著者
麦島 剛
出版者
福岡県立大学
雑誌
福岡県立大学人間社会学部紀要 = Journal of the Faculty of Integrated Human Studies and Social Sciences, Fukuoka Prefectural University (ISSN:13490230)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.51-63, 2006-03-17

注意欠陥多動性障害(ADHD)は、不注意、多動性、衝動性を主症状とし、生物学的要因が土台となって発現すると考えられる発達障害である。この障害はてんかんの約20%に併発され、この場合、発作の制御によりADHD 症状が改善し、患者自身の自尊感情が上昇する。このようにADHD 症状には心理・社会的要因との相関があり、行動療法など、ADHD 児やその親に対する心理・社会的アプローチが有用である。いっぽうで中枢刺激薬などによる薬物療法が有効である。現在、前頭前野や大脳基底核のdopamine機能異常を中心として、ADHD の神経基盤が議論されている。また、最近、noradrenaline再取込み作用の阻害がADHD 症状を緩和することが示され、この作用をもつ薬剤による治療が米国で開始された。Noradrenalineは注意機能に深く関与しており、今後の研究の展開が望まれる。神経基盤の研究においては動物モデルの開発が重要であり、現在、SHR をはじめとするモデルが示されている。新しいモデルとしててんかんモデル動物であるEL マウスが有用かもしれず、新たな可能性が期待される。さらに、従来のADHD 動物モデル研究ではおもにその多動性が着目されていたが、不注意や衝動性という認知機能をも十分に議論する必要がある。その試みとして、筆者はオペラント学習理論に基づいた行動指標を開発中である。これにより、さらに本質的なADHD の神経基盤の解明が進み、新薬開発に有用となる可能性がある。さらには、動物モデルにおいて(弁別刺激)反応強化随伴性とADHD 症状との関係が議論できることになり、より効果的な行動療法の開発へとつながると考えられる。
著者
田代 英美
出版者
福岡県立大学人間社会学部
雑誌
福岡県立大学人間社会学部紀要 (ISSN:13490230)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.13-21, 2014-09

東日本大震災・福島第一原子力発電所事故に伴う遠方個別避難は、現在も続いている。避難・移住者の支援活動にはさまざまな担い手が参加し、活動内容も多様である。宮崎県では避難・移住した人たちが作るネットワークが活動しており、県内全域で約300家族とつながっている。このネットワークは避難・移住者同士の交流に始まり、現在はメンバーに地元の人々も加わって避難・移住者への支援活動に重点を置いている。 本稿では、ネットワークの参加者へのインタビュー調査をもとに、遠方個別避難における生活再建の新たな方向性を考察した。このネットワークのメンバー構成や活動内容に見られる現在の生活スタイルへの疑問や新しい生活像の模索は、本複合災害からの生活再建のひとつのかたちであると考える。これは、以前提起した移動適応型の生活構造とは異なる生活再建のあり方であるように思われる。この点については今後分析を進めていきたい。
著者
中村 晋介
出版者
福岡県立大学
雑誌
福岡県立大学人間社会学部紀要 (ISSN:13490230)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.37-50, 2010-07

One of the serious social problems is the increasing of number of public assistance recipients. This article would like to suggest that those recipients capable of gaining "independence by working" should be identified and a system established to assist them in achieving this goal. For the purposes of this study, a database containing 502 public assistance recipients in Tagawa, Fukuoka Prefecture was examined. Through a statistical analysis of this database, the following recommendations towards independence from public assistance may be made:1) In the initial stages of public assistance, administrators and caseworkers should offer incentives to work to recipients.2) For the sake of recipients who are single mothers, the number of day-nursery facilities should be increased in order to assist them in job-hunting and/or the procurement of work-related qualification or skills.3) For recipients suffering from some form of addiction (e.g. drugs, gambling, alcohol), the treatment of their addiction should be prioritized
著者
中村 晋介
出版者
福岡県立大学
雑誌
福岡県立大学人間社会学部紀要 = Journal of the Faculty of Integrated Human Studies and Social Sciences, Fukuoka Prefectural University (ISSN:13490230)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.37-50, 2010-07-31

