著者
河村 俊太郎
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.110-126, 2012-06-30 (Released:2017-04-30)

大学組織及び図書館組織の中における東京帝国大学附属図書館の役割について,そのモデルや実際の運営から検討した。当時の図書館組織のモデルとなるのは二つあった。一つはドイツの大学に代表される学問型であり,このタイプの図書館においては,中央と部局は切り離されており,価値のある図書だけを購入していた。もうひとつは,アメリカの伝統ある大学に代表される教育型であり,このタイプの図書館は,部局と中央が組織的な関係を持つことを意識し,また教育的な資料も収集していた。東京帝国大学は,研究型の図書館を望み,附属図書館の基礎を築いた三人の館長は教育型を重視していた。実際の附属図書館の運営を見てみると,部局図書館と附属図書館は別々に運営され,図書館員は大学図書館についての知識は十分に身につけていなかったが学問に関しての知識は持っていた。そして,少なくとも関東大震災ごろには図書館員を中心に選書は行われていたが,教員による選書や授業に関連した選書は十分に行われなかった。ここから,少なくとも1920年代後半には附属図書館の運営は研究型により近いと結論された。
著者
山口 洋 石川 巌
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.74-82, 1999-07-30 (Released:2017-05-04)

図書目録における標目の問題として、漢字表記されたチベット人名の扱い方について検討した。はじめに中国語図書におけるチベット人名漢字表記について現状を分析し、チベット語の漢字転写は音訳であり、漢字からはチベット文字が復元できないことを指摘した。次にチベット語がローマ字転写される際の問題点を考察し、音訳より字訳の方がよいこと、チベット文字のローマ字転写(字訳)には、主にワイリー方式とLC方式があり、前者の方が普及していること等を指摘し得た。また、日本の図書館におけるチベット人名標目を考察し、その結果、学術情報センターの目録データに拠るものの、チベット人名の実態を考慮しない事例を見いだした。以上より、チベット語のローマ字転写は字訳に拠るべきで、学術情報センターの目録データにおいても、この点が考慮されるべきであること、転写が不可能な場合は、漢字形十ピンインで表記すること、これらの処理を可能にする適切な典拠ファイルの構築が必要なことを提示した。
著者
大場 博幸 安形 輝 池内 淳 大谷 康晴
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.139-154, 2012-09-30 (Released:2017-04-30)

日本の公共図書館・大学図書館・国立国会図書館の所蔵傾向について包括的な調査を行った。2006年上半期に刊行された約3万5千点の書籍を対象とし,2010年にカーリルやWebcat Plus等を通じて所蔵館数を調査した。調査対象の書籍について出版点数と需要を軸に分布を示し,館種別の所蔵数の分布と比較した。また,絶版書籍や選定図書の所蔵率も調べた。結果から次のことが明らかになった。第一に,公共図書館群は8割以上の所蔵率を示した。この結果は,公共図書館の蔵書が共通の書籍に集中しているわけではないことを推定させる。第二に,大学図書館群は出版点数や需要の分布とは異なる所蔵の偏りを見せること。これは,大学図書館が選択的な所蔵をおこなっており,かつ図書館間でその評価基準が共有されていることを推測させる。第三に,国立国会図書館には約1割の所蔵もれがあり,これは先行文献で報告されていたことと同様だった。
著者
松戸 宏予
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.97-116, 2008-06-30 (Released:2017-05-04)

小・中学校の養護教諭,スクールカウンセラー,特別支援教育コーディネーターら学習の評価を担わない職員19名を対象に,学校図書館をどのように認識しているのか,またその認識の変化の要因を修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチで分析を試みた。結果として,評価を担わない職員は,利用する前は用がなかったらいかない場とみていたが,特別な教育的ニーズをもつ児童生徒の同行をきっかけに学校図書館を資料・情報の源,生徒が落ち着ける場,社会へつながる場へと捉えていく。この認識の変化は,評価を担わない職員が学校司書を資料の専門家,学校司書の生徒への自然なかかわりをもちながら生徒の成長を考えるという姿勢を認識したことによるものであった。これらの特性から,適切な資料提供,共感理解による児童生徒の自己肯定,児童生徒の社会性を育てる教育的な支援が,学校図書館の特別な支援として示唆された。
著者
呑海 沙織 綿抜 豊昭
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.69-82, 2012-06-30 (Released:2017-04-30)

本稿では,図書館マナーの社会的受容について考察を行うことを目的として,近代礼法書における図書館に関する記述内容の分析を行った。近代礼法書において,図書館が単独で取り上げられるのは昭和以降のことであり,図書館に関する共通記述は12種みられた。図書館に備え付けられている「もの」に関する記述が6種,(2)図書館における「ふるまい」に関する記述が6種である。「もの」に関する記述のほとんどが図書に関するものであり,特に図書を丁寧に扱うという記述は全ての対象書にみられた。一方,「ふるまい」に関する記述で最も多かったのは静粛であり,なかでも音読禁止は最も多く取り上げられていた。先行研究においては,明治期より図書館規則によって音読禁止条項が普及し,大正から昭和初期にかけて衰退する傾向にあったことが明らかにされているが,本稿では礼法教育によって「規則」から「マナー」へと変容した可能性を指摘することができた。
著者
長谷川 哲也 内田 良
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.255-267, 2016 (Released:2017-01-08)
参考文献数
27

