著者
海老田 大五朗
出版者
日本保健医療社会学会
雑誌
保健医療社会学論集 (ISSN:13430203)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.104-115, 2011

本研究は、接骨院における柔道整復師と患者のコミュニケーション研究の一編である。本研究で使用するデータは、柔道整復師によるセルフストレッチングの指導場面の映像データであり、このデータについて相互行為分析を行った。セルフストレッチングの指導の中で、患者の身体の操作および構造化が、柔道整復師と患者の相互行為によって達成され、いわゆる「I-R-E」連鎖構造が多くみられた。患者の身体の構造化とこれらの連鎖構造こそが本データの相互行為秩序を特徴付けている。
著者
小坂 有資
出版者
日本保健医療社会学会
雑誌
保健医療社会学論集 (ISSN:13430203)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.27-37, 2014

本稿の目的は、ハンセン病者やハンセン病療養所の記憶や記録の継承可能性について考察するためのひとつの視座を示すことである。具体的には、瀬戸内国際芸術祭2010の舞台のひとつである国立療養所大島青松園における他者(よそ者)の活動を考察し、その活動がハンセン病者にどのような社会関係の変化をもたらしたのかということに焦点をあてた。その考察の結果、瀬戸内国際芸術祭2010での他者の活動により、(1)大島青松園内の関係性の変化がもたらされるとともに、(2)大島青松園の内と外とをつなげる新たな契機が形成されつつあることを示した。加えて、(3)他者がハンセン病者やハンセン病療養所の記憶や記録の継承に関わる可能性を明らかにした。
著者
秋谷 直矩
出版者
日本保健医療社会学会
雑誌
保健医療社会学論集 (ISSN:13430203)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.56-67, 2009
被引用文献数
1

本稿では、高齢者介護施設(デイサービス)でのケアワーカーと高齢者間の会話を分析する。フェイスワーク論に基づいた会話分析を分析法として用い、そこでの会話構造上の制度的特徴を明らかにする。特にケアワーカーの「申し出」に着目した。会話分析の文脈で従来語られてきた「優先構造」的シークエンスや、「申し出」そのものの発話的特徴を仔細に分析していった結果、ケアワーカーが「申し出」として理解される発話を使うことそれ自体が制度的特徴であることが示された。また、その特有の会話構造ゆえに発生するジレンマ的状況も記述された。こうした問題に対処していくため、「何が問題なのか」ということを捉えると同時に、それが「どのような(相互行為的)手続きを経て」問題となったのか、ということを見ていく必要がある。
著者
松村 剛志
出版者
日本保健医療社会学会
雑誌
保健医療社会学論集 (ISSN:13430203)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.25-36, 2005
被引用文献数
1

従前の高齢者介護研究においては、主に家族介護者に焦点があてられ、要介護者の視点が欠如していたといえる。また、家族介護といった場合、老親扶養がその着目点の中心であった。そこで本論文では、在宅で介護を継続している9組の夫婦にインタビュー調査を行い、介護関係の発生による夫婦関係の変化を明らかにしようと試みた。その結果、夫婦双方の語りの中から、性規範に基づいて家庭内で分業されていた役割が、夫権支配は残存しながらも、要介護状態の発生により、双方の能力に応じて再配分されていく様子が浮かび上がってきた。夫婦間介護における関係性には、勢力の偏重による支配と依存という側面とお互いに気遣い合うという相補的な側面の共存が認められた。また、夫婦関係と介護関係という二つの関係は、特定場面で調和的に使用されているわけではなく、そのズレは夫婦間の不満や葛藤の原因となっており、その多くは感情労働を求められる妻に生起していた。
著者
海老田 大五朗 藤瀬 竜子 佐藤 貴洋
出版者
日本保健医療社会学会
雑誌
保健医療社会学論集 (ISSN:13430203)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.52-62, 2015

