著者
仮屋﨑 圭司 日比野 直彦
出版者
一般財団法人 運輸総合研究所
雑誌
運輸政策研究 (ISSN:13443348)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.034-041, 2011-07-22 (Released:2019-04-27)
参考文献数
12

我が国の首都圏鉄道は輸送力増強や利便性向上のため,高密度ネットワーク,高頻度運行,相互直通運転等の施策を実施してきたが,その副作用として朝ラッシュ時に慢性的な列車遅延が発生し,新たな課題を抱えている.一方で世界屈指の輸送量を誇るモスクワ地下鉄は,遅延が問題化することなく90 秒間隔の高頻度運行を実現している.本報告では,まずモスクワ地下鉄の概況と現地調査に基づく列車運行の現状を報告し,旅客流動と列車走行の視点から,高頻度運行を可能とする施設や運行管理の実態と仕組みについて現状分析と考察を行う.最後にこれらの事例から,我が国首都圏鉄道の遅延解消に向けた施設整備および運行管理に対する示唆を述べる.
著者
北野 喜正
出版者
一般財団法人 運輸総合研究所
雑誌
運輸政策研究 (ISSN:13443348)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.006-019, 2018-03-23 (Released:2018-04-23)
参考文献数
28

東京圏の都市鉄道は世界でも有数の利便性を誇る鉄道である.しかし,運賃は事業者ごとに設定され,乗継ぐ際には事業者別に計算した運賃を合算した併算運賃となり,シームレスなものとはなっていない.事業者ごとに初乗り運賃がかかるため割高となり,遠回りといった非効率な交通行動の一因となっている.本研究では割高な併算運賃を解消するため,現状を考慮し,よりシームレスな鉄道運賃を検討した.具体的には①現状分析から併算運賃の問題点を明らかにした.②この問題に対する国内外の取り組みを調査した.③改善案を作成しその効果を評価した.2事業者のケースでは採算性を確保しつつ,社会的厚生を増大できることを試算により明らかにした.
著者
森川 高行 永松 良崇 三古 展弘
出版者
一般財団法人 運輸総合研究所
雑誌
運輸政策研究 (ISSN:13443348)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.020-029, 2004-07-30 (Released:2019-05-31)
参考文献数
12

需要予測における誤差要因を解明するため,愛知県小牧市の名鉄小牧駅と桃花台ニュータウンを結ぶ桃花台線ピーチライナーを取り上げ検証した.計画者が4段階推計法を用いて行った需要予測値約31,000人/日は実績値約2,100人/日の約15倍の過大予測であった(比較年:1991年).分析の結果,ニュータウン入居者数の予測誤差による「発生」段階で約1.7倍,分担率曲線の時間移転性や競合路線の未考慮による「分担」段階で約7倍の誤差が確認された.計画者と同じデータを用いて構築した非集計モデルでは,競合路線と予測時点の社会経済属性の前提が適切であれば,予測が実績に大きく近づくことが示された.
著者
蓼沼 慶正
出版者
一般財団法人 運輸総合研究所
雑誌
運輸政策研究 (ISSN:13443348)
巻号頁・発行日
vol.1, no.2, pp.025-032, 1998-10-31 (Released:2019-05-31)
参考文献数
9

本研究では,国鉄時代に行われた投資のうち,東京圏における放射路線の通勤輸送力増強投資(通称「五方面作戦」)を対象として投資の効果を評価した.東京圏の各市区町村の人口密度と主従業地までの一般化費用との関係を表すモデルを作成し,そのモデルに基づき五方面作戦が行われなかった場合の東京圏の人口分布及び輸送量を算出し,五方面作戦の利用者便益の算出及び財務評価を行った.本研究の結論として,五方面作戦は大きな利用者便益をもたらし,また鉄道事業者の経営的にも良好な結果をもたらした,ということが得られた.
著者
加藤 博和
出版者
一般財団法人 運輸総合研究所
雑誌
運輸政策研究 (ISSN:13443348)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.071, 2018-03-23 (Released:2018-04-23)

