- 著者
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藤井 紀行
- 出版者
- 日本植物分類学会
- 雑誌
- 分類 : bunrui : 日本植物分類学会誌 (ISSN:13466852)
- 巻号頁・発行日
- vol.8, no.1, pp.5-14, 2008-02-20
- 被引用文献数
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日本列島における高山帯は,本州中部以北の山岳に点々と隔離分布している.一般にこの高山帯に生育の中心を持つ植物のことを「高山植物」と呼んでいる.高山帯がハイマツ帯と呼ばれることもあるように,この植生帯ではハイマツ(マツ科)がマット状に広がったり,色とりどりのお花畑が広がったり,美しく雄大な景観を見ることができる.日本に分布する各高山植物の種レベルの分布を見ると,その多くが日本より北の高緯度地域にその分布の中心を持っており,日本の本州中部地域がその南限になっていることが多い.こうした分布パターンから,一般的に高山植物の起源は北方地域にあり,過去の寒冷な時期に北から日本列島へ侵入し,現在はそれらが遺存的に分布しているものと考えられている.しかしそうした仮説の検証を含め,いつ頃どのようにして侵入してきたのか,その分布変遷過程について具体的なことはまったく分かっていないのが現状である.そこで筆者はこれまで,こうした植物地理学的な課題を解明するために,主に葉緑体DNAをマーカーとした系統地理学的解析を進めてきた(Fujii et al. 1995, 1996, 1997, 1999, 2001, Fujii 2003, Senni et al. 2005,Fujii and Senni 2006).本稿ではそれらの解析を通して見えできた本州中部山岳の系統地理学的な重要性について言及する.過去に書いた総説的な和文諭文も参照していただきたい(藤井1997, 2000, 2001, 2002,植田・藤井2000).