著者
ラミ
出版者
Japan Society for Information and Media Studies
雑誌
情報メディア研究 (ISSN:13485857)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.13-27, 2019-05-31 (Released:2019-05-31)
参考文献数
30

人々は日常生活において視覚、聴覚、触覚を通した体験について表現することがある。近年、情報探索行動の分野において、身体情報と呼ばれる身体や感覚を通して経験する情報に対する関心が高まっている。一方、既存の研究では単一の身体部位や感覚に焦点を当てており、複数種の身体情報の関係に関する知見は限定的である。そこで、本研究では、情報探索行動における視覚、聴覚、触覚の使用に関する更なる知見を得るために、東日本大震災の情報探索行動を調査した。具体的には、259 名の体験記を対象に、内容分析を行った。その結果、 感覚の使用は情報ニーズ、情報源、情報入手経路によって変化することが示唆された。さらに、 東日本大震災の情報探索行動における視覚、聴覚、触覚の使用傾向は、性別、所在地、年齢層によって異なる ことが示された。
著者
後藤 嘉宏
出版者
情報メディア学会
雑誌
情報メディア研究 (ISSN:13485857)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.1-14, 2010-09-16 (Released:2010-09-16)
参考文献数
22

本稿では三木清の読書論を精読志向と濫読志向の矛盾という観点から読み解こうとした.三木には精読の対象を知るために濫読が必要であるという論と,多読する対象をみる目を養うために精読が必要という逆の発言がある.また三木は古典志向であり,その限りでは当然精読の方に親和的になる.その反面,三木の古典志向は『パスカルにおける人間の研究』での次元の相違の議論や,その延長上にあるスタンダールの結晶作用に由来し,本来他のものが古典に選ばれる可能性があった点を強調しうる.その意味で,古典研究の際,精神のオートマティズムを避けるには古典の周囲に埋もれた作品を読む必要もあり,多読志向は古典を読む際にも必要とされるという議論も成り立つ.さらに三木は古典のみを読む研究者と現代社会を批評する評論家を対比させる際には,後者を現代においてものを作る人として評価する.精読対濫読,古典対現代物,ゆっくり読む対速読という対立項は三木の相互のテキストにおいて矛盾しがちであるが,これは戸坂潤の常識の二側面にも対応する.さらに『パスカルにおける人間の研究』の次元の相違の議論を,時間軸,空間軸それぞれの異質性へと展開するならば,いいかえると知識人が古典を精読することも現代物を濫読することも,知識人としての限界を越える営みと捉えるならば,これらの矛盾は一貫したものとして捉えうる点を,本稿は明らかにし,共通感覚の問題と読書論との繋がりを示した.
著者
河合 章男
出版者
Japan Society for Information and Media Studies
雑誌
情報メディア研究 (ISSN:13485857)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.11-24, 2004

本稿は,明治期の子ども向け投稿雑誌『穎才新誌』誌上に,明治20年に登場した俳句欄について考察する.まず,『穎才新誌』の概要をとらえ,19世紀末に子ども向けの投稿雑誌が刊行された意味を把握する.次に,明治20年におけるこの雑誌の俳句欄の参加者が,北海道,沖縄を除く全国に広がっていたことを確認し,その広がりの特徴を分析しつつ,この雑誌への参加者が個人という資格で参加していることから,そこに近代的な文化活動の萌芽があることを考察する.最後に,明治20年におけるその俳句欄の参加者から3人の俳人を推定し,それぞれが果たした文化的役割を調査することによって,『穎才新誌』の果たした役割を考察する.また雑誌というメディアが当時の人々に,地縁を超え,個人として文化に参加する場を提供していたことを論じる.
著者
土橋 祐介 河島 茂生
出版者
情報メディア学会
雑誌
情報メディア研究 (ISSN:13485857)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.77-93, 2005

本研究は,書き込み機能のアーキテクチャ変更にともなうユーザ行動のありようを比較している.すなわち,本研究は,ウェブサイトの書き込み機能のアーキテクチャを変更して,(1)ユーザ登録およびログイン作業の有無が書き込み数や書き込み内容に与える影響,(2)返信機能の有無が書き込み数や書き込み内容に与える影響,を検討している.調査の結果,ユーザ登録およびログイン作業なしの場合は,サイト全体での書き込み数は増えず「荒らし」が散見されるようになったものの,書き込みの窓口が広くなりRAM比率が上がることが示された.また,返信機能なしの場合は,サイト全体での書き込み数も増えずRAM比率も下がり,話題も深く掘り下げられることなく話題転換しやすかった.
著者
山﨑 むつみ 岩澤 まり子
出版者
情報メディア学会
雑誌
情報メディア研究 (ISSN:13485857)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.1-10, 2015-05-27 (Released:2015-05-27)
参考文献数
13