まさに時宜を得た出版である.「低迷と混乱,そして変革」の時期にタクシー産業はあり,それをコントロールするべき政策も「迷走」を続けてきたと,本書は冒頭で指摘する.これらの原因として,タクシー産業・政策に関する「正確な情報」が利害関係者に共有されていないことを挙げる.身近にあるがゆえに分かった気になっているが,実際のところタクシー産業を俯瞰的かつ十分に理解している人はほとんどおらず,それが「タクシー政策が歪む」原因であると主張する.
著者
谷口 守
出版者
一般財団法人 運輸総合研究所
雑誌
運輸政策研究 (ISSN:13443348)
巻号頁・発行日
pp.TPSR_25B_05, (Released:2023-01-31)

本書の原題はWALKABLE CITY: How Downtown Can Save America, One Step at a Timeで,原著は2012年に米国で出版されている.著者のジェフ・スペック氏は全米の都市デザイン市長協会を主宰してきたコンサルタント会社のトップで,ジェイン・ジェイコブスらも受賞した「シーサイド賞」を受賞している.全体がわかりやすい日本語に翻訳され,サブタイトルの通り10ステップに整理されているため,興味のあるところだけを飛ばし読みできる構造になっている.ただ,この中身のアンコもさることながら,それを包む前後のガワが秀逸だ.お勧めの読み方は,まず巻末の監訳者の松浦氏らによる解説を読むことだ.ここだけで直近の日本国内の政策やコロナ禍での対応に関する俯瞰も含め,本書を取り巻く現状と課題の短時間でのアップデートが可能となる.そして,次に読むべきが,最初のPARTⅠ「ウォーカビリティがなぜ重要か」だ.都市構造や人口動態の変化,価値感の転換など,ウォーカビリティの重要性を具体の数値データから見事に解きほぐしている.これらのガワだけで実は本書の元が取れてしまうのである.一方,アンコに相当する10ステップ全部の紹介はネタバレになりそうなので,試しに4つだけ抜き出すと,1)車を適切に迎え入れよう,2)用途を混在させよう,4)公共交通を機能させよう,9)親しみやすくユニークな表情を作ろう,といったことが整理されている.ステップ全体を通じて納得できることばかりだが,読んでいて何かが心に引っかかる.記憶をたどると,これらはすべて昭和の日本の都市が実現していたことではなかったか.粗っぽい表現をお許しいただければ,本書は昭和の日本の都市空間をお手本として目指せと言っているように私には読めてしまう.先住民を隅に追いやり,広い国土で自動車前提のまちづくりを進めてきた米国は,ようやく自動車前提ではないまちづくりの重要性に今「論理的に」気付いたのだ.このため,著者は現在まで自動車道整備を進めてきた交通エンジニアに対し痛烈な批判を展開している.一方,日本ではかつて身近に溢れていたウォーカビリティを市民自らが積極的に放棄してきた.ちなみに,わが国では大型ショッピングセンターのある自治体の居住者の方がそうでない者より居住満足度が高いことが有意に示されている.日本人が求めているのは,実際の都市空間ではなく,車が無いと行けないショッピングセンターでのウォーカビリティなのだ.その意味で本書のアンコから受ける示唆は,マグドナルドやスタバが席捲するわが国において,接する機会の減った和食のすばらしさを海外から指摘される感覚に近い.ウォーカビリティの重視は何も米国だけの話ではなく,たとえばフランスのベルアペゼ(穏やかな空間づくり)など,今や世界の潮流である.そこでは単に道路や交通手段に着目するだけでなく,本書の問いと同じくまちづくり全体を見直す動きと連動している.車前提の大型ショッピングセンターの中の方が歩きやすくてそれでいいやと思っている限り,わが国のウォーカビリティ整備の多くは空を切るだろう.その意味で「本書は交通の専門家にお勧め」,などという生ぬるいコメントではなく,日本人として今まで我々が何を自ら進んで放棄してきたのか,一人でも多くの国民が本書に触れることで厳しく自省すべきである.余談だが,個人的には地域選別の概念を示す「アーバン・トリアージ」という用語が本書で提案されていて驚いた.実は評者も全くの同用語を地域の破綻を事前回避するための概念として2006年に学会発表したが,集中批判を浴びて大炎上した経験を持つ.その後,分析対象であった夕張市が実際に破綻したために結果的に溜飲を下げることにはなった.本書より,無理筋の総花的成長を追うのではなく,適切な選別・撤退を行うことに,ようやく社会的な認知が得られるようになってきた空気の流れを感じる.そしてそれは素直に喜ばしいことである.
著者
仮屋﨑 圭司 日比野 直彦
出版者
一般財団法人 運輸総合研究所
雑誌
運輸政策研究 (ISSN:13443348)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.34-41, 2011