本研究は、障害者を雇用する側が障害者の特性や抱える困難に配慮する労働の「デザイン」に焦点を定めて分析し、障害者を生産者として位置づけるための創意工夫を、インタビュー調査やフィールドワークによって明らかにする。その際、障害者の特性や抱える困難を「方法の知識」という切り口によって細分化し、その細分化された困難を克服するような「デザイン」がどのように組み立てられているかを記述する。ここでは2つのデザインを検討する。1つは、障害者の雇用を可能にする作業のデザインである。もう1つは、障害者が会社に定着することを可能にする組織のデザインである。言いかえるならば、筆者らは、これら2つのデザインによって、知的障害者が採用され企業に定着することが、どのように実現するのかを論証する。
著者
海老田 大五朗
出版者
日本保健医療社会学会
雑誌
保健医療社会学論集 (ISSN:13430203)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.82-94, 2011

本研究は、接骨院における柔道整復師と患者のコミュニケーション研究の一編である。本研究で使用するデータは、柔道整復師による触診場面の映像データである。触診において、柔道整復師は患者の痛みがある箇所を触りながら確認していく。このときの、柔道整復師と患者の間でなされている相互行為を記述する。柔道整復師は患者の表情や呼吸をモニターしながら触診や牽引施術をしている。柔道整復師の触診や牽引施術は患者との相互行為のなかで達成されていることを示した。
著者
岡田 祥子
出版者
日本保健医療社会学会
雑誌
保健医療社会学論集 (ISSN:13430203)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.54-63, 2016-01-31 (Released:2017-08-30)
参考文献数
22

本研究では、重度知的障害者通所施設において利用者本人よりも保護者の要望が優先されることが、どのような論理に基づいているのかについて考察した。意思伝達が難しく、暴力行為も見られるような利用者を支援する職員たちは、自らの安全よりも利用者を優先するような職業的責任を求められる。しかし、インタビューによると利用者が共に暮らす家族の安定も必要となり、時に職員は本人よりも保護者の要望を優先せざるを得なくなる。これは利用者本人の主体性を奪い、障害者の家族を抑圧すると批判されてきた考え方の根拠となる。だが、知的障害者が頼れる機関は少なく、職員は利用者本人だけではなく彼/彼女らを取り巻く環境への対応も求められている。本稿では、職員が「保護者のニーズ=利用者のニーズ」という観点に立ち、保護者のケアをすることが本人の幸せにつながるという論理を組み立てることで、自らを納得させ、現場に立ち続けていることを明らかにした。

1 0 0 0 OA 健康と病理

著者
村岡 潔
出版者
日本保健医療社会学会
雑誌
保健医療社会学論集 (ISSN:13430203)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.1-10, 2018-01-31 (Released:2019-02-26)
参考文献数
31

本稿は、近代医学における「健康と病理」/「正常と異常」をめぐる下記の諸観点・諸要素についての概説である。I)では19世紀の細菌学と特定病因論並びに自然治癒力について;II)では健康の定義の3つのあり方:健康=病気の不在、日々の生活で不自由のないことや身体内外全体でバランスがとれていること;III)心身相関の立場では、患者には人生に楽観的と悲観的の2タイプがあるが、前者の方に回復傾向が強いこと;IV)集団の連続性では平均から遠ざかるほど病気度が高いこと(切断点で健康か病気か分別);V)「未病」と「先制医療」バーチャルな医療戦略は予防医学の最高段階にあり、未来を先取りした病気(未病)に先手攻撃を仕掛けること;VI)余剰では、相関があっても因果関係はないこと;サイボーグ化とエンハンスメントの関係、並びに「言語の私秘性と公共性」をとりあげ、認知症の人が私秘的で内的な言葉の世界で生きている可能性について論じた。
著者
長沼 建一郎
出版者
日本保健医療社会学会
雑誌
保健医療社会学論集 (ISSN:13430203)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.3-8, 2018-07-31 (Released:2019-08-08)
参考文献数
18