本研究では,リンクリゾルバによる学術文献のナビゲートの精度の向上のための方法を検討した.リンクリゾルバでナビゲートできなかった学術文献のうち,WEB上から入手できた文献を対象として,これらの入手方法と入手源を調査した.その結果,出版元や著者所属機関のページ,ソーシャル・ネットワーキング・サービス等において無料公開された学術文献にナビゲートできない状況が認められた.無料公開されたオープンアクセス文献のナビゲートを確実にするためには,ナビゲートシステムの改善だけではなく,文献がナビゲートされやすいように公開者による対応が必要であることがわかった.当面のナビゲートの問題を解消するためには,サーチエンジンの補完的使用が有効であったが,その時々に応じた利用者支援も必要である.
著者
山﨑 むつみ 岩澤 まり子
出版者
Japan Society for Information and Media Studies
雑誌
情報メディア研究 (ISSN:13485857)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.1-10, 2015

本研究では,リンクリゾルバによる学術文献のナビゲートの精度の向上のための方法を検討した.リンクリゾルバでナビゲートできなかった学術文献のうち,WEB上から入手できた文献を対象として,これらの入手方法と入手源を調査した.その結果,出版元や著者所属機関のページ,ソーシャル・ネットワーキング・サービス等において無料公開された学術文献にナビゲートできない状況が認められた.無料公開されたオープンアクセス文献のナビゲートを確実にするためには,ナビゲートシステムの改善だけではなく,文献がナビゲートされやすいように公開者による対応が必要であることがわかった.当面のナビゲートの問題を解消するためには,サーチエンジンの補完的使用が有効であったが,その時々に応じた利用者支援も必要である.
著者
小河 邦雄 岩澤 まり子
出版者
情報メディア学会
雑誌
情報メディア研究 (ISSN:13485857)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.26-37, 2017-03-22 (Released:2017-03-22)
参考文献数
28

探索調査のためには広い概念でデータベースを検索する場合が多く,大量の検索結果が得られた場合は調査者の過剰な情報負荷となる.本研究では探索的フィルタリングを使用した新しい探索調査の方法を提案する.研究テーマ探索を主題として文献データベースを検索し,得られた文献情報を作成した既知の知識辞書でフィルタリングして低頻度の新奇な情報のみを抽出した.実験では疾病名で文献を検索し,索引情報のフィルタリングで新奇な薬理メカニズムのシーズリストを得た.特に PubMed API を使用した一般語の除去,同義語検出により,大量の情報を半自動的に処理することを可能とした.大量の情報から低頻度で価値のある情報を入手する方法は重要と考える.
著者
小河 邦雄
出版者
情報メディア学会
雑誌
情報メディア研究 (ISSN:13485857)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.14-25, 2016-09-30 (Released:2016-09-30)
参考文献数
21
被引用文献数
1

研究シーズ探索のための検索では検索語が明確でないことが多い.そのため,広い概念で検索すると大量の検索結果の中に研究シーズとなりうる情報が埋もれてしまうという問題がある.本稿では探索的フィルタリングとして,効率的なシーズ調査の方法を提案する.病名で Chemical Abstracts を検索し,得られた文献情報を既知の薬理メカニズム情報辞書でフィルタリングし,医薬研究に関する研究シーズリストを作成した.実験では病名の breast cancer で文献を検索し,索引情報のフィルタリングで新奇な薬理メカニズムのシーズリストを得た.CA の索引情報を利用する本稿の探索的フィルタリングによって,大量の文献からでも研究シーズを見出すことが期待できる.新奇情報リスト作成は容易ではないが,本論文で示した方法によって研究シーズの調査が改善されると考える.
著者
角田 裕之 小野寺 夏生
出版者
情報メディア学会
雑誌
情報メディア研究 (ISSN:13485857)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.1-20, 2006 (Released:2007-03-12)
参考文献数
35
被引用文献数
3

