著者
小川 拓
出版者
共栄大学
雑誌
共栄大学研究論集 = The Journal of Kyoei University (ISSN:13480596)
巻号頁・発行日
no.15, pp.193-219, 2017-03-31

逆上がりの魅力は、「跳び上がり」ができないような高い場所でも、体位回転をさせることにより、手の届くところであれば、鉄棒の上に上がることができるというところである。人間は高いところに登ったとき、危険から身を守ることができる場合がある。小学校で、体育を教えるとき、「技」としての「逆上がり」ではなく、後者のような「危険を回避する手段」として指導していくことも大きな目的の一つになってくる。子供にとって逆上がりは、あこがれの技であり、やりたい体育技の上位に入ってくる。逆上がりができることで、体育ばかりか他の分野でも良い影響があった子供を多数見てきた。子供の「勲章」ともなりえる逆上がりを達成させ、向上意識や自己肯定感を高めたい。逆上がりができることでの子供の変容や運動力学的に見た「逆上がりの特性」、「逆上がりの効用」から「指導法」までを検証し、逆上がりの必要性や有用性を提示していきたい。
著者
田中 卓也
出版者
共栄大学
雑誌
共栄大学研究論集 = The Journal of Kyoei University (ISSN:13480596)
巻号頁・発行日
no.17, pp.29-37, 2019-03-31

「スポーツする少女」は,1960 年代より少女マンガという形で誌面に登場した。『アタックNo.1』や『サインはV!』では,バレーボールを題材に少女たちに厳しい練習を行わせるとともに,恋や友情など思春期の悩みなどを展開させることになった。オイルショック以降になると,日本は高度成長期を終え,安定成長期へと移行し,多くの国民の関心は個人の多様な価値観を求めるようになった。1970 年代以降になると,少女マンガはなりをひそめ,ギャグマンガやお笑いブームなどにより衰退化していくことになった。
著者
新井 竜治
出版者
共栄大学
雑誌
共栄大学研究論集 = The Journal of Kyoei University (ISSN:13480596)
巻号頁・発行日
no.17, pp.1-15, 2019-03-31

国家総動員法が施行された戦時下で開催された三越・髙島屋・白木屋の新作家具展示会の家具図は,実用家具の設計製作技術の情報共有の名目の下,洪洋社発行の『近代家具装飾資料』誌上で公開されたものであった。昭和戦前期の木材工芸界(家具産業界)を牽引した各百貨店の家具装飾部の家具図には,次のような標準化された共通点が見られた。①正投影図法の第三角法による三面図(正面図・側面図・平面図)の全部,または二面(正面図・平面図,または正面図・側面図)で描かれている。②寸法数値単位が尺寸である。③着彩はないが,木理(杢目),裂地模様などの意匠表記がある。④構造図,機能図,部品図という構造機能表記がある。
著者
宣 賢奎
出版者
共栄大学
雑誌
共栄大学研究論集 (ISSN:13480596)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.1-18, 2010-03-31

本研究は、日本、ドイツ、韓国の3 か国における介護保険制度創設の背景、導入過程、内容などについて比較考察したものである。比較考察の結果、日本はドイツに学び、韓国はドイツと日本に学んで介護保険制度をつくりあげたことが明らかになった。そのため、3 か国の制度には類似点が多いが、自国の実情に応じた制度に修正して制度を運用しているため、相違点も多くみられた。今後、互いの制度を学び合うことによって、各国の制度の客観的な評価と見直しの材料にするとともに、3 か国の介護保険制度が介護保険の国際化に貢献することを願う。
著者
原田 清
出版者
共栄大学
雑誌
共栄大学研究論集 (ISSN:13480596)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.67-77, 2010-03-31

ドイツ連邦議会は、「原発は予測不能な損害を生ずる決定的なリスクがあるため、誰でもがその責任を負うことができない」として、原子力発電への利用を終了させることを決めた。一方、日本は地震国で海溝型巨大地震は周期的に起こると高い確率で予測しているにもかかわらず、その震源の真上に浜岡原発を稼働させている。この両国の違いは何であろうか。日本は、国民に対する最悪のリスクを回避しようとしていない。これは、政府、電力会社、マスコミなどの組織的な国民に対する欺きである。国家が壊滅状態となることを無視し、国民への議論を退け思考の空白をつくっている。かつて日本軍が戦争を起こした組織的な倫理観の欠如のようなものであると思える。ドイツ人に比べ日本人には組織になると倫理観の欠如という不幸な体質があると考える。
著者
山田 耕生
出版者
共栄大学
雑誌
共栄大学研究論集 (ISSN:13480596)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.107-121, 2009-03-31