介護サービスの提供プロセスにおける事故(いわゆる介護事故)については、その多くの発生場所が介護施設内であることから、介護事業者側はしばしば責任を問われてきた。しかし今後、地域で幅広くケアが提供されるようになれば、その状況も変わってくる可能性がある。これを受けて、事故に対する法と保険による対応の役割分担が大切になってくる。あわせて法と介護の領域における規範としての性格の違いについて考え直す必要がある。
著者
石田 絵美子
出版者
日本保健医療社会学会
雑誌
保健医療社会学論集 (ISSN:13430203)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.47-58, 2022-01-31 (Released:2023-01-31)
参考文献数
18

本研究では、長期入院患者を抱える精神科病棟で働く看護師の体験から、彼らの看護実践の構造を明らかにすることを目的とした。精神科病棟の看護師は、従来、長期入院患者への保護的・管理的処遇を非難されてきた。本稿で「そばにいる」「認める」「家族になる」「退院する患者を病棟で待つ」というテーマで記述した看護師たちのかかわりは、看護として明確に意識されない日常のかかわりや、あえて看護を意識しないことによって実施可能となる困難なかかわりでもあった。しかしそれらは、患者たちへの深い理解、看護者間の相互理解や他職種の協力、患者たちからの反応によって構成され、患者たちを回復へと導くという一面を有する重要な看護実践であると考えられた。
著者
西田 真寿美
出版者
日本保健医療社会学会
雑誌
保健医療社会学論集 (ISSN:13430203)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.64-74, 1992 (Released:2020-03-24)
参考文献数
44
被引用文献数
2

Self-care is generally taken for granted as an element in health care. A well-formed concept of self-care is not to be found. This paper reviews literature concerned with the background and definitions of self-care.While limited, the literature illustrates the dimensions of self-care and future research needs.
著者
笹谷 絵里
出版者
日本保健医療社会学会
雑誌
保健医療社会学論集 (ISSN:13430203)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.101-110, 2022-01-31 (Released:2023-01-31)
参考文献数
23

本稿の目的は、新生児マススクリーニングを受検した子どもを持つ、男性(父親)の受検認識や遺伝情報に対する意識を明らかにすることである。日本では、1977年に新生児マススクリーニングが開始され、現在ほぼすべての新生児が受検する遺伝学的検査となっている。2014年からはタンデムマス法という新しい検査方法が導入され、検出できる疾患も増加した。そこで、2014年以降に出生した子どもを持つ男性にインタビューを実施し、分析を実施した。結果、対象者である男性は、自分自身の遺伝情報がわかることは問題ないと考えていた。だが、次子も含めた次に子どもを持つことに関して、「判断や決定権は女性にある」とされ、その理由として「産むのは女性だから」と回答された。回答から、遺伝情報という問題は等価であるが、「産む」ことは女性しかできないと主張され、自らが判断することは回避される傾向があることが明らかになった。
著者
中村 和生 海老田 大五朗
出版者
日本保健医療社会学会
雑誌
保健医療社会学論集 (ISSN:13430203)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.51-61, 2016-07-31 (Released:2018-01-31)
参考文献数
61
被引用文献数
1

本稿は、社会学の一潮流であるエスノメソドロジー&会話分析(EMCA)研究が、保健医療における様々な実践にたいしてどのようにアプローチしてきたのかを、メディアの利用、ならびに臨床への介入的な貢献という角度からレビューし、保健医療のEMCA研究の意義の一端を描くことを目的とする。検討の結果、第1に、利用可能なメディアの拡張に合わせて、EMCA研究がアプローチすることのできる保健医療の実践が大きく広げられてきたことが確認できた。そして、第2に、広い意味で直接的な観察をとおした実践の秩序の分析的解明を主眼とするEMCA研究が、何らかの点でその解明に基づきながら、臨床の現場に多様な形で介入的な貢献を果たすということは、可能であるばかりでなく、既にそれなりの規模において展開されていることを確認した。
著者
山田 香
出版者
日本保健医療社会学会
雑誌
保健医療社会学論集 (ISSN:13430203)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.73-83, 2020-07-31 (Released:2021-08-06)
参考文献数
14