One of the serious social problems is the increasing of number of public assistance recipients. This article would like to suggest that those recipients capable of gaining “independence by working” should be identified and a system established to assist them in achieving this goal. For the purposes of this study, a database containing 502 public assistance recipients in Tagawa, Fukuoka Prefecture was examined. Through a statistical analysis of this database, the following recommendations towards independence from public assistance may be made:1) In the initial stages of public assistance, administrators and caseworkers should offer incentives to work to recipients.2) For the sake of recipients who are single mothers, the number of day-nursery facilities should be increased in order to assist them in job-hunting and/or the procurement of work-related qualification or skills.3) For recipients suffering from some form of addiction (e.g. drugs, gambling, alcohol), the treatment of their addiction should be prioritized
著者
井上 奈美子
出版者
福岡県立大学人間社会学部
雑誌
福岡県立大学人間社会学部紀要 (ISSN:13490230)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.97-110, 2018-09

本稿は、キャリア教育関連の先行研究を概観し、大学におけるキャリア教育のあり方について考察するものである。先行研究からは大枠で2つの視点からの研究があることが見て取れた。まず、スーパーらが示す心理学と職業選択理論を中心としたものであり、学生が職業社会へ移行する段階では、自己理解をしたうえでの主体的行動が必要であり、それは相互作用の場において何らかの役割があることが行動を促進するとされる。他方、シャインを代表とする人的資源の視点からは、職業社会では生涯を通して自律した精神を持つことが求められ、個人がキャリアを予測・計画する行為が肝要であるとしている。文献研究を通して見えてきたことは、スーパーの「役割を与えることによる職業観の醸成」を指摘した理論を援用した、学生のキャリア教育の検討の必要性と、ライフ・キャリアという広い視点でキャリアを捉えた教育プログラムの構築の必要性である。
著者
神谷 英二
出版者
福岡県立大学人間社会学部
雑誌
福岡県立大学人間社会学部紀要 (ISSN:13490230)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.77-90, 2016-02

本稿は、ベルリンにある「虐殺されたヨーロッパのユダヤ人のための記念碑」と「ベルリン・ユダヤ博物館」を導きの糸として、瓦礫と廃墟を記憶する行為がどのような空間と時間において生じているのか、そしてこうした空間で誰かを何かを記憶し記念することが可能なのかを明らかにする作業のための序説である。議論の順序として、まずコメモラシオンについて考えるために有力な手がかりとなるピエール・ノラの「記憶の場」とアライダ・アスマンとヤン・アスマンの「文化的記憶」について概観し、「記念の場所」について整理している。次に、記念の場所が置かれた空間を論じ、この空間をジル・ドゥルーズの概念により「消尽した空間」として描き出す。その上で、こうした空間がいかにしてコメモラシオンとしての記念の場所になり得るのかをヴァルター・ベンヤミンの「弁証法的形象」と「固有名」を手がかりに解明している。
著者
石崎 龍二 佐藤 繁美
出版者
福岡県立大学人間社会学部
雑誌
福岡県立大学人間社会学部紀要 (ISSN:13490230)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.71-86, 2020-02-29

統計演習科目における授業改善点を、記述統計・推測統計に関する知識、データ分析スキルについての学生の自己評価、レポート課題、グループワーク報告書の評価、eラーニング確認テスト結果等より考察した。 学生の自己評価において、記述統計・推測統計の専門用語を理解している割合が、受講前と比べて全23項目で上昇したものの、有意水準1%もしくは5%で有意に上昇したのは10項目であっ た。データ分析のスキルについては、受講前と比べて「Excelを使った統計処理」の項目別操作スキルの全16項目中15項目が有意水準1%もしくは5%で有意に上昇した。 学生の自己評価、レポート課題の評価、グループワーク報告書の評価、eラーニング確認テスト結果等から、記述統計から推測統計への導入教育、テキストにおける推測統計の解説内容の改善の必要性、レポート課題、グループワーク、eラーニング確認テスト等の改善点を抽出した。
著者
中村 晋介
出版者
福岡県立大学
雑誌
福岡県立大学人間社会学部紀要 (ISSN:13490230)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.19-31, 2011-01