本稿では、浦和レッズとその本拠地であるさいたま市浦和地域(旧浦和市)を事例に、プロサッカークラブの発足に伴う「サッカーのまち」の変遷を明らかにした。浦和地域では1960年代から70年代にかけての約20年間の地元高校サッカー部による数々の全国優勝によって「サッカーのまち」としての認識が形成された。1993年に開幕したJリーグ以降は、行政、商店街などにより、サッカーのまちづくりが進められた。2000年代に入ると、浦和レッズも本格的に地域貢献活動に取り組むようになった。このように、Jリーグ開幕時からサッカーのまちづくりが着々と進展した要因は、地域住民の「サッカーのまち」としての認識やアイデンティティがあるためである。さらに、浦和レッズの地域貢献活動は本業のサッカーの強化には繋がらないが、結果として浦和レッズがさらに地域へ受け入れられるものになり、さらには浦和地域の「サッカーのまち」づくりが一層進んでいくものと考えられる。
著者
伊藤 大河 伊藤 基晴
出版者
共栄大学
雑誌
共栄大学研究論集 = The Journal of Kyoei University (ISSN:13480596)
巻号頁・発行日
no.20, pp.43-58, 2022-03-31

通常学級に「知的発達に遅れはないものの,学習面または行動面で著しい困難を示す児童生徒」が 6.5%程度在籍していると考えられる。これらの児童生徒に対して,学級全体の集団力や仲間意識,個々の集団適応力を高めることを目的に,通常学級において通級指導教室で実施しているトレーニングを活用することを検討した。教員研修における学級担任の意見をもとに特別活動の内容を抽出した結果,紙風船づくり,スティック運動,計算フラッシュ,黒板を写そう,お話ししよう,ペンシルドライブの学習プログラムが通常学級でも役に立つと評価された。その中でも特に,紙風船づくりとスティック運動を特別活動で実施することが望ましいことが示された。
著者
吉本 文子
出版者
共栄大学
雑誌
共栄大学研究論集 = The Journal of Kyoei University (ISSN:13480596)
巻号頁・発行日
no.17, pp.99-113, 2019-03-31

"本稿は,「完璧」を求めるミドルクラスの母親の子育て観・その背景について,実態調査をもとに考察したものである。調査方法は,幼稚園・幼児教室に子どもを通わせている母親へのアンケート調査とインタビュー調査である。「完璧」を求める母親は,目の前の子どもの姿に立脚した子育ての目標ではなく,外部にある目標から選択し,それに向かって邁進している。そして母親自身,子育ての評価を自分への評価に重ねている。母親は,他者を排除し,自分の世界に閉じこもり,不安を抱えている。その不安を回避するために「完璧」に向かっている。このような母親の行動には母親の社会経験が影響している。そして自らのキャリアを中断していることに,母親自身が葛藤していることを示した。"
著者
田中 卓也
出版者
共栄大学
雑誌
共栄大学研究論集 (ISSN:13480596)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.145-170, 2014-03-31

1925(大正 14)年に集英社は、老舗出版社であった小学館の「娯楽雑誌部門」として分離独立した。翌年に正式独立し、「明るく楽しい少年少女雑誌」をキャッチフレーズとして、これまでに多くの雑誌を発刊した 1)。戦後になり同誌は、おもに就学前の児童から小学校児童の男子・女子に購読されていた。誌面は戦前から存在した「小説」、「物語」のほかに、マンガ、スポーツ記事や読者投稿欄なども設けられ、読者等の多くに‶娯楽"の雰囲気を提供した。読者らが集った投稿欄は "文ちゃんクラブ" とよばれ、愛読者にも人気を博した。そこに集うことで読者らは、(編集)記者と交流を図ることや、愛読者仲間を見つけ出す機会となった。またマンガの主人公や、スポーツ選手等に憧憬し、読者等のなかには次第に"ヒーロー像"が確立されることになった。 かくして『おもしろブック』は、集英社より戦後の児童雑誌の転換期に登場し、児童読者の興味・関心が分化する流れの中で、対応することに迫られた。しかしながらテレビの放映開始、マンガの流行等大きな波が押し寄せる中で、幾度か誌面構成を変更することも余儀なくされた。しかしながら編集部は読者のことを最後まで忘れなかった。同誌は発刊後 10 数年間にわたり役割を果たし、次世代雑誌『少年ブック』にバトンを渡すことになる 2)。
著者
神末 武彦 加藤 彰
出版者
共栄大学
雑誌
共栄大学研究論集 (ISSN:13480596)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.101-118, 2014-03-31