<p>我が国の首都圏鉄道は輸送力増強や利便性向上のため,高密度ネットワーク,高頻度運行,相互直通運転等の施策を実施してきたが,その副作用として朝ラッシュ時に慢性的な列車遅延が発生し,新たな課題を抱えている.一方で世界屈指の輸送量を誇るモスクワ地下鉄は,遅延が問題化することなく90 秒間隔の高頻度運行を実現している.本報告では,まずモスクワ地下鉄の概況と現地調査に基づく列車運行の現状を報告し,旅客流動と列車走行の視点から,高頻度運行を可能とする施設や運行管理の実態と仕組みについて現状分析と考察を行う.最後にこれらの事例から,我が国首都圏鉄道の遅延解消に向けた施設整備および運行管理に対する示唆を述べる.</p>
著者
桑原 雅夫 和田 健太郎
出版者
一般財団法人 運輸総合研究所
雑誌
運輸政策研究 (ISSN:13443348)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.042-053, 2013-04-22 (Released:2019-03-29)
参考文献数
13
被引用文献数
1

本研究は,東日本大震災後の緊急支援物資に関する定量的な記録の収集と分析を行ったものである.震災による構造物の損壊状況や津波については詳細な調査が行われている一方で,緊急支援物資の流れに関する定量的な記録は残されていない(あるいは,散在している).本研究では,国および県が取り扱った緊急支援物資を対象として,一次集積所の搬入量・搬出量の傾向比較,主要物資の供給状況,避難者1人当りの供給量の推移を分析する.また,岩手県と宮城県の物資取扱量,一次集積所で必要となった人員などを比較することにより,県における物資供給体制について考察を行う.最後に,今後の緊急支援物資ロジスティクスの構築に向けた課題を示す.
著者
田村 幸士
出版者
一般財団法人 運輸総合研究所
雑誌
運輸政策研究 (ISSN:13443348)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.035-042, 2011-04-26 (Released:2019-04-27)
参考文献数
6

航空貨物は,わが国の貿易を支える重要な手段である.一般に,時間要素を重視する高付加貨物は航空貨物としての適性が高いと言われている.しかし,海上貨物に比べて基礎的なデータが不足していることもあり,その動態は必ずしも十分に明らかにされているとは言えない.本稿の目的は,航空貨物が選択される理由を明らかにするための前提となる事実解明にある.貿易統計を利用し,いくつかの特定品目の航空化率,貨物量および平均単価の推移を経年で分析し,特徴的な動態を指摘する.
著者
浅井 康次
出版者
一般財団法人 運輸総合研究所
雑誌
運輸政策研究 (ISSN:13443348)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.055-059, 2008-07-25 (Released:2019-05-31)
参考文献数
8

本稿はケーブルカーを核とする観光鉄道の現況を,主として経営面から概説したものである.路線の類型化,運行面における特徴,コスト構造,行楽地アクセスとしての地位,入込客数との相関を示し,廃止路線の要因分析を試みた.経営は厳しく廃止もみられるが,地域活性化に資し環境適合性の高い観光鉄道を再評価,存続維持を模索する時期にきている.
著者
橋本 悟
出版者
一般財団法人 運輸総合研究所
雑誌
運輸政策研究 (ISSN:13443348)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.022-029, 2013-07-23 (Released:2019-03-29)
参考文献数
12