現在の日本では、「スピリチュアルなものへのあこがれ」、いわゆるスピリチュアル・ブームが、若い世代の間にも広がっている。ここ1~2年の間に、社会学や心理学の領域で、この要因を考察した論考が多数出版された。 本稿で、著者はこれらの論考を6つのパターンに分類し、それらを仮説としてその妥当性を検討する量的調査(福岡県内の4大学を対象、有効票509)を実施した。具体的には、①自己責任が強調される風潮のに耐えられない個人化した自己が求める「癒し」への希求、②スピリチュアルな言説と既成宗教の言説との連続性への忘却、③土井隆義が言う「キャラ化」した自己の動機付に関連した議論、④「大きな物語」への依存と忌避を並列させようとの思い、⑤望ましい心理的影響のみを求めるプラグマティックな心理主義、⑥TVメディアの培養効果、の妥当性を計量した。 量的分析の結果、これらの仮説のほぼ全てが棄却された。分析を進めると、スピリチュアルなものへの関心が、女性のジェンダー・トラッキングに関係している可能性がむしろ示唆された。今後、ジェンダーの視点でスピリチュアル・ブームを研究することは、宗教社会学のみならず、ジェンダーに関する社会学的研究をも前進させる可能性がある。
著者
奥村 賢一
出版者
福岡県立大学人間社会学部
雑誌
福岡県立大学人間社会学部紀要 (ISSN:13490230)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.175-189, 2018-02-28

市町村に寄せられる児童虐待の相談件数で最も多いネグレクトにおいて、その被虐待児の年齢構成割合で最も多くを占めているのは小学生である。しかし、ネグレクト環境(疑いを含む)で生活する児童に対し適切な理解ならびに支援が小学校で行われているかは定かではない。そこで本研究では、A市内の公立小学校に勤務する教員を対象にアンケート調査を行い、ネグレクト児童および家族の実態、さらに小学校で行われているネグレクト児童の支援の実施状況等について調査を行った。 その結果、特に学級担任と管理職・その他の教員間において認識や対応に相違がある項目が複数存在することが明らかとなった。そのうえで、①ネグレクト児童のスクリーニングとアウトリーチの併用、②ケース会議を活用したケースマネジメント、③校外協働に向けたネットワーキングにおいてスクールソーシャルワーカーの役割を強化していくことがネグレクト児童の支援において重要であることを示した。
著者
吉武 由彩
出版者
福岡県立大学人間社会学部
雑誌
福岡県立大学人間社会学部紀要 (ISSN:13490230)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.1-18, 2018-02

本稿では、リチャード・ティトマス(Richard Titmuss)の『贈与関係論』(_e Gift Relationship: from Human Blood to Social Policy)の論点を改めて確認し、その今日的意義を検討する。特にティトマスの『贈与関係論』における主要命題である「献血による社会的連帯の形成」という命題は、十分に検討されないまま今日に至っていると考えられる。そこで、この命題を取り上げ、ティトマスがどのようにして献血が社会的連帯の形成につながると考えていたのかを検討する。命題を再検討したところ、制度設計、互酬性の想定、コミュニティ意識という3つの観点から、ティトマスが社会的連帯の形成を考えていたことがわかる。さらに、ティトマス以後の研究の動向として、献血をめぐる社会学的研究は多くはないが、社会的連帯の不安定化という現代社会の状況を考えると、社会的連帯の形成に関する研究が必要であると考えられる。
著者
藤山 正二郎
出版者
福岡県立大学
雑誌
福岡県立大学人間社会学部紀要 (ISSN:13490230)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.1-13, 2012-01-08

