著者
石隈 利紀
出版者
日本学校心理学会
雑誌
学校心理学研究 (ISSN:13465732)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.73-82, 2012 (Released:2021-12-25)
参考文献数
21
被引用文献数
1

本稿では,「欲求」と「ニーズ」の概念の異同について述べ,3つの実践事例を通して,すべての子どもに届く一次的援助サービスが,苦戦する子どもへの二次的援助サービス・三次的援助サービス(付加的な援助サービス)の土台になるかについて論じた。そしてそのためには,一人ひとりの学校生活の状況を把握しながらの援助,グループプロセスの促進,チームとしての学校づくりが必要であると指摘した。
著者
益子 洋人
出版者
日本学校心理学会
雑誌
学校心理学研究 (ISSN:13465732)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.61-68, 2022-03-31 (Released:2022-06-07)
参考文献数
25
被引用文献数
1

本研究では,コンフリクト解決教育プログラムからメディエーションの要素を取り上げ,異質性の受容に及ぼす影響をbootstrap法によって検討した。中高一貫校に在籍する有志生徒20名の回答を分析した結果,コンフリクト解決の態度やスキルの全4因子で得点が有意に向上し,先行研究と同等以上の効果が示された。また,異質性の受容に関する指標にも改善が見られ,コンフリクト解決教育が共生教育に一定の効果を持つことが示唆された。
著者
Sanae IECHIKA Toshinori ISHIKUMA
出版者
日本学校心理学会
雑誌
学校心理学研究 (ISSN:13465732)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.139-157, 2021-03-31 (Released:2021-11-19)
参考文献数
41

本研究の目的は,特別な援助ニーズがある子どもたちのためのコーディネーション委員会の機能が,教師による生徒への心理教育的援助サービスにどのような影響を与えるかを明らかにすることであった。そこで中学校教師432名を対象に質問紙による調査を実施した。調査の内容は,「問1:コーディネーション員会の機能」,「問2:学校の問題に対する当事者としての意識」,問3:心理教育的援助サービスに対する教師の意識」,「問4:教師の心理教育的援助サービス」であった。その結果,コーディネーション委員会の4つの機能(①個別のチーム援助の促進機能,②コンサルテーション及び相互コンサルテーション機能,③マネジメントの促進機能,④学校・学年レベルの連絡・調整機能)のうち,①個別のチーム援助の促進機能を除く3つの機能が,教師の「学校の問題に対する当事者としての意識」と「心理教育的援助サービスに対する教師の意識」に正の影響を与えていることが明らかになった。また,コーディネーション員会の機能は,「学校の問題に対する当事者としての意識」と「心理教育的援助サービスに対する教師の意識」を通して教師の心理教育的援助サービスに正の影響を与え,コーディネーション委員会の機能の中で,①個別のチーム援助の促進機能と④学校・学年レベルの連絡・調整機能は直接的に教師の心理教育的援助サービスに正の影響を与えることが明らかになった。本研究では,コーディネーション員会(生徒指導委員会,教育相談部会,校内委員会など)を取り上げた。これらの委員会では,教師とスクールカウンセラーが,主に特別な援助ニーズのある生徒の問題に関する状況について話し合い,その生徒をどのように援助していくかを話し合う。つまり,コーディネーション委員会は,二次的援助サービス・三次的援助サービスが必要な生徒への援助サービスを向上させることを主としたコンサルテーション・相互コンサルテーション及び連絡・調整の場である。しかし本研究の結果が示すように,コーディネーション委員会の機能は,いじめ,不登校,発達障害などの二次的援助サービス・三次的援助サービスを向上させるだけでなく,開発的ニーズをもつすべての生徒に対する一次的援助サービスを向上させる可能性がある。コーディネーション委員会が定期的に開催されることで,授業の改善や生徒へのサポートなど,教師の心理教育的援助サービスを維持し,促進することで,チーム学校の心理教育的援助サービスが改善される可能性がある。特に日本では,教師が心理教育的援助サービスの主な提供者となっているため,心理教育サービスの提供者としての教師の成長は重要である。また,コーディネーション委員会への参加は,教師と専門スタッフ(スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーなど)が,学校全体の心理教育的援助サービスをチームとして行うことを推進すると考えられる。今後は,公認心理師・臨床心理士・学校心理士などの資格を持つスクールカウンセラーが,コーディネーション委員会に定期的に参加するよう求めることが必要である。
著者
山内 星子 松本 真理子 織田 万美子 松本 寿弥 杉岡 正典 鈴木 健一
出版者
日本学校心理学会
雑誌
学校心理学研究 (ISSN:13465732)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.47-54, 2020-12-31 (Released:2021-04-08)
参考文献数
9
被引用文献数
1

