著者
中村 百合子
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.105-124, 2005-09-20

本稿では, 1947年から1948年に, 日米の関係者の協働によって編集された『学校図書館の手引』の内容・記述を, 複数の日本人の編修委員が当時目にしたと述べていた米国の8冊の図書と対照させながら, 分析した。特に第2章第1節「設置の基準」と第4章第2節「図書および図書館利用法の指導」には, 当時の米国の図書の影響がはっきりと認められた。しかしその他の章や節, たとえば第3章「学校図書館の設備」;第4章第1節「図書委員の構成と活動」;同第3節「読書指導の実施」;同第5節「学級文庫の指導」;同第6節「読書会・発表会の開催と読書クラブの奨励」;同第9節「図書の増加と図書費の問題」では, 日本人執筆者の判断によると考えられる記述が目立った。つまり, 『学校図書館の手引』には, 米人ライブラリアンの指示や, 当時の米国の学校図書館に関する図書の内容・記述が反映されていたが, そればかりではなく, 日本人の執筆者各人の経験や専門分野の知識も少なからず反映されていた。
著者
河村 俊太郎
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.110-126, 2012-06-30

大学組織及び図書館組織の中における東京帝国大学附属図書館の役割について,そのモデルや実際の運営から検討した。当時の図書館組織のモデルとなるのは二つあった。一つはドイツの大学に代表される学問型であり,このタイプの図書館においては,中央と部局は切り離されており,価値のある図書だけを購入していた。もうひとつは,アメリカの伝統ある大学に代表される教育型であり,このタイプの図書館は,部局と中央が組織的な関係を持つことを意識し,また教育的な資料も収集していた。東京帝国大学は,研究型の図書館を望み,附属図書館の基礎を築いた三人の館長は教育型を重視していた。実際の附属図書館の運営を見てみると,部局図書館と附属図書館は別々に運営され,図書館員は大学図書館についての知識は十分に身につけていなかったが学問に関しての知識は持っていた。そして,少なくとも関東大震災ごろには図書館員を中心に選書は行われていたが,教員による選書や授業に関連した選書は十分に行われなかった。ここから,少なくとも1920年代後半には附属図書館の運営は研究型により近いと結論された。
著者
岡野 裕行
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.270-287, 2008-12-25

文学館研究は図書館学や博物館学に比べると発展が遅れている学問分野であるが,それでも近年においてはその数が少しずつ増加している傾向にある。その時期は一般に,全国文学館協議会が発足した1995年以降であると考えられている。この点を確認するために,国立国会図書館の「雑誌記事索引」による文献調査を行ってみたところ,1995年以前と1996年以後との間で文献数やその内容面に関する相違点を見出すことができた。また,同時期には文学館に関する図書についても同様の変化が見られた。すなわち文学館研究は,ここ10年ほどの間に発展していったものと推測される。
著者
浅倉 秀三
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.159-170, 2004-12-24

LC(米国議会図書館)はMARC21をXMLデータベースヘ変換し,それをMARCXMLとよんでいる。そして,MARCXMLをDublin Coreなど種々なデータ形式との相互変換のバスとして位置づけている。MARCXMLのXML構造は,LCが提示する書誌データのための標準化したXML構造である。本稿では,日本語書誌データ処理技術として,日本語MARCをMARCXMLのXML構造でXMLデータベースヘ変換する実験を行った。そして,日本語MARCにこの構造を採用することの妥当性を実証した。その結果,その構造を採用することによって,同一の操作環境でMARC21, JAPAN/MARCとTRC MARCのデータを閲覧できることが明らかとなった。さらに, JAPAN/MARCとTRC MARCのように,タグとサブフィールドコードが統一されている場合は,それらのデータを混在して利用できることが明らかとなった。
著者
河村 俊太郎
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.131-146, 2010-09-30

本研究は東京帝国大学図書館を対象に,図書館商議会の運営及び中央と部局の関係を中心とした図書館組織について,一次資料の検討を中心に歴史的に検討した。東京帝国大学では特に1918年以降は学部所蔵の図書については学部と附属図書館両者が権利をもつ曖昧な管理体制となっていた。こういった状態の中で,学部の意図を附属図書館の運営に反映するために設立された図書館商議会でも,附属図書館の運営以外にも部局と中央の関係が議題として取り上げられるようになっていた。行われていた議論からは,東京帝国大学の図書館組織が,中央から部局ではなく,いくつかの部局からの中央へのコントロールという側面が強いものであったことが考察された。
著者
岸田 和明
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.49-66, 2001-11-30
被引用文献数
2