目的: 本論は,論文の引用関係をもとにして,研究者のインパクトを示す新たな計量書誌学的指標を提案することを目的とする.方法: 論文(Webページ等の資料を含む)とその論文から引用された論文との関係は,論文をノードとし,引用関係をエッジとする有向グラフで表すことができる.また,同一著者の論文,同一雑誌の論文等の論文集合体をノードとする引用関係グラフも考えることができる.これらの有向グラフに対応するグラフ行列の連立方程式や固有ベクトルを用いて,論文や著者のインパクトを示す指標を与えるいくつかのモデルを考案,検討する.結果と考察: 論文のインパクト評価モデルとして,次の2つを提案した: (1)引用元評価値配分モデル(DCM),(2)学術知識プールモデル(KPM),いずれのモデルも,引用が必ず過去への1方向であるという論文の特性を考慮して,インパクト評価指標としての連立方程式や固有ベクトルの解の存在を保証する工夫をしている.次に,著者のインパクト評価モデルとしてResearcherImpact(RI)を提案した.これは,グラフ行列の要素として,ある著者が引用した他の著者の論文数を用いる.計量書誌学の主要研究者15人に対し,この手法を適用した.結論: (1)ここで提案したDCM,KPM,RIでは,単純な被引用カウントに比べ,被引用数の多い論文/著者(ハブ)からよく引用される論文/著者が高い評価値を得る.すなわち,インパクトの高いコミュニティの抽出に有効である.(2)RIを用いてインパクトを計算する際には,同分野かつ同時代の研究者を対象とすること,自己引用及び同一所属機関内/同一研究グループ内の引用に注意することが必要である.
著者
河田 隆 永田 治樹
出版者
情報メディア学会
雑誌
情報メディア研究 (ISSN:13485857)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.15-31, 2012-09-25 (Released:2012-09-25)
参考文献数
18

[抄録]最近,インターネットを利用した動画コンテンツの配信が盛んになっている.また,ブログやSNS(Social Networking Service)のように,情報の送り手と受け手が相互に入れ替わるCGM(Consumer Generated Media)の利用者が急増している.このような新しいメディア環境において,本研究では,テレビ視聴が人々にどう捉えられているのかを示すため,ブログやSNSをはじめとしたCGMを利用する時間がテレビ視聴時間よりも長いと感じている人々(ネット指向グループ)とそうでない人々(テレビ指向グループ)を区別した調査票調査を実施し,その結果を用いた因子分析を行った.また,因子得点を利用したクラスター分析を用いて,特徴的な五つのテレビ視聴パターンと,上述の二つのグループとの関わりを分析した.
著者
常川 真央 松村 敦 宇陀 則彦
出版者
Japan Society for Information and Media Studies
雑誌
情報メディア研究 (ISSN:13485857)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.42-51, 2013

近年,ウェブ上で読書状況を公開し,他人と感想などを伝え合う読書支援ウェブサービスが盛んになっている.読書支援ウェブサービスでは,読者同士のコミュニケーションを支援するために,興味が類似したユーザとの出会いを支援する機能が不可欠である.そこで本研究では,類似の読書傾向を持つ読者を発見する手法として"NDC ツリープロファイリング"を提案する.NDC ツリープロファイリングは,日本十進分類法 (NDC) に基づいてユーザの読書傾向からツリー状のユーザプロファイルを作成する.そして,ユーザ同士のプロファイルを比較することにより,読書傾向の類似したユーザを発見する.評価実験を行った結果,ランダム推薦方式に対して本手法が統計的に有意に精度が向上した.一方,共通書籍冊数による手法と TF-IDF によるベクトル空間モデルを利用した手法に対しても精度は高かったものの,統計的に優位な差はなかった.十分な精度向上はできなかったものの,本研究で提案した NDC ツリープロファイリングは,階層構造を持ち,階層毎の重みを調節することでより繊細にユーザの関心を捉えられる可能性を持っている.さらなる調整を行なうことでより有効な類似読者発見を実現できる可能性がある.
著者
山本 竜大
出版者
Japan Society for Information and Media Studies
雑誌
情報メディア研究 (ISSN:13485857)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.43-57, 2004

本稿は,東京都議会の広報と都議の情報意識の事例を検討する.90年代以降の議会は,既存の広報紙の発行に加えて,テレビ番組,ICT化への対応を順調に進めてきた.99年12月開設の議会ホームページへのアクセスも伸びている.アンケート調査から都議は,複数の日刊紙を購読し,人気ニュース番組を視聴しやすい一方で,客観性・公平性・公共性,時間配分,キャスターの発言内容に報道の問題性を他方で感じている.政治情報源(メディア)としてインターネットに注目するものの,個人ホームページ開設には支持者の要請が作用しており,PC利用時間やEメール発信数も多くないため受動的な情報発信の態度がある.今後も新情報通信技術は政治の情報公開,広報活動,選挙準備に影響すると考えている.今後は情報メディアを介した政治・政策の成果内容を都議が問われるため,東京都や各都市の政治過程や選挙へのその影響は一層深まるといえる.
著者
韓 玲姫 綿抜 豊昭
出版者
Japan Society for Information and Media Studies
雑誌
情報メディア研究 (ISSN:13485857)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.1-14, 2012

