- 著者
-
小方 直幸
- 出版者
- 日本教育社会学会
- 雑誌
- 教育社会学研究 (ISSN:03873145)
- 巻号頁・発行日
- vol.98, pp.91-109, 2016-05-31 (Released:2017-06-01)
- 参考文献数
- 25
教育社会学研究は現在,伝統的ならびに現代的という二重の意味で,能力の飼いならしという課題に直面している。本稿は,1961年から2006年まで4度にわたり刊行され,我が国でも翻訳されてきた教育社会学のリーディングズに依拠しながら,この問題を考察する。教育社会学は伝統的に,階層,教育,地位達成の関係を考察し,不平等の構造を明らかにしてきた。しかし,教育は個人の能力の代理指標に過ぎず,能力の事後解釈というくびきから逃れられない。それは教育社会学の限界でもあるが,能力観を問わず教育機能を検証し続けられるという点で,強みでもある。教育社会学は50年前に経済と出会い,上記の経済に伴う不平等を考察する分析モデルを手にしたが,経済発展とそれに伴う教育拡大は,不平等を解消することはなかった。近年では,経済のグローバル化に伴い,分解,測定,比較という能力の可視化が,政治の世界で展開し,政治家や国民に不平等の現実を提示するという意味で,政治算術は教育社会学にとってますます重要になっている。他方で,能力の実態論を基盤としてきた教育社会学は昨今,能力の規範論であるシティズンシップ教育を重視し始めている。ただ,それが伝統的な階層,教育,地位達成をめぐる教育社会学のアプローチに及ぼすインパクトは定かでない。以上を総括すると,教育社会学は現在もなお,研究上も実践上も能力を飼いならせているとはいえない。