近年の疾病構造の変化、少子高齢化を背景に、ルーラルナース、コミュニティナースといった地域密着型のケアを担う看護師が注目されている。本稿では、過疎地域である山形県小国町の訪問看護師の実践に着目し、介護力低下が進む地域における地域密着型看護師の専門性を明らかにすることを目的とする。小国町立病院訪問看護ステーションの訪問看護に同行し、参与観察および看護師へのインタビューを行い、実践されたケアを質的に分析した。その結果、小国町の看護師は、豪雪地帯特有の地縁血縁のつながりやそれを生んだ家族・地域の歴史を尊重したケアを実践していた。看護師が医療者と生活者の両方のフレームを持ちえる「生活者としての看護師」であることが「生活者としての患者・家族」の意思決定の文脈に添える医療者としてのスキルを生み、これらが地域密着型看護師の専門性であることが示唆された。
著者
阿久津 達矢
出版者
日本保健医療社会学会
雑誌
保健医療社会学論集 (ISSN:13430203)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.74-84, 2021-07-31 (Released:2022-07-31)
参考文献数
19

本稿の目的は、高度救命救急センターにおける医療資源管理の一環である転院依頼演習を対象として、ワークの研究の立場から演習での実践の特徴を明らかにすることである。明らかとなったのは、まず、講師が、研修医との非対称な知識配分の下で、転院依頼の仕方を教示するために用いていた、ふたつの教示の方法である。ひとつ目は、講師が「ケース報告」の実演と「転院依頼」の実演という課題によって演習全体を組み立て、課題ごとに演習を進行していたことであった。ふたつ目は、講師が転院依頼の適切な仕方を教示する際、研修医に転院依頼に必要な知識を伝え、それに応じた必要最低限の情報のみを伝えるよう、依頼の簡潔さを強調していたことであった。また、講師が転院依頼の仕方をどのように教示しているのか分析する中で、講師によって教示されていた転院依頼の方法を記述することができ、転院依頼という活動の特徴を解明することができた。
著者
畑中 祐子 杉田 聡
出版者
日本保健医療社会学会
雑誌
保健医療社会学論集 (ISSN:13430203)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.49-58, 2003-08-25 (Released:2016-11-16)

患者は入院をすると、普段とは違う入院環境の中で生活する。入院環境には様々な制約が伴うが、実際に患者が生活に対してどのように感じているかについてはあまり注目されてこなかった。そこで本研究では、患者がどのような意識をもちながら入院生活を送り、入院環境がどのような影響を患者にもたらすのかを明らかにすることを目的とした。入院患者24名に、入院前、入院初期、後期に渡り追跡調査を実施し、回答には、「嫌だ」、「仕方がない」、「全く気にならない」の3つの選択肢を用い、患者の諦めや我慢というような理由を聞き出した。患者は入院すると日常生活とは違う入院環境、共同生活に適応するため、「(病院だから)当たり前、仕方がない」という意識を持つことで、準拠枠を変化させていた。患者の入院生活に対する諦めという意識の変化を知ることは、入院生活を快適にかつ、療養に専念できるように環境を整えられる援助につながると考えられる。
著者
前田 泰樹
出版者
日本保健医療社会学会
雑誌
保健医療社会学論集 (ISSN:13430203)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.12-20, 2019-07-31 (Released:2020-07-31)
参考文献数
35

本論の目的は、保健医療社会学におけるエスノメソドロジー・会話分析(EMCA)の特徴を明らかにすることにある。社会学的研究においては、日常的な概念連関について考察する必要がある。その中で、EMCAは、事例がそもそもどのようにそれとして理解可能なのかに着目し、概念使用の実践そのものを明らかにしようとする考え方である。こうした試みは、実践の参加者たちの問いを引き受けながら行われてきた。本論では、「急性期病院における協働実践についてのワークの研究」と「遺伝学的知識と病いの語りに関する概念分析的研究」の2つのプロジェクトを事例として、対象領域とのハイブリッド・スタディーズとしての性格を持つEMCAの方針を明らかにする。