本稿は,『周作人日記』を基に,周作人が日本留学後に購入した日本の書籍に注目し,周作人の購入書籍の変遷と文学志向,及び思想の変化との関わりについて考察するものである.周作人の和書の購入は1918年から急増し,日記が現存している1934年まで増加を続けている.本研究を通して,新文化運動時代に,周作人が主に詩歌と小説の書籍を購入し,新詩の創作と日本小説の翻訳に力を入れたのは,当時の政治や思想を変える手段として日本文学にその可能性を見出したからだということがわかった.そして,1921年3月の大患後,日本文学に対する関心が物語や滑稽本等の日本古典文学へと変わるのは,政治に背を向け,思想的,創作的に閑適へと転換したことと関わりがあることを明らかにした.
著者
間部 豊
出版者
Japan Society for Information and Media Studies
雑誌
情報メディア研究 (ISSN:13485857)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.45-61, 2011

本研究の目的は電子書籍の「出版・流通・利用」に関するこれまでの動向と,電子書籍に対する図書館の対応として電子図書館の動向を俯瞰し明らかにすることである.電子書籍の動向においては,電子書籍端末の動向,電子書籍フォーマットの動向,電子書籍出版の動向,電子書籍の著作権に関する動向の4つについて分析を行った.また図書館における電子図書館の動向においては,国立国会図書館・大学図書館・公立図書館の館種別に分析を行った.分析の結果,電子図書館プラットフォームの構築において(1)電子書籍コンテンツの著作権管理と(2)電子書籍の資料管理方法が大きな検討課題となることが明らかになった.
著者
戸田 あきら 永田 治樹
出版者
Japan Society for Information and Media Studies
雑誌
情報メディア研究 (ISSN:13485857)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.19-35, 2007
被引用文献数
1

全ての学生が同じように図書館を利用しているわけではない.それぞれ自分のよく利用するサービスがある.どのサービスをどの程度利用するかは,学生によって異なっており,それは,その学生の動機,図書館スキルなどにより構成される利用のコンテクストによっている.本研究は,キャンパスにどのような利用上の特徴をもった学生がいるか,それらの学生はどのような学習成果を得ているかを探索したものである.慶應義塾大学湘南藤沢メディアセンターを利用する学生に対する質問紙およびフォーカス・グループ・インタビューによる調査が実施され,その結果,学生は利用の特徴により四つのグループに分かれること,学生の図書館利用成果にそれぞれ特徴があることが示された.
著者
元木 章博 丸山 有紀子 金沢 みどり
出版者
Japan Society for Information and Media Studies
雑誌
情報メディア研究 (ISSN:13485857)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.35-43, 2011

アメリカ合衆国における公共図書館の児童向けWeb版OPACについて,検索機能および利用者への応答や説明などの観点から,評価基準FREDに基づき現状を調査した.加えて,アメリカ合衆国の学校図書館Web版OPACの既存の調査結果との比較を行い,両者の差異について考察した.その結果,公共図書館の児童向けWeb版OPACは,学校図書館Web版OPACと比べて,Response(検索システムから児童への応答)に関しては優れているが,Diversity(検索システムの機能の多様性)に関しては劣っており,児童の発達段階に応じた多様な検索機能が充分に備わっているとは言えないことが明らかになった.さらに,Web版OPACのキーワード検索や件名検索の機能については,公共図書館の児童向けWeb版OPACおよび学校図書館Web版OPACの両方で,Web版OPACに不慣れな児童を支援するのに充分な機能が備わっているとは言えず,児童の情報活用能力の育成支援の観点から,今後の改善が必要である.
著者
角田 裕之 小野寺 夏生
出版者
情報メディア学会
雑誌
情報メディア研究 (ISSN:13485857)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.1-20, 2006