2011 年に宮古空港にスカイマークが低価格運賃戦略を持って就航した。それまで既存の日本トランスオーシャン航空と全日本空輸の2 つの航空会社で高留まり傾向にあった航空運賃がこれを機に下落して低運賃競争に転じ、熾烈な戦いが繰り広げられるところとなった。この地域の入域者はほぼ航空輸送に頼っており、那覇・宮古の航空路線を検証することによって、運賃の低価格化が宮古島への航空需要喚起と観光客を増加させ、それら観光客がもたらす宮古島への経済波及効果が高まり地域経済の活性化をもたらしたのかを検証することができる。スカイマークの参入により航空機を利用する人数は総体で増加したものの、宮古地域に入域者する観光客数と経済波及効果について大きく影響したとはいえない。これらを検証するため、沖縄県、宮古島市や航空会社から集めた実績や予測と担当者へのインタビューを通して、総合的に集約・分析して研究をまとめた。
著者
北島 信哉
出版者
共栄大学
雑誌
共栄大学研究論集 = The Journal of Kyoei University (ISSN:13480596)
巻号頁・発行日
no.19, pp.39-53, 2021-03

本研究は,長野オリンピック開催後の剰余金である長野オリンピック記念基金の実態を「中心-周辺」論を用い,地理的条件,組織的条件,物理的条件の視点から明らかにした。研究の結果,長野オリンピック記念基金は,冬季競技の国内外競技大会開催やジュニア育成,競技力向上事業等に活用されてきた。一方で,地元住民を対象とした事業の補助金割合は,低い現状が明らかになった。スポーツ施設マネジメントの視点から,長野オリンピック記念金の助成期間は,施設運営の財政負担を軽減していた。しかしながら,現在,使用中止の競技施設も存在することから,スポーツ施設マネジメントへの課題も明らかになった。
著者
中村 哲也 丸山 敦史 矢野 佑樹
出版者
共栄大学
雑誌
共栄大学研究論集 (ISSN:13480596)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.63-79, 2012-03-15

本稿では、葉取らず、無袋、有袋といった3 つの栽培リンゴについて、色、糖度、価格を消費者に評価してもらい、総合的に比較検討した。その結果、葉取らずの糖度、有袋の色づきの評価は非常に高かった。色づき・甘さとも評価された無袋秋星・北斗・シナノスイート等の中生種は甘さと価格の相関が、有袋ふじ・むつ等は色づきと甘さの相関が確認された。そして一般的に色づきや糖度を評価するのは高齢者や高所得者であった。さらに、品種の価格差が30 円程度ならば若干高くとも高く評価したリンゴを購入するが、100 円以上の価格差がついた場合は購入せず、有袋ふじや無袋秋星を購入する者は著しく減る結果となった。ただし、有袋ふじ・むつ、無袋秋星は、高齢者や高所得者に販売が期待でき、葉取らず・有袋といった栽培方法を上手く使い分けることで、よりよい販売環境の構築が可能になると思われる。
著者
新井 竜治
出版者
共栄大学
雑誌
共栄大学研究論集 (ISSN:13480596)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.39-52, 2016-03-31

トーマス・チッペンデールは透視図法・投影図法という二つの異なる種類の製図法を自身の指導書に採用した。透視図は家具の全体像を顧客である貴族・紳士に伝えるためであった。対照的に、投影図は家具の詳細寸法を同業者もしくは下職の箱物家具職人に伝えるためであった。チッペンデールは投影図として平面図・正面図・側面図・断面詳細図を描いた。椅子はすべて透視図で描かれた。机・箱物家具は透視図・投影図のいずれか、もしくは両方で描かれた。
著者
小野 奈生子
出版者
共栄大学
雑誌
共栄大学研究論集 (ISSN:13480596)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.235-254, 2012-03-15