本研究の目的は,公立大学図書館の図書館資料費に関して,格差の実態を検討することである。図書館資料の電子化と価格高騰が同時並行で進行するなかで,大学図書館の格差はどのように変容しているのだろうか。公立大学は各自治体が個別に運営しているため,全体から相互の格差を明らかにするという営みからは漏れてしまっている。本研究では,図書館資料費の大学間および大学階層間という2 つの視点から格差の推移を検討する。分析には『日本の図書館』の個票データを用いた。図書費,雑誌費,EJ 費に関して,各費の図書館間,および大学階層間の格差を分析した。主な知見は次のとおりである。第一に,図書費と雑誌費の大学間格差および大学階層間格差は,大学本体の格差と同程度である。第二に,EJ 費の大学間格差および大学階層間格差は,大学本体の格差よりも大きい。公立大学図書館の格差の実像をより明確にするため,今後いっそう詳細な研究が必要である。
著者
根本 彰
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.1-16, 1999-03-30 (Released:2017-05-04)

戦後占領期にアメリカの図書館専門家が何人か来日し, 図書館政策の策定や近代的な図書館運営, 図書館員の養成などに貢献した。本稿は, とくに占領初期の政策決定期に来日してそれぞれの業績を残したカーノフスキー, キーニー, グレアム, バーネットの派遣, 人選やそれらの人々とのやりとりを示す資料の分析を通して, 国際関係特別委員会 (IRB) 東洋委員会委員長ブラウンが中心となったALAの対日図書館政策の考え方を検討する。その結果, 第一次教育使節団派遣の時点では, ブラウンは公共図書館や学校図書館を通じた教育改革に意欲を示していたが, 初代GHQ/SCAPのCIE図書館担当者キーニーが共産主義者の疑いで解任されて以降, 制度改革よりも図書館員養或などのより間接的なものに重点を移すようになった点を明らかにした。これは直接的に占領行政を担当していたGHQ/SCAPが冷戦期の反共産主義に政策転換したことに加えて, キーニーその人とALAとの間にあった確執にも根ざしたものであった。
著者
南 友紀子 岩瀬 梓 宮田 洋輔 石田 栄美 上田 修一 倉田 敬子
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.163-180, 2016

<p>本研究では,van Deursen らの「デジタルスキル」を基礎に,従来の情報検索の専門的なスキルを組み込んだウェブ環境における情報検索スキルの現状を明らかにすることを目的とする質問紙調査を行った。2014 年8 月にオンライン調査を実施し,1,551 名から回答を得た。その結果,ウェブ環境で検索を行う人々は,(1)ブール演算子などの高度な情報検索技法は用いない,(2)ウェブ上の情報の形式は理解している,(3)検索語の選定に対する意識は高い,(4)一定の評価方針のもとに複数の検索結果を閲覧する,(5)インターネットから恩恵を受けていると感じている,ことが明らかになった。階層的クラスタリングにより回答者を8 クラスタに分割し,高い情報検索スキルを持つクラスタを特定した。この高能力者群は,比較的若く,男性が多く,学歴が高く,批判的思考能力と自己認識が高かった。高能力者群は全てのスキルの平均得点が最も高いが,検索技法に関するスキルのみ得点は大幅に低かった。</p>
著者
藤谷 幸弘 前田 博子
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.1-14, 2005

本稿は, 1988年にロンドンのカムデン区で起きた公共図書館サービスの削減計画に対して, 当時の新聞記事等をもとに市民の反対運動の特徴をまとめたものである。職員のストライキ, 多数の人々の削減反対署名運動, 抗議の手紙, 有名俳優による図書館での朗読会, 抗議集会, 座り込み, 反対運動者の寄付による運営継続の提案など様々な方法よる反対運動が行われた。その結果, 図書館に対する市民の強い支持が認められ, 閉鎖対象となっていた2分館のうち1館は閉館を免れ, 3中央館のうち2館が分館に格下げされたが, 閉館は免れた。また開館時間を経年的にみると, 1984年には14館の1週間の総開館時間が790.5時間だったものが, 1993年には全13館となり, その総開館時間は一旦414時間に減少したが, 2003年には少々改善され, 514時間に上昇した。
著者
池内 淳
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.95-108, 1999-11-30 (Released:2017-05-04)

公共財供給の採否を判断するための道具立てである費用便益分析は, これまで, 体における公共図書館設置についての意思決定の問題には用いられてこなかった。これは, その必要性が低かったというよりもむしろ, 行するに足るだけの充分な方法論が確立されてこなかったことに起因するものと考えられる。にも関わらず, そのための理論的な研究は殆ど行われていない。そこで, 本稿は, 費用便益分析を公共図書館に対して適用する際に提起される様々な論点について考察を加えるとともに, 消費余剰の概念に基づいた便益評価を提案し, その妥当性と適用可能性について論じた。
著者
高鍬 裕樹
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.61-77, 2014