目的: 本論は,論文の引用関係をもとにして,研究者のインパクトを示す新たな計量書誌学的指標を提案することを目的とする.方法: 論文(Webページ等の資料を含む)とその論文から引用された論文との関係は,論文をノードとし,引用関係をエッジとする有向グラフで表すことができる.また,同一著者の論文,同一雑誌の論文等の論文集合体をノードとする引用関係グラフも考えることができる.これらの有向グラフに対応するグラフ行列の連立方程式や固有ベクトルを用いて,論文や著者のインパクトを示す指標を与えるいくつかのモデルを考案,検討する.結果と考察: 論文のインパクト評価モデルとして,次の2つを提案した: (1)引用元評価値配分モデル(DCM),(2)学術知識プールモデル(KPM),いずれのモデルも,引用が必ず過去への1方向であるという論文の特性を考慮して,インパクト評価指標としての連立方程式や固有ベクトルの解の存在を保証する工夫をしている.次に,著者のインパクト評価モデルとして ResearcherImpact(RI)を提案した.これは,グラフ行列の要素として,ある著者が引用した他の著者の論文数を用いる.計量書誌学の主要研究者15人に対し,この手法を適用した.結論: (1)ここで提案したDCM,KPM,RIでは,単純な被引用カウントに比べ,被引用数の多い論文/著者(ハブ)からよく引用される論文/著者が高い評価値を得る.すなわち,インパクトの高いコミュニティの抽出に有効である.(2)RIを用いてインパクトを計算する際には,同分野かつ同時代の研究者を対象とすること,自己引用及び同一所属機関内/同一研究グループ内の引用に注意することが必要である.
著者
松井 敏也 篠塚 富士男
出版者
情報メディア学会
雑誌
情報メディア研究 (ISSN:13485857)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.1-10, 2009-05

展示および収蔵施設を持つ図書館での環境調査を行なった.調査項目は光,空気環境,虫害の3項目である.光は照度による評価を行ない,年間の開館時間を元にその照度の強さを算出しなおした.空気環境は簡易検知管を用い,アンモニア,ホルムアルデヒド,酢酸,アセトアルデヒドなどのガス測定を行なった.これは短時間でその場の雰囲気が検知できるため博物館などでも利用されている.虫害調査はトラップを20箇所に仕掛け,捕獲された虫の把握を行なった.その結果,チャタテムシやシバンムシが捕獲され,また屋外から侵入したと思われる虫が多数確認された.継続的なモニタリングを行なう必要がある.これらの調査は常勤スタッフでも簡便に行う事ができるほか,経済的にも安価であり長期的に収蔵庫および展示室の環境を管理するための有用なデータとなる.また,こういった一連の作業が図書館におけるリスクマネージメントの一翼を担うことになる.
著者
岡野 裕行
出版者
情報メディア学会
雑誌
情報メディア研究 (ISSN:13485857)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.21-38, 2006 (Released:2007-03-12)
参考文献数
51

一般に文学館の機能には,「図書館的機能」と「博物館的機能」の二つがあるとされている.だが,図録,館報,目録,復刻などの発行物があるように,文学館には第三の機能として「出版者的機能」も含まれていると考えられる.その中でも復刻は,研究者に新たな事実の発見を促し,通時的な事実の確認を可能とするために,日本近代文学研究において重要な資料となっている.日本近代文学館の図書と雑誌の復刻を調べたところ,累計で2,056冊の発行冊数となっていることを確認した.また,1967年から1985年までの間に,そのうちの95%が作製されていたことが判明した.1986年以降に復刻がほとんど作製されなくなった理由として,復刻を望まれる資料の払底,他の出版者の参入,著作権,原本の未入手,復刻技術の消散,資金不足があったと推測される.
著者
新保 史生
出版者
情報メディア学会
雑誌
情報メディア研究 (ISSN:13485857)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.55-76, 2005 (Released:2006-03-27)
参考文献数
23

人の身体的・行動的特徴を用いて特定の個人を認証する仕組みであるバイオメトリクスは,社会の様々な局面において情報セキュリティの確保等の目的で利用される場面が増えつつある.しかし,バイオメトリクスは,鍵やパスワードなどを用いることなく身体そのものが「鍵」になるという利便性がある一方で,生体情報は変更することができない情報であり,それが不正に利用されると鍵の紛失やパスワードの不正利用とは異なる問題が生ずる可能性がある.とりわけ,生体情報は,個人に「唯一」備わっている特徴(情報)であり,本人が生存している限り「不変」かつ「永続的」に存在する情報であることから,その取扱いは極めて慎重に行うことが求められている.そこで,本稿では,バイオメトリクスの適正な利用にあたって必要な生体情報の保護の問題について,個人情報保護法に基づく個人情報の適正な取扱いを中心に考察する.