本稿は,東京都国立市のJR国立駅南口周辺におけるアンケート結果と社会実験に基づいて,違法駐輪を減少させるための対策を具体的に考えるものである.買い物などの短時間駐輪については,目的地の近傍に駐輪場がなければ,それを利用しない傾向がある.そこで,歩道の一部に短時間駐輪スペースを設けて違法駐輪を減少させる社会実験を行った.結果として,約20mごとに約10台程度の駐輪スペースを設けた場合,30分以内の駐輪であれば十分に対応できることがわかった.ただし,経常的に違法駐輪をしている人は利用しない可能性があること,駐輪場の管理,駐輪時間の問題,及び近隣住民の協力体制などさまざまな問題があることもわかった.
著者
藤井 聡
出版者
一般財団法人 運輸総合研究所
雑誌
運輸政策研究 (ISSN:13443348)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.002-010, 2007-04-26 (Released:2019-05-31)
参考文献数
15

本研究では,既存のモビリティ・マネジメント研究を踏まえつつ,土木学会(2005)におけるモビリティ・マネジメントの定義の論理的含意を検討することを通じて,モビリティ・マネジメントのあり方について論考を加えた.そして,それらを踏まえ,モビリティ・マネジメントが1)言語コミュニケーション以外の多様なソフト施策/ハード施策を含み得ること,2)個人や世帯のモビリティ(移動)のみならず,組織や地域のモビリティ(交通状態)を対象とするということ,3)持続的に展開していくマネジメントであるということを改めて指摘した.
著者
赤倉 康寛 高橋 宏直
出版者
一般財団法人 運輸総合研究所
雑誌
運輸政策研究 (ISSN:13443348)
巻号頁・発行日
vol.4, no.2, pp.010-018, 2001-07-31 (Released:2019-05-31)
参考文献数
14

近年,フルコンテナ船の大型化の傾向は著しい.これに対応する水域施設,係留施設等の港湾施設において,一番問題となるのが水深である.船型の大型化に伴って船舶の喫水は深くなるが,港湾施設の水深は供用後に増深することはなかなか困難である.したがって,港湾施設の整備においては,船舶の喫水と港湾施設の水深の関係について,十分検討を行っておく必要がある.本報告は,日本の主要港に寄港したフルコンテナ船の入出港時の実際の喫水データを収集し,満載喫水やバース水深との関係についての分析を行った.また,この状況を踏まえ,今後の日本におけるコンテナバースの必要バース水深について考察した.
著者
深山 剛 加藤 浩徳 城山 英明
出版者
一般財団法人 運輸総合研究所
雑誌
運輸政策研究 (ISSN:13443348)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.022-037, 2007-04-26 (Released:2019-05-31)
参考文献数
21

本研究は,富山市における LRT 導入と,関連するまちづくり施策の実現に関して,政策プロセスの観点から分析するものである.まず,政策プロセスを4つのフェーズにわけ,それぞれのフェーズにおける関係主体や検討の場,課題のフレーミングや主な論点などをまとめた.続いて,富山市を取り巻くさまざまな関係主体の立場を整理し,富山市によるフレーミングや利害調整を通じた対応のポイントを示した.その結果,政策プロセスにおける合意形成のためには,課題のフレーミング,議論の場のマネジメント,制約条件の活用,個別的な利害調整による対応等が重要であることが明らかになった.
著者
兵藤 哲朗
出版者
一般財団法人 運輸総合研究所
雑誌
運輸政策研究 (ISSN:13443348)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.20-25, 2012

<p>東日本大震災により,東京電力および東北電力管内の電力供給能力が著しく低下し,電力需要の高い2011年夏期には,政府による節電要請が下され,産業界や市民生活にも大きな影響を与えた.節電運動の一環として,時刻別の電力需要が公表されていることから,本分析では,節電実態について定量分析を行い,その効果を明らかにすることを試みる.具体的には,気温と電力需要の相関が極めて高いことから,時刻別の電力需要を推計する重回帰モデルを推定し,震災影響がなかった場合の電力需要を推計する.その推計値と,実績値を比較することにより,需要量減少の特性を考察した.結果から,ピーク時期(7・8月)では,当初の予定以上の15%を越える節電効果が認められた.またピーク分散効果についても,時刻別推計値の変動係数を算出することにより,その実績を確認することができた.</p>