先に私は「野生の思考としての伝統医学」という論文を書いた。その要旨は、漢方などの伝統医学は近代医学とは異なる科学的認識で成立している、いわばレヴィ=ストロースの言葉の「具体の科学」として伝統医学を展開することであった。さらに本論ではレヴィ=ストロースの『野生の思考』の「感性的表現による感覚界の思弁的な組織化と活用をもとにしてなしえた自然についての発見」を基本として、第1章の「具体の科学」のなかの「ブリコラージュ」 「神話的思索」の概念を消化して、漢方、中医学、ウイグル医学という私が多少とも関わった伝統医学の理解に応用したいと考えている。 「具体の科学」とは遅れている科学ではない。近代医学は部分的に伝統的な処方薬などの分析を行い、伝統医学の効能を認めつつある。分析とは近代の科学的方法の一つである。それによって、この二つの科学のコミュニケーションが部分的には可能であろう。しかし、その背後にある身体観、自然観などを理解可能なものにしないと、伝統医学は科学ではなく、哲学、思想にとどまってしまう。そうしないためにも、この二つの科学的認識を対照させながら、相互にその認識の特徴を明らかにしたい。 ブリコラージュとは、 「ありあわせの道具材料を用いて自分の手でものを作ること」である。 「器用仕事」とか訳されているがいま一つしっくりこない。ブリコラージュでは資材の世界は閉じている。すなわち、そのときそのとき限られた道具と材料の集合で何とかするというのがここでのゲームの規則である。身体はそれを包む環境とのバランスのとれた相互作用のなかにある。いわば閉じた世界である。それを対象とする医療はブリコラージュ的であるべきであろう。環境の変化によって、新しい病気などは出現するが、基本的には身体は静態的均衡になかにある。具体の科学の知識の工作面を示すのがブリコラージュであるが、伝統医学は自然の「ありあわせ」の植物や動物などを薬として使用する。 近代医学は身体の概念を拡大していく。人間機械論から、臓器移植、再生医療など、身体を人間本来のものから絶えずはみ出してきた。さらに科学的概念を駆使して、合成された新薬を絶えず開発きた。このように近代医学は無限に拡大可能な科学的概念を使用する。 伝統医学は身体的記号(embodied symbol)を使う。脈状、舌の形状、色など言語化しにくい記号で判断する。陰陽五行説も基本は身体的メタファーである。患者を前にして、これらのシンボルをブリコラージュ的に組合せ、構造的な処方を出すのである。
著者
山﨑 めぐみ 住友 雄資
出版者
福岡県立大学人間社会学部
雑誌
福岡県立大学人間社会学部紀要 (ISSN:13490230)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.55-69, 2018-02-28

本総説論文は、長期入院の精神障害者に対する退院支援に関する文献レビューを通して、精神科病院の精神保健福祉士が行う退院支援に関する研究課題を提示することである。文献レビューの結果、精神科病院の精神保健福祉士が行う退院支援研究は少なく、しかも精神障害者との関係づくりや退院の意欲喚起に限定されていることが明らかになった。このことから長期入院者の退院を阻む各要因を精神保健福祉士がどのように把握し、その総合的な把握から要因を取り除いていく研究、退院支援の内容やプロセス等を丹念に質的に探究しそれを記述していくという質的研究、長期入院患者と家族の関係を再構築するための具体的な方法を明らかにする家族に関する研究、具体的な社会資源の活用・開発を推進していく研究、精神保健福祉士が地域住民等にどのような実践を積み重ねていけばよいのかという研究、という5点の研究課題を提示した。
著者
麦島 剛 上野 行良 中村 晋介 本多 潤子
出版者
福岡県立大学
雑誌
福岡県立大学人間社会学部紀要 = Journal of the Faculty of Integrated Human Studies and Social Sciences, Fukuoka Prefectural University (ISSN:13490230)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.85-91, 2006-11-30

軽微な犯罪の早期解決がそれより重大な犯罪を抑止するという考え方を割れ窓理論 (broken windows theory)という。現在では、環境悪化放置の防止が地域の犯罪の抑止となる、 という観点から議論されることも多い。この理論の実践は1990年代半ばから米国において警察主導の取り組みとして始まった。最近は、日本でも地域住民主体による落書き防止などの取り組みとして盛んになっている。本研究は、地域環境悪化の放置および地域に立地する各種施設と、中学生の非行容認度との間にどのような関係があるのかを検討し、非行防止対策への手がかりとすることを目的とした。 福岡県内の中学2年生と矯正施設入所等中学生に対し、質問紙により以下の点を調査した。1)校区の悪化環境の放置に関する認識について、2)校区に立地する各種施設について、3)非行の容認について。その結果、悪化環境が放置されていると考える中学生は非行の容認度が高いことが示唆された。いっぽう少年院等の中学生は、悪化が放置された環境で暮らしていたと考える率が低かった。自らの住む環境の悪化が放置されていると感じるとき、中学生は非行を絶対悪だと考えなくなるが、放置状態に対して無頓着になると、実際に非行を犯す可能性が高まるとも考えられる。また、校区に、ギャンブル場などがあると答えた中学生において非行を許す程度が高かった。さらに、どんな施設であっても、立地する場合に環境が悪化していると認識する率が高かった。 以上の知見を踏まえると、落書きやゴミ放置などの公衆ルール違反を即急に解決することは、中学生が非行を許さないと考えることにつながる可能性がある。犯罪の低減と同様、割れ窓理論にもとづく具体的な取り組みが非行防止の一助となると考えられる。
著者
池田 孝博
出版者
福岡県立大学人間社会学部
雑誌
福岡県立大学人間社会学部紀要 (ISSN:13490230)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.1-12, 2014-09