本論文では,米国財務省内国歳入庁による図書館記録調査事件(1970年)を詳述する。内国歳入庁の調査官が複数の公立図書館を訪れ,図書請求票への調査を要請した。多くの図書館員はこの要請を拒絶したが,受け入れざるを得なくなったり,自発的に受け入れた図書館もあった。この調査にたいしてアメリカ図書館協会(ALA)は反対を表明し,さまざまな反対運動が起こった。連邦議会の上院議員からもこの調査にたいして疑念が出され,最終的に内国歳入庁は,図書館調査を停止し,繰り返さないとした。しかし,ある特定の場合には,図書館の記録を調査することが適切である場合もあるとしたのである。この調査をきっかけに,ALAは『図書館の権利宣言』の解説文『図書館記録の秘密性に関する方針』を採択した。ALAが図書館記録の秘密性について実質的な意味で保護するきっかけとなったのがこの事件である。
著者
野口 武悟
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.49, no.4, pp.156-171, 2004-05-15 (Released:2017-05-04)

本研究では,学校図書館法成立前後から1960年代に至る盲学校図書館の実態を,地域の視覚障害者に対する図書館サービスの構想と展開を中心に明らかにした。学校図書館法によって制度化された盲学校図書館は,地域の視覚障害者に対する図書館サービスにその独自の方向性を見出し,議論と実践の広がりを見せた。まさに盲学校図書館は,地域の視覚障害者に対する「公共図書館的使命」を帯びていたのであった。この方向を後押ししたのは,厚生害更生援護事業であり「学校図書館審議会」最終答申であった。ところが,地域の視覚障害者の利用は伸び悩んでいた。結局,1960年代も後半になると,(1)学校の敷地内にあることが裏目に出たこと,(2)盲学校図書館づくりの停滞により,地域の読書ニーズに応えていなかったこと,(3)地域の視覚障害者をめぐる読書環境が変化し盲学校図書館の地域に対する必然性が弱まったこと,などの要因が複合し,盲学校図書館における地域の視覚障害者に対する図書館サービスは挫折してしまうのであった。
著者
曺 在順
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.43-57, 2004

本稿では, 1950年代米国教育援助の中で展開された韓国への図書館学教育の導入について,文献分析とインタビューによって,その背景を明らかにした。1955年までの米国教育援助政策は現職教員の再教育に止まっていたが, 1956年から養成へと変わった。図書館援助の面でも養成が重視され,ピーボディ大学の援助を受けて1957年に延世大学図書館学科が創設された。ピーボディ大学は優秀な図書館学校を持っており,これは同大学が米国務省国際協力庁により米国対韓教育使節団として選定される一因であった。ピーボディ大学プロジェクトには最初から図書館学科の設立計画が含まれており,その背景には1955年段階での韓国図書館界の強い働きかけがあった。延世大学が図書館学科創設の適地として選定された理由には,キリスト教系大学であったこと,総長の図書館への関心,副館長エルロドによる米国型図書館サービスの導入,韓国初の現代的図書館の新築などが考えられる。
著者
杉江 典子
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.71-89, 2017

<p>本研究の目的は,無線周波個体識別の技術を応用した観察法を用いて利用者の情報探索行動に関するデータを収集し,クラスタリングにより利用者を類型化すること,位置情報を用いた分析の利点を検討することである。2012 年に千代田区立千代田図書館において動線調査と質問紙調査を実施し,取得した209 人の位置情報を,1)訪問地点の範囲の広がりと集中,2)移動経路の類似度により分析した。その結果,1)資料を借りた利用者の多くが,短時間滞在し特定の書架で資料を探していること,資料を借りなかった利用者は,より多様な行動を取っていること,2)クラスタ1 には,借りる資料を探すために館内を巡る利用者が多いこと,クラスタ2 には資料を閲覧して過ごした利用者が多いこと等が明らかになった。さらにRFID を用いて得た位置情報は,目視の位置情報に比べ客観的で論拠として示しやすいこと,統計処理に適していることなどの利点が示された。</p>
著者
杉山 悦子
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.1-19, 2017

<p>沖縄で1954 年度から60 年度に適用された基準教育課程の国語科と社会科を中心に分析し,1950 年代の沖縄において図書館および図書館資料が教育課程でどのような位置にあったかを検討した。国語科試案では読書や図書館利用計画がカリキュラム化され,社会科試案では事典,統計,新聞,地図など多様な資料を使う問題解決学習が設定されていた。学校図書館法の無いなか,1955 年度の琉球政府文教予算では"資本"としての図書購入費用が計上されていた。1957 年の社会科改訂においても読書活動,問題解決学習,資料を活用する単元,自発的学習のための図書館活用方針は継続され,文部省の指導要領改訂とは異なる動きをみせていた。学校以外の"図書館"施設には必然的に琉米文化会館が含まれることから,図書館の活用教育が文化政策に絡めとられる構造にあったことが推察された。本研究の過程で基準教育課程各教科編の現存を確認した。</p>