社会的負担・コストによって私たち誰もが自宅や地域で生活することの社会的負担・コストが保障されているかという条件によって、換言すれば、十分な社会的負担・コストが保障されているという制度的・価値的プラットフォームによってはじめてその成否について判断可能な社会装置である。「地域包括ケア」単体で議論するのではなく、その前提条件、それを可能とする“社会的土俵”に関する社会構想とは何かという、「社会的な問い」こそが求められている。
著者
姉崎 正平
出版者
日本保健医療社会学会
雑誌
保健医療社会学論集 (ISSN:13430203)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.42-48, 2005

日本における初めての保健医療社会学の研究集団と思われる「医療社会学研究会」が東京に、1950年代の後半から、1960年代の前半まで、すなわち、昭和30年代に、存在した。現在の日本保健医療社会学会の前身、「保健・医療社会学研究会」の誕生が1974年であるから、前記研究会が消滅してから、約10年間の潜伏期間があったことになる。筆者は、1960年頃、学士入学の社会学々生として、前記研究会の末席に連なった。1960年から1961年にかけて、1961年の国民皆医療保険実施をひかえ、日本医師会の開業医一斉休診、全国的な病院ストライキなどで日本の医療界は激動期であった。1960年の日米安保反対運動で日本社会全体も騒然としていた。筆者はその後、日本および英国での大学院生、厚生省病院管理研究所研究員、日本大学医学部教員として、社会学あるいは社会科学的観点から、医療をつかず離れず眺めてきた。1960年前後に存在した「医療社会学研究会」についての見聞は、日本における保健医療社会学の揺籃期についての史料として残されるべきと思われる。また、当時の医療界の激動に触発された社会諸科学からの医療分析や提言と保健医療社会学を比較し、その有効性や有用性を検討することは保健医療社会学の現在のみならず将来にとって必要なことと思われる。本稿は2004年5月16日、東洋大学で開催された第30回保健医療社会学会大会のリレー講演「日本における保健医療社会学の歴史と展望」の演者としての報告を基にしている。
著者
木下 衆
出版者
日本保健医療社会学会
雑誌
保健医療社会学論集 (ISSN:13430203)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.55-65, 2012-01-31 (Released:2016-11-16)
被引用文献数
2

本稿は、介護家族が「認知症」という専門的概念を学ぶことで、どのような道徳的規範を身につけていくのか、概念分析の手法を用いて検討する。家族会(高齢者を介護する家族のセルフヘルプグループ)とそのメンバーへの調査からは、次の点が指摘できた。第一に、「認知症」という概念は、介護場面のトラブルを修復する上で要介護者を徹底して免責する。第二に、会のメンバーにトラブル修復の責任が帰属される場合、彼らは「(要介護者は)理屈は通じないが、感情はわかる」という前提のもとで対応する。それにより、「説得/否定の禁止」と「笑顔」という具体的な行動の指針が設定される。第三に、以上二点の帰結として、認知症を患う要介護者本人は、悪意や敵意のない無垢な存在として扱われる。第四に、「認知症」概念は「何が介護のトラブルか」を巡る新たな解釈枠組みとなり、会のメンバーはこれに基づいて自身が直面しているトラブルを記述する。
著者
野口 裕二
出版者
日本保健医療社会学会
雑誌
保健医療社会学論集 (ISSN:13430203)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.3-11, 2016-07-31 (Released:2018-01-31)
参考文献数
16

医療コミュニケーションはこの数十年の間にどのように変化してきたか、その変化の方向性と特徴を精神科領域を中心に探ることが本稿の目的である。この領域で注目される4つの試み、「病いの語り」、「ナラティヴ・アプローチ」、「当事者研究」、「オープン・ダイアローグ」を検討した結果、いずれの試みも「平等化」と「民主化」を推進するものであることが確認された。また、それらは斬新なコミュニケーション・デザインとコミュニケーション・モードによって達成されており、さらにこうした動きの背景には「倫理化」というもうひとつの重要な動きがあり、慢性疾患を生きる上で重要な意義をもつことが示唆された。
著者
小池 高史
出版者
日本保健医療社会学会
雑誌
保健医療社会学論集 (ISSN:13430203)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.57-66, 2017-01-31 (Released:2018-07-31)
参考文献数
15

現在、認知症の早期発見が政策目標となっている。本稿は、その手段となる高齢者への認知機能検査の場面で、検査者と被検者が、どのように質問を含んだ会話を行い、そこで生じる問題を処理しているのかを明らかにすることを目的とした。MMSE (Mini-Mental State Examination)の見当識の質問場面を取り上げ、検査のやり取りのなかで焦点が絞られる対象と、問題が生じたときにそれがどのように処理されるのかを会話分析の手法を用いて記述した。分析の結果、以下の点が明らかになった。1)検査の会話のなかで、応答の正誤が2通りの方法で焦点化される。2)質問の意味がわからないことによって被検者が質問に答えられないという問題が生じた場合、被検者によって修復が開始され、応答することが適切なタイミングが延期される。3)答えを知らないことによって質問に答えられない問題が生じた場合には、検査者と被検者の両者によって、認知症の症状からより離れた状況の定義がなされる。
著者
山田 富秋
出版者
日本保健医療社会学会
雑誌
保健医療社会学論集 (ISSN:13430203)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.8-11, 2017-01-31 (Released:2018-07-31)
参考文献数
4

「問題経験のナラティヴをきく」をメインテーマとした今大会シンポジウムでは、薬害被害当事者の経験の語りとして、特にサリドマイド事件と薬害エイズ事件を取り上げた。本稿は花井十伍氏の教育講演「薬害エイズの教訓から考える」の提起した「人権の問題」の視点から、このシンポジウム全体の意義を捉え直した。薬害のナラティヴの共有と継承にとって重要なことは、メディアによって単純化された薬害被害者の語りを、適切な社会的・歴史的文脈に位置づけ直すことによって、個々の被害当事者の多様な経験を回復することにある。さらにまた、薬害被害者の語りが証言することは、人権という概念が発効する以前の、生存そのものが脅かされる過酷な事態である。問題経験のナラティヴをきくことを通して、被害当事者の語りを断片的にではなく、トータルな時間的流れとして理解できるようになり、それは人権の問題として薬害被害を捉える時に不可欠なものとなる。
著者
鷹田 佳典
出版者
日本保健医療社会学会
雑誌
保健医療社会学論集 (ISSN:13430203)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.64-73, 2016

本稿の目的は、Y病院血液腫瘍科において行われているZさんの活動を、「つながる/つなげる」実践に着目しながら記述・分析することで、病院におけるピアサポート活動について検討することにある。Zさんは経験者(ピア)として患児の親の声を聴くだけでなく、血液腫瘍科に関わる複数のアクターとつながり、また、彼/彼女たちをつなげるという重要な役割を担っていた。しかし他方において、こうした実践には負担や困難、リスクが伴うことも明らかになった。