本稿の目的は、H.Sacks の提示する「推論実行機械」という分析概念を利用して、小さき存在が〈児童〉になっていく学校的社会化過程の一端を明らかにすることにある。入学後間もない小学校1 年生の教室では、学校でのふるまい方に関して、時に冗長的にさえ感じられるほど細かい説明がなされる様子が観察される。しかしそこで教師によって提示される出来事の系列や使用される人物カテゴリーを詳細に検討・分析すると、そうした実践こそが子どもたちが〈児童〉になっていくため、つまり後の学校生活に適応し、学校の一成員となっていくための第一歩として効果的かつ不可欠なものであることが確認できる。本稿を通じて、学校における一見日常的な相互行為の積み重ねこそが学校的社会化過程を構成していることが示唆される。
著者
木村 貴紀
出版者
共栄大学
雑誌
共栄大学研究論集 (ISSN:13480596)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.255-264, 2012-03-15

批評の立ち位置は、こと音楽に限っては微妙であるといえるだろう。それは作品なりの対象物があって、それを後追いする形で成り立つのがどの領域に於いての批評のあるべき姿なのだが、時間に不可逆的でいて、現れては消えてしまう「音」に由来する演奏会という機会にあっては、批評の対象が無形であるがために共有にはいくつもの条件を伴う。そのような状況下で表現される音楽批評であるが、それでもこの領域に於けるいくつもの役割を担うことで、音楽表現の一形態であることは論を俟たない筈なのに、それに相応しい評価を得られていない。それは西洋近代音楽という作品を、様々な解釈を以て日々「更新する」という演奏芸術の根幹の問題にも起因する。ここでは音楽批評が、健全に機能するために越えなければならないこととは何か、またそうしてどのような音楽においてどのような位置を占める音楽表現足り得るのかを追った。
著者
山田 鋭生 小野 奈生子
出版者
共栄大学
雑誌
共栄大学研究論集 = The Journal of Kyoei University (ISSN:13480596)
巻号頁・発行日
no.17, pp.115-124, 2019-03-31

本稿の目的は,幼稚園における実践を「学校的社会化」という観点からとらえることにある。「就学前教育」ということばに表れるように,幼児教育は家庭における初期社会化と学校教育との間に位置するものである。事例を読み解くにあたって,本稿ではまず「第一次的社会化」と「第二次的社会化」という概念を援用し,「学校的社会化」を第二次的社会化の原初形態としてとらえる。その上で,幼稚園年少クラスにおいて撮影されたビデオデータをもとに,それが相互行為上どのような形式で生起しているのかを明らかにしている。その結果示されたのは「質問→同時多発的応答→評価」という,幼稚園児を一斉教授へ導くと考えられる相互行為形式である。
著者
壬生 幸子
出版者
共栄大学
雑誌
共栄大学研究論集 = 共栄大学研究論集 (ISSN:13480596)
巻号頁・発行日
no.15, pp.237-252, 2017-03-31

『古事記』仲哀記の香坂王・忍熊王の反乱物語における息長帯比売軍の二つの策略-品陀和気を喪船に乗せる「死」の偽装と、息長帯比売の偽りの「死」の布告-は、『日本書紀』にはない。この『古事記』独自のプロットにより物語は、天皇空位期における異母兄弟の争いにおいて皇統上劣位にある品陀和気・息長帯比売母子が、擬似的な「死」を潜り抜け、次代の天皇とその母としての地位を確保した物語となる。文脈と表現の検討から「赴喪船将攻空船尓自其喪船下軍相戦」は、忍熊王は喪船には品陀和気の遺骸と息長帯比売が乗ると見、息長帯比売を討ち取ろうと攻めたが、息長帯比売は予め喪船に軍兵を乗せており両軍の戦闘となった、という状況を表現したものと解釈される。「赴」はおもむく意の自動詞、「空船」は軍兵を乗せない船と解する。忍熊王が喪船に攻めかかった目的は、上記行文に先立つ「待取」という表現の検討から、息長帯比売を討ち取り殺すことと解する。
著者
田蔵 奈緒
出版者
共栄大学
雑誌
共栄大学研究論集 = Journal of kyoei University (ISSN:13480596)
巻号頁・発行日
no.16, pp.83-94, 2018-03-31