近年、地域社会への貢献は、大学の大きな使命のひとつに位置づけられている。しかしながら、その活動について検証した文献は少ない。本研究の目的は、福岡県立大学の専門教育として行われている保育者養成教育と田川市立幼稚園における身体運動に関する指導・支援活動について検証することである。この連携活動に参加した学生と幼稚園の教員および園児の保護者を対象に調査を実施した。その結果、体力・運動能力測定、運動会の練習支援および本番のお手伝い、朝の運動遊びの連携活動は、学生の専門教育として十分な効果的をあげていることが確認された。また、幼稚園の教員による評価においても、学生の活動が子どもたちの保育活動に良い影響を与えていることが確認された。さらに、保護者の評価では、連携活動に対して高い認知度が認められ、その評価も高いことが確認された。よって、これらの活動は、大学から地域社会への貢献だけでなく、大学教育に地域が貢献している「双方向モデル」の事例になると考えられる。
著者
石崎 龍二
出版者
福岡県立大学
雑誌
福岡県立大学人間社会学部紀要 = Journal of the Faculty of Integrated Human Studies and Social Sciences, Fukuoka Prefectural University (ISSN:13490230)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.99-109, 2011-01-08

情報処理教育の改善資料とするために、福岡県立大学人間社会学部学生の入学時のコンピュータスキルについて質問紙調査を行った。 2010年度の人間社会学部入学生のうち95.7%が、高等学校で「情報」を履修しており、主要アプリケーションソフトの操作の学習率は、 「ワープロソフトWord」80.4%、 「表計算ソフトExcel」 82.2%、「プレゼンテーションソフトPowerPoint」73.0%、「インターネットを使った情報検索」 80.4%と、高い値を示した。 一方、「ワープロソフトWord」 「表計算ソフトExcel」「プレゼンテーションソフト PowerPoint」「インターネットを使った情報検索」の各操作スキルについては、「十分できる」 又は「少しできる」と回答した比率が「ワープロソフトWord」72.4%、「表計算ソフトExcel」 38.0%、「プレゼンテーションソフトPowerPoint」56.4%、「インターネットを使った情報検索」 81.6%とばらつきが見られた。 パソコンの所有率と利用状況については、パソコンの所有率が74.2%、自宅・アパートからパ ソコンを使ったインターネットの利用率が57.1%と比較的高かった。しかし、1週間あたりのパ ソコンの利用頻度は、40.5%がパソコンをほとんど利用しないと回答しており、パソコンの利用も、「ホームページの閲覧」「ネットショッピング」への偏りがみられた。
著者
鷲野 彰子
出版者
福岡県立大学人間社会学部
雑誌
福岡県立大学人間社会学部紀要 (ISSN:13490230)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.55-71, 2015-09

近年、20世紀初期の録音が数多く販売されているが、その中には自動演奏ピアノを再生したものも含まれる。自動演奏ピアノを再生した録音は雑音を多く含むアナログ録音と異なり、録音技術の発達した現代に実際に楽器を鳴らして録音するため、その音質の良さが最大の魅力といえるかもしれない。だが演奏分析をする者にとっては、自動演奏ピアノとそこに遺された記録は、それにも増して、大きな魅力を備えた存在といえる。それは、自動演奏ピアノの記録媒体であるピアノロールに遺された記録が、目で情報を捉えることのできるものであり、しかもそこに記録を遺した数々の演奏には、多くの著名な演奏家や作曲家自身によるものが含まれているためである。つまり、彼らの演奏を私たちは耳だけでなく、目でも捉えることができる点において、他の資料と決定的に異った魅力を備えているといえる。 本論文は、ピアノロールから演奏を分析する試みの第一歩として行った、パデレフスキによるショパン《ワルツOp.34-1》の冒頭主題部分の演奏で、彼がどのようなリズムで「ワルツ」を演奏したのかを、ピアノロールから分析し、まとめたものである。そこからは、楽譜中には書かれていない/記載不可能なワルツのリズムの「演奏法」がおぼろげに見えてくる。