本稿の目的は, 索引作成支援システムを応用目的とした, 文献の自動分類あるいは自動索引作成のための統計的手法について実証的な分析を試み, より優れた方法を提案することにある。このために, まず, 自動分類法と自動索引法に関する先行研究を概観し, その諸手法を整理する。次に, 約9, 000件のレコードから成る『図書館情報学文献目録』のデータを使って, それらの諸手法の性能を実証的に比較評価する。そして, その結果を踏まえて, 情報検索分野のレレバンスフィードバック手法を応用した独自の方法を提案し, この方法の性能が既存のものよりも高いことを実証的に示す。
著者
金井 喜一郎
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.190-208, 2010-12-30

音楽資料の検索に関しては,典拠コントロール,シソーラス,OPACシステムなどの研究があるが,利用者が求める書誌情報を効果的かつ効率的に提供する研究は限られている。本研究では音楽図書館のOPACの検索機能について,利用者の検索要求に基づきその機能要件の導出を試みる。まず利用者の検索要求を把握するためにレファレンス記録の分析を行う。調査対象は国立国会図書館および昭和音楽大学附属図書館(2種類)の記録である。各記録の内容分析により音楽資料に関する利用者ニーズを類型化し,そのニーズを表現する典型的な検索課題を作成する。次にその検索課題を用いて国内の音楽図書館5館のOPAC検索機能を評価する。調査の結果,音楽資料に関するOPAC検索機能要件として12の機能が導き出された。このうち「音高や歌詞の検索」や「収録曲ごとの詳細検索」は現在のOPACでは実行が難しく,これらを可能にする機能は今後の課題である。
著者
百鳥 直樹 小泉 公乃
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.24-41, 2024 (Released:2024-02-29)
参考文献数
73

本研究の目的は,2000 年代前半の国立大学改革によって変化した国立大学図書館組織を類型化したうえで,その特徴を解明することである。現在の国立大学図書館組織を8 つに類型化し特徴を明らかにした。組織分類の特徴から,1)法人化前の組織形態を継続する組織,2)学内の他部門と統合した組織,3)図書館以外の業務も担当する組織と,組織が多様化していることを確認した。また,法人化前後の比較や学部数による大学規模の分析から, 大規模な国立大学(8 学部以上)が法人化前の組織体制を継続しているのに対し,中小規模の大学(7 学部以下)では他部門組織との統合,統合に伴う管理職数の削減,図書館管理職の職位の格下げが行われていることが明らかになった。そして,これら組織再編の多くが,大学全体の業務の合理化・集約化を目的に行われた。
著者
山田 翔平
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.1-23, 2024 (Released:2024-02-29)
参考文献数
67

本研究では,大学図書館の主な利用者である大学生の視点を考慮し,大学生に意識される大学の属性と大学図書館蔵書の関係を,ページ数に着目して高い解像度で記述した。大学の属性は,設置形態,入試偏差値,所在地の3 つを取り上げ,属性ごとに大学を群に分けて蔵書を比較した。大学図書館蔵書の分析でほとんど取り上げられていないページ数に着目し,ページ数の記述統計量とヒストグラムを分析した。経済学,理学,文学,工学の 4 つの学問分野を取り上げ,分野ごとの分析結果を見比べながら属性ごとの蔵書の特徴を精緻に記述した。4 分野で計251 校,334,594 タイトルを対象とした。4 分野に共通して見られた特徴として,設置形態においては,公立大学が所蔵するタイトルのページ数の平均値・中央値が国立大学・私立大学に比べて大きく,公立大学が所蔵するタイトルの分布は国立大学・私立大学に比べてページ数の多い方に寄っていることが得られた。
著者
德安 由希 小泉 公乃
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.95-111, 2022 (Released:2022-06-30)
参考文献数
61

本研究の目的は,積極的に行政支援サービスに取り組む公共図書館がどのようにサービスを構築し,発展させてきたかを解明することである。愛知県の田原市図書館を対象に,資料調査と館長,副館長,図書館員,行政職員(サービス利用経験有)への半構造化インタビューによる事例分析を行った。結果,田原市図書館では,地域課題によって図書館員と行政職員の意識と行動が互いに変化し,両者の関係性の強化を契機に従来のサービスを転換する形で行政支援サービスを構築していた。構築後も図書館員の継続的な努力によってサービスは緩やかに進展し,図書館と行政部局の連携による新たな成果の創出にまで発展していることが明らかになった。さらに,図書館と行政職員の意識や行動をサービスが変化した時期と関連づけながら,サービスに与えた影響を整理し,サービスの構築過程を4 段階別に描いた上で,行政支援サービスに関連する図書館員の専門的知識を考察した。
著者
横山 幹子
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.85-100, 2023 (Released:2023-06-30)
参考文献数
59