本稿の目的は,大学で行われた新型コロナウイルス感染症流行下の学生支援実践を報告することである。2019年度卒業式の中止を皮切りに,大学のほぼすべての活動は制限され,2020年8月現在も登校禁止の状況が続く。筆者の所属する名古屋大学学生支援センターにおいて行われた支援を,不適応を呈した学生,その家族,関係教職員を対象とした三次支援,現時点では不適応を呈していないがその可能性の高い者を対象とした二次支援,全構成員を対象とした一次支援の3つのレベルに分けて報告する。
著者
木原 美妃
出版者
日本学校心理学会
雑誌
学校心理学研究 (ISSN:13465732)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.77-80, 2020

<p>新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は,SARS-CoV2によって引き起こされる感染症であり,高齢者や基礎疾患のある人が重症化しやすいのが特徴である。COVID-19は経済だけでなく,教育にも大打撃を与えた。3月16日,カリフォルニア州知事が他の州に先駆けて自宅退避命令を出し,結果として,2019年度末まで学校が閉鎖された。本稿では,COVID-19に関するタイムラインとカリフォルニア州で最大規模の学区の1つであるサンディエゴ学校区(San Diego Unified School District; SDUSD)の取り組みをまとめた。SDUSDは,COVID-19による学校閉鎖中に,遠隔授業用に50,000台を超えるコンピューターを児童・生徒に提供し,14,000時間を超える教職員研修を行い,200万食以上の食事を家庭に提供した。7月13日,SDUSDはオンライン授業で2020年度を開始することを決定した。SDUSDは十分な論理的,医学的根拠をもとに,オンキャンパスでの開校へむけて準備を進めている。</p>
著者
家近 早苗 石隈 利紀
出版者
日本学校心理学会
雑誌
学校心理学研究 (ISSN:13465732)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.57-68, 2011-12-20 (Released:2020-03-10)
参考文献数
24
被引用文献数
1

本研究の目的は,コーディネーション委員会の機能尺度(中学校版)を作成し,その構造と信頼性及び妥当性を検討することであった。教師5名への半構造化面接の回答と特別支援教育コーディネーター44名に対する自由記述調査の結果から,コーディネーション委員会の機能に関する41項目を収集,選定した。これらの項目について調査を実施し,中学校教師432名の回答から,コーディネーション委員会の機能尺度は,①個別のチーム援助の促進機能,②コンサルテーションおよび相互コンサルテーション機能,③マネジメントの促進機能,④学校・学年レベルの連絡・調整機能の4つの下位尺度で構成されていることが示された。さらに,尺度の信頼性と妥当性の検討を行った結果,各下位尺度についてある程度の信頼性と妥当性があることが確認された。
著者
大矢 正則
出版者
日本学校心理学会
雑誌
学校心理学研究 (ISSN:13465732)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.35-40, 2020

<p>本稿は,COVID-19感染症防止対策として実施された全校休業要請によって,これまでの学校というシステムがなくなるという出来事が起こったその日から,学校再開までの3か月間に,ひとつの小中高一貫校が実践した教育活動を時系列に沿って報告するものである。予想困難な学校危機にあって,管理職(校長)が,学校心理士として,マネジメント委員会,職員会議で物事を決定していったプロセスを明らかにした。</p>
著者
名古屋 学
出版者
日本学校心理学会
雑誌
学校心理学研究 (ISSN:13465732)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.41-45, 2020

<p>特別支援学校には,障がいの状態を踏まえた,より丁寧な対応が必要な児童・生徒等が在籍している。各学校は,緊急事態宣言に伴う臨時休業中,緊急事態宣言解除後の段階的な登校再開,そして通常日課再開に向けて,国や県からの通知やガイドラインを受け,実態に即した取り組みを積み重ねてきている。今回は,知的障害特別支援学校での実践例を報告する。</p>
著者
五十嵐 哲也 茅野 理恵
出版者
日本学校心理学会
雑誌
学校心理学研究 (ISSN:13465732)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.43-51, 2018-09-30 (Released:2018-12-04)
参考文献数
29
被引用文献数
1

本研究は,小中学生の登校への動機づけについて,自己決定理論に則って測定することができる尺度を作成し,その信頼性と妥当性を検討することを目的として実施された。その結果,自己決定理論の4つの枠組みに沿った尺度が作成され,内的整合性,構成概念妥当性,併存的妥当性,交差妥当性が確認された。また,概ね自己決定性の高い登校への動機づけは小学生の方が高く,自己決定性の低い登校への動機づけは中学生の方が高いことが示された。