日本のプロ野球選手の中で現役選手引退後の生活に不安を感じている選手は,2013 年調査で71.5%,日本のプロサッカー選手では,2000 年の調査では76.2%であり,大半の選手が,引退後のセカンドキャリアに不安を感じているという結果であった。プロスポーツ選手に訪れる引退というキャリアトランジションにおけるセカンドキャリアの支援の在り方について,セカンドキャリア支援体制を確立したJ リーグの設立迄の経緯とJ リーグよりも以前から制度を確立している海外のプロサッカー選手のセカンドキャリア支援事業について事例調査を行った。日本サッカー界は,プロサッカー選手のセカンドキャリアのノウハウをJ リーグ内部で留めるのではなく,外部に対して提供し,スポーツ選手全体のセカンドキャリア支援に貢献できる経験と資格とその責任があるのではないだろうか。J リーグは1993 年からスタートし,この24 年間で国内に多くの功績を残してきたが,その繁栄や若干の陰りが見られるとはいえ,まだまだプロスポーツ界をリード出来る力を持っていると考える。プロスポーツの人材はその競技の中だけでなく,競技の枠,産業の枠を越えて活躍することによって,プロスポーツの中長期における発展があるはずであり,J リーグにはその人材を輩出する土壌と仕組みがある。この点において他スポーツ団体もJ リーグに学ぶ点はあるのではないかと考える。
著者
中村 哲也 丸山 敦史 陳 志鑫
出版者
共栄大学
雑誌
共栄大学研究論集 = The Journal of Kyoei University (ISSN:13480596)
巻号頁・発行日
no.18, pp.65-81, 2020-03-31

本稿では,香港の食とエネルギーの選択行動を事例として,統計的に分析した。香港では中国の原発建設反対運動が起こり,食の安全性が問題視されていた。香港は深圳市にある大亜湾原発から電力を依存しているが,8 割の市民が原発から電力を依存することに不安を感じていた。他方,香港に輸入される農産物は中国産が圧倒的に多いが,9 割に市民が不安を感じていた。大亜湾原発反対の署名運動については,若い市民が関心を持っていた。そして,女性は原発依存率の高さや,大亜湾原発と香港との距離,そして大亜湾原発の放射性物質漏れ事故を不安視していた。大亜湾原発の放射性物質漏れについては香港の全地域住民が不安視していた。また,女性や世帯員数が少ない者,子供がいない者,最終学歴が高い者は食の安全性に興味があり,日本産や自然農法米,植物工場レタスを購入した。電力構成別に価格を提示した場合,経済負担が大きい者は,CO2 の排出量が少ない第2 案より原発による依存が増える第3 案を選択した。他方,コメの価格を提示した場合,日本産と新界産のコメの購買選択行動は似ていた。また,日本産の結球レタスと香港産の植物工場レタスの購買選択行動も似ていた。香港産植物工場レタスを購入する者は高学歴者であり,香港の高学歴者は,植物工場レタスの栽培方法やその用途を正しく理解し,植物工場レタスを購入することが明らかにされた。
著者
井ノ口 和子
出版者
共栄大学
雑誌
共栄大学研究論集 = Journal of kyoei University (ISSN:13480596)
巻号頁・発行日
no.16, pp.143-153, 2018-03-31

本研究では,図画工作・美術科教育において大きな課題の一つとなっている「図画工作科の教科観(図工観)」の転換に着目した。本研究の目的は,質問紙調査への回答と記述内容の分析から,初等教科教育法(図画工作)の受講学生の「図工観」の変容について考察することである。その結果,以下のような結論を導いた。第一に,「作品中心の図工観」,「作品を作らせるための指導観」から子どもの「発想」や「造形活動の過程」を重視した「図工観・指導観」に変容した。第二に,教科の目標や評価規準についての理解を深め,「教科」としての位置付けを理解した。第三に,図画工作科を指導することへの不安は低下したが,子どもの造形の特徴や明確な指導法の理解が十分ではなく,実践的指導力への不安をもっている。学生に子どもの造形の特徴や具体的な指導法を十分に理解させるための実践が今後の課題である。