本論の目的は,文献分析に基づき,知識の組織化システム(KOS)としての統合的レベル分類(ILC)と,Claudio Gnoli の存在論(複数主義)との関係を検討することである。 本論での検討の結果,2 つのことが明らかになった。1 つは,Gnoli の存在論は,確かに統合的レベル分類においてすべての研究対象を秩序付けることができるが,統合的レベル分類においてすべての研究対象を秩序付けることができる存在論はGnoli の存在論だけではないということ,言い換えるならば,抽象的存在者を認めるとしても必要とされる抽象的存在者はメンティファクトのような存在者だけとは限らないということである。もう1 つは,たとえ研究対象として知識の地位を評価することのできる存在論が他にあるとしても, Gnoli の存在論は確かに研究対象としての知識の地位を評価することができるということである。
著者
中村 百合子
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.204-221, 2008-09-30 (Released:2017-05-04)

本研究では,戦後の日本において読書指導の実践および理論の発展を導いた滑川道夫の読書指導論がいかに形成されたかを,氏の読書指導の定義の戦前と戦後に注目して検証した。具体的には,1950年までの氏の著述を時系列に整理・検討した。結果,滑川の読書指導の定義の戦前から戦後への連続と断絶の各面が明らかになった。滑川は1930年代後半期に,児童文化運動の広まりのなかで,読書指導への関心を深めており,1941(昭和16)年に出版された共著書『児童文化論』中に,戦後の同氏の読書指導論の本格形成につながる端緒が認められた。その後,終戦後の占領下にあって,CIE教育課側の指示を契機に滑川の読書指導論は具体化され,指導要項として整理された。そして1949(昭和24)年になる頃までには,戦後をとおして氏がもちつづけた,生活指導に統合される読書指導という考えを構成する重要な要素が見出されていた。
著者
河井 弘志
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.109-124, 1999-11-30 (Released:2017-05-04)
被引用文献数
1

17世紀以来, ドイツには参事会図書館に由来する市立図書館があり, 上層特権市民によって利用された。19世紀には下層民衆を対象とする福祉事業的な公立・私立の民衆図書館が各地に生まれたが, 市立図書館と交わるところはなかった。すべての市民が対等に利用するアメリカのパブリック・ライブラリーに接した大学図書館員ネレンベルクは, ドイツの二元体制をなくして, 全市民が平等に利用できる公共図書館を現しようとする運動を進め, 彼ら「図書会館」と名づけたドイツ型パブリック・ライブラリーが各地に生まれた。「図書会館」とは, 公立学校に対応する公立図書館, 公費経営, 法による義務設置, 利用無料, 昼夜開館閲覧, あらゆる階級の利用, 専門職図書館員など, 公共図書館の純粋理念を現する図書館である。この理念は, ナチス支配終了後の公共図書館運動によって本格的な結をみることになる。
著者
武田 将季
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.67-83, 2019 (Released:2019-06-28)
参考文献数
78

本研究では,内因性瞬目が個人の情報処理における認知的状態を反映することを利用し,1)キュレーションによって構造化された情報を参照した場合,また,構造化されたページを起点に個別のページへアクセスして参照した場合と2)サーチエンジンの検索結果一覧ページとそれを起点にして個別のページへアクセスし,参照した場合では,それぞれユーザによる情報処理がどのように行われ,どのように異なるかについて検討した。 その結果,タスク全体で見た時,いずれのタスクにおいても,キュレーションされた情報を利用した場合に評価や判断等の思考を伴う情報の取り込みを行なっていることが推定された。また,閲覧したページを,起点となるページ(P1)および個別のページ(P2)に分けて分析したところ,旅行タスクのP1 およびP2,レポートタスクのP1 において,キュレーションされた情報を利用した場合の方が,外部におかれた情報の取り込みにとどまらず,評価や判断等の思考を伴う情報の取り込みを行なっていることが推定された。
著者
岩瀬 梓 山岡 加奈 王 雨晴 広江 理紗子 吉田 直輝 宮田 洋輔 石田 栄美 倉田 敬子
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.66, no.4, pp.101-112, 2020 (Released:2020-12-30)
参考文献数
14

2011-2018 年に38 か国で実施された「国際成人力調査(PIAAC)」のオープンデータを用い,デジタルスキルに影響する要因の比較を行った。分析にはデジタルスキルを反映すると考えられるIT を活用した問題解決能力(PSTRE)の課題の正答数(25 か国15,702 件)を用いた。分析手順は以下の通りである。1.各国のPSTRE の課題の正答率比較,2.背景調査から選択した63 設問(日常でのメディア利用等)の因子分析,3.選択された各因子の因子得点と年齢,性別,学歴を説明変数,各回答者のPSTRE 正答数を目的変数とした回帰分析(25 か国全体,日本,北欧3 か国の3 グループに実施)。主な結果として,課題ごとの正答率および課題の正答に影響する要因は国や地域ごとに異なることが明らかになった。ただし,年齢と学歴はいずれの国や地域でも共通してPSTRE に影響を与え,性別は日本,北欧3 か国では有意ではなかった。